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花火

日中パソコンに向かっていたら、外から「ドーン」と空砲のような音が聞こえた。
そういえば今日は地元の海岸で花火大会だと、何日か前にポストにチラシが入っていた。その合図だろう。

地元の花火はいつも、季節を少しだけ先取りして、初夏の平日夜に開催される。
今年は数年ぶりの開催である。ようやく、季節ごとの催しを思いっきり楽しんでよい雰囲気が戻ってきた。

花火本番は19時半から20時15分の45分間。19時半を回ると「ドーン」「ドーン」と派手な音が外から聞こえてきた。
ベランダに出て音のする方向を見てみると、住宅地の屋根の向こうに花火が見えた。我が家からも見えたとは。ラッキー。
ビュルビュルヒュル…とおたまじゃくしのような光が上昇し、パーンと放射状に光が広がる。ほどなくして「ドーン」とでかい爆発音が鳴り響く。音は、海と反対側の山にもこだまする。
近所では花火を見ながらバーベキューでもしている人がいるのか、屋根の間から煙がうっする立ち上がり、肉とソースの焦げるいい匂いが漂ってくる。「バンバンバンバーン」と大輪の花火がひと段落すると、どこからともなく「パチパチパチ」と拍手の音が聞こえる。
静かな住宅街の日常に非日常が訪れて、少しだけ浮き足だった空気が漂う。

一方、家の中では二匹の猫が大騒ぎ。花火が始まり爆発音が響き始めると、ソワソワしながら階段を上がったり降りたりして、最終的に洗濯機の後ろやベッドの下に潜り込んでしまった。
洗濯機の裏を覗き込むと、耳をぴーんと逆立てながら、じぃっと身体をこわばらせる猫の姿。

今年は数年ぶりの花火開催ということで、規模も大きいらしい。クライマックスに近づくとだんだんと派手に打ち上がっていくのか、爆発音はますますでかくなる。
猫はいつもなら床でべろんとくつろいて寝転んでいる時間帯だが、なかなか出てこない。

花火が終わって1時間ほどして、ようやく猫たちは姿を見せた。相変わらず耳はぴーんと逆立ち、恐る恐るあたりの様子を探っている。手を近づけてみるとビクッとして後退りした。
差し出した手をぺろぺろと舐めるようになったのは、そこからさらに1時間ほど経ってからだった。

夏の風物詩の花火も、猫にとってはトラウマ級の恐怖体験のようだった。

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