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給付金不正受給の続報と見解

調教助手による持続化給付金の不正受給の報道について先週お伝えしましたが、それについての続報が次々に入ってきました。

まず、JRAと日本調教師会が会合をもち、全調教師に所属スタッフが持続化給付金の申請の有無を確認する事を決めたのが2月18日。翌19日から調査を開始し、26日にもJRA経由で農水省へ報告する予定となっているそうです。

25日の報道では、厩舎関係者約2500人を対象とした調査で約100人が受給した事を確認されましたが、26日には調教師が厩舎の財務関係を管理する法人名義で受給したケースも発覚しており、問題が大きくなってきました。


税理士側の言い分

一方、指南したとされる税理士法人および税理士は、法人名と本人名で回答した文書を以下のとおり公開しました。

「一部報道について

 国の新型コロナウイルス感染症対策である持続化給付金の受給申請に関し、競馬関係者による不正受給の疑いが一部で報道され、当法人が関与しているのではないかとのご指摘をいただいております。

 当法人は、顧問先等のご依頼者様から持続化給付金の受給申請に関するご相談を承り、中小企業庁及び日本税理士会連合会の見解に則って、確定申告書の写し、青色申告決算書等の資料の集約・整理や受給要件の確認等を行うとともに、当法人と連携する行政書士がご依頼者様本人名義の申請手続を支援することがございました。申請時に提出する資料が真正であること、中小企業庁の示す受給要件を満たすことを確認しており、今般の一部報道を踏まえ、弁護士を加えて行った再精査の結果、改めて適正な手続きであったことを確認しております。したがって、当法人が不正受給に関与している、あるいは指南しているのではないかとのご指摘は当たらないものと認識しております。新型コロナウイルス感染症の拡大による影響の及び方は業種・業態等により多種多様であるうえ、直接・間接を問わず広範に生じ得ます。一律に影響の有無を決し得るものではなく、あくまでご依頼者様の個別具体的な状況に応じて受給の可否が判断されるものと存じます。

 以上のとおり、当法人があたかも持続化給付金の不正受給に関与したかのようなご指摘を受けるのは誠に遺憾です。一般的に、持続化給付金の不正受給は、架空の売上を計上し、あるいは売上を過少申告するなどして、実体がないのに減収を装って持続化給付金を受け取る詐欺行為を指し、当法人が支援した競馬関係者等の受給申請は該当しません。マスメディア関係者各位におかれましては、慎重な取材及び報道を心がけていただき、不正受給疑惑なるものと当法人を安易に結びつけるような報道は厳に慎んでいただきたいと存じます」

これを見る限り、随分な言い分だなぁと思います。おそらく裁判まで行っても構わないと思っているのでしょうが、そこで勝つのはなかなか難しいと思いますし、そもそも制度の趣旨に反する思います。というか、最終的には『コロナの影響がどの程度あったのかは、究極的には申請者ご自身の判断』とか言ってる時点で保険掛けているようなもんですね。


そういえば前回の記事にコメント頂いた方も、
『私は、この件に関しては「グレーではあるが、不正ではない」と思っています。あなたはなぜ、そこまで「不正」と言い張れるのか、逆にご教示願いたい所であります。私は、働いてない若者や学生が申請したわけでもなければ、調教師会のコメントにもあるように「規定の受給資格はありますが」ということ、また、ブロック制や騎手の移動規制でお手馬に乗れないケース、今でも交流重賞は除き地方競馬の交流レースでは、騎手が地元の騎手になるのもコロナ禍の影響で、それで成績が悪くなれば十二分に受給資格を満たしていると考えます。むしろ不正と訴えるのであれば、このケースが着順に影響しないことを証明しないといけないですが、それは現実的に不可能。私があげた例も検証することは不可能です。それなら影響が無かった訳では無いということになりませんか?それなら受給資格はあります。報道にもあるように、受け取った側が未だに逮捕されていないのも、不正とは断定出来ていないから。』

と仰っていました。主張としては、この税理士法人と同じで『影響があって減収している以上、給付対象だ』という事ですね。理屈としては分かります。私がどうしても受給しようとするなら、そう主張するでしょう。

しかしですね、経産省が発行する持続化給付金制度の手引きを見ていると、その理屈は通らないんじゃないかなぁと思ってしまうのです。


不正と判断する理由は?

まずですね、不正か否かの判断は当局が行うのが前提ですが、それでも不正だと言える理由はいくつかあります。最も大きな理由として不給付要件に該当するという点が挙げられます。

前提として、私は調教助手は調教師に雇われている、進上金は慣例に従って給与所得とは別に事業所得で申告していると思っていますが、前回の記事でも紹介したとおり、持続化給付金は個人事業主を対象にした制度と、主たる収入が給与または雑所得である者を対象にした制度の2種類があります。調教師に雇用され給料を得ている調教助手の主たる収入が、競走成績から得られる進上金であるという事は考えにくいので、主たる収入は給与ということになります。

すると対象となる制度は後者でありますが、後者の場合、事業所得の収入がある方は対象外となりますし、会社等に雇用されている方は対象となりません。手引きにも、事業所得があるなら前者の制度を利用するよう書かれています。

では前者の対象となるかと言えば、前述のとおり主たる収入が給与である以上、個人事業主というのはなかなか難しいと考えます。仮に個人事業主と言い張ったところで、不給付要件の(3)給付金の趣旨・目的に照らして適当でないと中小企業庁長官が判断する者に引っ掛かる可能性は高いでしょう。なぜなら、この給付金の目的は『営業自粛等により特に大きな影響を受ける事業者に対して、事業の継続を支え、再起の糧としていただくため』です。つまり、事業を継続する事が困難である、あるいは厳しいといった特に大きな影響を受けた事業者を支援するためのものです。

しかし、競馬は自粛していませんし、ブロック制等で影響があったとしても特に大きな影響を受けたという主張は、社会通念上、無理があります。給付金が無ければ調教助手の職で進上金を貰うという事業の継続が厳しいとは言えませんからね。

美浦の労働組合の顧問税理士も同様の判断をしており、『コロナの影響を受けた人を助ける制度の目的からして給付対象にならない。海外の競馬が一部中止になったが影響を受けた人はごく一部。(獲得)賞金が減ったのはレースに勝てなかったからだ』として受給しないように呼びかけていました。

つまり、受給要件云々以前に、そもそも給付の対象外じゃね?という結論に達するわけです。



不正受給と言えるのか?

続いて不正受給という重い言葉を使うのが適切であるかという点についてですが、中小企業庁は『コロナの影響がなければ不正受給』という見解を示しており、『受給要件を満たし、不給付要件に該当しないとした宣誓に反すれば詐欺罪に問われる可能性もある』としています。

この制度は数字だけ見れば受給可能な方はたくさんいるでしょう。しかし、それは支給を迅速に行うために条件と確認を最小限にしているためであり、こうした制度の趣旨に即さない輩も出てきます。それに対応するため不支給要件に(3)を入れていると推測できます。

中小企業庁も『スピード重視で制度を作ったので、当然コロナに関係ない申請が出てくることは想定していた。そうしたケースは事後に調査し、返還を促すことになっている』とコメントしているように、この条件がある限り、後から調査、確認をして返還を求める事が可能になるのです。

中小企業庁が言う『コロナの影響』とは、『受給要件を満たす影響』と解釈するのが妥当だと思いますので、特に大きな影響が無ければコロナの影響ではない=不正受給という事になります。

税理士側が言うように要件を満たさないと分かっていて受給すれば間違いなく不正受給ですが、申請者が要件を満たすだろうと判断して受給しても、結果的に要件を満たさず返還をする、あるいは求められるのであれば、それも不正受給になるという事ですね。


以上の事から、私個人は調教師および調教助手が不正受給を行ったと認識しています。こうした認識はお上や雲の上の方も持っており、だからこそ早急な調査、返還を求めるという対応を行っているのではないでしょうか。

不正受給をした場合、中小企業庁の調査後であれば給付金を2割増で返還しなきゃいけませんし、満額貰っていたら加算金は20万ですからねぇ。税理士側に支払った報酬が10%なら、合わせて30万の支出ですよ?勉強代としてはそこそこ痛いのではないでしょうか。

まぁこうした自己判断に委ねられる給付金関係は確実にイケると判断できなければしない方が良いのです。特に『制度の趣旨』、この言葉が厄介なんですよ。児童手当とか定額給付金のようにほぼ無条件で貰えるものとは違いますからね。ただでさえ中央の厩務関係者は世間一般から比べたら高給取りですから、自覚をもって対応してもらいたいですね。


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