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外れ馬券訴訟は無し?某芸人の無念

高額配当をバンバン当てる事で有名な某お笑い芸人が、税務調査を受けて多額の追徴税額を納付した事を公表しました。いわゆる外れ馬券訴訟と同じように『外れ馬券を経費に算入したが認められなかった』という事で、この法律はおかしい、競馬ファンみんなで声を挙げませんか?という内容でした。

ついに某有名人にも来たかぁ~という感じですね。徳光和夫アナのように競馬好きがたまたま高額配当を手にした、というケースではなく、高額を狙って当てる生粋のギャンブラーが何度も高額配当を当てたため国税に狙われたというケースです。

この手の内容は以前、外れ馬券訴訟の結果が出た際に記事を書きましたね。お時間ご都合よろしい方はどうぞ一読頂けたらと思います。

さて、かつて税理士試験を受けていた者として、税金の話があれば参戦せねばと思っていましたが、重要な部分はこれらの記事で書いていまして、あまり書くことが残っていないんですよねぇ。ざっくりおさらいしてみましょうか。

■馬券収入における税金の計算方法

馬券収入は所得税法上、一時所得に該当します。一時所得の計算方法は以下のとおりです。

【収入】-【その収入を得るために支出した金額】=A
(A-50万円)×1/2=一時所得

小学生でもできそうですね。競馬においては収入は的中額ですし、その収入を得るために支出した金額は馬券の購入額です。ところが、話はそう簡単ではありません。実は多くの外れ馬券訴訟や今回の某芸人が問題にしているのは、【その収入を得るために支出した金額】の範囲なのです。なぜなら、この金額(いわゆる経費と呼ばれる金額)をどこまでを含むかによって一時所得の金額が大きく変わるからです。


■負けているのに税金を払う?

現在の法律および通達によれば、【その収入を得るために支出した金額】の範囲は的中した馬券の購入分だけです。つまり外れた馬券は含まれません。しかしですね、競馬をやっている人なら誰でも分かると思いますが、それっておかしな話なんですよ。

例えば、日本ダービーで本命の単勝と複勝を1000円ずつ購入したとします。その馬は惜しくも2着で単勝は外れましたが、複勝は的中しました。複勝のオッズは1.5倍だったので2000円の馬券を買って払い戻しが1500円となりました。500円負けたか、あぁ残念・・・・で終わりではありません。なんと国税庁は『複勝1000円買って1500円的中しただろ、500円の利益が出たんだから税金払え』と言うのです。

はぁ?と思って当然ですよね。だって500円負けてるんですから。それなのに税金払えっておかしくね?というのが某芸人の言い分です。誰だってそう思いますよ。トータル負けたのにさらに税金払えなんてカツアゲどころか、ヤクザそのものじゃないですか。

これまで外れ馬券訴訟をされていた方は、賭けた金額も払い戻しも億単位の人ばかりで、特に有名になった大阪の男性は5年間で約35億円分を購入し、約36.5億円の払い戻しを受けました。つまり5年間の利益は約1.5億円です。しかし、国税庁は【その収入を得るために支出した金額】に外れ馬券を算入しない、つまり外れ馬券は経費と認めないとしたため、35億円中、約19.5億円だけを経費とみなし、約6.8億円の所得税と約1.3億円の無申告加算税、合計8億円あまりの税金を課したのです。

この事件は平成27年の所得税率改正前の話で、かつ6.8億円の所得税なので、ざっくり計算すると約15.5億円分が外れ馬券の購入額として経費から除外されたんですね。利益が1.5億円で6.8億円の税金って・・・・もうアホかと。どんなに理屈をこねてもこれじゃ筋は通りませんよ。


■経費の範囲を明確にしろ

この問題は『その収入を得る為に支出した金額』が大きなポイントとなるのはご理解頂けたと思います。では、その範囲はどこまでにするべきなのでしょうか。ものすごく簡単に言えば、明確に馬券の収支が分かる部分を範囲とすればいいのです。

そもそも、馬券の式別が単複、枠連しか無かった時代なら1点購入で的中を狙うケースはそれなりに多かったと思います。ただ、今は単複、枠連に加えて馬連、馬単、ワイド、3連複、3連単、WIN5などがあり、地方競馬では他にも多くの式別があります。これだけの式別があって、的中するために1点で購入する事ってあります?まぁ無いですよね。

じゃあ的中するためにはどうするかと言えば、複数の選択肢を用意し、そこから当たりを狙うわけです。馬連BOXや3連単フォーメーションなど、WIN5などはまさにそうですよね。つまり『的中には複数の選択肢が必要』であり、それって一般的に『その収入(馬券収入)を得る為に支出した金額』と言うのではないでしょうか。

なぜ馬券収入を得る為に支出した金額が的中分だけなんですか?企業会計原則の中に費用収益対応の原則という基本的な考え方があります。

費用収益対応の原則
『費用及び収益は、その発生源泉に従って明瞭に分類し、各収益項目とそれに関連する費用項目とを損益計算書に対応表示しなければならない。』

この考えに従えば、馬券購入という発生源泉に従って購入分と的中分に分類し、それぞれを対応させればいいだけです。その分類を、なぜ的中分の購入額と外れた分の購入額に細分化するのですか?会社の給料勘定を正社員、派遣社員、契約社員、嘱託、パート、アルバイトに細分化します?しませんよね。しなくていいところまで細分化する理由は何ですか?税金を多く取りたいからですよね。そうじゃないなら、小学生でも理解しやすいように説明してもらいたいです。


■税の番人が課税の原則を無視する

また、課税の大原則は『担税力がある者に課す』です。担税力とは税金を納めることができる能力の事で、すんごく簡単に言えば『税金は負担できる者に負担できる分だけ課税する』と考えてもらえば分かるかと思います。では先ほどの大阪の男性の例ではどうでしょう。1.5億円儲けて6.8億円の税金を負担できますか?できませんよね?そこからしてもうおかしいのですよ。

一般的な会社で例えてみましょう。とある会社にはA部門とB部門に分かれており、A部門は1億円の赤字を出し、B部門は1000万円の黒字を出しました。会社全体では9000万円の赤字なので税の負担は無いと思いきや、国税庁からB部門は1000万円の黒字が出ているからそこに課税すると言われ、半分の500万円を税金として課税されました。

これで納得する経営者います?利益の10倍にもなる損失を出した年に、利益分の税金を負担できますかね?

所得税や法人税などは、その大部分が所得金額に応じて決まります。所得、つまり利益が無いのであれば所得が無いという事ですから課税できませんよね。でも、課税するんです。だって一部分で黒字だから。

担税力ってどこ行ったんですか?


国税庁という税の番人のような組織が、税を課すための原則をまるっと無視してません?確かに、馬券が紙のみだった時代では外れ馬券は競馬場に山ほど落ちていますので、拾って経費にされたら正しく税金取れません。いくらでも誤魔化しが利きますので外れ馬券を経費にするのは難しいでしょう。

しかし、今はネット全盛の時代です。収支は履歴を見れば一発です。明確に収支が分かるにもかかわらずそれを無視して、担税力も無視して、不公平な事を認識しながら、昔ながらの自分ルールで課税する・・・どこのヤクザでしょうか?


■まとめ

日本では大昔からギャンブルは忌み嫌われてきました。射幸心をあおるギャンブルによって勤労で収入を得るという健全な経済的風俗を害されてはいけないと、ギャンブルにおける利益に課税することで健全な労働意欲を保つようにしようと考えたわけです。

しかし、JRAの様々な努力によって競馬は市民権を獲得しました。プロ野球やサッカーのように多くの国民が楽しむ娯楽となったのです。その娯楽によって健全な経済的風俗、労働意欲は阻害されたのでしょうか。もちろん、中にはそういう方もいらっしゃると思いますし、ギャンブル中毒の方も、ギャンブル依存症の方もいらっしゃると思います。ただ、大多数の人は競馬にのめり込んでもしっかり働いて、自分と家族を養い、税を納め、将来の貯蓄をしています。競馬は余ったお金で楽しんでいるのです。それを忘れないで下さい。

また、外れ馬券訴訟を起こした方や今回の某芸人のように投資と割り切って馬券を買っている場合は、それが他の投資行為と何が違うのか説明してもらいたいもんです。上がるか下がるか予想できない株を買ったら投資で、競馬になったらギャンブルって偏見という名の差別だと思うのですが、いかがでしょうか。差別に厳しい世の中になってきましたから、そうした誤解を受けないためにも国税庁というより財務省がしっかりと説明してもらいたいですね。

まぁ最初の一時所得の計算式を見れば分かりますが、一時所得には50万円の特別控除があるため、実際は50万円以上の利益が出なければ税金は掛かりません。ただ、毎週のように競馬を楽しんでいる競馬ファンや、重賞だけ大きく掛けて楽しむ競馬ファンなら年間の払い戻し金額が50万円を超える事は十分あり得る話です。だって一日あたり5000円弱の払い戻しですよ?平地重賞だけでも3800円ちょいですよ?【利益】ではなく【払い戻し】なら超える人多いと思いませんか?

そんな少ない小遣いで競馬を楽しんでいる人まで巻き込む事になったら、それこそ競馬人気の衰退に繋がると思いますよ。競馬界がどれだけ国に貢献していると思っているんですか。馬券売上に係る第一国庫納付金は毎年2000億から3000億円、JRAの利益に係る第二国庫納付金も200億から300億円にもなりますし、災害時の義援金や支援金は200億円以上も拠出しています。第一国庫に納付された金額の1/4は一般財源に繰り入れられた後、社会福祉関係に活用されていますね。これほどの金額を活用できるのは、全て競馬ファンの多大な犠牲(笑)があってこそです。

また、日本競馬界の売上が大きく下がれば、当然賞金も下がります。賞金が下がれば競走馬を持つ馬主が減り、それに伴ってセリの価格も下がります。そうなると競走馬が売れなくなるので競走馬の取引に関する法人税や消費税も減少します。となると生産者は種付け料の安い種牡馬を選びますし、種付け料自体が減額していくでしょう。それはますますセリ価格の減少を呼び、さらに税金が減少する悪循環に陥ります。セレクトセールの売却総額は200億を超えますからねぇ。仮に半分くらいになったら大手生産者は泡吹くんじゃないですか。

ともかく、私はこうしたヤクザのような手法で課税するのは反対です。課税は曖昧にしてはいけません。明瞭に説明できる根拠が必要です。それができなければ課税そのものが違法なものとされる可能性もあるのです。国会議員の皆様は、競馬ファンのさらなる犠牲(笑)を呼び込むために、どうか法改正、もしくは通達の改正に力添えをお願いします。


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