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酒屋のおじちゃんの園芸事情

このnoteで2016年の記事に、酒屋さんの植木鉢を定点観測していた記録が残っている。
以前住んでいた家の近くにあった酒屋さんだったのだが、お酒だけじゃなく、お菓子や野菜、ちょっとした食料品や日用品を売っているよろづ屋のような感じで、夜遅くまで空いていたので、わりかしよく立ち寄っていた。

ある日、窓際に置かれていたクワズイモの植木鉢の根元に、突然じゃがいもとサツマイモが置かれていた。
「え?イモ?なぜ!?」と気になった私は店に入った。いきなり話しかけても怪しまれると思い、パンや飲み物などいくつか買ったあと、レジでおそるおそる店主のおじちゃんに話しかけた。
話を聞いてみると、このクワズイモは、近所で閉店したお店の前に捨てられていたのを救出してきたそう。その根元に、台所で余ったサツマイモとジャガイモを乗せてみたんだそう。

季節は初夏。通るたびにイモからぐんぐん葉が伸びていた。あまりの目覚ましい成長に嬉しくなり、おじちゃんがいるのを見るとつい、「すごいですね~」と、私はにやにやしながら店に入っていった。おじちゃんも誇らしげだった。

おじちゃんはグリーンフィンガーで、そのへんの道端に生えている植物を摘んできては、挿して育て、陶器の植木鉢の中できれいに仕立てていた。
陶器の中で育つ植物はいつみてもみずみずしく、細やかに手がかかっているのが感じられた。
「植物は裏切らない…」とぽつりと呟いていたのが頭に残っている。

あるとき店にいったら、おじちゃんがいない。どうしたんだろう?と思っていたら、ペットボトルを手にしたおじちゃんが慌てて店に戻ってきた。
近所のお店で、軒先で育てている植物がなかなか開花しない、と相談を受けたので、たまに水をやったりして様子を見ているそうだ。
おじちゃんは、近隣の園芸の面倒もみていた。

やがてイモの葉は怖いくらいに伸びていった。このままいくと店の中がイモの葉っぱだらけになってしまうんじゃ…と心配になる位の伸びっぷりだった。

ところがしばらくしたら、イモがきれいさっぱりなくなっていた。植木鉢の植物もクワズイモからパキラに変わっていた。
「え??イモがない!!何があったんだ?!」と胸がざわついた。
葉っぱが伸びるたびに私がニヤついて話しかけるもんだから、おじちゃんも引くに引けなくなり、しまいに家庭内の問題になってしまったのでは…と心配になった。

おじちゃんの姿を見つけて話しかけた。
「いやー、イモが収穫できないから取っちゃったんだよ~」とおじちゃんは言った。

おじちゃん、なんとイモの収穫を狙っていたのだ。

「イモ、いる?」
おじちゃんはおもむろに、プラスチックのバットに載った、からっからのイモの残骸を持ってきた。葉っぱはきれいさっぱり切られている。

「いやー、いらないです」
と私はいった。

おじちゃんには、挿し木で増やしたアイビーを株分けしてもらったこともあるが、私はすぐに枯らしてしまった。枯らしたことはおじちゃんに言っていない。今更ながら、本当にごめん。

でもおじちゃんにもらったサボテンは、今もうちの玄関先で、かろうじて生きている。

街の路上園芸を支えるのは、おじちゃんのような人では、と思っている。

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