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2023.4.19(水)晴れ UBER嘘日記

UBER6件配達。menu7件配達。出前館1件配達。

 友人の劇場が閉館する。ここでは俺も演劇した。時間は一つの場所に留まってくれない。劇場最後の公演を見に行った。ウバックを担いで出かけ、行きも帰りもUBERした。

 力作だった。閉館が余計にやるせなくなった。劇場は歌舞伎町の雑居ビルの4F。トー横がすぐ近くにある。あーやるせなさすぎる。トー横に王がいたらまた正義の鉄槌を加えてやろう。行ってみると王は不在、代わりにトー横キッズたちが俺を取り巻いた。王を倒した俺は英雄になっていたのだ。俺はTシャツとUBER招待コードを渡し更生をうながした。キッズたちは口々に「ぱねー」とか「かっけー」とか言って登録を誓った。
 素直ないい子たちじゃないか。彼らは愛に飢えていただけなのだ。ワンラブワンハート。非行少年たちがUBERの力で更生された。俺は歓喜に打ち震える。ああ!もっといいことがしたい!
 出前館の配達依頼が鳴ったところで、俺はトー横を後にした。

 出前館の注文は、松屋で牛丼をピックアップして東新宿のタワマンにお届けというもの。東新宿はTOHOシネマズから目と鼻の先だ。近いのはありがたいが、タワマンというのが難儀なところ。防災センターに寄って記名したりと、タワマンはひと手間余計にかかるのだ。

 5分ほどでタワマンに着くと、俺は防災センターに寄ってから、業務用エレベーターに回り、最上階のボタンを押した。最上階かよ。セレブ様へお届けです。

 タワマンの上階にくると耳が痛いほどの無音にいつも驚く。壁が厚く防音がしっかりしているうえに、地上の喧騒からは遠く離れる。いったいお家賃はいくらなんでしょうね。どんなお大臣が住んでるんでしょうね。しかし食べるものは今俺が届ける松屋の牛丼ということで、我々と同じ。面白い。

「ありがとうございます。出前館でーす」 俺のチャイムにお客さんは顔を出す…やいなや、いきなりパンチを打ってきた。
 俺はすんでのところでかわしたが、相手の顔を見て納得。パンチの主はトー横の王だった。配達先が王のお宅とは何たる偶然。

 オートロック解除の画面で俺と知ってパンチを打ってきたのだろう。王の目は憎しみでランランと輝いていた。「おまえから出前館をうばってやる」

 …こいつ俺にBAD評価を付けるつもりなのか? 俺は戦慄したが、まあ出前館の注文は、雨の日しか取れなくて平時はだいたい早押しで負ける。奪われてもそれほどの痛手ではないかと思い直した。

つづく

この日の嘘じゃないUBER日記

この連載小説のまとめ


この文章で上がった収益は、全てボス村松の演劇活動と植毛に充てられます。砂漠に水を。セイブ ザ ボース。