キショい文
VRChatを、始めてしまった。
遅かれ早かれこうなっていたんだろうけど、ついに始めてしまった。
始めて5日目。1月13日の土曜日のこと。
とある方に出会ってしまった。
もうめちゃくちゃかわいいハーピーだった。
先に言っておく。この方は22歳の男性だが、本文章では三人称を使用する際はアバターの性別に合わせて記載していくのでよろしく頼む。
彼女は謎解きに詰まっている雑魚なわたしに付き合って、少しずつヒントを出しながら手伝ってくれた。
本当にかわいすぎる。わたしはもうおしまい。或いは、
始まったのかもしれない──。
まあ、聞いてくれよ。先週の土曜日の話だ。
彼女と会うのはこれで2回目だったが、わたしは既に限界ヲタクと化していた。
VRChatの文化に、"撫で"というものがある。これはかわいいアバターの顔周辺をなでなでしてかわいがる、気軽なスキンシップだ。
割とぶいちゃ民はその辺で撫で合い、いちゃいちゃしている。
かくいうわたしも、先日 "撫で" を教わったばかり。自分から撫でに行くのは初めてだったものだから、こう言った。
「うぁ…か、かわいすぎる……あの、すみません。な、撫でても…いいですか……?」
ってな。
完全にキモヲタだった。
さて、この方はいわゆる "無言勢" だ。
マイクを使用したボイスチャットは行わず、コミュニケーションは基本的にジェスチャーと筆談のみで行う。筆談キャラ萌えのわたしには当然すぎる末路である。
そしてこの方はさらに "カワイイムーブ" を完全に極めている。これはジェスチャーや仕草を、「とにかくカワイく」行うVRChatで美少女になりきる上でのテクニックだ。動きに合わせた表情の変化も完璧だった。
だから、それはそれは可愛らしい仕草で頷いて。
わたしの目の前まで駆け寄って、素敵な笑顔を差し出して来るのだった。
もうわたしは終わっていた。
口から出ていたのは呻き声。そして時折、カワ……という鳴き声だけ。
言い忘れていたが、 "撫で" の文化は挨拶だ。
そう、だから当然その後はあちらの "撫で" が返ってくる。
青くて綺麗なもふもふの羽毛をたたえた大きな翼が、わたしの視界を かわいい で覆っていき、わたしの言語野は完全に死んだ。
あんまりかわいいかわいいと言いすぎると、『いうほどかわいくはないぞ!』とか言う。
それが既にかわいいんだよなって言うようなわたしはもう、ダメなのかもしれない。
底なし沼は膝まで沈んでしまうと、自力では抜け出せないという。
わたしは多分、その状態だった。
そこからはもうずっと終わってた。
わたしは既に「かわいい」しか言えない限界ヲタクに成り下がっていたので、一挙手一投足にかわいいと言い続けていると、悪戯な笑みで唇に人差し指を押し当ててきたりする。
完全にこちらを落としにかかっていた。
わたしを終わらせに来ている。遅刻してしまった宅飲みで、鏡月を瓶ごと手渡してきた友人くらい終わらせに来ている。
色んなお服も見せてもらった。
そんなこんなでしていると、わらわらとフレンドさんが集まってきて、適当に5,6人くらいで駄弁りながら、音MADやラーメンズといった古のネットオモロを堪能していた。
VRChatにはあの頃のインターネットを生きていた人達しかいません。
そうこうするうちに気がつけば午前5時。流石に5時ともなると、集まってきたフレンドもみんな落ちていって、わたしと彼女のみが残った。
流石にもう解散かな、と思っていると。
彼女の髪と同じ綺麗なエメラルドグリーンで、空中に
『このあとはなにかする?』
と書かれていた。
眠くないのかと聞いてみると、彼女は目にしいたけを浮かばせながら、両手の親指を立てて笑ってみせた。
もうわたしは、何を言われようとどこまでだって付き合うつもりだった。
そんなの絶対に、楽しいに決まっているのだから。
どうしようかと思っていると、どうやらおすすめのワールドへ連れていってくれるらしい。光栄だ。
『ペンはないんだけど
とてもきれいですきなところ』
つまり、ここから先はジェスチャーのみでのコミュニケーションとなると言うことだ。
VRChat自体初心者で、あんまり自身は無かったが、ペンなど無くても頑張って理解してやるつもりだったし、何よりこんなにも素敵な誘われ方をされて断れるわけが無いのであった。
まるでマジックをするように、彼女が空中に翼をかざすと、そこには他のワールドへ移動するポータルが現れていた。
わたしはもうノリノリで、両手を上げて飛び込んだ。
そこは、本当に綺麗なワールドだった。
わたしは桟橋に立っていて、奥には豪華な中華風の屋敷が見える。振り返った空には煌びやかな花火が打ち上がり、凪いだ湖がそれを映して鮮やかな色に染まっていた。穏やかな音楽が波に乗り、花火が弾けて響き渡る。
この雰囲気に見蕩れていると、視界の隅を青い羽がふわりと撫でた。見ると、彼女がちょいちょいと羽を揺らして、わたしを手招きしている。
着いて行くと、正門があって、屋敷の敷地内へ入ることが出来た。
さらに進んで行くと屋敷の中を登っていくことが出来て、露台へ抜けて、さらには屋根の上まで上がっていけた。
屋根から見下ろす景色は荘厳で、綺麗な空と湖が一面に広がる。この屋根の縁に座って景色を眺めながらゆったりするのは、この上なく素敵な一時だ。
すると彼女が両の翼を前へ広げて、『ちょっとまってて!』とでも言うような仕草をしたのでわたしは待ってみることにした。
屋根から飛び立って、隣の丘へと降り立つ彼女はまさしくハーピーらしかった。
戻ってきた彼女は空を指差し、こちらに向けて笑顔を向けていた。
何かが起こるのかとワクワクしていると、右手後方から、沢山の提灯が飛んできて、空を飾り付けていくのだった。
はしゃぐわたしを見つめて、彼女は笑顔で親指を立てる。
『きれいだよね!』とでも言っているみたいだった。
そうしてさらに手招きに着いていくと、白く輝く花が咲いていて、『さわってみて!』とのことなので、触れると先程の提灯が後方から飛んで来るのだった。
飛び去っていく提灯を丘の上から見送って、最初の桟橋へと戻った。
どうやらここも座れるらしい。
一緒に隣に腰かけてみると、屋根の上より落ち着いていて、穏やかで、ロマンチックな場所だった。
そこからもいくつかのワールドを教えてもらった。
カクテルが作れるワールドでは、彼女の作ったギムレットを飲んだ。
彼女はわたしの作ったマリブパインを飲んで、目をしいたけにしながら両手の親指を立てていた。
戦闘機を操縦できるワールドでは、わたしがもたつきすぎて色々と大変だったと思う。
水たまりに浮かぶ花弁(?)が舞い上がるワールドで、くるくると楽しそうに回る彼女はまるでヒロインそのものだった。
奥多摩湖ロープウェイのみとうさんぐち駅廃墟を再現したワールドでは、手に持てるモザイクを見つけた。
そんなこんなで遊んでいたら時刻はすっかり8時半。
彼女も眠くなってきたようで、寝れるワールドへ移動することに。
綺麗なホテルのワールドらしく、実在する高級ホテルの再現らしいのだが、正直ラブホみたいでドキドキしてしまった。
行ったことないので知らんけど。
イマジナリラブホ、あるでしょ皆も。
ベッドに横たわるや否や、すやすやと既に眠ってしまいそうなので、頭を撫でて寝かしつけました。
なるべく眠気を誘うように、穏やかで優しい声色を意識しながらゆっくりと
「今日はありがとうございました。楽しかったです。おやすみなさいです…」
って言ってたのは我ながら結構キツかったと思う。
まいっか!!!!!!!
授乳Cafeもそんな感じだったしぃ!!!!!!
俺の堕落が許せないのなら。
アンタが、俺を殺してくれ。
以上です。
ちなみにこの日は13時から飲みの約束があったのですが、8時半まで起きてたので普通に寝落ちして1時間半遅刻したし、遅れを取り戻そうとしこたま飲んだので飲んでる間の記憶を失いました。
その節はごめんなさい。
おしまい。
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