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「物語」にはご用心

自ら「そのプロジェクトに物語を」とか書いておいて、どの口が言うか、というブーメランは予測しつつ、よく耳にする「物語が大切」みたいな言説について述べておきたい。

それは、たとえばマーケティングの一環として、ブランドや製品をめぐる「ストーリー」を提示する、あるいはプロフェッショナル・アスリートが、自らの活動や業績を「物語」という枠組みで語る、というこころみ。ざっくり言えば「魅力的な物語があればモノが売れて人気者になれるんだぜ、イェーイ!」みたいな話だ。

そういう意味で、「物語」は人気者だ。人に何かを伝えるときの必須アイテムの様相を呈している。でも僕は、そこに何らかの異臭を感じてもいる。一見すると美味しそうだけど、どこか痛んでいるではないか、という感覚だ。

念のために書いておくと、僕は「物語」という概念にものすごく惹かれてこれまでの時間を過ごしてきた。大した鑑賞者ではないけれど、小説や映画、あるいはドキュメンタリーやスポーツなど、フィクションもノンフィクションも、その背後にある人々のあれやこれやをワクワクしながら眺めてきた。

そして自分が関わる仕事にも、その魅力を込めたいと思って取り組んでいる。でもだからこそ、その「人気者」ぶりが気になってしまう。それは往々にして都合よく使い回され、場合によっては薄っぺらな模造品であったりもするのだ。うーん。

ひとつご紹介しておきたいのが、千野帽子さんの『人はなぜ物語を求めるのか』。前述のような僕のモヤモヤを解きほぐしてくれる一冊だ。※

手元の新書は付箋だらけでやたら厚くなっているのだが、簡潔なご紹介として、その「はじめに」から以下の一文を引用しておきたい。

「ストーリー」は人下の認知に組み込まれたひとつのフォーマット(認知形式)です。(p.13)

そう、物語って「フォーマット」であり、使い手によっては「ツール」でもあるのだ。「物語」とは何か、それは人の認知にどう作用しているのか、といった議論を、さまざまな理論を参照しながら解きほぐすこの一冊は、その大切なガイドブックのひとつでもある。

「そのプロジェクトに物語を」という僕の仕事上のスローガンは、その「フォーマット」あるいは「ツール」を通じて、ブランドや製品の本質的な魅力を伝えていきたいという思いから書いたものだ。だからこそ、「物語」について書く、あるいは語るときは注意しようと思っている。

※千野さんは、岩松正洋というご本名で関西学院大学の教授(現時点)をされている方。パリ第四大学で博士号を修得されたガチのアカデミアでもいらっしゃるのだが、この本は語りは柔軟で、まるで「物語」という概念をめぐる旅の記録を読んでいるようだ。そしてこの記録を、僕はときどき読み返しながら道を探してくいくのだろう。







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