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ニホンミツバチ自然巣の引っ越し作業

前日まで即興的に作っていた捕獲道具や簡易的な巣枠式の巣箱を軽トラに積み込み、いよいよ現地に向かいます。
あの大きな巣を一人で処理するのは困難なので妻にも同行してもらって二人での作業。妻には事前にYoutubeで自然巣の保護動画をみて予習してもらいました。

荷台に満載の道具類。これに脚立を載せて現地へ向かいます。

現地へ到着し、管理者の方に用意をして頂いていたパイロンやトラロープで安全確保。遺跡の一つであるこの場所は来訪者が多く、さらにこの日は中学生の社会科見学の日程と重なっていたようで、数グループの生徒さんたちが作業している真横の道を度々通行するという状況でした。
万が一にも事故があってはならないので、生徒さんに声を掛けつつなるべく距離を取ってもらって終始安全第一の作業でした。

この羽目殺しのベニヤ板の奥に巣はあります。

このベニヤ板を外すと下見した日以来の巣との再会です。
ミツバチには慣れている妻も、初めて見る規模の巨大な巣と大量のミツバチに圧倒されていた様子。

惚れ惚れするほど立派な巣

イメトレは完璧なものの、作業にどれほどの時間を要するのか見当がつかないので早速作業に取り掛かります。まずは自作の吸引機でミツバチを捕獲。

ホースの口を細くして吸引力を上げます。

数千匹の蜂たちを吸引するのは想像以上に時間を要しました。
ただしこれは必要な時間で、過度な吸引力ではなく、必要最小限の風圧で蜂へのダメージをなるべく防ぐことが大切です。

吸引の様子を動画にしました。

見ていてもあまり変化を感じられない内容かもしれませんが、ミツバチたちは確実に網の中に捕獲されていきます。

取り込まれた箱の中でも割と自由に動ける状態です。

吸引作業の合間には、捕獲箱の蓋を開いて換気します。天敵であるオオスズメバチを集団で取り囲んで熱殺することがよく知られている通り、興奮状態のミツバチは発熱しますので、自身の熱での熱死を防ぐ必要があります。

手袋にまとわりつく働き蜂は穏やかな様子

また、現場の奥で開催される社会科見学の説明の時間の度にエンジンを切って音の無い作業に切り替えるなど、なるべく迷惑の掛からないように進める吸引作業は永遠とも思われるものでしたが、箱の中のミツバチは着実に増えて、やがて巣板が露わになってきました。

ハニカム構造が確認できるようになってきた

いよいよ巣板の切り取り作業を開始します。

ミツバチの巣板は上部から、
貯蜜層/花粉層/育児層
というレイヤー構造になっています。

ちなみに重箱式の巣箱では上部の貯蜜層の一部のみを頂き、育児層は温存するという仕組みになります。蜂群の持続性を考慮した飼育法ですね。
巣箱とは異なり、自然巣は大きな楕円の構造なので、一枚一枚の巣板を下部から丁寧に切り離し、それぞれのレイヤーを仕分けしつつの作業となりました。

手前の巣板から順番に丁寧に作業

巣板に手を掛けた時はさすがに蜂たちの興奮も一気に高まりましたが、あくまでも慎重に。そして時折通行する生徒さんや地域の方々に声を掛けつつ。

切り取った巣板の仕訳け。

仕訳け作業の順番は、
移植する育児層の切り取りと整形→巣枠に固定→貯蜜層の切り取り
の繰り返しです。

蜜蓋のされた貯蜜層

花粉層や空の巣板は後で蜜蝋を精製するために別の袋へ入れます。また落としてしまったり、あまりに崩れてしまった巣板は給餌用にまとめます。

内部の巣板にいる働き蜂を捕獲

巣板を切る、巣枠に収める、貯蜜層を確保、ミツバチを吸引。
この作業をひたすら続けていきます。
巣が大きく蜂の数が多い分だけ重労働となります。休憩無しで夢中になって作業していましたが、途中のちょっとしたトラブルに対応するために買い出しが必要になったので、ついでにお弁当を買って昼食をとることができました。結果オーライ。

途中で管理者の方が飲み物を差し入れて下さったり、行政のご担当者の方が作業の案内をプリントして持ってきて下さり、そのお陰で嬉しい出来事もありました。

看板も書き方ひとつで印象が大きく変わります。

往来する生徒さんたちに、
「ミツバチの作業をしているので離れて歩いてくださ~い」
と、声を掛けると、

「蜂!こわーい!」
と一目散に走り去る女子生徒。

「ハチミツ?美味しそう!」
と屈託のない笑顔の男子生徒。

「蜂の駆除をしているから静かに歩いて!」
と檄を飛ばす先生。

「駆除じゃなくて保護なんだけどなぁ…」と心の中でつぶやく自分。

そんな中、ある生徒さんの声が耳に入りました。
『引っ越しだって!そんな事出来るんだぁ!優し~い!』

今回の駆除依頼はきっと日本ミツバチも西洋ミツバチも区別のつかない方によるものではないかと思います。
しかし刺激しない限りはとても穏やかなニホンミツバチ、そして立派な自然巣、出来ればこれを学びの機会として、そっと見守ってあげたかった。
作業中にお話しした地域の方の中にも、ここにミツバチが営巣していることを知っている方がいらして、何年か前からミツバチが出入りしていることもご存じでした。

数日の準備をして挑んだこの作業、体力的な事だけではなく、あれやこれやと色々と思考を巡らしながら気を張っていたことで、思いのほか疲労していた最中に、あの生徒さんのこの声を聴けたことで疲れも吹っ飛びました。
まさにセンスオブワンダー

案内の言葉を配慮して頂いた職員さんにも感謝です。

残りわずかとなった巣板

いよいよ作業も終盤。ミツバチの数も少なくなってきました。

小さく固まるミツバチもなるべく残さず捕獲します。

ミツバチが出入りしていた営巣場所の通気口から帰ってくる外勤蜂も待ち構えて吸引します。なかなか面白い動画となりました。

壁についた巣板もスクレイパーを使って完全に除去し、入り口をベニヤ板で再び固定しました。

作業場所は日陰で涼しかったのですが当日は真夏日。仮固定の巣板が移動中に崩れてしまう恐れがあるので、巣板を移植した巣枠式の巣箱に捕獲したミツバチを移動させるのは帰宅してからの作業としました。

最後に出入口を塞ぎました。

自宅に移動してから確認したところ。どうやら巣板は無事なようです。

網に入れたまま連れて帰ってきた数千匹の蜂たち。

そしていよいよ強制入居です。
春の分蜂群では何度となくやっていることなのですが、今回は重箱式を半ば無理やり巣枠式に改造し、分蜂群ではありえない数の大群の引っ越しなので重箱5段としました。上部2段半は巣枠が入っています。

石蔵のような快適な環境から木造の掘立小屋のような場所へ無理やり連れてこられたミツバチたちは中々入居を進めてくれず、ビールを飲み夕飯を食べながら引越しを見守り、最終的に巣箱の設置を完了したのは21時半を過ぎていました。

これで一件落着!

ではありません。
こうした強制捕獲群がそのまま定住してくれる確率は低く、数日で逃去されることが多くあります。
また、吸引機で捕獲してきた群れの中に、女王蜂が健在であるのかどうか、確認するのにも時間が必要です。

この経過はまた機会に投稿します。

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