ハガクレ・スチール #04

04 降下

 円筒状の透明カバーの内部が煙で満たされ、晴れるとそこには一人の男性が横たわっていた。高身長、筋肉質、そしてハンサム。鋼の素体の上に擬態用外装を施されたSG-01の姿である。
 カバーが開き、SG-01は人間そのものの自然な挙動でむくりと身を起こした。そして、美しい人口の瞳を彼の創造主に向ける。
『おはようやがりませ、ご主人様』
「言語機能が若干おかしいか? まあいい」
 ナニカノ博士は些事を気にせず、粛々と準備を進めていった。

 三十分後。SG-01はサイズの合わない下着とガウン、小さなバックパックのみという姿で格納庫に立っていた。
『聞こえるな、SG-01』
 彼の電子頭脳に博士からの通信が届く。
『お前が果たすべき任務は、J地区に落下したコンテナを可及的速やかに発見することだ。飛行速度と落下時間から大まかな位置は割り出している。人口密集地ではないはずだ』
 もともとコンテナには誤送・紛失防止のため自ら位置情報を発信する機能がある。だが博士はこの日に限り、まさか見失うことはあるまいと設定を怠っていたのだ。
『位置が特定できれば貨物運搬ドローンでお前ごと回収する。現地住民への影響は最小限にとどめ、かつ外部に察知されることなく全てを終わらせねばならない。頼んだぞ、SG-01』
 指令が終わるや、SG-01はニッと白い歯を見せて親指を立てた。
『大丈夫さボーイ、全てを僕に委ねるんだ』
『おう、頼もしいな。それでこそ私の最高傑作だ』
 格納庫ハッチがゆっくりと開いていく。高度一万メートルの寒風が薄着のSG-01に吹きつけたが、彼にとって温度は情報でしかない。当然、酸素マスクも必要ない。
『行け!』
 命じられるまま、SG-01は昼の太陽に照らされた雲海に飛び込んだ。

 プライベートルームの端末前に座るナニカノ博士は、見る見るうちに低下していくSG-01の高度表示から目を離して深いため息をついた。
 今日の用事は学会で歓声を浴びるだけだった筈なのに、まったく面倒なことになってしまった。コンテナの捜索にどれだけ時間を要するか判らないが、発表スケジュールに間に合わせることは不可能だろう。そうすると現地に到着したところでサキニ教授の怒り顔を拝むだけだ。
 機内放送で操縦ロボットの声が聞こえてくる。
『到着予定時刻ガ大幅ニ遅延シテイマス。出席予定ノ学会ニ連絡シマスカ?』
「病欠だ。熱があるのでお休みします!」
『了解。発熱ヲ伴ウ体調不良ニヨリ欠席スル旨ヲ連絡シマス』
 これでいい。研究発表については後日、個人的に会見を開けば同じことだ。今はコンテナの回収に集中すべき。
「きっとうまくいくわ。見ててね、パープ……!」
『SG-01よりマスターへ』
 通信が入り、博士はクマのぬいぐるみに向きかけた視線を端末に戻した。
「どうした、着陸したか?」
『低高度でパラシュート展開した直後に突風が吹いた。予定着陸地点を大幅に外れアイキャンフラーーイ!!』
 ドボン、と大きなものが水に落ちる音が聞こえた。
「はあ!?」

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