外れ馬券訴訟と競馬の課税方法について

書くだけ書いて投稿するのをすっかり忘れていたのですが、一週間くらい前に外れ馬券を経費に算入するよう求めた裁判の判決がありました。この問題は以前から各地で訴訟合戦が繰り広げられていますが、かつて税理士試験を受けていた者としてこの手の話は参戦せねばと筆を取っている次第です。

馬券収入があった場合の税金の計算方法

まず、前提の話として馬券で得た収入は所得税法上の一時所得に該当します。競艇や競輪なども同様ですが経常的に発生する収入ではないので【一時】所得であると解釈すれば結構です。この一時所得は【 (収入-収入を得るために支出した金額-50万円)×1/2=一時所得】で求められ、これを給与所得などと合算して所得税を求めます。なお、外れ馬券は収入を得るために支出した金額に含まれませんので、的中した買い目以外の金額はここに算入できません。そのため馬券を1点1万円×10点購入し、100万円の馬券収入があった場合、支出した金額は1万円のみとなります。

例題 年間1800万円を購入し、2000万円の馬券収入があった場合(的中馬券の購入額は100万円)

一時所得の場合、収入は2000万円、支出した金額は100万円のみ、控除額50万円を差し引くと1850万円となり、その半分の925万円が一時所得となります。仮に給与所得など他の所得が無ければ、この一時所得から基礎控除38万円を差し引いた残額に所得税率33%(控除額153万6000円)を適用し、算出された税額に復興特別所得税(2.1%)を加算して所得税を計算します。

式 925万円-38万円=887万×33%-153万6000円=139万1100円×102.1%=142万313円

また、住民税は10%+均等割なので、922万円(基礎控除33万を引いた残額)の10%と均等割を大雑把に計算すると約100万円になります。※住民税は自治体によって税率が若干上乗せされる場合がありますので、大体の計算にしてあります。つまり、このケースの税金は所得税と住民税の合計で約245万円となります。おおよそ馬券収入の1/10ちょっとの金額になります。

一方、雑所得の場合はどうなるかというと、【収入-必要経費=雑所得】になりますので当たり馬券を得る為に掛かった費用が全て含まれます。例えば、外れ馬券、競馬新聞や雑誌代、競馬場へ向かう交通費、パソコンやスマホ、タブレットなど通信費の一部、競馬場での飲食代なども含まれるでしょう。もちろん、きちんと費用処理できるよう理由付けが出来ていればの話ですが。

式 2000万円-1800万円(外れ馬券含む)-50万円(交通費等の諸費用)=150万円×5%×102.1%=76,575円(所得税)
  150万×10%+均等割=約20万円(住民税)

このように一時所得では約245万円だった税金が約28万円と税額を大幅に圧縮できました。つまり、多額の馬券を購入する事で利益を得ている人は、雑所得で申告した方がかなりの節税になるという事です。

国税庁の言い分には無理がある?

こうした訴訟における国税庁の言い分は『少額でも多額でも馬券収入は一時所得、的中馬券の購入額しか支出にならんよ』と一貫したスタンスを維持しており、最高裁で敗訴後に改正した通達においても『条件付で雑所得になるけど、それには厳しい条件があって一般人には無理だよ』と、あくまでも一時所得で多額の税金を取る前提でいます。

一方の裁判所の言い分は『一時所得はあくまで原則、馬券収入を得るまでの状況を総合的に考慮して、営利目的で継続して行っていたら雑所得にしてもいいよ』と、言ってる事は国税庁とほぼ同じでありながら柔軟な姿勢を見せています。

私個人の見解は、課税の大原則は『担税力がある者に課す』であり、その原則から見れば馬券収入が多額になった場合、現行制度では担税力がない者に税を課す事になるので制度自体に無理があると考えます。ちょっと考えれば理解できると思いますが、例えば、会社の利益に法人税を課税するのではなく、売上総利益(粗利)に課税すると言われれば経営者は猛反対するでしょう。そりゃそうです、それ以外にもその収入を得るために様々な費用が掛かっているのだから。

競馬はギャンブルで経済活動ではないという点は理解できますが、営利目的である事は間違いありませんし、上記のように国税庁と争うレベルで馬券収入がある人はもちろん、一般の競馬ファンは長期に亘って継続して馬券を買い続けている人であり、G1の時だけ競馬に来てたまたま万馬券が当たった人は一線を画す存在と言えます。

また、そもそもギャンブルに課税をする目的は「射幸心をあおるギャンブルは、勤労によって収入を得るという健全な経済的風俗を害するため」と言われています。機械と言えばテレビと電卓の時代にはギャンブルによってサラリーマンの年収を超えるような利益を出す事は不可能に近いでしょうし、仮に運良く大儲けできたとしても課税する事で勤労意欲を削がないようにする事は間違いではありません。

しかし、現代におけるギャンブルにおいて営利目的を達成するために長期に亘って継続して馬券を買っている人は、射幸心をあおられているというよりむしろ利益を得るために様々な手段を用いて研究と投資を繰り返していると言った方が適切でしょう。そうでなければ年間で100%を超える回収率を叩き出し、それを何年も続けるのは非常に難しいですから。つまり、現代におけるギャンブルというのは投資とやってる事は変わりなく、課税方法だけが時代遅れとなっていると言えます。

解決方法は?

この問題の解決方法は法改正しかありません。通達を活用した方法でも可能ですが、国税庁がそれをする事はおそらくできないでしょうから、法改正できっちりルールを定めて国税庁にそれに即した通達で運用させる必要があります。

改正内容は、『ただし、インターネット等により購入額、的中額を判別できる場合については雑所得で計算できる』という一文を入れるだけです。そして通達でインターネット等とは主催者が提供する特定の方法によるとすれば、胴元が全てを管理できるようになり便利です。

なお、二重課税の問題は解決しなくても良い気がします。確かにそれによって配当が下がっている側面はあるものの、それによって日本競馬というシステム自体を外部から守っているとも考えられます。かつて民主党の誰かさんが日本中央競馬会は無駄遣いが多く見直しが必要だと騒ぎましたが、毎年国庫に2500億前後の大金を納付しているのは現在のシステムの上での事ですから。下手に騒いでアレもコレも外部から手を入れられちゃ、今の日本競馬が大きく変わってしまう恐れもありますしね。いずれ来るであろうカジノに対抗するためにも、現状のまま自分達の形を強固に維持する事が大切だと思います。


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