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【連作短編ホラー】呪いの言葉がトリガー エピローグ『ずっと好きでした』

日曜日

「セリナ先輩ファイト!」 

 私は思い切り叫んだ。
 きゅっきゅっと床に靴底を擦り付ける音を立ててセリナ先輩は華麗にステップを踏む。そしてラケットで羽根を力強く打ち叩いた。

 羽根が相手コートに猛スピードで落下した。
 セリナ先輩は右手で小さくガッツポーズをした。
 誰よりも綺麗でキラキラとした汗がショートカットの襟足から落ちるのが見えた気がした。

 勝利まであと一点……。

 夏の大会が三年生にとっては中学生最後の大会になる。地区予選を突破して県大会に進むのがセリナ先輩の目標だ。今まで惜しい所で負けて県大会に行けなかった。
 あと一点で悲願の県大会だ。
 私は両手を強く握りしめてセリナ先輩の勝利を祈った。


「ずっと好きでした。セリナ先輩の事が……」

 この試合の前日に、私は先輩に告白した。学校からの帰り道。我ながらそんなタイミングで言うことじゃないだろう! そう思った。でもなぜか分からないけど大事な試合を前にしてエモーショナルな気持ちになってしまって勢いで言ってしまったのだ。私の馬鹿!

 案の定セリナ先輩は困った顔になりながら、

「マナミ。今のこの街はあの世とこの世の境が曖昧になってるんだよ。そんな世界では言ってはいけない言葉があるんだ」
 そう言った。なんてトリッキーな告白のかわしかたなんだと思った。さすがセリナ先輩。

 それからしばらくずっと無言だった。完全にフラれたと思った。
 私の家の近くまできたとき、セリナ先輩が唐突に話しかけてきた。

「マナミ、どうやら私は妖怪に呪いをかけられた」

 やっぱり変な事を言って私を遠ざけようとしているそう思った。
 でもそれは違った。
 先輩が私の方を意を決したように見つめてこう言ったのだ。

「その妖怪はマナミ! お前だ! 除霊する方法は今のところない! 呪いは解けません!」

 そう顔を真っ赤にして叫ぶとすったこらさっさと自転車を猛スピードでこいで私を置いていってしまった。
 私はそんな先輩の姿を見て吹き出してしまったのだった。
 しばらく笑いが止まらなかった。
 
 セリナ先輩がきゅっきゅっと床を鳴らす。華麗にステップを踏み、ネット際で羽根をラケットで相手選手がいる場所から遠く離れた場所へとポンと軽く打ち上げた。
 相手の意表を突く一撃。
 羽根が相手コートに落ちた。一点入った。セリナ先輩が勝った。悲願の県大会だ。またセリナ先輩の勇姿を見れる。最高に嬉かった。悲鳴を上げて自然に涙が溢れていた。

 先輩が相手選手と握手をして審判に礼をすると、私たちがいる応援席に駆け寄ってきた。友達から沢山祝福の言葉をかけられている。それにセリナ先輩が満面の笑顔で答えている。

 私がそれを幸せ気持ちで眺めていると、ふとセリナ先輩が私を見た。目が合った。セリナ先輩は少し恥ずかしそうに右手の握り拳を私に突き出した。
 私は思わず吹き出してしまった。
 私も握り拳をセリナ先輩に突き出した。
 セリナ先輩がにこっと微笑んだ。幸せな気持ちで胸がいっぱいだ。

 私はその気持ちを胸の中で強く抱きしめながら、私がセリナ先輩にかけた呪いが一生溶けませようにと強く願った。

〈『呪いの言葉がトリガー』完。〉



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