見出し画像

(8977)阪急阪神リート投資法人の分析

地元のリートということで、分析を進めてまいりたいと思います。
まずは基本的なデータから。(ザックリしたものなので、若干の相違はあると思います)

物件取得額:1800億円 物件数:35件 築年数:18.65年
物件NOI:4.5% 東京都心主要5区比率:21.4% 近畿:77%
事務所:24.6% 商業:68% ホテル:6.1%
LTV:47.63%(鑑定ベース:41%) 
借入金利:0.8% 年数:4.5年
1口あたりNAV(純資産):18万442円(25年1月末時点の株価、12万8100円)

意外と商業施設中心のリートで、そこにオフィスやホテルがある、という感じでしょうか。住居はほとんどなく、むしろ商業とオフィスの複合リートに近い感じです。
住居系は、昨今のリート暴落時代において人気ですが、個人的には懐疑的に見ています。
住居はどうしても「マイホーム」が競合となります。
さらに日本人独特の感性からも、新築至上主義が根強く残る市場でもあり、かなりの価値のある住居を提供しないと、継続的な家賃を維持することは難しい、と見ています。
住居系は、複合リートや総合リートで部分的に所有するのがいいのではないか、と考えています。
もちろん、あくまで個人の相場観ですし、住居自体は安定しているのは確かです。

パッと見た感じ、築年数がそこまで古くなくて、いいと思いました。
中古狙いのリートだと、30年近い平均築年数になっているところもあります。
さらに地域特化型ということで、地域に根付いた強みを生かした投資をしてくれるといいのですが・・・
商業重視ということで、阪急阪神リート自体も「関西重点・商業重視」という方針を掲げています。
Jリートに普通に投資すると、どうしても東京都心中心になってしまいます。
そういった中で、地域分散も兼ねた投資先として、一つの選択肢になると思います。

次に本リートが掲げる方針としては、「規模の拡大のみを前提としない成長」、「財務戦略を通じて資本効率を高める」が掲げられており、投資家としてはまさに求めていることだと感じます。
「財務戦略」というのが自社株買いを指しているのかまでは分かりませんが、そこまでの意味は含んでいると思うので、NAVに対して大きくビハインドしている状況を改善できることを期待しています。
規模の拡大を追求しない、というのも非常に好感が持てます。
リートは構造上、規模の拡大「だけ」なら容易に可能です。
問題は「質を伴えるか」という部分です。
HEPファイブの観覧車の料金値上げを実行しており、地元民としては非常に残念ではありますが、昨今の物価高を考慮すると致し方なし、というところでしょうか。
値上げしても客数が変わらなければ、丸々利益になるので、期待したいところです。

商業施設の売り上げ推移ですが、ようやくコロナショック前を超えてきました。
ただ、日本人の客数は横ばいで、外国人観光客の増加によって支えられており、果たしてこれが安定的と言えるのかどうか、という点にはやや懐疑的です。
為替が急激に変動することもあり、果たしてどのような影響があるのか、その時にならないと分からないでしょう。
商業の中には、コーナン、ラムー、イズミヤ、バローといった地元スーパーやホムセンの底地や建物も含まれており、こういった生活必需系はけっこう底堅いのではないでしょうか。

他に注目するところとしては、土地値比率が非常に高い、というところでしょうか。
ザックリした合計値ですと、土地値が1395億円あります。これだけで投資口価格を正当化できそうなくらいです。
建物はザックリと540億円程度です。(付属している機械設備なんかは集計していませんが、金額は少額なのでそこまで影響はないでしょう)
土地値比率は72%になります。
さらに建物価格は総額になるので、ここから減価償却で摩耗した分を考慮すると290億円程度の残存価値になります。
関西でも一等地を占領していることの優位性でしょうか。意外と底地にも投資しているのもあると思いますが。
その分、NOIが4.5%と振るいませんが、やはり土地値が高いリートはそんな傾向ですね。東急リートとか。
上のスーパーなどが出て行っても、普通に市街地でいくらでも需要はありますから、安定した底地投資になると思います。その分、利回りは低くなってしまうのは仕方ないでしょう。
今の不動産市況で、資産価値も収益性も、両方取るのは難しいと思います。

さて、ここからは微妙な点について述べていきたいと思います。
1点目は、報酬体系が微妙過ぎる点です。
資産総額、取得と売却に対して報酬が発生する仕組みになっています。
不動産の取得や売却も時間と手間がかかるし、相対取引なので交渉も必要なのは分かりますが、それは基本給に含まれている、というのが当然の見方だと思います。
これは特別報酬なのだから、特別利益に貢献したときに出すべきであって、それなら三菱物流リートのように「リート指数を上回った時」とか、「売却によって利益が出たとき」とかに限定すべきでしょう。
それであるなら、誰も文句を言いません。
また、物件総額に対しての報酬というところは、「安易な規模の拡大をしない」という方針ともミスマッチしているように思います。

2点目は、営業利益が低いことです。
大体リートの営業利益率は5割くらいでしょうか。
阪急阪神リートは売上65億円に対して26億円未満の営業利益で、あと5,6億円くらいは営業利益があってもいいように思います。
これは単純にNOIが低いので売上収益の65億円が低いのかもしれません。
不動産価格の高騰が続く中、都会の一等地という分かりやすい優位性に、高い値段を払う価値はあるのかどうか、という点は微妙なところだと思います。
確かにリスクは低いですが、結局は不動産事業そのもののリスクは、ゼロにはならないですから。
あと10%くらい賃料値上げをすれば、ちょうど売上収益は75億円になり、ちょうどいい感じになると思います。
日本でそこまで賃料値上げができるのかどうかは、微妙なラインだと思いますが・・・

3点目は東京にある汐留ビルが大きなお荷物になっている点です。
190億円で取得しており、取得額で最大の物件になっていますが、現在の鑑定価格は147億円と、一番のキャピタルロスをたたき出しています。
原因は、24年10月末の500坪の解約でしょうか。130坪はすぐに埋まったようですが、残りは埋めるために活動中のようです。
一概に悪いとも言えなくて、日本では借地借家法で借主が守られているので、賃料を上げにくい。
なので一回退去してから、家賃を引き上げて新たに入居してもらう、というのが一番手っ取り早かったりします。
ただ、現状では契約が決まっているわけでもないので、何とも言えないですが・・・
オフィスは他のビルも解約があって微妙に手間がかかる印象です。
市場全体の空室率は低下傾向なので、恐らくどうにかなるとは思いますが・・・
疑問に思うのは、何の強みもない地域でオフィスビルを買って苦戦する意味が全く感じられないところで、これが東京都心のリートだったら、まあ許せるというかそういうもんだな、って思うのですが・・・
一番高い買い物が都心のビルっていうのも、なんか釈然としないですね。

・総評
いいところもあるけど、イマイチな点もあって、なかなか判断に困るリート、という感じがします。
ただ、今の株価なら土地値以下で買えるので、かなりいい買い物にはなるんじゃないでしょうか。
それこそ、自分で不動産投資するよりもリート買ったほうがいい、という感じになると思います。
もちろん、自ら行う実物不動産投資は、レバレッジや売却などを好きにできるので、また違ったものになるのは分かっていますが、自ら実行できないなら、もうリート買っておけばいいや、という相場なのではないでしょうか。
今回の阪神阪急リートを見て思ったところは、株と違って「これだけ買えばいい!」というものではなさそうです。
やはり、性質の違うリートを組み合わせることで、それぞれのメリットとデメリットを打ち消し合うようなリート銘柄でポートフォリオを組むのが大切だと思いました。
まず今の価格なら問題ない水準だと思いますが、何か尖ったところというか、特徴を生かすような運用というか、そういうのが欲しいところだと思います。
最後の一押しが足りない感じです。
分配金は安定しており、運営も安定的なのは評価できると思います。土地値比率も高く、リスクが低い不動産運用が行えるでしょう。
あとは、どこまでの株価なら払えるか、という感じでしょうか。
地元リートとして、応援し続けていきたいとは思いますが、それ以上はいいかな、という感じです。

いいなと思ったら応援しよう!