車校 その5

ここの部屋のエアコンを入れると硫黄の匂いがして「すこしくさいけど温泉地っぽくていいな」と思ってたんだけど、ついさっき室外機の真ん前に下水が走っていることを知った。俺が二週間浸り続けた温泉地の匂いはただの下水の匂いだったみたい。嗅覚とか感性みたいなものがバカになってしまったのかな。

教習場の喫煙所によくいる、バラの柄のスカートを履いた89%キャバ嬢のギャルがお気に入りで毎日ウキウキしてたら、今日はミッキーのTシャツを着て電話してて、また更にグッときた。友達に電話(スピーカーホン)で仮免の問題を写メしようかという彼女、電話口の向こうの未だ見ぬギャルは「でも漢字読めないと意味無いじゃん!」ってキレてた。ギャルは自分の出来ないことをよく知っていて、それが何の謙遜でもなく、そして想像よりも出来ないことを俺は知っている。そんな彼女のようなギャルのために、仮免の問題にはしっかりふりがなが付いていることを、横槍したくなった。

教習最終日前日である今日も、イカツイおっさんと一緒にいた。ましてや二人で国道沿いを爆走して、傍からみれば、完全に無口なアニキとおしゃべりな子分、みたいな構図で、いつものうどん屋でゴチした。話せば話すほど、「ああカタギじゃないな」なんて疑念は、「ああカタギじゃなかったんだな」に変わった。おっさんは話が盛り上がるとすぐに、車検を通さずに車検証をもらう方法だとか、メキシコでビザが簡単に取れる方法だとか、社会の脱法ルールを俺にぶち込んでこようとする。コラコラ。うどん屋を出る時に、もう何度めかわからない餅をうどん屋のおばちゃんに貰った。最終日の明日は花でも持って行こう。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?