ストリクスヘイヴン雑感(1)ドラフト概観


 あと半月ほどで、MTGアリーナにストリクスヘイヴン(STX)が実装されます。フルスポイラーも公開されたということで、ドラフトがどのような環境になりそうか考えていこうと思います。

5つのカレッジ

 まず、今回の舞台であるストリクスヘイヴンには5つのカレッジ(公式では大学と訳されていますが、イメージ的にはオックスフォードやケンブリッジなどのカレッジに近いものだと思われます)があり、それぞれ対抗二色が割り振られています。ラヴニカのように固有のメカニズムはありませんが、それぞれテーマのようなものはあるようです。また、それぞれのテーマに合った能力のトークンが各カレッジに存在します。

・シルバークイル(白黒)

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 文字や言葉をテーマにするカレッジらしく、墨が流れているイラストが目立ちます。

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+1/+1カウンターを置くカードや、それを参照するカードが多くあります。

ゲームプラン:アグロ、軽量スペルの連打

トークン:2/1飛行の墨獣(Inkling)

魔技:効果の重なりやすい一時的な強化が中心


・ウィザーブルーム(黒緑)

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 生物とその生や死を扱うカレッジのようです。よくわからないぐちゃっとしたクリーチャーなど、イラストは大雑把に従来の黒緑のイメージ通り。

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 ライフを得る手段や、ライフを得ることでメリットのあるカード、コストに生け贄を含む呪文や能力などが多くあります。

ゲームプラン:ミッドレンジ

トークン:1/1、死亡誘発で1ライフゲインの邪魔者(Pest)

魔技:ライフ関連が中心


・クアンドリクス(緑青)

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 主に幾何学的な物事や数学(と称するなにか)を扱うカレッジです。イラストにも幾何学模様が目立ちます。

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 土地をサーチする・場に出すカードや、「土地8枚以上」を条件とするカード群が特徴です。

ゲームプラン:ランプ

トークン:X/X(0/0にカウンターが乗る形)のフラクタル

魔技:大型クリーチャー生成の補助(カウンターによる強化、マナ補助)が中心


・プリズマリ(青赤)

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 表現や芸術を扱うカレッジです。動きのある派手なイラストが多いです。

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 マナ加速(宝物)やコスト軽減、重いインスタントやソーサリー、ドローやドロー操作が目立ちます。

ゲームプラン:マナ加速やコスト軽減からの重量スペルとドローによるアドバンテージ

トークン:4/4エレメンタル

魔技:複数重なりづらい効果が中心


・ロアホールド(赤白)

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 フィールドワーク中心の考古学的なカレッジのようです。霊や魂のようなものが描かれているイラストが多めです。

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 墓地から戻ってくるカードや、(墓地から)何かを追放することをコストや誘発条件とするカードがあります。また、クリーチャーの多くがスピリットで、スピリットを参照するカードもあります。

ゲームプラン:墓地利用アドバンテージを生かしたロングゲーム

トークン:3/2のスピリット

魔技:いろいろ


 あくまで現時点での所感ですが、どのカレッジもやりたいことがかなりはっきりしていて、うまくその展開に持っていければ勝ち、というゲームになりそうです。ゲームレンジが短いのは白黒だけでマナフラッド受けも豊富なので事故のリスクは小さそうですが、相手に噛み合った引きをされたら手も足も出ない、という展開も多そうで、デッキがうまく回った方の勝ちという環境かもしれません(構築に近い?)。マリガンの判断が難しそうです。


新メカニズム

 当然ですが、新メカニズムもいくつか登場しています。

・魔技/Magicraft

 新しい能力語で、インスタントやソーサリーを唱えるかコピーしたときに誘発する能力です(内容はカードによって様々)。既存のメカニズムの中では上陸に似ています。

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 インスタントやソーサリーで誘発するので当然それらの需要が大きくなります。従来のドラフトだとそれらは多くて10枚程度ですが、今回はトークンを出す呪文が多めに収録されていて、クリーチャー比率を減らさずインスタントやソーサリーを多く積めるようになっています。後述する履修と講義も1ゲーム中にインスタントやソーサリーを打つ機会を増やしています。

 上陸同様、魔技にもクリーチャーの強化をするものが多く、そのためインスタントタイミングで魔技を誘発させると戦闘を有利に運べる確率が高まります。ということでインスタントの需要は更に高くなりそうです。

・履修を行う/Learnと講義/Lesson

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 履修を行う/Learnは新しいキーワード処理で、

①ゲームの外部(サイドボード)から講義・カードを一枚持ってきて公開し手札に加える

②カードを一枚捨てて一枚引く(赤に多いかき回しルーティング)

③何もしない

 のいずれかを選ぶことができます。もちろん(アドバンテージが取れるので)講義を持ってこれるのが一番ですが、ない場合でもルーティングができるので便利です。

・講義/Lesson

 講義/Lessonは新しい呪文タイプ(ソーサリーのサブタイプ)です。それ単体では特に意味を持ちませんが、履修によってゲームの外部(サイドボード)から手札に加えることができます。

 「メインボードに入れる必要がない」「状況に応じて持ってくることができる」「実質的にカードの消費がない」という性質から、講義には腐りやすい(状況によっては強い)ものや効果が小さい(コストが割高)ものが目立ちます。単体で見れば弱めのカードということですが、履修さえできればマナ以外の元手がいらない上に好きなタイミングで持ってこられるので多少のことは目をつぶる必要があります。

 講義はミスティカルアーカイブ同様に各パックに一枚入っていますが(レアリティごとの排出率の情報は見当たらず)、おそらく奪い合いになるのであまり多数は確保できないでしょう(平均すれば一人あたり3枚)。講義を使い果たした後の履修はルーティングになるため、土地を置くかどうかの判断が重要になってきそうです。

 一方で構築、特にbo1ならサイドボード15枚を講義で埋め尽くすことも容易で、状況に応じて必要なものを選ぶことができるのでより強力です。

 KHMの氷雪同様、講義と履修のバランスとピック順はドラフトを難解にするでしょう。加えて講義/履修は全色に跨っていて、氷雪のように集める人と無視する人の棲み分けが発生するようなものでもなさそう(8人全員が参戦してくる)なのがさらに厄介です。1パック目はひたすら講義をかき集める「講義がめおじさん」のようなプレイヤーも登場するでしょう(それが最も有効な戦略の可能性も、現時点ではあります)。

 シルバーバレットの特性上、講義は持ってきたら即打ちたい場合が多いでしょう。履修も講義もその特性上コストが少し割高になっていることが多く、1ターンに続けて打つにはそれなりのマナが必要です。できるだけ土地を並べていくプレイングが望ましいように思えますが、一方で履修はルーティングもできるので要らない土地を手札に残しておくプレイングもありえます。このあたりの判断も難しくなるでしょう。

 全体的にマナコストが重めということもあり、土地の需要が従来よりも高いセットになるかもしれません。構築のランプがデッキの約半数を土地にしていたように、STXのドラフトでもクアンドリクス(緑青)などは土地を20枚前後積む構築があり得るかもしれません。

 また、講義は全てソーサリーなので魔技が誘発します。このことも戦局を左右する瞬間があるかもしれません。


・護法/Ward

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 護法/Wardは新しいキーワード能力で、「対戦相手がコントロールしている呪文や能力の対象になったとき、そのプレイヤーが何らかのコストを支払わない限りその呪文や能力を打ち消す」というものです。

 今までにも登場した能力に名前を与えて常盤木キーワードとする措置のようで、特にSTXの世界設定に関わりがあるわけではないようです。例えば《守護者の盾、ヴァルクミラ/Valkmira, Protector's Shield》の二番目の能力は「あなたやあなたがコントロールするパーマネントは護法①を持つ」というテキストになるのでしょう。

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 この例からも分かる通り、クリーチャー以外のパーマネントやプレイヤー、果てはスタック上の呪文が持ってもおかしくない能力です。

 一方、従来の類似した能力には「呪文のみ」「コストが大きくなる」という形式のものも多く、これをそのまま護法に書き換えると挙動が変わってしまうので、そのままにされるものもあるでしょう。

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 実際のプレイ、特にMTGアリーナの場合、キャリクスのようなテキストの場合はそもそもマナが足りないと打てないので見落としても問題にならないことが多いですが、護法の場合は「打てるが打ち消される」ことになるので、見落とすとプレイミスする危険性が高いと言えます。実際、KHMのドラフトでもヴァルクミラに呪文を打ち消されるシーンをたまに見かけます。


・ミスティカルアーカイブ

 STXの目玉の一つがこのミスティカルアーカイブです。設定上はストリクスヘイヴンの大図書館に眠る古文書に記された呪文(従って全てインスタントかソーサリー)ということで、全63種の再録カード(うち一枚は未来からの”再録”)で構成され、全カードに日本画バージョンがあるということで話題になりました。

 Magicの歴史を物語るセットということで、バランスの取れた名カードから明らかにオーバーパワーな「設計ミス」カードまで幅広く収録され、特に危険なものは初めから構築(ヒストリックのみ使用可能)で禁止措置が取られていますが、リミテッドでは使用が可能です。

 そのためか、エターナルレベルの「強すぎる」カードは《悪魔の教示者/Demonic Tutor》や《自然の秩序/Natural Order》、あるいは単体除去のようなリミテッドでの影響力が比較的穏やかなものに限られ、《精神錯乱/Mind Twist》《ハルマゲドン/Armageddon》のようなリミテッドでも非常に危険なものは(再録禁止ではなくMagicの歴史上で重要なカードであっても)含まれていません。

 ミスティカルアーカイブのカードは講義と同様に各パックに1枚封入されており、排出率はアンコモン(67%)、レア(26.4%)、神話レア(6.6%)となっています。各希少度の枚数も考慮すると、各アンコモンは3.7%、レアは0.9%、神話レアは0.4%の確率でパックから出ます。特定のカード一枚の出やすさで言うと、ミスティカルアーカイブのアンコモンは通常のレアの2倍程度、ミスティカルアーカイブのレアは通常の神話レアと同程度、ミスティカルアーカイブの神話レアはそのさらに半分弱の頻度で出現すると考えられます。

 つまり、STXのドラフトで相手が《ショック/Shock》を打ってくる可能性は、カルドハイムのドラフトで相手が《傷頭のアーニ/Arni Brokenbrow》を出してくる確率の2倍程度、《稲妻/Lightning Bolt》を打ってくる可能性は《黄金架のドラゴン/Goldspan Dragon》を出してくる確率と同程度ではないか、と推測されるということです。

 ミスティカルアーカイブのカードも一人あたり平均3枚ピックされることになるので、特にアンコモンはドラフトを考える際にも無視できなくなってくるでしょう。

 

まとめると

 STXのドラフトは対抗二色五種それぞれのコンセプトが明確で、単色のコモンにもどちらに属するかがはっきりしているものが混じっているため、いわゆるアーキタイプ環境と呼ばれるものにになると思われます。

 ただしアーキタイプが五個しかないので、卓上で他人とかぶる人が必ず数人出ます。いかにして空いているカレッジを見つけそこに行くか、が重要なセットでしょう。アーキタイプ環境なので、KHMのように色単位で混み具合を考える必要はなく、アーキタイプ単位で考えてよいと思われます。

 個人的には苦手そうな環境です。6割勝てたらいいかな…………


次からはアーキタイプを意識しつつカードを個別に見ていこうと思います。

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