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祝・棋王戦挑戦が決定したよ

183手佐藤九段投了

 山ちゃんが勝った。タイトル挑戦だ。次は藤井くんと5番勝負。棋聖位は名前が一番カッコよく8大タイトルの中で序列が一番下、なので山ちゃんが藤井くんからかすめ取るに相応しいタイトルだ。
 終局後のインタビューで推し量るに山ちゃんにタイトルを取る気はなさそうだったけど(*)、ファンとしては山ちゃんの初戴冠、神殺しの姿は見てみたい。

(*)タイトル戦に臨むときの言葉の強度と、その順位
強「最善の準備をしていい結果を残したい」
↑「最終局まで熱戦を」
↓「まずは1勝」
弱「終盤までチャンスのある将棋を」←ココ!山ちゃんかく語りき

 勝つ気すら怪しい。そもそも山ちゃんは「勝率5割ちょっとの棋士がタイトル挑戦というのがおかしい」と今回の勝利を不思議がっていた…ていうか謝っていた。喜びなり意気込みなりを引き出そうとするインタビュアーに「こんな僕が挑戦者で申し訳ない」というふうに。

「山ちゃん怒られているみたい」

 俺がお嫁さん(木村ファン/本日木村出演名人戦大盤解説会遠征中)にそう言うと、彼女からも賛同が得られた。

最後のタイトル戦

「あれ?これで山ちゃん(43才)がタイトル取ると、タイトル初獲得最年長記録を更新?」
「ちがうよ!木村先生は46才!」

 そうでしたか。インタビュアーは山ちゃんから「最後のタイトル戦」という言葉を何とか引き出したが、最後を言うのはまだ早い。前例に倣えばあと3年の猶予がある。

15年前の幻影

 山ちゃんがピコさんに勝利したこの挑戦者決定戦は中盤の押し合いが見どころの対抗形。緒戦は変態的な手順で駒組した山ちゃんに分があったようだが、そこで弱い手(山ちゃん談)を指してピコさんが優勢に。4、5、6筋の位を制したピコさんの陣形は中川山脈(©中川隊長)に例えることができよう。

 奇遇にも中川隊長は15年前、山ちゃんタイトル初挑戦のおり、挑戦者決定戦で争った相手。将棋界には「勝率6割を維持していればチャンスは来る」という習わしがあるそうで、この時41才の隊長はこの習わしを心の拠り所に決定戦までたどり着いたそう。前述の通り近年の山ちゃんの勝率は5割ちょっと(本人談。本当はもっとある)。そういう訳で山ちゃんは15年前に打ち倒した中川隊長を、今回も2つの意味(山脈、勝率)で打ち破れるか?という戦いになった。山脈を築かれ評価値30パーセントとなった非勢を、得意のちょい悪逆転術を以って勝利に導けるのか!?

「悪い癖なんですけど悪くなってからは手が伸びて逆転勝ちにつながりました」

 術が発動! 逆転成る。評価値30パーセントは、ちょい悪よりももっと悪いので新技、極悪逆転術がさく裂して勝利した。

術の内容
■端に手を付けておく
■飛車のコビンを狙う
■馬を自陣に引き付ける
■と金を作る
■パニックになった時は受けて反省

藤井くんに勝てと?

 この術が藤井くんに通用するかは難しいところ。藤井くんは100個の技を持っている(推定)がその中の一つ「藤井曲線」は「ちょい悪逆転術」との相性が最悪。山ちゃんがちょい悪の気を溜めている間に押し切られる未来が予見される。来るべき挑戦に向けて山ちゃんの威勢が悪いのも宜なるかな、だ。局後のインタビューをまとめた記事にも「自虐を交えながら本音を語る、山崎八段らしいインタビューだった」というコメントが添えられていた。

 15年前の挑戦と何が違うか?と問われて山ちゃんは答えた。

■強くなったところと弱くなったところがある。
■強くなったのは将棋に賭ける思い。
■いや弱くなったといったら怒られるか(ダニーに?)。
■今回の方がうれしい。

 あ、うれしいんだ! インタビューを受ける山ちゃんに元気があまりにもないので、もしや、これから藤井くんに公開処刑される我が身を案じているのかと思った。うれしいのならよかった。何か面白いコメントを引き出そうとするインタビュアーの誘いに乗ってこないのは、局後の気持ちが「タイトル挑戦。嘘だろ。ツイてた」以上でも以下でもなく、気持ちに尾ひれを付けたくなかった、そういうことなんだろう。突然降って来た恩寵を厳粛に受け止めているというか。
 そう考えると、まとめ記事で「らしい」と言われた自虐も「もっとできたのに俺ったら!」という従来型のアッパー系ではなく、自分を見つめたフラットなものに見えてきた。
「最後のタイトル戦と言いましたが、特別な思いで言ったわけではなく、連続してタイトル戦を戦う特別な棋士以外は、タイトル戦にはこれが最後と思って望むものではないでしょうか?」 全くその通り。きっとそういうものなんだろう。

 攻めの言葉が一つだけあった。「本当の乱戦」の場の藤井さんを見たことがない。その時もまた藤井さんの羅針盤は正しく働くのかどうか。そこは見てみたい、と。

 本当の乱戦って何やねん!山ちゃん!期待してしまうやろ!


変態将棋と言われるけど

 独創的変態的と言われる山崎将棋。その思想の根幹は玉の固さよりも広さへの指向だ。AI以前、隙あらば穴熊の時代において、その広さへの指向は希少性の高いものだった。「山ちゃんの王様また独りぼっち!」と山ちゃんの王様が単騎であっちいったりこっちいたりする姿にファンは笑いと喝采を送ったものだ。
 ところが山崎将棋は独創ではあったが変態ではないということをAIが明らかにしていく。AIもまた、固さよりも広さを指向する。山ちゃんは正しかったのだ。今現在、居玉は当たり前、玉を囲わない山崎調が将棋の本流になっている。
 その中で山ちゃんは先駆者として棋理追及を引っ張っているのかというとそうではなく、自分の思想に近づいた将棋の中で、なお変化球を探し続けている。A級昇級時のインタビューではその姿勢について「むしろ真理から遠ざかりたい。視界の無い霧の中で相手を惑わせたい」と宣言していた。あれから3年。時間を置いて今、この、挑戦決定インタビューで自身の変化球を「弱さ」と表現した。「本当は直球を投げるべき」と言った。3年の間に何かが変わったのか。俺がただ言葉尻をとらえただけなのか。

 山ちゃんはタイトルマッチを「本当の乱戦」で戦う(つまりはド変化球)。神に愛されし者に告ぐ。これが人間の戦いだ。そんな山ちゃんに俺たち「山ちゃんを諦めない勢」ができることは何か。藤井くんの将棋飯に毒キノコを盛る(キノコは克服しつつあるから)か、砂蒸し風呂ですごい熱いのをかける(暑がり。5分持たない【お嫁さんに嘘を教えられた。実際は15分我慢した】)ぐらいしか思いつかない。
 早速、調べてみると対局所のラインナップに指宿白水館の名はなかった。残念だ。私事で申し訳ないが、先日、俺は鹿児島旅行で指宿白水館まで足を伸ばして砂蒸し風呂に入った。いや5分でギブアップはないよ【そうです15分頑張った】。普通に15分いける【いけました】。あいつ熱いの超苦手【苦手ではあるがそんなでもない】だぜ? そして指宿白水館は従業員を募集していたのだった。対局さえついていれば俺が奴の上にチンチンの砂をかけてこんもりさせてやったのに。今から対局場の変更はないのだろうか。

そんなでもないだろ?

 お嫁さんが帰って来た。木村先生はいつものように、超かっこよかったそうだ。

この文章で上がった収益は、全てボス村松の演劇活動と植毛に充てられます。砂漠に水を。セイブ ザ ボース。