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【エッセイ】新型東京オリンピック開会式ウィルスの独白

 言っておくが、私はもともとウィルスではなかった。あのコロナというウィルスのおかげで、不本意ながらウィルスになってしまった。あいつを許さないので、「新型」を自分の名前の冒頭につけて名乗っていた。でもご安心ください。私を感染できるのは、一部の在日外国人だけ。今この文章を読んでいる君は、対象外の可能性が高いだろう。

 ウィルスといっても、私を感染したら、病院へ行く必要はまったくない。なぜなら、症状はただ一つ、「ホームシック」になることだ。言うまでもなく、私の正体は、世界各国からやってきた選手がほとんど参加する、オリンピックの開会を宣言する豪華イベントだ。ある国の選手が登場したら、日本にいるこの国出身の人は「ホームシック」になったら、私を感染した証だ。特に今年、ろくに母国に帰れない今年だからこそ、この「ホームシック」症状が出やすい。それだから「ウィルス」と呼ばれるものだ。

 ウィルスの使命として、不本意ながら、感染しやすい人を探さなければいけない。実は、私はすでに目途がついていた。私は、少なくとも、彼女を感染させることができるだろう。彼女は普段ホームシックしないが、ちょっとだけのきっかけがあったら絶対ホームシックになれる人間だ。

 開会式が始まった。迷いもなく、彼女の姿を探し始めた。彼女を感染させる時間はかなり限られている。開会式が終了したら、私の感染能力も失うのだ。だが、最初から最後まで、彼女の姿は現れなかった。それは予想外だった。ウィルスでありながら、たった一つの仕事が失敗した。

 どうしてなのだろう。なぜ彼女は現れなかっただろう。彼女は、開会式を見たくないのだろうか。それとも、見たいけど、今年の私はウィルスだから、感染予防対策として、私を見ないようにしているのだろうか。彼女の心はすごく弱いので、予防対策をした可能性が高い。

 もう私の感染能力が失った。彼女を感染することがもうできなくなった。最後に、私は彼女に一つの写真を送った。それは、彼女の母国の選手が登場するときの写真だ。選手たちは統一の制服を着て、小さな国旗を持ちながら歩いている。せめて、この写真を見て、私をウィルスとして見ないでほしい。

 溜息をして、そろそろ彼女とさようならだ。最後に彼女の顔をみて、私は驚いた。彼女は私が送った写真をじっと見て、いつの間にか涙がたくさんでた。まさか、私があきらめようとした今、彼女は私に感染されたのだ。いくら予防対策をしたとしても、マスクと同じように、隙間がないわけではないらしい。だが、私はちっとも楽しくなかった。ウィルスとして、感染された人の顔を見たら達成感が感じられると最初思っていたが、やっとその顔が現れて、でも達成感は全く感じなく、罪悪感しかなかった。

 幸い、彼女の症状は軽かった。本番の私を見てないので、最後若干感染されたとしても、すぐ回復できるはずだ。それでも、真犯人の私は、彼女に申し訳ない気持ちがいっぱい溢れてきた。彼女に謝ることはもうできない。ただ、早くみんなの力でコロナのやつを倒して、彼女は母国の距離と縮めるように祈るしかないのだ。

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