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外れ馬券訴訟の一覧から基準を考える

11/4に高松市の男性が外れ馬券を経費に算入するように求めた裁判の控訴審で、東京高裁は算入できるとした東京地裁の判決を取り消し、課税処分は適法と判断しました。まさかまさかの逆転敗訴です。

外れ馬券訴訟は、2015年に最高裁で「一定の条件下では算入できる」という判断が下されています。その条件とは「期間、回数、頻度その他の態様、利益発生の規模、期間、その他の状況等を総合考慮して場合に、一連の馬券の購入が一体の経済活動の実態を有すると認められる」ことです。すんごく簡単に言えば、「営利目的の継続的行為」に該当するか否かって事ですね。

この辺は以前の記事で書いているので、お時間ご都合よろしい方は読んでみて下さい。
外れ馬券訴訟と競馬の課税方法について
https://note.com/boost_quinty/n/n3e879b587d22


今回の控訴審も原告は「継続的に利益を上げており、偶発的な一時所得とは異なる」と主張しましたが、秋吉仁美裁判長は「ある程度の期間を継続し、客観的に利益を期待できることが必要」「4年間で3077万の利益はあるが、1年だけ790万の赤字の年があるから恒常的に利益を上げていたとまでは認められない」として、営利目的を否定しました。

じゃあ何年やれば恒常的なのでしょうか。法律である以上、一定の基準や目安が必要だと思いますが、それすらも裁判長の胸先三寸で決まってしまう現状は、法律として大きな問題点を抱えていると思いますね。

過去の裁判の判決を振り返ってみても、「営利目的」って曖昧なんですよ。エイヤッて買えばアウトで、機械的に買えばセーフって単純な話でもないわけじゃないですか。だったら、法律でしっかりと定めた方が公益に資すると思うのですが、財務省に押された議員さんはなかなか重い腰を上げないのですよ。残念で仕方ありません。


では、裁判で勝てるための基準はどうなっているのでしょうか。以下は最高裁まで争った外れ馬券訴訟の一覧です。これ以外に外れ馬券訴訟があったら教えて下さい。

・2015年3月 大阪の男性 ○勝訴
払戻金36億6500万円、購入費35億1000万円、利益1億5500万円
期間2005~2009年の5年間

「営利を目的とする継続的行為から生じた雑所得に当たるか否かは、行為の期間、回数、頻度その他の態様、利益発生の規模、期間、その他の状況等を総合考慮して判断するのが相当である。一連の馬券の購入が一体の経済活動の実態を有するといえるなどの事実関係の下では、払戻金は雑所得に当たる。」として最高裁で原告の勝訴。


・2017年12月 北海道の男性 ○勝訴
払戻金78億4000万円、購入費72億7000万円、利益5億7000万円
期間2005~2010年の6年間

「馬券を有効に選ぶノウハウがあり、恒常的に多額の利益を上げていた。利益を得るには外れ馬券購入は不可避であり、外れ馬券を含む一連の馬券購入には経済活動の実態がある」として最高裁で原告の勝訴。


・2018年8月 横浜市の男性 ●敗訴
払戻金3億0000万円、購入費2億8000万円、利益2000万円
期間2007~2010年の4年間

「すべての馬券購入をプログラムに任せず、自身の判断も加えており、購入規模は大きいが、機械的に購入していたとまでは言えず、一般的な競馬愛好家の購入態様と異ならない」とした一審・横浜地裁の判決を二審・東京高裁も「対価を得て継続的に行う事業には当たらない」として支持し、最高裁は上告を受理せず、原告の敗訴。


・2020年11月 高松市の男性 ●敗訴
利益3077万万円 期間2010~2014年の4年間

前述とおり、東京地裁で「馬券の代金は必要経費と認めるのが相当だ」としていた判決を、「恒常的に利益を上げていたとまでは認められない」として東京高裁で取り消し。


う~ん・・これを見ると、思った以上に意見が分かれているようにも見えます。まず、最初の大阪の男性は「ソフトを利用して継続的に馬券を購入し、偶発性を抑え、利益を出している」からセーフであり、次の北海道の男性も「6年間にわたり利益を出し続けているノウハウと、利益を得るために外れ馬券を含めて買う態様」だからセーフ。これらは単なる趣味の馬券購入とは異なり、【一定期間、一定規模の利益を上げる営利目的の継続的行為】と認められたので勝訴できました。

ところが横浜市の男性は、購入規模は多いのですが、【レースごとに予想し、それに自身の判断を加味しているので、競馬愛好家と変わらない】という判断から敗訴しています。規模が大きいとの認定は受けていますが、前2年は赤字だったようですし、何より自分の予想を加えて機械的、網羅的ではなくなっている点が敗因でしょう。

そして今回の高松市の男性は、前述通り、「ある程度の期間を継続し、客観的に利益を期待できることが必要」という判断で逆転敗訴となりました。
4年間が短いのか、規模が小さいのか、はたまた赤字がたった1年あったのが問題なのか、もしくは微妙なラインですね。仮に大阪、北海道の男性が1年だけ赤字があったらどうなったでしょうか?もしくはもしくは規模が大きかったら?いずれにしろ、基準を探す一因になる判決であり、最高裁まで頑張って欲しいところです。

ちなみに、こんな人もいます。

・2017年12月 東京都の男性(馬主) ●敗訴
払戻金1億8000万円、購入費2億5000万円、損失7000万円

年単位で多額の損失が生じているなど、一般的な愛好家の馬券購入と質的に変わらない」として一審・東京地裁は請求を棄却し、二審・東京高裁もそれを支持。最高裁は上告を棄却した。

これはちょっと毛並みが違いますが、損失が出たのを損益通算したんでしょうか。それで利益を圧縮して還付金を貰ったが、経費と認められなかったので、その分、還付金が減額したという事でしょう。「馬主としての豊富な情報を駆使し、営利目的で大量に馬券を買った」と主張は、ある意味立派ですが、これを認めたら利益圧縮し放題ですよね。


ここまで色々と基準を見てきましたが、もうここまで来たら国税庁もしっかりとした基準を出すべきですよね。最初の最高裁判決だ出た後に、国税庁が出した通達では、『馬券を自動的に購入するソフトウェアを使用し、個々の馬券の的中に着目しない網羅的な購入をして、経済活動の実態を有することが客観的に明らかである場合に限って雑所得として認める』と明示しています。ソフトウェアを使った場合に限定していますね。

ところが、北海道の男性がソフトウェアを使用せずに馬券を購入して勝訴したもんだから、慌てて『ソフトウェアの利用や、予想の確度の高低と予想が的中した際の配当率の大小の組合わせにより定めた購入パターンに従って年間を通じてほぼ全てのレースで馬券を購入し、回収率が100%を超えるように馬券を購入し続けてきた時に限って、馬券の払戻金を雑所得と認める』と新しい基準を設けました。これは継続性や網羅性、規模などが全部揃った時だけ雑所得として認めるよって事ですね。

例えば、東京開催だけを買うとか、北海道地区だけ買うとかってした場合はどうなるんでしょうね。可能性としてはそうした買い方の方が利益は出やすいと思いますが、これだと網羅性をクリアするのは非常に難しいですよね。回収率も100%を下回った年が一年でもあったらマズイのでしょうか。こうした部分が曖昧なんですよね。

もちろん、国税庁の基準が正しいとは限らず、これに該当しなくても経費認定を狙う事は可能だと思います。最高裁は『継続性や網羅性、購入規模などによって区別する』と言ってわけですからね。ただ、継続性とは単に馬券を購入し続ければ良いわけではなく、利益を上げ続ける事であり、網羅性は偶発性を排除できるような方法を取る事を求めており、一筋縄じゃいきません。

だからこそ、一定の線引きは必要だと思います。例えば、年間の払戻金が500万円までは利益は非課税、それを超えた場合は継続性や網羅性、規模などから区別し、5000万円を超える場合は継続性や網羅性、規模などから区別するが、利益を超えない範囲で課税するというに、段階的に雑所得に該当するかを判断していけば良いのですよ。

そもそも年間の払戻金が500万円って毎月40万以上の払戻を受けるわけで、回収率が平均の70%だとしたら年間700万も馬券に突っ込むわけですよ。大半の一般競馬ファンにそこまでに資金があると思えませんし、年間200万円のマイナスを継続するなんてギャンブル中毒者みたいなもんですからね。その辺までは全部非課税にすれば良いのです。

それ以上に払い戻しを受ける場合は、偶発的に儲ける可能性は十分ありますよね。WINS5でも三連単でも数百万馬券を100~300円くらい買えば行きますし、ちょっとした小金持ちが万馬券に1万円突っ込んでも1000万前後になりますから、その辺りを非課税にするのは難しいでしょう。だから継続性や網羅性、規模などで区別します。

そして、年間5000万の払戻を受けるような場合は、いきなり一時所得にするのではなく、数年間の損益年間レースの半分を超える購入回数5000万以上の購入額といった具合に、継続性や網羅性、規模などを考慮した基準を示し、納税者に一時所得か雑所得かを機械的に判断させるようにすれば良いのです。これならWINS5で大当たりしただけでは雑所得になりませんし、一年間だけ儲けた場合や購入回数が少ないケースも偶発的として一時所得と判断する事ができます。

まぁ所詮は国民の息抜きのギャンブルですからね。躍起になって税金を取ろうなんてスマートじゃないですぜ国税庁さん。



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