ワークショップ第21回『これまでの、線型代数輪読会は!』【数学部】[20220131-0213]

こんにちは。数学部部長のHirotoです。

私の不手際でワークショップのログの公開が遅れてしまいました。大変申し訳ございません。

さて、今回のワークショップは「線型代数輪読会」についてです。実はジェイラボの数学部では、内的な活動として「線型代数入門/斎藤正彦」の輪読会をコツコツと行なっていました。その記録がアウトプットできる段階まで溜まったため、今回ワークショップの中で扱うことになりました。数学がよくわからない人でも楽しめるような工夫を施したつもりですので、ぜひ読んでいただけると嬉しいです。

ログ

Hiroto
こんばんは!数学部WSの時間です。今回は「これまでの、線型代数輪読会は!」と題しまして、今までの僕らの輪読の様子をみなさんとシェアして振り返ろうと思います。
「興味がない!」と言うのは少し待ってください笑。毎日各一回ごとの要約をさせていただきますが、その際に、「数学的要約」と「メタ的・思想的・認知科学的要約」とに分けて要約をさせていただきます。毎回言っているような気がしますが、数学自体に興味がそそられない方は、数学的でない部分に着目していただいて、もう少しメタな視座から僕らの活動を見ていただけると、とても嬉しいです。それでは2週間、よろしくお願いします!
(僕らが輪読しているのは、「線型代数入門/斎藤正彦」という書籍で、具体的な箇所はできる限り飛ばし、抽象的な理論のみを追っています。)
Hiroto
第一回「行列ってなんなんだろうか」
発表者:Hiroto
数学的要約:
「行列」を複素成分で定義し、代数的な演算をその中に繰り込んで、諸操作とともに性質を概観した。とくに正方行列には特有の操作が定義できるため、丁寧に扱った。具体的な目次は資料の最終ページにある。
メタ的要約:
「行列」は情報の分野などでも広く用いられ、「1次の関係(直線的関係)(比例的関係)」を記述するのに非常に便利な道具です。応用上は演算の定義などがわかっていれば良いことが多い(あとはその都度つまみ食いしていけば大体事足りそう)のですが、そこをできる限り厳密に、そして体系的に議論しようというのが、この輪読の最初の方の目的でした。のちに「線型空間」という抽象論に飛翔する際にどちらにせよ厳密さは必要で、その際に行列の議論も不可欠になるため、厳密化の動機は十分足りています。もっとも、線型空間の議論がなぜ必要かと問われると一口には難しいのですが、、笑。もっと数学の内容以前の話をすると、この輪読の構成のように、「定義→定理(→例)→定義→...」という形式は数学に慣れていないと面を食らうかもしれません。大抵の数学書はこの一見無味乾燥なサイクルで書かれています。この形式では議論の骨格が明確でわかりやすいことが、数学をやる上ではメリットとして大きいと個人的に思っています。このサイクルからいかにして著者の「思惑」を読み取るか。それは勉強を進めた先に振り返って見えるものだと思います。
イヤープラグさざなみ
第二回「性質を保ちつつ形を簡単にする」
発表者: イヤープラグさざなみ
数学的内容: 行列の基本変形と行列の階数を扱う。基本変形は①行の交換、②行の定数倍、③ある行の定数倍を別の行に加える の3つがあり、(実際には列ヴァージョンもあるので6つある)これらの基本変形を行列に施すことは、行列にある正則行列をかけることに相当する。ある行列に基本変形を繰り返し施す(掃出し法)ことで、行列は階数標準形に変形される。階数標準形において1が並ぶ個数は基本変形の仕方によらず、行列に固有であることから、その個数をその行列の階数と定義できる。行列の基本変形は、この直後の内容である連立一次方程式の解法に利用される。
メタ的内容: 基本変形は「行列の性質を保ちつつ形を簡単にする」ための変形です。形が変わっても行列の性質が保たれるのは、正則行列をかけるという可逆な操作を行なっているからです。階数を定義する際に用いたような証明方法、すなわち、「一通りであることを示すために、一旦二通りあったと仮定して、結局それらは一致することを示す」方法は今後もよく出てきます。

Hiroto
条件を満たすものが、、
・「一つ以上あること」を示すのが「存在性」の証明
・「二つ以上ないこと」を示すのが「一意性」の証明
です。
一意性の一番ポピュラーな証明法は、「二通りで置いて、一致することを示す」方法です。この場合は、その前に存在性を示してしまうことが多いです(存在性と一意性の証明が独立しているためどちらでもよい)。
一意性にはもう一つ少し毛色が違った示し方があります。その話はまた今度しかるべき時に、、。 
Hiroto
第三回「全ての一次方程式、完璧に解いてみた/数ベクトルの内積と行列の連関」
発表者:yuuma
数学的要約:
第二回の「階数」や「基本変形」の内容をダイレクトに用いて連立一次方程式の解法を分析した。解があるのかないのか。あるとしたらどのような表示になるのか。できる限り一般的に議論をした。
複素数ベクトルの内積に関しても改めて定義した。内積について成り立つ性質や、内積を考えることで有用な行列操作を考え、特別な行列(エルミート、ユニタリ行列)を導入して性質を確かめた。
メタ的要約:
行列の階数などを考える一つの動機として、「連立一次方程式を完璧に解く」といった少々具体的な内容を議論しました。具体的とは言うものの、かなり一般性の高い議論で、式の個数も文字の個数も任意の有限個数だった場合、どのように解が表示されるのかを完璧に決定しました。前も言及した通り行列とは一次(linear)の情報を扱うのに適しており、その一端が垣間見れるセクションとなっています。
「内積」に関してはもしかするとピンとこないかもしれません。高校数学では「ベクトル(図形の一分野)」の単元で登場し、矢印と矢印の間の演算という形で内積は定義がなされます。しかし、今回はそういった図形的側面を排除して、徹底的に代数的(計算メイン)な側面のみを厳密に定義し直しました。図形的な話は少々込み入った議論(そもそも角度って何?のような)が必要となるため、内積の話に限らず、理論的には後回し(もしくは厳密性を捨てて導入)にされることが多いです。
余すことなく行列と内積(今までの登場人物)の連関も確認し、第1章(の輪読)は幕を閉じることとなります。
ていりふびに
第四回「あみだくじの数学」
発表者:ていりふびに
数学的要約:
ここからは第三章「行列式」に入ります。行列式の定義には「置換」の概念が不可欠です。そこで、第四回では置換の定義及び基本的な定理を証明しました。
特に重要な定理は「任意の置換は互換の積として表される」、「置換が互換の積で表される時、積の個数の偶奇は表現に依存しない」です。前者は直観的に明らかですが、示すのは意外と難しかったです。キーワードは「有限集合」と「全単射」になります。後者は有名な定理で差積を使った証明がいっ一般的です。本質的には互換を作用させたときに符号が入れ替わればいいのでn次交代式であれば示すことができます。
メタ的要約:
今回の内容は皆さんにもなじみがある「あみだくじ」の原理となっています。置換とは要するに(1,2,….,n)のそれぞれ数に(1,2,…,n)の数を被らないように対応させていくことです。これは(Aさん、Bさん、Cさん)をそれぞれ(グループ1、グループ2、グループ3)にあみだくじで振り分けるのと同じです!(この場合n = 3)
数学的概要で述べた「置換が互換の積で表される時、積の個数の偶奇は表現に依存しない」という定理はあみだくじの言葉でいうと「同じ結果になるあみだくじは何通りもあるが横線の数の偶奇は同じ」となります。あみだくじの経験は皆さんあると思いますが、このことを意識していなかったのではないでしょうか。この結果を知っていても、特定の場所を狙えるわけではありませんが豆知識くらいにはなりますかねw
Hiroto
第五回「行列式を定義してみたら、まさかの結果に!?」
発表者:hiroto
数学的要約:
各行列に対し特有の複素数を対応させるような規則として、行列式を定義した。この定義には第四回の「置換の符号(あみだくじのはなし)」が用いられる。
行列式は多重線形性、交代性など多様な性質をもつが、逆にこれらの性質をもつ規則は行列式の定数倍しかない(⭐︎)ことがわかる。そしてこの性質から、積の行列式が行列式の積であることが導ける。
後半でもう一つ、階数の行列式による特徴づけを扱い、第5回の輪読会は終了した。
メタ的要約:
行列式というものを考える理由も、「それなりに有用な量であるから」という他ありません。特に有用な性質として、「積の行列式が行列式の積になる」ことが挙げられます。今回はこの証明のために、より強い性質である(⭐︎)を先に示しました。別に(⭐︎)は目的のためには必須ではなく、単純計算で行列式の積について議論することは可能です。しかし、(⭐︎)のような強い抽象的な性質を示しておくことで、まるで鶏を割くに牛刀を用いるかのように、スパッと目的が達成することができるのです。これが抽象化、一般化の強みとも言えます(⭐︎を示す過程で面倒な計算はやはり必要なのですが)。
後半で特筆すべきは、「階数の行列式による特徴づけ」です。この性質によって、実は階数の定義ははじめの定義にこだわる必要がないこともわかります。行列式の方から階数を定義したところで議論が入れ替わる(定義と定理が入れ替わる)だけで本質は変わりません。常々言っていますが、どちらの同値な定義も頭の中に平等に存在させることが、演習問題を解く際などに重要です(ひらめきが浮かびやすくなる)。あまり例は良くないかもしれませんが、「内積」と言われたときに「成分の積の和」と「長さ×長さ×なす角の余弦」が同時に頭の中にイメージできると、ひらめきの幅はぐんと広がると思います。そんな感じのニュアンスです。
Naoki
行列式の定義(sgnσのやつ)は初めに線形代数で習った時はナニソレって感じで面食らってしまいましたが(その上実際に行列式を計算するとき定義から計算することはほとんどないですし)、案外行列式の定義をそのまま使うこともあって、例えば量子力学の同種粒子のところで習うフェルミオンの波動関数は2つの粒子の入れ替えに関して反対称でありその波動関数を記述するのに行列式の定義を使います(スレーター行列式)。また、Lie代数をやってるとちょいちょい出てくる公式「det(1+ε)=1+tr(ε)+Ο(ε^2)」は行列式の「定義」から明らかです。
これらの他に行列式の「定義」をそのまま使うような例はあったりしますか?

Hiroto
質問ありがとうございます!物理学での例は知らないことがたくさんあるので,とても勉強になります!
定義をそのまま使う例と言うと,それこそ第五回の最初の方の定理は,定義しか拠り所がないため,定義をそのまま適用する例と言えます.しかし,理論が整備されていくにつれ,定義をそのまま適用する場面は少なくなっていくと思います.第六回の内容も定義をそのまま適用しているわけではなく,第五回で示された事実をベースに使っています.具体的な計算においても,Naokiさんのおっしゃる通り余因子展開などを使うため定義を使うことはまあ少ないです.
もし見つけたら,追って共有させていただきます!
Hiroto
第六回「余因子展開をただの計算工夫だなんて言わせない」
発表者:hiroto
数学的要約:
行列式は,各列(各行)に着目して多重線型性を用いることで,「展開」をすることができる.この展開時の各係数を「余因子」と定義した.
余因子の言葉を用いることで,「正則条件」や「正則であるときの逆行列の具体的表示」が“理論的“に定式化できる.またその応用として,係数行列が正則であるときの連立一次方程式の解も,“理論的“に表示できることを確認した.(資料には2元1次方程式の例あり.)メタ的要約:
多重線型性を用いて余因子展開をすること自体は,実は前回の知識を用いているだけで,ただの計算工夫でしかありません.もしかしたら教養の線型代数の講義などではここまでしか習わない人も多いのではないでしょうか.しかし,余因子という概念を理論的にこねくり回すことで,「正則条件」や「逆行列」が“理論的“に簡潔に表示できるようになります.今まで正則条件を確かめるには「階数標準形」の議論を使う必要があり,基本変形という計算法で確かめる必要がありました.基本変形には幾多もの道筋が考えられ,理論的というよりも,工学的(計算法として優れている)という印象が強いです.【比較】
・階数の議論→計算法として簡単で手数も少ないが,基本変形の方法は一意ではないし,理論的な簡潔さには欠ける.具体的に正則かどうかを確かめたり,逆行列を求めたりするときに重宝される.
・行列式(余因子)の議論→計算は煩雑になるが,諸々の性質が行列式という量で理論的に簡潔に表示できる.具体的計算には向かないが,証明の中で正則性を利用する際,行列式の言葉で証明を展開できる強みがある.(成分が文字で表された一般の行列を,基本変形して階数標準形に持ち込むことはかなわない.)どちらが良いというわけではなく,それぞれの強みと個性とを理解することが重要だと思います.なかなか初学の段階でそこまで意識するのは困難ではあるのですが.
イヤープラグさざなみ
第七回「行列から線型空間へ 〜集合と写像〜」
発表者: イヤープラグさざなみ
数学的内容: これまでの行列の話とは打って変わって、集合に関する内容である。集合の相当や包含関係、写像の定義などをおさらいする。集合の相当や包含関係の定義は、それ自体が集合の相当や包含関係に関わる証明方法を与える。集合の表記に関してもここで確認しておきたい。
メタ的内容: 今まで行列の話をしていたのに、なぜいきなり集合や写像の話が出てくるのか、と戸惑うかもしれません。私も最初はそうでした。集合論のおさらいは、直後の内容である線型空間を学ぶための準備なのです。線型空間で登場する線型写像が、行列そのものだったということが後になってわかります。一見内容的分断に見えても実は根底ではつながっています。これまで学んできた行列の諸性質は、線型空間を学ぶための伏線だったのです。全てを学び終えた後に全体を俯瞰することで、初学のときには気づけなかったあらゆるつながりを感じることができるでしょう。一周目ではよく分からなかった内容が、二周目になって急に頭に入ってくるという経験は誰しもがしたことがあるでしょう。全体像を一度把握すると、各々の部品が全体の中でどのような位置を占めるのかを知ることができます。勘所がどこなのかを押さえられるということです。勘所を押さえた後では、同じ文章を読んでもそこから読み取れるものが違ってきます。文字面には表れない「濃淡」を意識できるようになるからです。数学を学ぶことが難しいのはただ抽象的な理論が難しいからだけではなく、初学の時点で部分と全体を往復し、また内容に濃淡をつけることが難しいからではないかと思います。しかし一度見晴らしのいい場所まで出て後ろを振り返れば、そこに今までは見えていなかった有機的なつながりが現れ、自分の理解を強固なものにするはずです。
Hiroto
第八回「ベクトルは矢印?数を並べたもの?それだけじゃねぇ!!」
発表者:yuuma
数学的要約:
抽象的な「ベクトル空間」の公理を羅列し、その具体例を挙げて確認した。
メタ的要約:
平面上の矢印、数を並べたもの、それらを高校では「ベクトル」として学習します。ここでは、それらに共通する「性質」を抜き出して、逆にそれらの性質(公理といいます)をもつものをまとめて「ベクトル」と呼ぶのだと決めてしまいました。このような抽象化(公理化)による利点の一つは、「その性質から導かれたことは、具体的なベクトルの例全てに適用される」ことです。一般的に議論をすることで、具体的な議論をいちいちすることを避けることができます。
ここからは、一般のベクトルの話が続きますが、今回は導入ということで、具体例を丁寧に眺めました。具体例を用いて一般論の理解とモチベーションを高めることも、蔑ろにしてはいけない重要なことです。
ていりふびに
第九回「我々は基底では表現されない」
発表者:ていりふびに
数学的要約:
この章では高校数学でも出てきた「線形従属」、「線形独立」の概念をまず説明しています。高校では矢印ベクトルに関しての議論でしたが、一般的なベクトルについても似たような議論ができます。
続いて「基底」の話に入ります。「基底」はベクトル空間の任意の元を表現できる最小個数のベクトルの組です。そしてその個数はベクトル空間の次元として定義されます。
基底を一つ定める事はベクトル空間(次元n)をn項列ベクトル空間に1対1対応させることと同じです。これによって一般のベクトル空間の議論を行列の議論を用いて進めることができます。
この本では後半この考え方が重要になってきます。高校数学での例:
「基底」の考え方は大学数学から出てくるワードですが、基底の例は高校生の段階で皆さん学んでいます。一番簡単な例を上げると二次元座標平面上の任意のベクトルは(1,0)と(0,1)を定数倍した和で表現することができますね。
例:(2,3) = 2 * (1,0) + 3 * (0,1)
この時(1,0),(0,1)は基底となっています。
メタ的要約:
もう少し抽象的でライトな言葉でいうと上記の考え方は「ある集まりの全ての要素は一部の要素によって表現できる」ぐらいの感じですかね。そうなるとその一部の要素の議論を中心にして全体の要素の議論をできるので便利です。
Hiroto
第十回「【オリジナル輪読PV】空間のマトリョシカ【HIROTO】」
発表者:Hiroto
数学的内容:
ベクトル空間に対して、部分空間とよばれるものを定義し、すぐに付随する諸定義や諸性質を概観した。とくに、次元については、「核と像」「包含」「和空間」について成り立つ性質を調べた。「和空間」に関する次元の式から、もっとうまくいく和空間として「直和」を定義した。
メタ的内容:
ベクトル空間の部分集合でうまい性質をもつものは、それ自体が新たにベクトル空間だと思えます。このようなものを「部分空間」と呼ぶことにしました。
このような、空間の中の空間といえるものに対して、成り立つ諸性質を調べていきました。
今までの行列の話との関連性がまだ見えてきませんが、今はその準備段階だと思ってください。近々、全てが「列ベクトル」と「行列」に翻訳できるようになります。
イヤープラグさざなみ
第十一回「抽象から具体に落として見えてくるものとは」
発表者: イヤープラグさざなみ
数学的内容: (列ベクトルの空間から列ベクトルの空間への写像に限らず)一般の線型写像が、基底を定めることによってある行列を左からかけることに一致する。
メタ的内容: 抽象的な線型写像という概念から馴染みのある列ベクトルに一度「落とす」ことにより、線型写像に固有の階数が定義されることが確かめられる。今回の内容は、その準備段階である。表記が異なるものの間に、共通する何らかの量を見つけ出すというような話が続く。
イヤープラグさざなみ
第十二回「大枠を見失ってはいけない」
発表者: イヤープラグさざなみ
数学的内容: 基底の取り替えは線型写像であり、すなわち行列をかけることによって実現されることを確かめる。核となる内容は、一般の線型写像に対して階数が定義できることなのだが…メタ的内容: 大枠を見失ってはいけない。この章の目標は一般の線型写像に対しての性質を探ることであったのにも関わらず、列ベクトル空間の話に固執してしまった。線型写像というよくわからない抽象概念を見慣れた行列の話に帰着させる流れこそが重要なのであって、過程の一部である列ベクトル空間の話題に固執すると見通しが悪くなってしまう。列ベクトル空間から離れられなかったのは、線型空間の他の具体例に触れる機会が少なかったことも原因であろう。
Hiroto
第十三回「不変的なものは普遍的である」
発表者:hiroto
数学的要約:
「(有限次元)線型空間の間の線型写像」は、基底を一つ固定することで「列ベクトル空間の間の行列を左からかける写像」と一対一に対応する。ここでは、そのことを確認したのちに、固定する基底によらない「線型写像の階数」を定義した。メタ的要約:
前回のさざなみさんの言っている通り、線型空間の間の線型写像といった抽象的な概念は、基底を固定することで、列ベクトル空間の間の行列をかける写像といった具体的概念に"下ろして"くることができます。
下ろしてきた際の行列にはもちろん階数が定義されますが、それをもとの線型写像の「階数」として定義して良いのかというと、少し立ち止まって考える必要があります。なぜかというと、他の基底を固定したときに、値が変わってはまずいためです。固定する基底を変えると、もちろんもとの線型写像に対応する行列は変わります。しかし、こと階数に関しては基底を変えたとしても「不変」なのです。そのため、線型写像の「普遍」的性質として、階数が定義されるのです。定義とは議論の出発点のような印象を持っていらっしゃるかもしれませんが、このように、「定義できること自体が数学的に重要な帰結」といった類の定義もあるということは、非常に重要かもしれません。
Hiroto
第十四回「不変的なものは普遍的である②/内積の公理的導入」
発表者:hiroto
数学的要約:
前回の階数の議論と同様、線型変換の「トレース」や「行列式」を定義した。
そして、新たな内容として、抽象的な線型空間における「内積」の概念を公理的に導入した。内積が入った空間のすぐ分かる諸性質・諸概念を確認した。メタ的要約:
固定した基底を取り替えたとき対応する行列の階数は不変だったため、前回線型写像の階数が定義できました。同じ要領で、線型変換に対して「行列式」と「トレース」を定義しました。
また、ベクトル空間を公理的に導入したのと同様、内積概念も公理的に導入しました。繰り返すようですが、公理的に導入された内積について言えることは、具体的によく知られている内積(たとえば列ベクトル空間のもの)についても例外なく成り立ちます。こういった切れ味の鋭さが、公理化のモチベーションでした。
Hiroto
皆さん、2週間お付き合いいただきありがとうございます。数学部がこれまでコツコツ積み上げてきた活動の雰囲気を感じ取っていただけたでしょうか。
今回、形式として「タイトル付け」と「要約を2種類にする」という工夫をいたしました。数学的な内容がわからずとも、なんとなくやりたいことや言いたいことは伝わったのではないでしょうか。14日分のタイトルやメタ的要約を一気に見てみるとまた味わいが変わるかもしれません。
勉強には、部分→全体→部分→...のサイクルが欠かせません。いままで「部分」を積み上げてきた僕らの活動の、「全体」を振り返る作業としてWSを利用させていただきました。このWSを通じて確実に僕らの理解は深まったといえます。数学部外の皆さんは「全体」をいきなり見せられた形になりますが、自分と遠い分野に関しては先に概要や要約などの「全体」から入る方が適していることも多いと思います。みなさんの知的好奇心を少しでも掻き立てられたなら、幸いです。これをもちましてこちらからは数学部WSを締めさせていただきたいと思います。質問等有ればまだ受け付けているのでなんでもよろしくお願いします〜!

以上です!!

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