現場がないのでPSYCHIC FEVERのドキュメンタリーを見たら、美しすぎて泣いた。

【作品概要】
2022年9月からタイに拠点を移し武者修行を行ったPSYCHIC FEVERを、約半年間に渡って追いかけたスペシャル・ドキュメンタリー映像『[The documentary] 180 days of Heat PSYCHIC FEVER』を、この度フォロワーさんのご好意で観せていただきました。

話題作「エゴイスト」の松永大司監督と、国内外の映画祭で賞に輝いた映画「サイレン」を手がけた三宅伸行監督の2人によって、7人のメンバーの挫折や葛藤、成長過程のリアルな姿が描かれた80分。

ドキュメンタリーの醍醐味である『生っぽさ』はしっかりとありつつも、カメラ越しに感じたひとりひとりの印象、グループの印象をよりくっきりと80分の中に描き出していこうという編集者の意図が感じられる作品です。それに加えて、とにかく映像が美しいんです。PSYCHIC FEVERはしばらく日本でのライブの予定がないので、BOTきっかけで気になったけど現場がないなー……と残念に思っている方にオススメの作品です!

……というわけで、この作品の良さ、印象に残ったところを語らせていただきます。参考までに、自分の履修度は…Youtubeチャンネル、CLの番組、NSB、SURVIVAL2022、単独ツアーP.C.F.(2023)で、各人の生配信系はそんなに視聴していないので、そこまでメンバー個人の深い部分には詳しくない状態です。

【ざっくり印象】

「武者修行ドキュメンタリーあるある」といえば、各地でのライブごとの反省会、チームの結束が強まる系の出来事、当時の思いを語る個人インタビュー。今作にもこれらの通過儀礼的な要素は含まれているのだが、それ以上のさまざまな要素が入り込むことで、過去作とはかなり違ったテイストに仕上がっている。

何より、音と絵の美しさがたまらない。彼らの滞在先は、バンコクから車で2時間ほどの距離にあるスパンブリー。のどかな町の朝を感じさせる鳥の鳴き声、高層ビルのない、すーっと開けたうっすら青い早朝の空。個人インタビューの背景で揺れる緑の葉は、異国の風を感じさせる。薄着、半裸、額に浮いた汗、肌荒れ、後ろに干してある洗濯物、日本とは違う建築物の色合い、現地の言葉、スピーカーから流れている少し遠くぼやけて聞こえる音楽、強い日差し、濃い影、足音、みんなでデリバリーの袋を囲んでがさがさと漁る音、部屋に響くメンバーの笑い声。どこを切り取ってもさりげなく美しい日常がある。会議中の真剣な眼差しやインタビューで想いを語る彼らの「間」や、彷徨う視線。本番前にステージ裏で自分の世界に入っている姿にまで、美を感じてしまう。そもそも彼らが絵になるということもあるだろうが、彼らを絵にしている制作サイドのテクニックもあるのだろう。

ウワーッ!WEESAがクシャクシャの笑顔を見せて「眉に傷跡のあるティーンエイジャー」をしているときと、静かに光と影の中で神聖な美を体現しているときのコントラスト!監督、ありがとうございます!

以下、内容に触れておりますので、ご注意ください。

【前半】

作品は出発前の個人インタビューから始まり、タイに到着した彼らの日常を淡々と描き出す。iPhoneでの自撮りの縦長画面、臨場感あるメンバーによる撮影の手ブレ感。メンバー視点でのタイでの「生活感」が伝わってくる。異国での生活とイベントの様子がテンポよく描写される中、合間にインタビューが差し込まれる。

じっとしているだけで垂れてくる汗をぬぐいながら、アーティストという目標を見つけた瞬間について語る渡邉廉。
JIMMYは「団地に住んでいて、すごい小さいコミュニティで育って世界を知らなかった」子供の頃の自分が「なんで自分の髪の毛はクルクルなんだろう」と思ったというエピソードをはじめ、自身のパーソナルな部分についてしっかりとした言葉で語る。

LDHというひとつの会社に集まり、ひとつのグループとして活動をしてはいるものの、当然彼らの芯にあるもの、バックグラウンドは異なり、依然として彼らは「異なる個人」ということが浮かび上がってくる編集となっている。

中西椋雅は自身の「こんな感じでふわふわ」したキャラクターを自覚しながら、アーティストとしてステージに立つ上での「気持ちの強さ」の大切さに触れ、誰もいない夜のリハ室でPCに向かいながら「自分で何かを作って発信するアーティスト」でいたいと「与えられたことだけやる人にはなりたくないんですよね、正直」と言う。インタビューでは終始、耳馴染みのよい声で言葉を選びながら落ち着いたトーンで語る、優しげな雰囲気の彼だが、言葉の節々からその胸にあるものの確かな熱さを感じることができた。

小波津志は何にでも真剣に取り組むストイックさを感じさせるシーンが多い中で、ふざけて面白い動きをしてみせる姿も目立つ。パフォーマンスにストイックなだけではなく、ユーモアも兼ね備えた人物であるということが伝わってくる。そして彼が熱心にタイ語を勉強するところも映像に収められている。

パフォーマンスは言語の壁を超えるが、言葉でしか伝えられないこともある。これはBOT2023のライブで我々観客も感じたところがあるのではないか。タイのアーティストが話したのはあいさつ程度の簡単な日本語だけだったとしても、それだけで心の距離が一気に縮まった感覚があったし、素直に、嬉しいと感じた。

最年少、撮影当時18歳のWEESAが口にするのは、子供の頃から「マイケルジャクソンを超える男になりたい」というデカい夢を持っていたというとてつもないビッグな話。まだデビューしたての彼ではあるが、海外で大きなステージに立ちパフォーマンスすることに関しては緊張しないと言う。それよりも、韓国語でのスピーチが心配だと笑う。

「しっかり考えてから言わないと。僕の場合歳が一番下でみんなとめっちゃ離れてるんで」「こんなクソガキに言われたらそりゃ腹立つことだってあると思いますし」「僕が言えないこと、だってありますし」と言う、WEESAのステージ上の大胆不敵さとは真逆の、自身の若さの自覚。彼と他のメンバーの間には現時点ではどうやっても覆せない人生経験の差が存在し、体育会系のLDHにおいて年齢差はなおさら大きな意味を持つだろう。しかしそんな最年少の彼には物怖じせず大きな夢に貪欲に向かっていく推進力があり、それが今後もグループを引っ張っていくのではないかと期待せずにはいられない。

年長者かつリーダーである剣のインタビューからひしひしと伝わってくるのは、彼がリーダーとして感じている重圧、責任感。YoutubeやCLのバラエティでは変顔やトークで率先して笑いを取りにいく愉快な姿が目立つ彼だが、ドキュメンタリーの中では常にチームファーストの視点で、チームをまとめ、チームのために最善を尽くそうとする真剣な表情が目立つ。

前半の終わりに、このドキュメンタリー作品にひとつの山場として配置されているとある出来事が起きる。ある価値観では「統率が取れている」「礼儀正しい」として称賛される、個性の強いメンバーをひとつにまとめてきたのであろう「年功序列」の意識が今のチームにとっては必ずしもプラスとは言えないという現実が突きつけられる。

【後半】

「JIMMYさ、WEESAに対してなんか特別なシンパシーがあんの?」

カメラを回す人物の声が、彼らに介入してくる瞬間がある。それに対してJIMMYは笑いながら答える。

「漫画風に言うと昔の自分に似てるってやつっすね。思春期の感じとか、何か、HIPHOPを好きでいろいろやりたいことがあって……」「弟みたいな感じっすね」「……照れるな」

あまり構うとウザがられるかもしれないけど、弟のようなWEESAの面倒をみてやりたくなると、温かく笑うJIMMY。ドキュメンタリーの中では、二人が飛行機の中で隣り合って眠る姿、一緒に食卓を囲む姿、じゃれ合う姿、二人の間の気の置けない会話などが収められている。カメラを回していく中で制作側が彼らの間に何かを感じ取ったからこそ、カメラマンからのその問いかけが生まれたのだろう。

制作活動やライブイベントの合間には、タイの日本人会の子供たちにダンスレッスンを行う機会もあった。今は自分が子供たちに夢を与える立場であるという自覚。子供たちと笑顔でダンスレッスンをする姿。ただダンスを楽しんでもらいたいという心。これらはEXPGを擁するLDHのアーティストに受け継がれる精神として、かなり重要な要素であり、彼らのドキュメンタリーに欠かせないシーンであると思う。

どこからともなく響いてくる大きな笑い声が特徴的な龍臣は、他のメンバーと比べると深刻さを表面に出す瞬間が少ないと感じた。年長組に比べればまだ年若いからということもあるかもしれないが、どんな時も持ち前のカラッとした前向きさでもって堂々と前に進んでいく強かさがあるように見える。このグループ、割と年下組に「丈夫さ、強かさ」を感じるぞ。タイでは自身でメイクをする機会が多くなったのでネットの動画を参考にセルフメイクをしていると教えてくれるシーンがあるが、事務所のサポート、もしくは現地スタッフの手配が十分ではない部分でも自分たちで解決策を見つけやれることをやっていこうというスタンスは前向きでいいなと思った。(のちに、現地のライブで使用したダンストラックもメンバーによる自主制作であると知った。)

ドキュメンタリーお決まりの「第三者のインタビュー」は作品の後半に大きなインパクトを残している。彼らは2022年末に行われたJr.EXILEの合同ライブのために数ヶ月ぶりに帰国した。先輩からの客観的に彼らを評価する言葉は、タイでがむしゃらに頑張ってきた彼らを勇気づけただろう。

BAKU BAKUのMVコレオグラファー(s**t kingzの持田将史さんでした)のインタビューもかなり印象的だった。「ひとりひとり違っていいんだ、それがすごい大事なんだってこと」をタイでの武者修行を通してメンバーが感じたのではないかと語る。MVでは、あえてダンスを揃えて踊ることで、「バラバラな個性を持った人がひとつになれるんだ」という印象を与えることができる。そして「自由になっていいよって言った瞬間の、みんなが出してくる自由がすごくいいんですよ」といきいきと語ってくれた。また、「バラバラなこと自体が、グループの個性」であると、撮影監督も話している。

海外でのいくつものステージ、タイのグループとの楽曲制作、Jr.EXILEでの合同ライブ、そしてMV撮影を経て、どんよりとしていた空に少しずつ光が差し込んでいく感じがした。チャンスは与えられているはずなのにそれをモノにできていない、と停滞感を感じる日々の中でも、彼らはそれぞれに何かを見つけ、それを糧にまた前に進んでいく。集大成となるタイでのライブSURVIVAL2023では、タイ語verの楽曲のパフォーマンスを披露するなどして現地のファンを盛り上げる姿があった。

最後にはもちろん、お決まりの、タイでの活動を終えての個人インタビューもある。エンディングクレジットのセンスの良さもたまらない。彼らがこちらに背を向けている絵で終わるというのも「お決まり」かもしれないが清々しい気分にさせてくれる。


「よいしょー」と椅子に腰掛ける椋雅。メンバーそれぞれの、未来の自分へのビデオメッセージ撮影が始まる。

廉は「今悩んでることが…」と視線を彷徨わせながらポツポツと話し始める。

「いまだにこう、自分のキャラクターがわからずにいる、んですけども」

かなブラ配信でふざける姿、割と体を張って笑いを取りに行けるところ、表情豊かという印象から、彼は龍臣に近い明るい性格なんだろうと思っていた。それでいて、パフォーマンス面ではラップ・ボーカル・ビートボックス・ダンスをこなす多才さを持つ。しかし不思議なことにこの作品から受ける彼の印象は明るさでも多才さでもない。他のメンバーに比べると彼は最後まで「わからない人」だった。現地で撮影した素材は他にも十分にあったはずだが、作中で彼を最も強く印象付けるシーンはここ、最後に見せる自信なさげな雰囲気だ。カメラに目線を合わせない。ちょっと目線が合ったかと思ったらすぐキョロキョロする。弱々しい声のトーンで自信なさげに話している彼の姿は、普段の明るさと多才さを感じさせない。非常に印象的だった。全編にわたってガッツリと編集、素材選びの意図が感じられるドキュメンタリーなので、これによって彼が「表現」されているということなのだろう、おそらく……。

剣はじっくり考えた後に、未来の自分に向かってスパっと一言。
撮影時は他にも何か話していたのかもしれないが、「悩んで、一言」という演出になっている。監督が彼を観察してきた中で、彼らしさを演出するためにベストな編集だと思ったのだろう。

最後はメンバー自身がカメラをOFFにして終わる。いってきます、と言われているような印象を受ける。


↓しばらく日本での現場もないですし、ふとした瞬間の彼らの美しさを堪能できる映像となっておりますので、ホントぜひご覧になってください!美しいんです、ふとした瞬間が!


【所感】


ただ目の前のことに真剣に取り組み、自分にやれることを探し出してやるしかない、というのは、全人類的に共通の事であると思う。日々を積み重ねていった先にしか未来は無い。パフォーマンスの練習をし、動画を投稿し、ブログを書き、自主制作をし、外国語を勉強し、ステージではパフォーマンスを出し切り……。LDHとしても未踏の地であるグループの海外人気の獲得がどのように行われていくのか引き続き追っていきたい。あとは現場、現場をください……。


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