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短期免許は謎から悪意へ

私、これまで短期免許制度について色々と疑問がありまして、様々な記事を書いてきました。上記のマガジンには実に57もの記事がまとめられており、自分でも良く書いたなぁと思います。

短期免許制度は、毎年のようにちょこちょこと変わっていたり、あるいは制度の中身を公開していくことで、短期免許制度ってそんなんだっけ?聞いてないよね?えっ?何?外部には言わねぇよって?みたいな話がありまして、JRAの情報公開の乏しさに頭を抱えてしまいますし、疑惑の目を持たざるを得ません。


■短期免許制度の取得要件の変更

そんな中、2024年7月31日にJRAから驚きの発表がありました。それは「短期免許制度における成績要件の変更」です。発表から1週間以上経ちましたが、やっぱり書かないわけにはいかないなぁと五輪を見ながら筆を執っているしだいですが・・・まぁ忖度ですよね笑

どんな内容かと言えば、

①平地の短期免許制度における成績要件のうち「良好な成績を示した騎手」の基準に「ワールドオールスタージョッキーズ(WASJ)の表彰順位5位以内」を追加し、さらに指定外国競走の対象レースに「過去2年のIFHA(国際競馬統括機関連盟)が発表する『世界のトップ100 GⅠ競走』のうち50位以内の競走(ランキング入りした年度の競走に限る)」を追加

②障害の短期免許制度における成績要件(リーディング順位)を、変更前の「本拠地において過去2シーズンのうちのいずれかでリーディング1位」から、「本拠地において過去2シーズンのうちのいずれかでリーディング3位以内」に変更

③同時期に免許する人数枠を変更前の「短期免許交付者は同時期に5名以内(含む障害)とする」から、「短期免許交付者は同時期に平地免許5名以内、障害免許2名以内とする」に変更

※新基準は2025年の短期免許申請者から対象  


速報が出た時は、ネット上でモレイラルール爆誕とか言われていましたが、いくらJRAでもそこまで露骨なことす・・・る組織でしたねココは。

まず、②と③はいいでしょう。ただでさえ障害騎手は休業、引退、謹慎などで不足気味ですし、新しい風を吹き込むという点からも積極的に来てもらいたいというJRAの思惑は理解できます。そのためには同時期に5人までという制限が邪魔になるので、そこも平地と障害に分けたのも理解できますし、これは良い改正ですよね。

しかし、①はダメですね。どこから圧力がかかったのか、あるいはJRAが人気取りのために決めたのかは分かりませんが、これは単純に来日できる騎手を増やす、つまり短期免許の騎手を傭兵のように扱うことを胴元が望んだということです。


■短期免許制度は、傭兵制度へ変更された

もともと短期免許制度は、JRA騎手の技術向上を主目的として始まり、その後、国際交流という名目を加えて様々な有名人騎手に来てもらう形になりました。

そこで多くの騎手が活躍し、日本人騎手は海外騎手に追いつけ追い越せの精神で技術の研鑽に励んだわけですが、徐々に指導役というか、目標という立場であった短期免許組に日本人騎手から強奪してでも有力馬を集中させ、短期免許組がより多く勝つように変化していきました。

私が押さえている2014年以降の短期免許組の成績は、こんな感じです。

コロナ禍真っ最中だった2021年を除けば毎年100勝以上、一人当たり平均で13.8勝という数字を叩き出しています。これをどう感じるかは人によって違うでしょうが、しかし、私はやりすぎじゃないかなぁと思うのですよ。

最も勝利数が多かったのは2014年の179勝、一人当たりの平均勝利数が最も多かったのは2020年の18.3勝、年間最多勝は2018年のモレイラで67勝、最高3着内率は2016年のモレイラで67.9%です。

勝ち過ぎじゃないですか?3ヵ月で67勝って、ルメールの一開催最多勝24勝を3ヵ月するって事ですよ?レーンだって来日初年度は2ヵ月で38勝です。最多勝を獲った4人の重賞勝ち鞍は通算10勝を超えていますし、彼らはどこをどう考えたって傭兵ですよね。


そんな彼らが来日しやすいように短期免許制度を変えるというのだから、もうJRAも短期免許組=傭兵という図式を隠さないという意思の表れでしょう。特にWASJの上位騎手というのは、モレイラに来てほしいということですよね。2015年から2018年にかけて4年連続でWASJに参戦し、4年連続で5位以内で、2015年には優勝しているんですよ?露骨過ぎませんかJRAさん。

また、モレイラは今春で短期免許の取得要件から外れ、再び母国リーディングや指定外国競走の積み上げをしなければならなかったのに、しれっと今夏のWASJに選出されています。露骨すぎませんかJRAさん。

しかも相手になかなか日本で好成績を残せなかった香港のC・ホー騎手、今春に初来日してインパクト無く帰国したUAEのオシュア騎手、5年振りの来日となる女性騎手のレジェンドの一人リサ・オールプレス騎手などを揃える徹底ぶり。ついでにレーンも入れておけば、モレイラとレーンのどちらか、あるいは両名が条件を満たすことができるだろうという目論見と見えます。普通の競馬ファンの感覚では。


川田の件や後述する契約馬主の件もそうですけど、忖度し過ぎなんですよねJRAは。胴元だからって何やってもいいわけじゃないんですよ。あまりにも露骨なのに、誰も文句言えないのが分かっている点が腹黒さに拍車をかけますよねぇ笑

もちろん、彼らだけではなく、隙あらば他の有名騎手を呼びたいという意図があるのも分かります。例えば、過去2年のWASJで5位以内だった外国招待騎手は以下の通りですが、今年の年初に来日して活躍したレイチェル・キングや、昨年のジャパンCで騎乗したマリー・ヴェロンなどの有名女性騎手なども呼べるなら呼びたいでしょうね。

2022年 4位テオ・バシュロ(仏国)
2023年 2位レイチェル・キング(豪州)
      4位マリー・ヴェロン(仏国)
      5位アレクシス・バデル(香港)


でも、それをしてしまうと日本人騎手って育たないですし、国内で下積みを重ねてトップジョッキーの仲間入りを果たしても、肝心のGⅠで短期免許組に乗り替わりになるのであれば、あまりにも日本人騎手をバカにしていませんか。関係者もそうですが、JRAもですよ。胴元が守らんでどうする。


■若手は努力でどうにかするのではなく、運でどうにかする

短期免許組が幅を利かせていた2014年デビューの日本人騎手と言えば、石川、松若、小崎、木幡初、井上、義の6人、2015年は加藤、鮫島克、野中、三津谷の4人、2016年は荻野、菊沢、木幡巧、坂井瑠星、藤田、森の6人ですが、彼らのデビュー後の成績はどうでしょうか。

この3世代の出世頭は坂井瑠星でしょうが、関西若手の彼でもデビュー数年はトップ10どころかギリギリ30位に入れる程度で、長期の海外武者修行から戻ってきてやっと重賞初勝利し、5年目でやっとトップ20位入りを果たしました。

それに続くのはコンスタントに勝ち星を挙げ、通算勝利数は坂井瑠星と並ぶ松若ですが、それでも2~3年目にトップ20位入りと初重賞を獲ったもののその後は鳴かず飛ばずで、コロナ直後にGⅠを勝ってもそれは同じです。

コロナ禍で急激に成績を伸ばした鮫島克は前2人よりも通算勝利数が上ですが、2019年までトップ30に入るのがやっとで、重賞未勝利でした。短期免許組が来日できなかったから成績を伸ばせたと言える騎手の一人でしょう。


彼らがデビューした時代は短期免許組が幅を利かせ、短期免許組一人当たりの平均勝利数が9.9勝の時代です。その彼らでも一人前になるのに師匠の力を借りつつ、それなりの年数がかかりました。では、平均勝利数14.8勝と、わずか10年前より厳しい状況になっている現在の若手騎手はどうなるでしょうか。

昨今、注目される若手の横山武、岩田Jr、西村、佐々木、菅原などは2世騎手だったり、師匠や関係者の強力なバックアップがある騎手ですが、それ以外の騎手は浮上にきっかけすら掴めないのではないでしょうか。技術が無いからと乗せてもらえず、技術を磨くために海外武者修行に出て帰って来ても乗せてもらえない。どうしろと?

関係者のコネが無ければ乗せてもらえないのは分かりますし、乗せてもらいたいなら結果を出せという関係者の意見も理解できます。しかし、それを言うなら結果を出したら必ず乗せるのでしょうか。それを確約できないで、そういうことを言うのは筋が通らんでしょう。

ミスについてもそうです。一部のトップジョッキー以外について、関係者はこれでもかとミスをあげつらいます。じゃあルメールや短期免許組が同じようなことをしたら同じようにあげつらうのかと言えば、スルーしつつよく頑張りました、でお終い。もちろん、それぞれの関係者の腹の内は分かりませんよ。でもメディアがそういう書き方をするのだから、関係者だってそうした事を思っていると考えるのは自然なことだと思うんですよねぇ。


そんな風に考えていくと、日本人騎手の、しかも若手騎手は運ゲーだなと思います。昔のようにトレセンで努力すればどうこうなる時代でもありませんし、競走馬と信頼度を高めていこうと思っても外厩に回されたらそれも難しいですしね。

コネを使ってガンガン乗せて数字だけ稼いでも重賞を全く勝てない騎手もいれば、早々に師匠んとこ飛び出してローカル無双したはいいけど本場で相手にならなかった騎手もいますし、まぁコネというかコミュ力というか人望というか容姿というか、騎乗依頼に技術以外の部分が非常に大きく掛かってきていると思います。それは関係者が最大利益を望んで、ということであれば短期免許組の優遇も理解できそうなもんですが、だったら短期免許組がダメなら他を乗せないと筋が通らないのに、それはしないんですよね。不思議なもんです。


■改善案

くしくも今年は騎手界隈で様々な事件がありました。それを考えるとJRAは公正競馬を確保するために、「疑われることすらいけない」の精神を忘れることなく活動を推進していなければなりません。しかし、現実は川田の件しかり、短期免許の件しかり、JRA自体が疑われることをしているのが現状です。そうした点を考えると、短期免許制度はもう少し改善していく必要があるでしょう。

冒頭の記事内でも書いたように、指定外国競走とJRA・GⅠは別々に計算したり、JRA・GⅠだけなら3勝以上にしたりすることも大切です。レーンルールについても、基となったミルコルールの趣旨を鑑みれば、外国競走と合算するのは良いとは言えません。私がずっと提案している騎乗数の制限もそうですし、短期免許組も日本人騎手もウィンウィンになる形を模索するのが胴元の責任ではないでしょうか。


また、今回の傭兵制度への変更に伴い、契約馬主についても制限する必要がありそうです。短期免許申請の契約馬主の多くは社台一族、吉田一族です。

2013年 14人 計20回のうち14回(70%)
2014年 20人 計24回のうち17回(71%)
2015年 11人 計14回のうち10回(71%)
2016年 18人 計24回のうち12回(50%)
2017年 10人 計14回のうち12回(86%)
2018年 10人 計16回のうち8回 (50%)
2019年 11人 計13回のうち9回 (69%)
2020年  6人 計 6回のうち4回 (67%)
2021年  1人 計 1回のうち1回 (100%)
2022年  8人 計10回のうち5回 (50%)
2023年 12人 計14回のうち6回 (43%)

これにはシルクやサンデー、米本氏などの関係者を含んでおらず、それらを含めると毎年契約馬主の50%以上が吉田一族、社台グループということになります。確かに、世界の競馬界と大きなコネクションがある吉田一族が多く契約馬主になるのは必然とも言えるでしょうが、彼らが次から次へと短期免許組を呼ぶのであれば、呼ばれた短期免許組は彼らの傭兵と言っても差し支えないのではないでしょうか。

また、実際に制度を活用している過半数を彼らが占めるということは、彼らが短期免許制度を私物化しているとも見えなくもありません。制度的には問題ないと言っても、中身は問題があるケースもありますし、JRAが謳う国際交流とは程遠く感じるんですよねぇ私は。

だからこそ、その部分は絞るべきだと思います。契約馬主になれるのは上半期と下半期で1回づつ年2回まで、契約馬主には所有馬数や取得賞金で一定の基準を超えることを要件とし、そして期間中は自己の所有馬に一定の割合以上騎乗させるといった制限を設けるなど、吉田一族が独占する形は避けるようにします。なぜなら、どんな業界も過半数を占める状態、独占状態が続くと弊害が起こるからです。現に、短期免許組が居なかったコロナ禍で若手が躍動したものの、再び短期免許組が来日するようになったら、騎乗馬を奪われることがありましたからね。


他にもJRA自身が短期免許を活用してもいいと思います。前年活躍した世界の騎手をひと月招待するとか、アンダー25の騎手を招待するとか、やりようはあるでしょう。騎手招待競走ができるのだから短期免許で招待したって良いと思いますよ。特に若い世代の騎手なら、各国と相互協力のもと交換留学のような形を取ってもいいのではないでしょうか。


■まとめ

まぁ今回の改正については、JRAが関係者に忖度したなという印象以外ありませんね。WASJの成績上位とは言っても5位は範囲が広すぎますし、モレイラが過去4年連続5位以内という情報があれば、穿った見方をしなくてもこれはモレイラルールだなと分かるでしょう。

レーンだって、たまたま昨シーズンにリーディング1位を獲れたものの、その前は5位、4位、8位と振るわなかったですし、短期免許の取得要件を満たせそうにない時はWASJに呼んで、成績上位に入ってもらえばいいわけですから、JRAからしたら忖度ですよね。

なんだか短期免許制度は、疑問や疑いを持てば持つほど次から次へとそれらが噴き出てくる感じがします。内規だなんだと突っぱねず、公明正大に基準を公表し、信頼を勝ち取っていくのが現代の組織のあり方だと思うんだけどなぁ・・・無理かねJRAさん。


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