見出し画像

【2016年3月】忘れた味

 試験の前の日、最後にあのレストランに行った。食べ終わった時、心の中で「試験へ行ってきます。待ってください。」と呟いた。
 このレストランは、図書館のすぐそばにある。ほぼ毎日の図書館での生活に、昼ごはんを食べる定番場所だった。自分はごくつまらない人間なので、いつも牛丼ばかり食べていた。美味しくて量も多い、勉強した後の自分へのご褒美だった。
 そして、いよいよ試験日だった。図書館に行かなく、直接に試験場に向いた。ほぼ二週間の戦いで、頭は限界に近づいた。でも、あの牛丼が忘れられなく、試験後絶対戻ってくると誓った。

 今、すべての試験が終わった。結果はなかなか素晴らしい。でも、試験前の考えと違って、いろいろな準備をしかければいかないので、あのレストランに行く時間もない。最後に行く日はいつだろう。振り向いてみると、なんと一ヶ月が過ぎた。そんなに長い時間なのかな。
 そろそろもう一度行くか。そう思うと、今日とうとうあそこに向いた。あの牛丼の味を思い出すと、腹も減った。
 相変わらずのレストラン、相変わらずのあそこの図書館。自分の居場所。何もかも変わらなかった。もちろん、今回も牛丼に決まっている。
いただきます。お箸をとって、まずはお米一口。それから、唐揚げと味噌汁、牛肉も、柔らかくて美味しい。でも、何か足りないような気がする。
何かな。以前食べている時、もっと美味しいはずなのに、今はある味が見つからない。確かに材料は以前とまったく同じものだったはず。でも、以前の感覚は失ったような感じがする。
 ごちそうさまでした。レストランから出た。ずっと戸惑っている。この街も懐かしい。このレストランも懐かしい。隣の図書館も……見つかった。確かにある味が見つかった。その味の名前は図書館だ。
 以前、よく勉強の最後に図書館から出て、レストランに入って、牛丼を食べる。でも今日は、何もしないまま、直接に牛丼を食べる。その味と勉強してからの味はかなり違っている。何もしなくて、ただご飯を食べると、それはただのご飯に過ぎない。でも、図書館から出てご飯を食べると、それはご飯というより、ご褒美といえよう。図書館の味は実は一番重要な味なのだ。

 そうだ、私は一番重要なことを失った。試験後、今までの努力を全て忘れた。ただ一筋入学準備をしている。入学準備は面倒くさくて、他のことを全て諦めた。
 その調子を続けたら、多分入学の意味もなくなる。そればかりでなく、永遠に、あの美味しい牛丼を食べられなくなる。かなり危険な状態だ。

 早くやるべき準備を済ませて、その後、以前の自分を見つけるのは重要なことだ。早く、前のような美味しい牛丼を思い出せ。
 「待ってください、必ずすぐ戻るから。」

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?