見出し画像

多摩湖に行ってきた

 ものすごくアクティブな4日間をすごした。おれ、元気だ。

3月11日(土) いつものように4:00に起きて、スーパーマーケットの早朝バイト。バイトを終えたの1時間後には、お嫁さんと中野のグッドモーニングカフェでモーニングを食べていた。パン食べ放題コーヒーおかわりし放題。ここのモーニングはオムレツが実においしい。この日も美味しかった。12:00近くまで粘って退散。中野通りのアメリカ家庭料理風ケーキ屋さんに寄って、キャロットケーキを買って帰る。お嫁さんがずっと気になっていたお店だ。

Kyle's Good Findsというお店

 13:00自宅着。俺は16:00まで仮眠。17:30から芝居の練習があるのだ。キャロットケーキを食べてから、経堂へ向かう。自宅から経堂までは自転車で50分。着いたら阿部くんがいた。

演出の阿部くん(右)

 経堂の公民館で、芝居の稽古。初顔合わせ。配役決めを念頭に本読みをする。俺は無事、事前に打診されていた役を降ろされずに済む。先行して覚えた台詞が無駄にならずによかった。
 稽古を終えて経堂から池袋に向かう。カラオケバイトがある。70分自転車を漕ぐ。22:00~30:00、カラオケバイト。7:00に家に着いて、昨日のWBCの見逃し配信とビールを聞し召してから9:00まで仮眠。もっと寝たいところだけど10:00に国立競技場に用事があるのだ。起きられるのか? 案に相違して30分で目が覚めてしまう。案外頭がハッキリしている。WBCをもうちょっと見る。ビールは飲み切ったのでワインを飲む。

3月12日(日) 9:15に自宅発。お嫁さんが先行して席取りしている国立競技場へ。お嫁さんが推し活している将棋の木村九段が、国立競技場を走るののだ。Number主催の市民駅伝。その観戦のおつきあい。すごい急いで自転車を走らせて、10:00の号砲にギリギリ間に合う。

国立競技場は満席、に見える椅子マジック

 俺は国立競技場の中に入ってみたかっただけで、駅伝への興味はそれ程でもない。スタートに間に合わせる必要はなかった。それでも、ギリ間に合いそうなら頑張ってしまうのが人情。汗かいちゃった。
 お嫁さんが木村九段の他、将棋棋士の走る姿に声援を送る横で、俺は脚本を読みつつ観戦しつつ。棋士から離れたところでは、市民駅伝とは言うものの、速い人はものすごく速いものだと感心した。ぐん、ぐん、ぐん、と前に進む。俺にはオリンピックの人ぐらいに見えた。オリンピックはもっとすごいというのは、たいへんなものだ。オリンピックを生で見ることは大変だが日本選手権ぐらいなら、カジュアルに入れそう。見てみたい。それにしても、あくびが止まらぬ。13:00閉会。国立競技場を出る。代々木の吉そばに寄って自宅に14:00着。吉そばは、うまかった。汁が甘いのがよい。寝たほうがいいのは分かっているが子守歌代わりに昨日放送されたAbema女流トーナメントを見ることにする。環那ちゃんおもしろい。盤を睨む顔が変顔で鳴らす佐藤伸七段のよう。眠くないことはないが案外頑張れて、いい加減寝ないとマズいというところまで見てしまう。17:00~19:00仮眠。19:00自宅発。20:00池袋着。カラオケバイトを30:00まで。これはいつもより2時間早い早出出勤。早出した分、途中で飽きた。翌7:00に帰宅。Abema女流トーナメントの残りを見る。ビールも飲む。チーム西山が負けるとは。俺は優勝の本命と目していたのだが。

3月13日(月) さて、この日はお嫁さんと自転車旅行を予定していた日だった。しかしあいにくの雨の予報に、宿はキャンセル済み。我々夫婦にはわざわざ有給を取ったお休みだけが残されていたのだった。明け方は降っていなかった。でもそこから数時間経ち、今現在は、確かに予報通りに雨は降っている。一方で予報は15時に止むとも言っている。明日の予報は晴れなんだよ!とお嫁さんが言う。宿をキャンセルした時には両日雨の予報だった。晴れるんだったら、止んでから出発すればいいじゃんと俺が言う。そうしようそうしよう。…俺は、お嫁さんの目を盗んでUBERのアプリを開いてみる。雨の日クエストが付いているじゃないか。旅行の前に出撃するか?いや、やめとけ。ビールを飲み終わり10:00就寝。14:00起床。雨は止んでいる。宿を取り直して出撃だ。旅の行先は多摩湖。湖畔を自転車で走るのって素敵じゃない?というお嫁さんの発案による。ひたすら新青梅街道を西進すればだいたい多摩湖に着くようだ。15:00自宅発。途中どこかで道草するのも楽しいかもね。

道草した

 一時間ほど走って、角上魚類小平店に道草する。そこ道草するとこ? 旅の道草は名勝景勝を訪れ、休憩にお茶するぐらいが相場としたもの。鮮魚チェーンはなかなか候補に入らない。でも角上水産はね、すばらしい鮮魚店なんだよ!名勝景勝に入れてよい。品がいい。そして盛りもいい。自宅から一番近いお店が赤羽店というのが返す返すも残念だ。角上海幸漬けと、海鮮太巻きと、マグロのすじを購入して出発。少し進んでコンビニで醤油と鬼ころしを購入。ビニール袋にマグロのすじ肉を入れ替え醤油を投入。ヅケにする。醤油の防腐効果に期待してのこと。海鮮太巻きの方はこれからどこかいい塩梅のところで食べる予定だが、すじ肉は今すぐ食べるものではない。コンビニから15分ほど走ったところ、東村山中央公園脇の歩行者道路にのベンチを発見。腰を下ろし海鮮太巻きを食べた。美味しいはずなんだけど、舌から入って来る情報はふつう。困惑し、しかし思い切って、ふつうとお嫁さんに言うと、言っていることは分かると言われた。でもまあ美味しいは美味しい。我々が座るベンチと東村山中央公園を隔てる西武線の線路に電車がのんびりと走る。鬼殺しも合わせて飲む。西武線の電車なんて珍しくもない。それでも走ってこないかなあと言っていたところに、やって来たのはよかった。旅情を感じる。

 多摩湖が見えた時には声があがった。おお。感動には届かない静かな感興。ただ向こうから俺を感動させようとしてこないところに、品がある。自然との直接取引。視界の下半分を占める湖水は夕焼けを映し揺れる。それを額縁する湖畔の木々。その向こう、額縁からはみ出したように姿を見せるベルーナドーム。あらかじめそこにあると知っていなければ、妙につるんとしたSF的な影だ。宇宙船と見まがうことだろう。

俺の記憶とはやや異なる記録写真

 多摩湖は人工の貯水池。東京の水瓶だそうで4日分の水量を誇る。いや4日でこれ使い切っちゃうのかよ東京。節水しろ東京。
 俺たちは右手に狭山公園、左手に多摩湖を望む遊歩道に自転車を走らせる。遊歩道はダムの上部に当たる。ここを過ぎれば宿までもう少しだ。

 ホテルに到着。ホテル観音閣。ロビーに外崎選手と高橋選手のサイン入りユニフォームが飾られている。角上海幸漬けとマグロのすじ肉を冷蔵庫に入れて温泉にGO。の、前に、晩飯をどこで食べるかあたりをつける。喜多郎というお寿司屋さんがよいのでは、となる。お寿司屋さんなんだけどグラタンとかラーメンとかある。おもしろい。星もいい点がついている。
 ホテルを出ると外は真っ暗。何かが違う。そうか、街灯がないんだ。雲を通した月明りが頼り。いや、頼りにはならんな。お嫁さんがグーグルさんをホルダーに設置して先導する。俺のスマホは電池切れ。墓地の細い道を自転車を引いて上がる。お嫁さんが怖い怖いを連呼する。がんばれ。しかし道はすぐに行き止まる。まあ、ここはどうにも境内の中の道だからね。それは行き止まるさ。いや、おかしいんだよ。グーグルマップ。この先に道あるっていうんだよ。まあ、グーグルさんはそうしたこともあるよ。UBERでグーグルさんと付き合いの深い俺にはよくわかる。気をとりなおして別ルートをさぐる。お墓から離れ、ちゃんとした道に出る。所沢武蔵村山立川線。しかしその道にも街灯はない。森を切り開いた森林道。車通りが多い。ビュンビュンと言っていい。お墓とはまた別のリアルな怖さを感じる。お嫁さんがまたしても怖い怖いを連呼して先導する。俺は何もしてあげられない。出来ることと言ったら、変な遊歩道に迷い込んだときに彼女を責めないことぐらい。迷い込みました。おかしいんだよ地図がそう行けっていうんだもんとお嫁さん。そうだね。20分ぐらい走っただろうか、お目当ての温泉、かたくりの湯に着いた。

 入浴料は800円。お安い。村山市内の方ですか?と聞かれたので、市内の人ならもっと安いのだろう。400円? 3月いっぱいで閉館とのこと。うむ、空いている。これでは閉館するのも納得だ。しかし温泉を利用するものにとって、空いているのは何よりのごちそう。館内も閉館するとは思えない綺麗な作り。ミストサウナの温度がちょうどよい。水着エリアは、思っていたよりもプール寄り。混浴可の温泉スペースと思って水着を持ってきた我々夫婦にとっては肩透かし。泳ぐ気はないので10分ほどで男湯女湯にもどった。とはいえ、俺に水泳キャップレンタルの案内をしてくれた、親切なおじさんの話をしなければならない。キャップが必要と知った俺がプール事務所を覗いて、すいませーんと言うと、ジャグジーに当たってとろけていたおじさんが、監視台のお姉さんに声をかけて、便宜を図ってくれた。その時は馴染みの常連客なんだろうなと思った。しかし、その後、彼は黄色のTシャツを着てメガホンを持ってプールサイドを巡回しだした。おまえ監視員だったのかよ。素敵な仕事があったもんだ。
 かたくりの湯には、特に、お嫁さんがご満悦。「空いてた!露天に私一人だった!」と感動を俺に語る。温泉に行っても男湯はおおむね空いている。入りたいお風呂にはすぐに入れる。女湯はいつも混んでいる。入りたいお風呂は順番待ち。そういうものらしい。女同士の温泉旅行はあるだろうが、男同士の温泉旅行はあまりなさそう。そういうことなんだろう。

 かたくりの湯を出て、自転車を走らせること10分。味処喜多郎に着く。事前にチェックしたお寿司屋さん。入ってみると、宴会もできるような広い店内に、常連さんが一人。むむ。…店のチョイスを間違えたか?と不安がよぎる。温泉は空いているのが最大のごちそうだが、飲食はごちそうが、最大のごちそうだ。空いているのは不味い証とまでは言わないが、サインとしては有力に思える。不安は杞憂に終わる。このお店おいしかった。最後の最後に注文した鶏の唐揚げは普通だったけど、他は全部おいしーだった。俺は酒飲みだから貝の刺身の盛り合わせが良かった。味が濃いから一切れ食べての一口ぐびりが成立する。盛りもよく、最初に注文したこの貝盛りだが、宴の最後まで楽しめた。品もいいんだろうけど、あんまり洗わなかったんだろうと思う。俺は密かに自分がオオゼキから買って調理した北寄貝が一番おいしいと思っている。リスクを取ってあんまり丁寧に洗わない分味が濃い。お嫁さんはシーフードグラタンがよかった!と言った。酒飲みじゃないからな。でも、わかる。あれもうまかった。冷凍のシーフードミックスじゃない新鮮なシーフードを使うと、グラタンもこうなるのか!チーズもたっぷり。味が濃い。でもエビとか貝とか海の素材の味もちゃんとするする。お酒もね、安かった。お店おススメの日本酒の一合が500円。一般的な居酒屋なら700~900円は取るイメージ。味も俺の好きな甘い日本酒だった。熱燗は300円。ビールも生500円だったような。いいですよ。他、注文したものを列挙する。天ぷら盛り合わせ。春の野草がうまかったな。タラの芽とかふきのとうとか。ちょっと苦い奴。特上寿司。そりゃ美味しいさ。海鮮サラダ。ここは海鮮じゃなくてもよかった。他が海鮮だからさ。鯛出汁ラーメン。出汁に自信があるから具はアサツキがちらと乗っているだけ。でもそれでいい。うまかった。お嫁さんは高校の学食の味と言った。高校の学食では、うどんだしに中華麺を入れてコショウを振るとラーメン。うどん玉を入れて七味を振るとうどん、だったのこと。竹の子の煮物。しみじみとうまい。で、鶏のからあげ。これは普通だった。あと1品ぐらい食べたような気もするけど、忘れた。
 時折、おいしーと声を出しながら、延々と食べ続ける俺たちに、おやじさんもえびす顔。22:00に店を出る。ごちそうさまでした。おいしかったです。魚の仕入れ先はきっと角上魚類だな。

兵どもが…。最後には残さず全部さらいましたよ

 宿への帰り道ににコンビニに寄ってビールと菊水ふなぐちとポテチとおにぎりを買う。まだ腹に入る。角上海幸漬けを食わなければならない。宿に戻ってまずはビールでポテチ。そしてスマホでWBCの記事。おいしー。ジャンクにはジャンクならではの味わいがある。ふなぐちの栓をあけ角上海幸漬けにも手を伸ばす。うほ、これはおいしー!んだけど、お寿司屋の後なので、これを平らげるのは今じゃないなと感じる。次の機会を待って、ふなぐちと共に残しておく。ポテチのビッグパックがなかなかなくならない。150g入ってる。3袋分弱だ。それはなくならないわ。そのうち眠気がきて、11:00就寝。

3月14日(火) 6時起床。このタイミングしかない!と食べ残した角上海幸漬けと菊水ふなぐち、梅おにぎりを食べる。うまし。ポテチの残りもさらう。角上海幸漬けは、松前漬けの上にイクラとウニが乗っていて、貝柱も混ざってる味の宝石箱で、この上ない。
 ホテル観音閣を出て、山口観音を参拝する。昨日迷ったお墓のお寺だ。夜の墓地は怖かった。それが今、陽の下にあると実に、ポップさすら感じさせる現役のお寺さんだった。「こんなんだったんだー」 赤や緑のビビッドな色彩が境内を彩る。竜が飛んでいる。五重塔もある。洞窟もある。本堂の周りには108個の回転式の鐘がしつらえてあって、それらを1回、回すだけで1回お経を詠んだ効果があるそうだ。そうそう、洞窟だって入れば、四国をお遍路したのと同じ効果があるとうたっていた。やる気勢だ。お賽銭は財布から小銭をひとつかみ投げた。500円玉はよけた。お願いは、相応に謙虚なものにした。

 昨日走ったのは多摩湖のダムの上。今朝は狭山湖のダムの上を走ってみる。朝のお散歩。うむ。だいたい同じ。昨日の夜から気温の低さを感じる。寒い。一通り遊歩道のプレートを読む。うんちが出る出ないの話をする。食べ歩きをするにはまず、うんちをしてお腹にスペースを空けてからが常道。30分ほどで退散。ホテルに一旦戻って、俺のスマホを拾う。と同時に俺はうんち。お嫁さんにうらやましがられる。およめさんは昨日も出ていないらしい。スマホは朝起きた時に何でかうまく充電できていなかった。今度はちゃんと充電できていた。ここで、チェックアウト。
 高倉街珈琲武蔵村山店を目指す。昨日、舌鼓を打った喜多郎より東に2キロほどのところにある。共に新青梅街道沿い。昨晩とは道を変えて多摩湖を南北につっきる道を選ぶ。絶景を期待するが湖の西半分が枯れている。東京、節水しろ。
 高倉町珈琲で俺は名物のパンケーキ、お嫁さんはアボカドのピザトーストを注文する。まずまず。作戦会議をする。今日一日をどう遊ぼう。当初は湖の周りのサイクリングロードを走ることをイメージしていたが、そんなものはなかった。多摩湖、狭山湖の両ダムの上は大変展望の開けた見事な遊歩道ではあったが、そこから外れた湖の周囲の道は、車通り多く、林の中をぬった道であり、景観の優れた道ではなかった。
 お嫁さんが横田基地があるよ!と言う。アメリカンな何かがありそう。ジャズとかチョコレートとか。ちなみにお嫁さんのお母さんがその近くの生まれ。頼りのグーグルさんには基地内の飲食のレビューがあり、特にサムライダインイグファシリティのレビューが面白かった。「…フライドチキンのような料理でも、ほとんどの場合、肉は乾いています。誰かがフライドチキンをどのように乾燥させますか.つまり、この施設で食事をするということは、フルーツとサラダを食べてお腹がいっぱいになるということです…<抜粋>」 不味いらしい。俺らも入れるのかな?これ基地内だよね?でもグーグルのレビューがあるってことはさ…。行ってみよう。

 北東側から横田基地に張り付いて自転車を走らせた我々に見えたのは、何もない草地だった。

ほんと、なんもない

 ところどころ舗装している箇所もある。「滑走路ってことでいいのかな」 滑走路以外の使い道はないように見える。飛行機の影はない。うーんどうなんだろうと煮え切れない気持ちで自転車を漕ぐ。これが、横田基地でいいんだよね? 自転車が基地の北端に達して南下が始まると国道16号に入る。ほどなくすると基地との境界が金網からブロック塀に代わる。これでは中が何も伺えない。横田基地が消えた。我々がここに自転車を走らせる意義は? 果たして次の展開はあるのか? 小さな変化にも喜びを感じる心構えで自転車を漕ぎつづけると、ブロック塀とは反対の街側の景色がアメリカを感じさせるものとなってきた。飲食、雑貨屋、ヤシの木も生えている。お嫁さんによると、国道16号というのはアメリカで有名な国道とのこと。それにも掛けているのではないか?とのこと。今調べたら有名なのはルート66でルート16ではない。おしかった。旅先でのアメリカとの遭遇に喜び我々はそのアメリカ中の一つのアイスクリーム店に入る。屋号はブルーシール。お嫁さんがかねてより入りたかったアイスクリームチェーン。占領下の沖縄基地発祥だそうだ。うまかった。

フロリダチョコ何たら味と、紫芋なんたら味
お嫁さん。WEBに上げるなと言われているが、万一先立たれた時の為に。

 横田基地のゲートが現れる。出入りする車両を眺めて、おー外人さんが運転してるでー。ブロンドの女性がサングラスをかけて運転する姿が特にキマっていた。基地の中には入れそうもない。

スパイじゃないよ、観光だよ

 俺にはミッキー吉野がアメリカ兵相手にピアノを弾いてたとかうろ覚えの記憶がある。ミッキー吉野は基地内でピアノを弾いたに違いない。矢野顕子も弾いたかも。あれ、そういえば俺はピアノが弾けない。一般入場500円みたいなチケット売り場があればと思っていたのだが、それもないか。軍だもんね。機密だよね。一番一般人が入っちゃいけない場所だよ。一方、お嫁さんは納得いかないらしく、立ち入り禁止の場所の店にグーグルのレビューいらねーよと言った。まあ、不味いと評判の店に入らずに済んだので、よしとしよう。

 横田基地はこれでおしまい。お次は立川のソラノホテルを目指す。将棋が好きな我々夫婦にとってソラノホテルはパワースポット。数多くのタイトルマッチが開催されている。名物の屋上のプールに入ってみたい。調べたところホテルのレストランのランチが2900円で食べられるそうな。今、お腹は空いていないが着いたころには空いているかもしれない。ここまでお嫁さんの後ろについて走っていた俺だが、ここからは俺が先導して走る。立川まで10キロほど。走るのにグーグルマップを開いて、びっくり。立川と多摩湖は東西でいうと同じ位置にある。南北でいうと多摩湖が北、立川が南、自分ちはその真ん中。俺的には立川に着けばだいぶ自分ちに近づくものと思っていたが、全然だ。へー。出発。青梅線のすぐ南の道を東進する。

 立川の駅前に広がる昭和記念公園。ソラノホテルは公園と通りを挟んだ向かいにあった。自転車は昭和記念公園に止めた。この公園も巡ってみたいが、なにせ広い。園内のサイクリングコースの総延長が14キロとか言っている。まずはソラノホテルからだ。お嫁さんはトイレでうんちチャレンジ。出なかった。へーあれがソラノホテルねー。四角いね。ビルに対して四角いねと言うのはディスりが入った感想。まあ、ふつうということだ。屋上に肌色の影が見える。プールを利用する宿泊客の背中だろう。ほほう、あそこがプールとね。通りを渡る。自転車レンタルみたいなノリで電動キックボードがレンタルされているのを発見。俺が乗ってみようと提案するも、免許が必要とのこと。免許がいらなくなるのは7月からだって。んー、残念。少しホッとする。躊躇のない挑戦は蛮勇なので、躊躇は恥ずかしいだけものではない。
 屋外に設置されたエスカレーターに乗ってソラノホテルの敷地に潜入。地上2階の高さに緑ゆたかな中庭が現れる。ショップが立ち並ぶ。ニューヨークパリミラノのイメージ。あいたたた。これは綺麗な身なりをした人たちが集うオシャレ空間だ。俺たちはとんだ闖入者。しかしくじけずに数ある入り口の中で、最も敷居の高いソラノホテル本体に入る。安くて一泊5万円とか。食事なしの素泊まりでだよ? こんちわー。おどおどしながらフロント階をぐるりと回る。ホテルマンの視線が気になる。白を基調とした清潔空間。ランチ2900円のお目当てだったレストランを発見。ちらと覗いたところ盛況だ。ランチの時間にはギリギリ間に合う。入れば食べられる。でも、まだそんなにお腹空いてないし、うんち出てないし。無理して入ることないかと言って、ホテルを退散。そう、躊躇したのだった。実のところ、俺は小腹が空いていた。俺が入ると言えば、お嫁さんもよっしゃ行くかとなったことだろう。
 ショップの何軒かにも入る。そのうちの一軒、紙のお店の一角に、井上雄彦のバッジ屋というのがあった。画伯のイラストが描かれているバッジを組み合わせて君オリジナルの表現を作ろうというもの。ビジネスパースンだよ。映画も盛況だったということで、氏の充実ぶりに圧倒される。
 花屋さんに入ったら雑貨も売っているお店だった。お店の色味は茶色のわびさび系で、錆びたネジに10円の値を付けて売っている。感銘を受ける。おしゃれに並べれば、何だって商品なんだと知る。誰か俺をオシャレに並べてくれ。
 中庭のいっそう奥まったところに、黒い大階段がある。青空の下に黒が映える。建物にして五階はあろうかという大階段。そして、その階段の左半分は水が流れ落ちる水路となっている。最上段から流れている。意匠だ。作為あふれる。凝らされいてる。この意匠を、最上段まで追ってみようじゃないか、ということに当然なる。夏にはこの水路に子供が遊ぶんだろうね。水路の中にはベンチもある。最上段まであがると、そこは昭和記念公園が一望できるテラスだった。一角にショップがある。カフェとしたものだろう。ああ、階段の下に看板が出ていたバーか。夜景にカンパイしてカクテルを傾けるのはいかがという作戦だ。ランチ営業している。今度は意を決して入ってみる。うろうろしている間にお嫁さんが、お腹空いたねと言ったのを聞いてしまっていたのだ。今度は逃げない。俺はオムライス、お嫁さんはクロムッシュを注文する。

クロムッシュとレモネード

どちらの品にも前菜や何やがついてくる、ごちそうメニュー。うまかった。ビールも飲んだ。カクテルも頼んじゃった。お店のオリジナルカクテル、ドラゴンフライ。シェーカーを振ってもらった。1400円した。旅だしね。三角のカクテルグラスに赤い液体。つまようじにチェリーが刺さったのが沈んでいる。カクテルを舐めながら立川ビューを愛でる。ヘリコプターがすごく行き来する。近くに立川駐屯地があるらしい。ドラゴンフライは英語でトンボのこと。ソラノホテルを建てた立飛ホールディングスは、元々は戦闘機を作っていた会社。その戦闘機の通称が赤とんぼ。立飛ホールディングスの会長が自ら買い付けたというピアノ、ドラゴンフライも店内に鎮座する。18台限定で作られた超高級ピアノとか。店員さんとおしゃべりして、そんなこんなの情報を仕入れたのも旅ならでは。ソラノホテルのレストランでランチを食った方が安かったな、と思うも、今度は夜にあのピアノが鳴っている時に夜景を楽しみたいなとも思った。再見。

 バーを出たのが15時すぎだったか。昭和記念公園は軽く触れたぐらいで、立川を発ち、家に向かう。暗くなる前に家に着く。おうちが一番。まずはマグロのすじ肉のヅケを冷蔵庫に入れる。その前に少し食べてみる。うん、大丈夫。帰りの途中、小平霊園の中を突っ切った時、鳴らしたつもりのない自転車のベルがチンと鳴ったのには、ドキっとした。ただそれから、同じようにベルが鳴ったことがあって、ああ、あれは袖がレバーにひっかかって鳴ったんだと分かり一安心。

  


 


この文章で上がった収益は、全てボス村松の演劇活動と植毛に充てられます。砂漠に水を。セイブ ザ ボース。