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昇格決定

 やった。まじ、げんじつになった。おめでとうございます。こんな日がくるんですね。

 山ちゃんは久保九段に負けたけど、郷田九段が松尾八段に負けて、やまちゃんのA級昇格が決定した。師匠の森信夫七段の喜ぶ顔が目に浮かぶ。外野席のファンから見ての勝手なイメージは、長男、村山八段、次男、山ちゃん。長男は志半ばで早世して、次男はあふれる才能を持て余していた。森師匠は他の弟子には悪いけど、やっぱり山ちゃんが気にかかると言っていた。山ちゃんは師匠の内弟子だった。阪神淡路の震災で周囲の心配よりも自分の対局の心配をした山ちゃんを一度は破門した。山ちゃんの将棋は面白い。自分自身がファンだと言っていたのも聞いたことがある。

 ここで言う山ちゃんというのは山崎隆之八段。公共の電波に乗せて(NHK)、大盤解説の聞き手の同僚(矢内女流五段)にコクったことで有名(もう言ってやるなよ)。ヘンテコ将棋で勝つ才気にあふれる。今日のA級決定に臨む大一番にも、ヘンテコで挑んだ。男だ!でも負けた。勝負は時の運だからね。

 山ちゃんは春ごろから勉強方法を変えたらしい。今年度の勝率は7割。充実している。A級参戦の来期は名人挑戦だ。狙えるで。
 山ちゃんはずっと一貫して、人の口の端に上がる人気の棋士だったけれども、今期のA級昇格ロードの沿道声援はすごかった。やっぱり勝つというのはすごいことだ。山ちゃんはファンを大事に思う棋士で、大一番で負けた棋士が、勝った棋士と一緒に現地の大盤解説に出るようになったきっかけを作った。山ちゃんが最初に、応援してくれたファンに、負けたけれども、挨拶したいからと、現地の大盤解説に出たの最初らしい。超若い頃、朝日オープンでのこと。

 今回の昇級でファンを喜ばせたことには、山ちゃんもひとしおだろう。

 そのファンの中に俺を入れてもらうのは、おこがましい気もしていて、俺はひとしおの員数外でいいです。なぜって、それは俺の隣にすごいファンがいるから。

 俺の隣…つまりそれは、俺のお嫁さんなのだが、木村王位の大ファン。すんません。山ちゃんの話から外れるんですが、どうしてもこの話には触れたくて。今日のB級1組12回戦も、木村九段の勝利と昇級に向けたライバルの永瀬王座、郷田九段の対戦相手であるところの行方九段と松尾八段の勝利を願ってさっきまで起きていた。俺は酔っぱらって寝落ちしてた。員数外です。

 彼女はもちろん、来る今月14日、木村王位にバレンタインデーのチョコを送る腹積もりだが、とにかく高級チョコレートを贈るのだと息巻いている。棋士は対局中に脳の栄養補給にチョコをつまむ。自分の贈ったチョコもそれに動員されるかもしれない。ならば、そこで、高級な包みから出されれば、対戦相手を威圧できるかもしれない、何としても高級チョコをと言っているのだ。

 狂ってる。

 俺なんか野次馬です。

 今日は山ちゃんは負けたけど、郷田九段も負けての、昇級劇。勝った松尾八段がアシストした形だ。松尾八段は山ちゃんの連続13期B級1組在籍に次いで、連続12期在籍中の、このクラス番人仲間。今回のアシストに俺は、「おまえは先に行け!俺はここに残る!」の定番のシーンを見た。「お前を残してA級には行けないよ」と久保九段に負ける山ちゃんに、「行けよ!足手まといなんだよ!」と郷田九段を倒す松尾八段の姿に涙。松尾八段の目には、来期からB級1組参入の藤井二冠の影が見えている。「行けよ!行けったら!」「まっつん、ごめん!」

 山ちゃんが悲願を達成して、俺も頑張るのか、頑張らないのか。やはり、頑張らない。このままナリでいく。でも恵まれの勝ちを拾う希望は捨てないであと10年すごす。山ちゃんがA級に上がった、この世界線の上で。

この文章で上がった収益は、全てボス村松の演劇活動と植毛に充てられます。砂漠に水を。セイブ ザ ボース。