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今週の全米アルバムチャート事情 #128- 2022/4/23付

ようやく大谷選手のホームランが出た、と思ったら一気に3本も出てしまってやっぱり去年の活躍は伊達じゃないってことを実感した先週。一方週末から月曜日にかけてはコーチェラ2022YouTubeライブ・ストリーミングのおかげでいろんなアーティストを観れてなかなか充実した週末を過ごすことができました。個人的にはリナ・サワヤマビリー・アイリッシュ、そしてマギー・ロジャース(↑写真)といったあたりが自由なフェスの雰囲気を存分に味わわせてくれて印象に残りましたね。皆さんはいかがでしたか?

"7220" by Lil Durk

さて今週の全米アルバムチャート、4月23日付Billboard 200の1位を決めたのは、先週自信を持って1位に予想していた、ジャック・ホワイトではなく、何と!わずか47,000ポイント(実売は1,000枚以下、Hits Daily Doubleによると106枚!)と先週から8%ポイント減らしながら、先週2位だったリル・ダークの『7220』が通算2週目の1位に返り咲くという結果に。過去3作で12万ポイントを下ることがなかったジャック・ホワイトが5万ポイントも確保できなかったというのも大きな驚きですが、2007年以来の3週連続ロック・アルバム1位が達成されなかったのは、先週のレッチリの勢いが素晴らしかっただけに何とも残念です。結局、ポイント減しているのにリル・ダークが1位になったということは、チャート全体が大きくポイントを減らしている中、普通のポイント数を叩き出していればジャック・ホワイトの1位は何てことなかったはずだったのに、実際のポイント数が予想を大きく下回ってしまったということに尽きます。最近ロック復活が期待される動きが増えている中で、これはなかなかダメージ大きいですね。

一方、消去法的に4週間ぶりに1位に返り咲いたリル・ダーク、2週目以降のポイントの減り具合がゆっくりでずっと2位にへばり付いていたので、全体的なポイントの落ち込みの恩恵を受けて今週1位になったという感じです。実際4週間前からR&B/ヒップホップ・アルバム・チャートではずっと1位を続けてますし。今回の47,000ポイントで1位というのは、2019年2月16日付チャートで、ア・ブギー・ウィット・ダ・フディーの『Hoodie SZN』が通算3週目の1位に返り咲いた(何かヒップホップといい、返り咲きといい、全く同じパターンですね)時以来の低ポイント1位になります。47,000ポイントだと先週までのチャートだと4位レベルだからいかに今週のチャート全体の水準が落ち込んでいるかがわかりますね。

そしてそのジャック・ホワイトの『Fear Of The Dawn』ですが、42,000ポイント(うち実売39,000枚で今週のアルバム・セールス1位ではありますが)という、前作『Boarding House Reach』(2018年1位)の初週121,000ポイントの何と3分の1の水準で4位に初登場。今回のアルバム、これまでに比べてデジタルな感じの音作りの曲が多かったり、「Hi-De-Ho」ではキャブ・キャロウェイのサンプリングやトライブQ-ティップのラップをフィーチャーしたり、「Into The Twilight」ではマンハッタン・トランスファーの「Twilight Zone/Twilight Tone」をサンプリングしたりと、新境地的な音作りに挑戦しながらメディアの評価も高かったんですが、そういう新しいアプローチについて来れなかった従来からのファンが結構多かったってことなんでしょうか。

確かに全体聴いてみると、従来のアナログでガレージな感じのロック、という感じから、80年代以降のイエスと90年代のナイン・インチと2000年代のトゥールあたりがごっちゃになってるような感じで、特に従来型のロック・ファンだと入り込むのに結構ハードルが高そうな感じ。それでもヴァイナルは初週24,000枚売れたらしいので、根強いファンの支持は確保しているんでしょうね。彼はこの後7月にももう1枚オリジナル・アルバムリリースの予定があるそうで、そっちはどういう作風になるのか、興味のあるところです。そしてちょうどこの記事をポストする直前に、ジャック・ホワイトが今年のフジロック2日目のヘッドライナーに決まったというニュースが。いったいどういうステージになるのか、興味津々ですわ。

"Last One Left" by 42 Dugg & EST Gee

続いて7位に初登場してきたのは、先週トップ10があるのでは?と言っていた、デトロイトのラッパー、42ダッグとケンタッキー州ルイヴィルのラッパー、ESTジーのコラボ・アルバム『Last Ones Left』(30,000ポイント、実売3,500枚)。

どちらのラッパーに取ってもこれが2作目の全米トップ10アルバムになってますが、最近こういう違うロコ(地元)のラッパー同士のコラボ作品が多くなってきてる気がします。まあ昔みたいに西対東のラップ抗争、なんて時代ではないから、お互いに気に入ってたら、多分売れるし一緒にやらね?って感じの軽いノリなんでしょうか。彼らは以前、ESTジーのミックステープ『Bigger Than Life Of Death』(2021年7位)収録の「5500 Degrees」(2021年最高位92位)でもコラボ済なので自然の成り行きだったんでしょう。内容はまあ、全編普通のトラップです(笑)

"B.I.B.L.E." by Fivio Foreign

さて今週は全体のポイント水準低いので、トップ10の初登場多し。9位には、NYブルックリン出身のラッパー、フィヴィオ・フォーリン(落ちる方じゃなくて外国の方のフォーリン)のデビュー・アルバム『B.I.B.L.E.』が29,000ポイント(うち実売1,000枚)で初登場。彼がブレイクしたのは、2020年のドレイクのシングル「Demons」(最高位34位)にフィーチャーされたのがきっかけで、その後NYのラッパー仲間達、同じブルックリンの故ポップ・スモークリル・ティージェイらとのコラボシングルなどでジワジワと名前がシーンに浸透してきたところで今回のアルバム・デビューでブレイクとなったようです。

最近では故ポップ・スモークの後継者として、ブルックリン・ドリルの代表的ラッパーと見られてるらしく、このアルバムの先行シングルで、カニエのラップとアリシア・キーズのボーカルをフィーチャーしてる「City Of Gods」の中で「ポップはNYのキングだったけど、今は俺がNYを代表するニガだぜ」と啖呵を切ってるくらい彼自身もそういう自負を持ってる模様。まだEP2枚出してるだけで、シーンで強力に存在感示してるわけでもないのに、おいおいそんなに大きく出て大丈夫かね、とも思いますが、まあ楽曲やトラックも凡百のトラップやドリルって感じじゃなく、この他にもニーヨクイーン・ナイジャらのR&Bシンガー達をフィーチャーしたオーガニックな感じのトラックや、エイサップ・ロッキーリル・ティージェイら同じNYのラッパー達とのコラボもあり、NYラップの復権に向けて気合い入れてるような感じはあります。ナズとか彼のことどう思ってるんでしょうかね。

"Familia" by Camila Cabello

そして今週トップ10初登場もう一つ、10位にはこれも先週トップ10ありか?と言っていたカミラ・カベロの3作目『Familia』が27,500ポイント(うち実売11,500枚)で初登場してきています。「Havana」(2017年1位)、ショーン・メンデスとのデュエット「Senorita」(2019年1位)の大ヒットと、そのショーンとの交際と別れと、ここ数年は波瀾万丈だったカミラ、今回は自分のルーツであるキューバと、コロナ中に多くの時間を一緒に過ごした家族をテーマにしたアルバムで基本に戻った、といった感じの作品になってるようです。

冒頭の「Celia」(あのキューバン・サルサの女王、故セリア・クルーズへのオマージュなタイトルです)はいきなり全編スペイン語で歌ってて、最近のロザリアのブレイクぶりあたりにも影響されてる感じがしますが、ウィロウ(スミス)とのデュエット曲「Psychofreak」や、現在ヒット中のエド・シーランとのデュエット「Bam Bam」(全米23位、全英9位上昇中)など、従来のラテン風味メインストリーム・ポップ楽曲は相変わらず健在で、メディアからも好意を持って迎えられてるようです。

"Wet Leg" by Wet Leg

今週も圏外11位以下100位まではにぎやかで7枚初登場してますが、その先頭を切っているのは、14位に入ってきたウェット・レッグの同名タイトルデビュー・アルバム。イギリスのワイト島出身の女性二人、リアン・ティースデイルヘスター・チェンバースによるインディ・ロック・デュオです。彼女ら、ここのところネット上や音楽メディアでガンガンに取り上げられて話題に登ってるので、それを受けていきなりこの高順位に入ってきました。本国UKでは今週堂々初登場1位を決めてます

彼女らのブレイクのきっかけとなったシングル「Chaise Longue」を始めとした楽曲は、シンプルでローファイなサウンドながらビートが強調されたちょっと癖になりそうなサウンドで、自分なんかは聴いてて2000年代初頭に出てきたティン・ティンズとか、80年代のティンバック3なんかを思い出しました。先週末のコーチェラずっと聴いてて今のサウンドはエレクトロなのが溢れててちょっと疲れたんですが、そういう時にこういうバンドのサウンドは新鮮かもです。

"Encanto (Highlights)" soundtrack

続いて19位に初登場してるのは、あの『Encanto(ミラベルと魔法だらけの家)』のハイライト盤アルバム。ハイライトという意味は、どうもオリジナルのサントラ盤には44曲が収録されてるんですが、このハイライト盤にはその中から「We Don’t Talk About Bruno」とか「Surface Pressure」など代表曲を含む32曲が収録されている模様。うーんでも44曲入ってるサントラ盤だけで何がいけないのか良くわかりません。でも19位ってことはみんな買ってるんですよね。よーわからんけど。

"Ramona Park Broke My Heart" by Vince Staples

21位に登場してるのは、先週末のコーチェラ2022にも出てたケンドリック・ラマーと同郷でコンプトン出身のラッパー、ヴィンス・ステイプルズの5作目『Ramona Park Broke My Heart』。コーチェラでやってた曲はこのアルバムからの曲が中心だったと思うんですが、聴いてて「何か随分聞きやすくなったなー」と思ってました。3年前のフジロックで観た時の感じはバリバリのハードコア・ラップって感じだったんで。

先行シングル「Magic」なんてパーティ・トラップ・チューンっぽい感じで、自分が持ってた硬派ラッパーっていうイメージとはちょっと今回違うなあ、って感じですが、メタクリティックでも82点ついてるくらい、メディアの評価は相変わらず高いですね。ヴィンスを聴いたことない、っていう人が入門的に聴くにはいいかもしれません。聴きやすいとはいってもトラックの作り込みや質は高いですからね。結構聴いてると心地よくなってきます。

"Chloe And The Next 20th Century" by Father John Misty

28位に初登場は、今週UKではウェット・レッグに次いで2位に初登場してUKでの最高のヒットになってる、元フリート・フォクシーズファーザー・ジョン・ミスティの5作目になる『Chloe And The Next 20th Century』。彼の作品は最初にブレイクした2作目『I Love You, Honeybear』(2015、BB200 17位)しかちゃんと聴いたことがなくて、その後も出す作品すべてメディアでは高評価だったにもかかわらず何故か聴きそびれてきたのですが、今回改めてこの新作を聴いて、最初の頃とかなり雰囲気が(いい意味で)変わっていることにちょっと驚きました

I Love You, Honeybear』の頃はフリート・フォクシーズよりはちょっとシンガーソングライター然としたインディ・フォーク、という感じだったのが今回の作品では楽曲がスタンダード的というか、ちょっとオルタナなラウンジシンガー的というか、聴いていて自分などはあのルーファス・ウェインライトを思い出してしまいました。でも自分的には今回のアルバム気に入ってますね。「Goodbye Mr. Blue」なんて何だか聞き覚えのあるいい感じの曲だなーと思ってたらどうやらこの曲、映画『ミッドナイト・カウボーイ』の主題歌にあのニルソンが書いた「噂の男(Everybody’s Talkin’)」へのオマージュらしく、それを聴いて思わず膝を叩きました(笑)。アルバム最後の「The Next 20th Century」になってようやくオルタナ・フォーク的なノイジーな曲調になってきますが、全編通してとても気持ちいい作品で、自分の今年の年間アルバムランキングの上の方に来そうな予感

"Stereotype" by Cole Swindel

ぐっと下がって48位初登場は、今や中堅カントリー・シンガーソングライターとなった、テネシー州ナッシュヴィル郊外出身のコール・スウィンデルの4作目『Stereotype』。彼は前作までの3枚はいずれもBB200のトップ10に送り込んで来てましたから、彼もこのコロナ禍の影響のためか、一気にチャートポジションを下げたアーティストの一人ということになります。

といっても彼の作品の質が落ちたとかいうことではなく、元々トーマス・レットルーク・ブライアンら一線の若手カントリー・スター達に曲を提供していたソングライターキャリアからシンガーに移行したくらいなので、楽曲はどれもトーマス・レットあたりとも共通する、ポップセンス溢れるメロディと時にドラマチックな展開もみせるしっかりした出来。シングルリリースされている「Single Saturday Night」も「Never Say Never」もいずれもHot 100でもトップ40入り(前者26位、後者27位)してます。

"Bronco" by Orville Peck

更にぐっと下がって80位に入って来たのは、常に顔を房飾りのマスクで隠して素顔を見せない、南アフリカ出身の謎のカントリー・シンガー、オーヴィル・ペックの2作目にして初チャートインアルバム『Bronco』。噂によると某カナダのパンク・バンドのドラマーだということらしいのですが、この出で立ちで先週末のコーチェラ2022にも出演していたというから筋金入りの覆面シンガーですねえ

覆面の意図は本人曰く「何でもかんでもわかったら面白くないだろ。よく判らない部分があった方がいいんだよ」ということだそうですが、音楽性的にはど真ん中王道の叙情性とドラマチックさを持ったノスタルジックな感じのカントリーソングを実力たっぷりに歌うこのシンガー、ただのギミック・アクトじゃない感じも。ちょっと注目かもしれません。

"Trendsetter" by Coi Leray

今週最後の初登場アルバムは、89位に登場してきた、ニュージャージー出身の女性ラッパー兼シンガー、コイ・リレイのデビュー・アルバム『Trendsetter』。去年リル・ダークをリミックス・フィーチャーしたデビューシングル「No More Parties」(最高位26位)でいきなりHot 100でもブレイクしたコイ嬢ちなみに名前の由来は日本語の「鯉」らしいw)、続くニッキー・ミナージをフィーチャーした「Blick Blick!」も今年に入ってHot 100 37位のスマッシュヒットになってます。

スタイルや音楽性的には基本カーディBミーガンの線なんですが、彼女らに比べて細身で小さめなので、同じ路線だけどちょっと違う層にアピールしてる気もするのと、彼女らと違って「Twinnem」みたいなポップR&Bっぽい曲もやってて、いろんな影響を感じさせるあたりがちょっとユニークなのかな。ちなみに彼女の父親は2006年まであのヒップホップ系カルチャー雑誌『The Source』の共同オウナーだったラッパーのベンジーノ

ということでトップ10及び100位までの圏外初登場は以上。ここでいつものように今週のトップ10のおさらいです(順位、先週順位、週数、タイトル、アーティスト、<総ポイント数/アルバム実売枚数、*はHits Daily Double調べ>)。

1 (2) (5) 7220 - Lil Durk <47,000 pt/106枚*>
*2 (4) (66) Dangerous: The Double Album ▲2 - Morgan Wallen <46,500 pt/1,423枚*>
3 (3) (20) Encanto ▲ - Soundtrack <45,000 pt/6,172枚*>
*4 (-) (1) Fear Of The Dawn - Jack White <42,000 pt/39,000枚>
5 (5) (47) Sour ▲3 - Olivia Rodrigo <39,000 pt/7,958枚*>
6 (8) (32) Certified Lover Boy - Drake <30,500 pt/63枚*>
*7 (-) (1) Last Ones Left - 42 Dugg & EST Gee <30,000 pt/3,500枚>
8 (10) (42) Planet Her - Doja Cat <29,500 pt/607枚*>
*9 (-) (1) B.I.B.L.E. - Fivio Foreign <29,000 pt/1,000枚>
*10 (-) (1) Familia - Camila Cabello <27,500 pt/11,500枚>

ロック3週連続1位ならずだった、今週の「DJ Boonzzyの全米アルバムチャート事情!」いかがでしたか。最後はいつものように来週の1位予想ですが、5万ポイントあれば1位ということで、今週のチャートの様子からいって普通のクラスの大型新譜なら楽に1位取れそうな感じなんですが、来週の対象期間の4/15-21でそこに来そうなのは…うーん微妙だなあ。まず大物新譜はないです。トップ10に来そうなのは7年ぶりながらメディアに評判のいいジュエルの新譜(!)と先週末コーチェラ2022ザ・ウィークンドと共に大トリを張ったスウェディッシュ・ハウス・マフィアの10年ぶり(!!)のリリースで初のフルオリジナル・アルバムの2つくらい。じゃあこの2枚のどちらかが5万ポイント稼ぐかというと…うーん微妙です一方すごーくやな感じなのは、密かに今週トップ10で唯一4%ポイントを増やして2位にジリッと上げてきてるモーガン・ウォレン。こいつが来週も同じように増やして、さっきの2組が5万届かないようだと最悪モーガンが1年ぶりに通算11週目の1位に返り咲き、という笑えないシナリオもまんざら非現実的ではない気がしてきました。でも一応予想としては平和なシナリオということでジュエル1位にしときましょう。ではまた来週。


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