エアリアルに使われているパーメット技術に関しての考察

序文


ガンダム・エアリアルはGUNDフォーマットを使用していながら操縦者に対するデータストーム、いわゆる「ガンダムの呪い」が発現していない。これは既存のガンダムと一線を画しており、エアリアルには未知の新技術が使われている事が作中でも示唆されている。これに対してプロローグおよび本編を見て、この技術に対する仮説を構築したのでここに記す。

目次

  1. GUNDフォーマットの問題点とは何か

  2. データストームの発生原理と解決法

  3. レイヤー33とは何か

  4. レイヤー33からのコールバックに関して

  5. 個としてのガンダム

  6. 物語の根幹部分にあるテーマに関して 

1.GUNDフォーマットの問題点とは何か

まずはGUNDフォーマットの利点と問題点をおさらいしよう。
GUNDフォーマットの利点は人体とMSをリンクさせる事により従来のMSとは段違いの機動性を得る事、また武装の遠隔操作をスムーズに行える事だ。これは新たな医療技術であるGUNDの思想「宇宙に出る人類はGUNDを身に纏う事で過酷な環境へ適応できる」の応用であり、MSを文字通り手足のように動かす事が出来るのがGUNDフォーマットの利点である。
問題点はデータストームにより人体に害がある事。特に初期のガンダム・ルブリスの実験ではパイロットが植物人間化しているような描写もある。これらの倫理問題がカテドラルの介入を招いたのだがそちらは置いておく。

2.データストームの発生原理と解決法

元々18mの巨大な身体に関する情報を処理できるように人間の脳は出来ていない。その為「人体の拡張としてMSを動かす」というGUNDフォーマットの情報処理を人間の脳で行おうとすると、膨大な情報量によって人体にダメージを与える。これがデータストームだ。
これは一見すると、GUNDフォーマットの回避不可能な問題点に見える。そもそも18mの巨大な構造物に関する情報を人間の脳で処理できない。GUNDが人体の拡張である以上、解決方法はあるのか?
ヴァナディース機関は「時間と資金さえあれば解決できる問題だ」と考えていた。実際「レイヤー33からのコールバック」を実現しようと何度も実験を行い、またエリクト・サマヤがレイヤー33からのコールバックを実現した際には、データストームの影響が見られない状況でガンダム・ルブリスを動かしていた。
では、レイヤー33とは何だろうか?

3.レイヤー33とは何か

データストームの解決法として真っ先に思い浮かぶのは「人間の脳以外の情報処理機構を設置する事」だ。ガンダム・エアリアルは胸の部分に【シェルユニット】というパイロットと機体間で膨大な情報をやり取りする制御端末を搭載している。(HGガンダム・エアリアルの説明書より)このシェルユニットの開発がデータストームを解決していると思われるのだが、これまた問題がある。シェルユニットで情報を整理してもパイロットとシェルユニット間の情報のやり取りが従来通りならば、それは通常の機体と性能がまったく変わらないのではないか、という事だ。
ここで33という数字に注目してみよう。人間の脳が1秒間にいくつの命令を出しているか、つまり脳をCPUに見立てた時のクロック数の限界が33hzと言われている。つまりレイヤー33とは「人体への影響を一定に抑えつつシェルユニットから1秒間に送られてくる情報量を人間の脳処理の限界まで上げて同期する事」ではないだろうか。パーメット流入値を上げればデータストームが発生して人体に悪影響が出る。パーメット流入値を下げれば情報量が減って機体のコントロールにラグが出て、GUNDフォーマットの意義が無くなる。この両者ギリギリのラインを設定した目標値が「レイヤー33」であり、そこから期待通りのコールバックを受け取れば「パイロットの安全を確保しつつ人体の拡張としてMSを動かす」GUNDフォーマットが完成したのではないか。
では、何故レイヤー33はコールバックしなかったのか。そしてエリクト・サマヤは何故レイヤー33からコールバックを受け取れたのか。

4.レイヤー33からのコールバックに関して

おそらくカルド・ナボ博士が目指したのは「シェルユニットの情報圧縮量を改善してパイロットの負担を減らす」「パイロットが素質や訓練によりパーメット流入値に対する耐性を示す」の二つからレイヤー33に近づこうとしたのだと思う。だが失敗した。オープニング冒頭の実験ではレイヤー33からコールバックを受け取れず、従来の方法ではGUNDフォーマットは完成しない事が示唆されている。
だが、エリクト・サマヤはレイヤー33からコールバック受け取り、訓練も受けていないのにガンビットを操って敵機を撃墜してみせた。レイヤー33からコールバックを受け取る方法は存在する。しかし、どうやって? 二つ、仮説を立ててみる。
ひとつはエリクト・サマヤがパーメットに対し異常に耐性が高い人間である場合だ。エリクト・サマヤはエルノラ・サマヤというGUND医療技術を利用した人間から生まれたので、その可能性は無くはない。だが、この仮説は作中で強化人士4号がエアリアルに乗った時にデータストームを感知していない事から否定できる。
もうひとつが既に幾人かが言及している事――ガンダムを一個の人格として認識する事。おそらくはこれがレイヤー33からコールバックを受け取る鍵だと思われる。

5.個としてのガンダム

実際に「ゆりかごの星」ではガンダムに人格があるように描かれている。パーメットが情報を共有する元素である以上、無機物であるガンダムが人格を得る可能性は無いとは言い切れない――もう少し現実的に考えるなら。「ガンダムを自らの拡張ではなく一個の独立した存在として認識し、ガンダム自身にもそう認識させる事」。これがデータストームを防ぐ鍵となるのではないか。パーメットがパイロットの脳に膨大なデータを送らず自分自身で処理すれば、当然データストームは起こらない。パーメット自身の脳としてシェルユニットを用意する――カルド・ナボ博士の唱えた「人体の拡張としてのGUNDフォーマット」を否定する事こそが、GUNDフォーマットを完成させる鍵だった。ありうる話だ。「水星の魔女」では、祝福と呪いは表裏一体。カルド・ナボ博士の「祝福」こそがGUNDフォーマット完成を妨げる「呪い」だった。これが私の立てた仮説だ。プロスペラが株式会社ガンダムを嘲笑したのは、「その理想は破綻している」と既に知っていたからではないか。

6.物語の根幹部分にあるテーマに関して

「親の愛という祝福と呪い」。多くの人間が言及しているが、これは物語の根幹にあるテーマだろう。親が自分の身体の拡張として、自分の為に子供を使おうとする事。データストームとは、その歪みの象徴となっているのではないだろうか。「どんな親から生まれた子供であろうと、その人格は尊重し別の存在として対等に相対すべきである」。GUNDフォーマットの完成とは、その関係性の完成の象徴ではないか、というのが私の結論だ。

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