話題の西浦教授のGoTo論文読んでみたよ

昨日はニー仏さん飯田泰之先生の限定放送を聞いて楽しい時間をすごした。

どちらも参加者限定の放送だったので詳細は書かないが、奇しくも西浦教授について触れておられた。マガジンに課金すると録画を聞けるので興味のある方はぜひどうぞ(COIはありません)。

それで一部で話題になってた西浦論文を読んでみたのだが想像を絶する酷さだった。

この人があかん人であることはだいぶ前から指摘しているが、それでも認識が甘かったと言わざるを得ない。こんな人物が、多くの人々の生活を左右する政策決定に深く関与していたという事実が恐ろしい。

まず当該論文が話題になったのはマクロ経済クラスタの間であった。
西浦先生は、日本で数理疫学者としては唯一無二といっていい存在であり、彼を表立って批判する医師はほぼいない。大学入学時点ではトップクラスの数学力を誇った医師たちも基礎医学や臨床医学の学習に追われ、あるいは学生生活を謳歌するうちに数学のことなんて忘れてしまう。だから西浦先生にウエメセで物を言えなくなるのである。加えてあの業績(というか論文の圧倒的な量)については素直に敬意を払うしかない。

そこへマクロ経済学者から矢が飛んできたというわけである。しかし経済学者っていつも論争してるし、喧嘩っ早いというかなんというか。この辺の文化の違いについても飯田先生は言及しておられた。

一つ付け加えておくと、経済学は文系の学問ではない。まあ学部レベルの経済学は理系の人間にとっては別に難しくないのだが、大学院レベルになると急に遠慮というものがなくなって難易度が激増する。数学の勉強を止めてしまったことを後悔する瞬間である。ローマー上級マクロ経済学とか買うんじゃなかった。

つまり西浦先生にものを言えるのは、喧嘩っ早くて数学の得意な経済学者であったというわけである。

ではまず当該論文はこちら。

全文無料で公開されており、英語も難しくないので暇な人はどうぞ。

そして無料というのがアレで、版元のMDPIはいわゆるハゲタカジャーナル出版社ではないかという批判もあるようだ。真偽はともかく査読適当すぎるやろという気はした。

中身についてはこちらの飯田先生のわかりやすい解説を参照してください。私もほぼ同意見です。

まとめるとGoTo期間にたしかに旅行に関連した感染は増えてるけど、旅行に関連してない感染も増えてるので、GoTo関係あるとはいえないよねってことだ。

ところが論文ではそういうことにはほとんど言及せずに、GoTo期間に感染者が増えたということのみ強調しているのである。さらに言うなら、見方によっては旅行したほうが感染は少ないともとれるデータもあるが、そんなことは無視されている。

また期間の区切り方についても恣意的ではないかとの批判があるが、まあそれはおいておこう。

この中田大悟氏とのやり取りもなんだかチグハグで閉口してしまうのだが、これもとりあえず置いておこう。

ここまでは残念に思うことはあっても腹は立たなかった。だからなんやねんと言いたくなる論文はしょっちゅうあるからだ。

しかしDiscussionのこの部分については怒りを抑えるのは困難であった。

Thus, experts in infectious diseases and public health cooperated with the government, formulating guidelines for infection control in each sector and offering advice to maximally reduce infections via the use of precautionary behaviors (e.g., wearing masks, avoiding close contact in confined spaces, and hand hygiene). In fact, the campaign included guidance on preventive measures for both travelers and service providers [24]. Nevertheless, the present study findings indicated that these efforts were accompanied by increased travel-associated cases of COVID-19 infection.

(太字は引用者)
そもそも旅行やGoToトラベルが感染を増やしたということを示せていないのに、予防のための努力は旅行関連の感染増加を伴ったってどういうことやねん。宿泊業や飲食業の人々は気の毒なほど感染予防に気を使っているのに、よくこんなことがいえるな。


というようなことを考えていると、飯田先生と中田先生への回答を出されていたようだ。

なんで会員限定のところに出すんだ。。。それならオープンアクセスのジャーナルに投稿するなよ。。。

しかし私はm3の会員なので読んでみた。転載は差し控えるが、建設的な批判に対する感謝、回答といったところである。なぜ24県のデータだったかがこの研究単体の肝で、笑うしかないようなことが書いてあったがまあいいでしょう。もちろん研究の限界については認識されていて、それも踏まえてのpreliminaryなデータということだったっぽい。それにガチで噛み付いてくる人間がいると想定していなかったようにも読めた、しらんけど。
この研究以外にもいろいろ進めているらしいけど、私自身はもう読まないと思う、時間の無駄なので。

今日は疲れたのでこんなところで。

1月29日追記。
現在、西浦氏の反論はyahoo Japanで読めるようになっています。

これに対する中田氏の嫌味たっぷりのコメントは一連のツイートを参照のこと。


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