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太秦ライムライトを見て福本清三さんを偲ぶ

「5万回斬られた男」と呼ばれた、福本清三さんの主演作「太秦ライムライト」が公開されてもうすぐ10年になる。公開当時に興味を持った作品だったが、見る機会に恵まれずにそのままになっていた。

福本清三さんは今年で3回忌。追善イベントが先日、福本さんの地元・京都で行われた。イベントのメインが「太秦ライムライト」の上映だったので、これは良いタイミングだと思い、参加してきた。

ちなみに「太秦ライムライト」のあらすじについては、見る前まで、一切情報を仕入れておらず、頭はまっさらな状態で観たことを断っておく。

映画が始まると、最初は福本さんを追ったドキュメント作品だと思い込んだ。映画の舞台が、撮影現場そのものだったからだ。しばらくして、ようやく映画の内容が物語だと気付いたが、実際の福本さんと、役柄・香美山の立場が混同することもしばしあって、不思議な感覚を持って見続けた。

私もいい年をした人間なので、脇役に徹した福本さんの人間性には感銘を受けており、映画は福本さん演じる香美山だけが中心に据えられていても充分だと思った。だが、そこにヒロイン・さつきが加わることで作品の魅力が増していく。

さつきは、舞台となった撮影所に出入りしていた新人俳優だったが、香美山に弟子入りして殺陣の指導を受け、やがてスターになっていく。よくあるシーンでスターになると、新人時代にお世話になった人をないがしろにするパターンが多いが「太秦ライムライト」においては、さつきが、いつまでも香美山のことを忘れていなかったストーリーが涙を誘う。このエピソードも、福本さんと、さつき役を演じた山本千尋さんの映画公開後の師弟関係そのものになっており、これは、上映後のトークイベントで登壇した山本さんご本人からの話で証明されている。

トークイベントでは、福本さんは「太秦ライムライト」の主演を「私が主役なんて、あきまへんあきまへん」とクランクイン寸前まで拒んでいた話が公開されていた。とにかく、自分が前に出ていくことを極端に嫌がり、普段は謙虚で気さくだった福本さん。一方で殺陣の指導には厳しくあたり、台本の読み込み方が素晴らしかったという当時のスタッフの証言もあって、福本さんの築いた人生には、ちゃんとした裏付けがあるのだと思った。

映画を見終わった今、私は残りの人生をもう少しだけ上げていき、悔いのないように過ごしていこうと思ったのだった。

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