木村和士騎手、日本人初のエクリプス賞受賞

競馬学校だけが道じゃない?


先日、米国競馬の年度表彰であるエクリプス賞が発表され、見習騎手(アプレンティス・ジョッキー)部門で日本人の木村和士騎手が選出されました。弱冠20歳の日本人騎手がエクリプス賞を受賞するのは史上初の快挙だそうです。

その木村和士騎手は、2015年4月にJRA競馬学校の騎手課程に入学しますが、2017年の秋頃に自主退学をします。退学の理由は競馬学校の厳しい体重管理に引っ掛かった、盗難の嫌疑があったなど、様々な噂が飛び交いましたが、本人も理由を公にしておらず、『色々なルールを守れなかった。自分が未熟だった』と述べるに留めています。

その後、カナダのウッドバイン競馬場に渡り、調教を手伝う中で関係者の声を掛けられ2018年5月に騎手デビューします。同年104勝を挙げてカナダ競馬の年度表彰であるソブリン賞の最優秀見習騎手賞を受賞すると、翌年の2019年には863鞍に騎乗し148勝を挙げる活躍を見せ、カナダのリーディング3位となりました。

カナダでは2017年のWASJで優勝したユーリコ・ダシルヴァ、短期免許中に禁止薬物を使用して騎乗停止となったルイス・コントレラス、ラファエル・フェルナンデスがリーディングトップ3を独占しており、そこに食い込んだ事が評価されエクリプス賞の受賞となったようですね。

カナダ競馬は日本では馴染みの薄い印象がありますが、一応パート1の国でウッドバイン競馬場が有名です。JRAの海外の主要レースで紹介されているカナディアンインターナショナル(G1)はそのウッドバイン競馬場で行われており、衰退期に入ったジャパンCに同レースの勝ち馬が選出されたりしています。ジョシュアツリー、サラリンクス、アイダボなどがそうですね。まぁレベル的にそこまで高いわけではないものの、国際格付け的には上の方なのでJRAにとって水増しできる都合の良い存在とも言えます。

そんなカナダ競馬ですが、英連邦王国に属するように競馬の歴史は古く、18世紀には近代競馬が行われていたとされています。街中に普通に馬券売り場があり、北米だけじゃなく欧州、豪州の馬券も売っていて、ファンも競馬を良く見ている環境でもあります。そうした背景があるので、アメリカはもちろん欧州や中東の関係者も集まるようで、そこで活躍すれば世界的に名を売れるチャンスにもなります。

事実、木村騎手はオフシーズンにサウジアラビアの関係者に声を掛けられ、サウジで騎乗する予定もありましたし、日本人騎手として初めて英国エリザベス女王の所有馬に騎乗する事もありました。まぁ全米サラブレッド協会役員や全米の競馬記者が投票するエクリプス賞を受賞できた事自体、世界中の関係者の視線を集める事になるんですが。

JRAの騎手育成は過渡期を迎えている

それにしても、こう見ると日本は遅れているなぁと思います。というか対応は進歩していない、むしろ後ろに向かって進歩していると言った方がいいかもしれません。

JRAの騎手免許を持たない木村騎手は、競馬学校で高い技術を学んでいたので、カナダで騎手免許を取れる際はルールを頭に叩き込むだけだったと語っています。昨今、我らが野中君を初め、坂井瑠星、小崎綾也、富田暁などが長期遠征を経験しており、勝利を挙げる事も珍しくありません。つまり、競馬学校で指導する技術のレベルは高いという事になります。

また、数を乗った方が身になるという話は昔からありますが、木村騎手も数を乗りたいと話していますし、昨年騎乗した863鞍という数字は日本で言えば三浦皇成や松山と同程度です。それだけ乗れば技術も経験も度胸も身につくでしょうし、それが結果となって表れているのは確かでしょう。

ところが国内の若手騎手は、技術はあっても短期免許の外国人騎手に追いやられ、騎乗馬は集まらず、一日2~3レースしか乗れない事も多々あります。これを競争原理の一言で片付けて良いとは決して思いません。日本競馬の発展という視点からすれば、短期免許の外国人がリーディングトップに居る現状は明らかにマイナスです。競走馬は世界レベルかもしれないが騎手は2流しか居ない…それが日本競馬の発展と言うのか?と考えれば分かると思います。

昔はデビュー後何年かは厩舎に所属して、自厩舎の馬に乗りながら経験を積んで勝ち星が増えたらフリーになるのが一般的でした。技術の有無、コネの有無に関わらず、自厩舎の馬に数多く騎乗できる点がメリットでした。しかし、昨今ではデビュー早々にエージェントを付け、自厩舎より関係者との付き合いを優先して騎乗馬が決まる事もあります。フリーになる時期も早くなり、経験不足のまま若手を卒業するケースも散見されます。

こうした事態はエージェントのみならず、調教師、馬主、JRA全てに責任があります。先を見通せる手腕を持ったエージェントも居ますが、目先の金銭や付き合いを優先して抱えている騎手の将来を二の次にするエージェントも居ます。馬主の意向に逆う事なく短期免許の外国人ばかりを重宝する調教師や馬主、使い分けでレースの格を下げて賞金の原資となるファンを蔑ろにする馬主も居ます。そして一月で20勝を挙げてリーディングトップに立つ外国人騎手に、制限を設けず騎乗させるJRA…昔であれば通用した育成方法が通用していない事は、平成生まれのJRA騎手でGⅠジョッキーが松山一人だという点からも明らかでしょう。

ジャパンCもそうですが、問題を認識するのがとても遅いのがJRAです。武豊の後継者が居ないと何年言ってます?ジャパンCにろくな外国馬が来ないと何年言われました?エージェントの問題も外厩の問題も、言われ続けても対応どころか、見解すら満足に発表できない始末であり、ジャパンCの問題では『馬場が違うのは当たり前だから問題ではない』と理事長が言っている時点で組織として深刻な問題だと認識した方が良い気もしますが。

木村和士騎手の他にも、NZで浅野一哉騎手が騎乗機会8連勝するなど海外で日本人騎手が活躍するケースがありますが、それはJRAの手柄でも日本競馬の宝でもありません。カナダやNZが育てた騎手です。仮に彼らが凱旋門賞やBCなどのビックレースを勝ったら、JRAの面子は丸つぶれですね。技術は教えられても育てられない国、日本…ですか。響きは良いですね。

ともかく、JRAは旧態依然としたやり方も、特定の馬主、調教師、騎手に偏ったやり方も改める必要があると思いますよ。多くのスポーツ界がそうであるように、ファンの期待に応えられない所は落ちるだけですから。



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