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自衛官の努力の結晶:尿路結石

割引あり

病院で当直中に寝ているといきなりPHSが鳴り響く。
自衛隊病院は入院患者も少なく電話がなることすら珍しいのに。
眠い目を擦りながら電話を出ると駐屯地から焦った声での連絡だ。

『40歳男性,夜間急激な腹痛に見舞われのたうち回っています!!』

研修医を終えたばかりの若輩の自衛隊医官は頭の中にさまざまな鑑別疾患を浮かべる。
虫垂炎,心筋梗塞,大動脈解離もあるかもしれない...
「急いで緊急搬送してください!!緊急オペが必要かもしれません!!」

自宅待機している放射線技師を叩き起こしCT撮影の準備をしていると、救急車がサイレンを響かせて到着する。
緊張しながら救急車のハッチが開くのを待っていると
想像とは裏腹に患者がどこか申し訳なさそうな表情で普通に歩いて出てくる。
この時点で先ほどの鑑別疾患は全て外れている。
そして思い出す,尿管結石の存在を。


尿管結石ってなに?

まず尿路とは尿ができてから排出されるまでの道だ。
腎臓で出来た尿は尿管という細い管を通り、膀胱という一時的に尿を貯める袋に保管される。
そしてある程度尿が溜まると脳が尿意を感じるようになる。
その尿意を感じて皆がトイレに行き、膀胱から尿道を通り排尿するんだ。
図解するとこうだ。

いらすとや参照

尿路結石はこの尿路のいずれかに結石ができることなんだ。
結石は腎臓で出来て膀胱に落ちていくことが多い。
そして「尿管結石」はこのうち尿路に結石が詰まることを言う。
尿管に尿が詰まると尿の渋滞が起こる。
そうなると尿でパンパンになった尿管が引き伸ばされて、とてつもない激痛が生まれる。

そしてこの痛みは「世界三大激痛」とも言われる。
大の大人が大泣きしながら床をのたうち回るほどの痛みなんだ。
屈強な自衛官が赤子のように泣き叫ぶぞ!!

これが尿管結石なんだ

なぜ自衛官で尿管結石が多いの??

さて自衛官の尿管結石のエピソードの一例を紹介した。
自衛官の尿管結石は本当に多い。そしてなぜか夜間に発作が多い。
一般成人と比較したわけではないが、自衛官とくに男性自衛官(と体感は海上自衛官)の尿路結石の有病率は異常に高いと思う。

男女別で見ると男性は女性の2.4倍の確率で尿管結石になりやすく、そして男性の30-60歳に多い。
自衛官は男性が9割を占めており、そして30-60歳がボリュームゾーンであることから自衛官を狙い撃ちしたかのような疫学である。

残念ながら自衛官の尿路結石の有病率を調べた文献はなかった。海外の文献も軽く漁ったけど特別に軍人の尿路結石が多いというわけでもなさそうだった。
ただ自衛隊病院、特に夜間救急での尿管結石の有病率は高いと感じている。
ここからは私の推測だけど、自衛官は水をあまり飲まないことが尿管結石が多い原因なんじゃないかと思っている。

陸上自衛官に関しては訓練中は限られた水しか飲めない上に、発汗で脱水状態になっていることが多い。(これは熱中症のリスクが高いので改善すべきと思ってる)。

また海上自衛隊では出航中の水は貴重だ。
大きい船では浄水装置があるが、それでもトイレやお風呂に海水を使うほど真水を大事にしている。
ましてや大きくない船や潜水艦などでは、文字通り水は命より貴重だ。
加えて人手が少ないので勤務中の水分摂取量が少ないことも関係しているだろう。

あと尿管結石になりやすい生活習慣にアルコールの過剰摂取や高尿酸血症の併発もある。そしてお茶やコーヒーの飲み過ぎも原因になる。
アルコールとコーヒーをこよなく愛する自衛官は多い。
つまり自衛官は尿管結石になり易い年齢・性別であり、かつ生活習慣から尿管結石を育てていると考えていいだろう。

尿管結石の痛みの特徴

先ほど紹介した自衛官の尿管結石の例では病院到着時には痛みが消えていた。
これは尿管結石の痛みの特徴なんだ。
尿管結石は石が落ちたら痛みが嘘みたいに無くなる。

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