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『「守礼の光」が見た琉球』編集者が語る、企画のいきさつと編集裏話

2024年6月8日に開催された『「守礼の光」が見た琉球』刊行記念トークイベント「写真で読み解く沖縄占領」(←クリックするとアーカイブが見られます)。白黒写真カラー化プロジェクトのホリーニョさん、本書監修者の古波藏契さんとともに、本書のページを見ながらトーク。
来場者も多く、たいへん盛り上がりました。

実は、司会を務めていた担当編集の喜納も、本書を企画したいきさつと発行までの顛末を話すことになっていたのですが、時間が足りず、自己判断で端折ってしまいました。

ただ、この本の企画編集の経緯についてはしょっちゅう尋ねられていて、そのたびになんだか誤解されているふしもあるなぁと感じていたので、あらためて企画や編集のいきさつを書いてみたいと思います。




2023年6~7月ごろ、企画を思い立つ。

あれは2023年初夏のこと。
いつかやってみたいと思っていた「守礼の光」「今日の琉球」を取り上げた本の構想を思いつく。
写真から沖縄戦後史を読みとくスタイルでできないか。

この前年が復帰50周年で、周囲はものすごく盛り上がっていたのだが、私は気持ちとしてなんか乗り切れず(復帰後生まれというのも理由かもしれないけど)、その大騒ぎが終わったタイミングでちょうどいいな、という意識もあった。

そして、沖縄県公文書館に通って両誌のリサーチを始めることに。
「守礼の光」「今日の琉球」のいずれも時代背景や米軍の意図は共通しているものの、対象にした読者に合わせて編集の毛色が異なっている。
二つをまとめるのは難しそうだなと感じた。
あと一冊にするには単純にボリュームがありすぎる。
ということで、まずは市民向けにソフトタッチで編集された「守礼の光」から取り上げることを決めた。

ここで所蔵元との交渉に入る。
雑誌をスキャンさせてほしい、そのあと使用許可を取らせてほしい、というやりとりなのだが、どういうわけか相当手こずることになる(理由は不明だが、前例というか経験がないため?)。

紆余曲折あって、使用許可が出たのが2023年9月ごろ。
それまでは日時を申請してスキャナーを持ち込んで誌面をスキャンしていたのだが(公開されている分は解像度の問題で印刷に使えなさそうだったので)、このタイミングで高解像度の全データ、ホームページ未公開分もふくめたものをご提供いただくことができた。
かなり楽になり、時間短縮にもなった。
本当にありがとうございました。

2023年9月、編集作業が孤独にスタート

そして「守礼の光」13年分160号を読み込む日々に突入する。
誌面から写真を選び、データを切り出していく作業もスタート。

「守礼の光」には貴重なカラー写真も多いので、写真は多めに載せることを最初から決めていたのだが、一次セレクト時点でまさかの2000枚に上ってしまった。多すぎ。当たり前だが2000枚は載せられないので取捨選択。

そして「琉米親善」「交通」「市民生活」「働く」「観光」「娯楽」などの小分類にフォルダで分けていくことに。あわせて、本文に書くことを頭の中でまとめつつ、デザインの手も動かし始める(自分でデザインもやっているので)。

小分類ひとつに2ページをあてると決めて、試行錯誤でレイアウト開始。
CMYK変換やモアレ防止などの画像補正も実施。
たったひとりで、しかも発行日まで時間がないので作業を詰め込みに詰め込みなら進行していった。

写真、カッコよすぎないか?

そんなふうに編集に四苦八苦しているうちに、あることに気づいた。
「写真が良すぎる」のである。
「守礼の光」はプロパガンダ誌なので写真も人の心を動かすように撮られているのだろう。
被写体、ポーズ、構図、色の感じ。
最近の言葉でいうと「映える」「エモい」のだ。

しかし、いくら映えてエモいからといってプロパガンダに使われた写真である。これを簡単な注釈のみで取り上げると、単に写真をじっくり味わって「カッコいいね」と思って終わる人も出るのでは。
これがプロパガンダの怖さかと、うっすら肝が冷えたのを記憶している。

それで、解説を写真のなるべく近くにセットで置くことに決めた。
ひとつのターニングポイントになった。

2023年秋、文章書きと、もうひとつの転機

ほんのりと方向性がきまったところで、解説文の執筆をはじめる。
図書館で調べものをして、文章を書いて、デザインしてで明け暮れる毎日。

そんな中、20代の若者に、デザインに文章をはめたものをサンプルとして読んでもらう機会があった。
それで言われたのが、「毒ガス移送」などの沖縄復興期の出来事や、「ベトナム戦争」「キューバ危機」といった冷戦期の世界情勢についてほとんど知らない、ということである。

驚いた。
けれど、それはそうか……的な納得もあった。

若い世代にも読んでもらいたいと考えていたので、解説には基礎的な戦後史の知識までガッツリ手厚く盛り込むことに。
調べるもの、書くもの、作るものが増大していく。

単発で作っていた小分類を、7つの大分類におさめていく作業もスタートさせ、ページが徐々に完成形に近づいていく。

2023年11月末頃、予定していた160ページのうち100ページのレイアウト+文章が出来上がった。デザイン的には完成と同じ状態にほぼ仕上がっており、さらにカバーデザインも作って、見てもらえるものが出そろったかたちになった。
ここで、監修者を立ててチェックをお願いすることを決める。


2023年12月、監修の依頼。心強い味方ができる

どなたにお願いするか、会社のスタッフと相談しているうちに、『つながる沖縄近現代史』の編著者である古波藏契さんはどうだろうか、という話が出た。
これ以上ない適任だと思った。
ということで、古波藏さんに連絡をしたのが2023年12月頭のこと。

私は、『つながる~』を出したボーダーインクの編集者ではあるが担当者ではなかったので、直接連絡をおとりするのは初めてである。

メールにて古波藏さんに、出来上がった100ページ分の本文PDFデータをお送りし、ごあいさつとともに、「こういう本を作っています。監修をお願いできませんか」と相談をした。

古波藏さんからは「面白い企画ですね」の言葉とともに快諾のお返事が返ってきた。それまでずっとひとりで企画して書いて編集してデザインして状態だったので、心強い味方の誕生にメチャクチャ安堵したのを覚えている。

そして監修スタートである。
具体的には古波藏さんにPDFを見てもらい、こちらが書いたものに追加や誤りがあれば加筆修正してテキストで再入稿していただく形で行った。

さらに残りの60ページ分、すでに予定しているもの以外で、これは入れた方がいいという項目を提案してもらう。ベトナム戦争、生活改善、農業の改良、女性の進出、福地ダム建設、などの項目がここで追加となった。

最後に、まえがき「監修によせて」と、各章ごとのコラムを執筆していただいた。まあ〜〜〜本当に素晴らしい内容で、これがあったことで本書の格が上がったと思っている。
気になる人はぜひ本を買って読んでください。

もちろん楽な仕事ではない。
多忙な中で熱心に取り組んでくれた古波藏さんには感謝しかない。


2024年1月、校了に向けて、ラストスパート

年末年始をはさみ、私のほうも完成に向けて猛ダッシュである。
残り60ページ分の原稿書き・写真セレクト・デザイン。
さらに直しが入ったところの修正、校正、印刷所とのやりとり。

編集者、監修者、双方ヘトヘトの日々を経て、
1月末!
なんと!
当初の!
予定通りに!
校了!

そして2月中旬には無事に発行することができたのでした。


2024年2月刊行、そしてキャンペーンに奔走

本が出たら、そこからが本番ですよ。
新刊告知とキャンペーンです。

皮切りとなったのが、コザにある「波止場書房」での刊行記念写真展+古波藏さんのトークイベント(とても素晴らしかった)。

そして書評。
沖縄タイムスに白黒写真カラー化プロジェクトのホリーニョさん、琉球新報に、砂辺書架の畠中沙幸さんが執筆された書評が掲載された。

沖縄タイムスに半3段広告を掲載。
朝日新聞に古波藏さんのインタビュー記事。
毎日新聞読書面・共同通信には書籍の紹介記事。
そのほか全国メディアへの掲載。

そして、冒頭で紹介した、ジュンク堂トークイベントwithホリーニョさん。

などなど、編集中だけでなく、その後もずっとたくさんの皆さんにお世話になっています。
ありがとうございます。

長々と書いてしまいましたが、こんなふうに本ってできるんだなと思っていただけたら、あまり表に出なくても、編集者もこんなに頑張ったんだなと伝わってくれたら、ちょっとうれしいかもしれません。

まだまだキャンペーンがんばりますので、引き続きよろしくお願いします。

ボーダーインク
編集 喜納えりか