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今週の全米アルバムチャート事情 #175- 2023/3/18付

WBCもいよいよ始まり、侍ジャパンチームは期待通りの1次ラウンド完璧な4連勝で、今週の準々決勝そして来週の決勝ラウンドに向けて期待は高まる一方。東京ドームで戦える準々決勝までは心配してないですが、アメリカに試合会場を移す決勝ラウンドでどうこの好調を維持するかがキーになってきそうですね。いずれにしても当面WBCで盛り上がる日々が続きそうです。そして今日はアカデミー賞発表。作品賞は大方の下馬評通りでしたが、助演男優・女優賞部門の二人の受賞スピーチは涙を誘う、感動ものでしたねえ。やはりこういう賞ものは感動を呼ぶものでなくてはいけません。ねえウィル・スミス(笑)

"One Thing At A Time" by Morgan Wallen

さて今週3月18日付のBillboard 200、全米アルバムチャートの1位はもう先週この記事を書いてた時点でほぼ決定していた通り、モーガン・ウォーレンの『One Thing At A Time』が何の感動もないぶっちぎりの1位初登場を決めています。501,000ポイント(うち実売111,500枚でまあ当然今週のアルバム・セールス・チャートこちらもぶっちぎりの1位です)という、2014年12月にBillboard 200がアルバムポイント制を導入してから過去8組(アデル、ビヨンセ、ジャスティン・ビーバー、ドレイク、ケンドリック・ラマー、トラヴィス・スコット、ハリー・スタイルズそしてテイラー)しか記録していない50万ポイント超を記録したこのアルバム、まあ36曲も収録されてるからストリーミングポイントだけでもガッツリ稼いでいるからこんな高ポイントになるのは当然ですわ。この初週のオンディマンドストリーム回数は4.98億回ということで、こちらも歴代5位(1位、2位、4位はドレイク、3位はテイラーMidnight』)なんですって。

一応アルバム通して聴いて見たんですが、特に可もなく不可もなく、どこにでもよくある普通のポップ・カントリー楽曲が並んでるアルバムです。「Don’t Think Jesus」(7位)「You Proof」(5位)「Thought You Should Know」(12位)「Last Night」(これまで最高位3位だったのが今週1位ですって。)と大分前からヒットしてるシングルががっつり収録されてるからおのずとストリーミングもセールスも伸びるでしょうし、まあ明らかに出来の悪い曲というのはそんなにないんですが、個人的にはどうもこの人のアルバムの売り方には何だか嫌らしさを感じてしまいますね。2年前の例の黒人に対する不適切発言事件(白人なのに黒人の友人に「ニガ」と言った件)も、一応ネット上で謝罪はしてましたが、その後は一切その点に触れずあれで禊ぎが終わったって顔しているのも気にくわないところです。本当に悪いと思っているのであれば、ブラック・ライブ・マターズ関連活動に参加するとか寄付するとか、そういうことやってもいいんじゃないすかね。そしてそれ以上にやーな感じがするのは、あの発言直後はネットラジオ局やレコード会社にかなりボイコットされていたのに、半年もしないうちに何事もなかったかのようにラジオでもプレイされるようになり、ファンはわっとこうしてレコード買ってストリーミング聴くしって感じで、何だかトランピスト達の行動を見ているかのようで、改めてアメリカの闇の一端が見えるような気がするのも気分悪いです。今週はHot 100でもこのアルバムの曲36曲全曲がドカドカとチャートインしてますし(今週トップ10中5曲ですって。)、そのあおりを喰らってチャートから締め出されてる曲も多いと思うので、そういうのも腹立つところ。そしてもう一つ腹立つのは、2021年1月にリリースされて10週1位だった前作『Dangerous: The Double Album』が未だに6位にいて、今週はトップ10にモーガン・ウォレンが2枚も居座ってること。ああやだやだ。

"Red Moon In Venus" by Kali Uchis

さて気を取り直して今週もう1枚トップ10内に初登場しているのは、55,000ポイント(うち実売28,000枚)で4位に初登場してきたカリ・ウチズの3作目『Red Moon In Venus』。コロンビア人の父とアメリカ人の母を持つR&Bシンガーソングライターであるカリにとって、最大のヒットで初のトップ10アルバムになってます。2018年のデビュー・アルバム『Isolation』で鮮烈にデビュー、スティーヴ・レイシー、ジョージャ・スミス、タイラー・ザ・クリエイターブーチー・コリンズといった、新旧の様々なR&B・ヒップホップ系アーティストの共演も得ながら、しなやかな今時のR&Bクイーンぶりを印象づけていたカリ。セカンドは自分のルーツを見直した全曲スペイン語のアルバム『Sin Miedo (del Amor y Otros Demonios)』(愛やその他の悪魔を怖れずに、の意)(2020)で新たな側面を見せて、ここからは濃密なセクシーさ漂うR&Bバラードで初のヒット曲「Telepatía」(2021年25位)が生まれてます。

今回はまた英語楽曲のアルバムに軸を戻しながら、そうした濃密セクシーなスタイルでの今時のR&Bチューンをドリーミーに歌うカリが存分に満喫できるアルバム。その真髄は全編でカリのセクシーさが炸裂している先行シングル「I Wish You Roses」のPVに濃縮されてますねえ。つい先週自分も新作『Love Sick』をトップ10に送り込んでいたボーイフレンドのドン・トリヴァーとはこのカリのアルバムでも「Fantasy」で濃密なコラボを聴かせています。DJにはなかなか使えそうですがまあ、基本夜向けのアルバムですな(笑)。

"Ay-Yo: The 4th Album Repackage" by NCT 127

一方圏外11位以下100位までの初登場は今週3枚。そのうち一番人気で13位初登場は実は初登場でもなんでもなくて、NCT 127が去年9月にリリースした5作目アルバム『2 Baddies』(2022/10/1付チャートに3位初登場)に新曲3曲を追加してリパッケージしたアルバム『Ay-Yo: The 4th Album Repackage』(4th、というのはリパッケージ4枚目ってことらしい)。従来アルバムにボートラ追加してリリースする場合は、前のアルバムのポイントに加算されてたと思うんだけど、Kポップのこのケースに限っては別アルバム扱いなんですかねえ。何だかちょっとスッキリしませんが。

新曲で追加されてアルバムタイトルにもなっている「Ay-Yo」も、元の『2 Baddies』の曲同様、ちょっとエッジの立ったヒップホップ・テーストながらちょっとポップな要素も入ってる楽曲、って感じ。日本人のユータはまだメンバーで入ってるのかな、PV観ると9人しかいないみたいだけど。NCTというとこの10人組ボーイズグループの127の他にも7人組ボーイズバンドのNCTドリームってのもここのところ人気上昇中みたいですね。まあ、リパッケージしただけでもアルバムが13位に飛び込んで来るんですからKポップの勢い、未だ衰える兆しなしってとこでしょうか。

"3 Feet High And Rising" by De La Soul

初登場ではないですが、今週15位にはあのデ・ラ・ソウルの歴史的名盤デビュー・アルバム『3 Feet High And Rising』(1989、当時最高位24位)が33年5ヶ月ぶりにチャートに再登場してます。これは永らくサンプリング・クリアランスの問題でデジタル・ストリーミング解禁されてなかったデ・ラの音源が、3/3から一斉にストリーミング解禁されたことによって、旧来からのファンはもちろん、従来から彼らの名前を知ってた若いヒップホップファンもこの代表的アルバムに殺到した結果なんでしょうね。あと残念ながら、最近メンバーのトゥルゴイ・ザ・ダヴが急逝したことも当然影響してるんでしょう。何でも今回全てのサンプリングがクリアできたわけじゃなくって、クリアできなかったヤツは短くループにしたり、演奏し直ししたりしてこのストリーミング解禁を実現したらしいです。関係者のご尽力に深く感謝します!

何と言っても90年代ヒップホップクラシック「Me Myself And I」やスティーリー・ダンPeg」のサンプリングで有名な「Eye Know」、ホール&オーツのサンプリングが懐かしい「Say No Go」などなど名トラック揃いのこのアルバム、自分もストリーミング解禁後さっそく久しぶりに聴いてました。全てのヒップホップファンにとっての朗報、みんな聴きましょう!w

"Ben" by Macklemore

そのちょっと下、18位には久しぶりに名前を聞いた、あのマックルモア&ライアン・ルイスの片割れ、マックルモアのサード・ソロ・アルバムになる『Ben』が初登場。セカンド・ソロの『Gemini』ってアルバムは2017年に2位初登場してたの、今回初めて知りました(というか、当時スルーしてましたわ)。相棒のライアン・ルイスとは2017年以降もつかず離れずで一緒に仕事してるみたいですが(今回のアルバムでも1曲共作・共同プロデュースしてる)、この年以降メインはソロの活動が最近は多いようで、2018年にはケシャと全米ツアーを共同ヘッドライナーでやったりしてたらしいです。

作風は「Thrift Shop」や「Same Love」の頃からあまり変わってなくて、ポップ系のトラックにシンガーをフィーチャーして、要所要所に彼のラップが入ってくる、っていうパターンですね。あの「Dance Monkey」のトーンズ・アンド・アイをフィーチャーした冒頭の「Chant」とか、コレットなるこちらも女性シンガーをフィーチャーした2曲目の「No Bad Days」などとってもポップ。一方で何とあのDJプレミアをフィーチャーしてマジにラップしてる(笑)「Heroes」なんて曲もあったりして。まあ特筆するほどの作品ではないですが、多分リスナーのガードを下げてくれるような、ある意味フィールグッドな内容ですね。

"Aurora (Soundtrack)" by Daisy Jones & The Six

そして今週最後の初登場はぐーっと下がって96位初登場、3月3日からアマゾン・プライム・ビデオでスタートしてる話題の10話完結のミニシリーズ『Daisy Jones & The Six』のサントラ盤兼、このシリーズの主人公であるバンド、デイジー・ジョーンズ&ザ・シックスによるアルバム、という設定の『Aurora』。70年代にLAから登場して世界的なビッグバンドになりながら、その人気の絶頂に解散してしまうという、なかなかロックファンには胸躍るストーリーらしいですが、テイラー・ジェンキンス・リード作の同名小説を原作にしてるようです。テイラーが子供の頃聴きながら育ったフリートウッド・マックをイメージして書かれた小説らしく、このアルバムにも正しくマックを強烈にイメージされる楽曲が並んでますね

そしてこのアルバムの曲を全曲共作して、プロデュースしてるのが、僕の好きなドーズの初期メンバーで、アラバマ・シェイクスの仕事が有名なブレイク・ミルズ。つい最近彼はマムフォード&ザ・サンマーカス・マムフォードのソロ作を手がけてとってもいい仕事をしてましたが、その縁なのか「Look At Us Now (Honeycomb)」ではそのマーカス・マムフォードが共作、バック・コーラスにはこれも最近の自分のお気に入りのマディソン・カニンガムが参加してるという個人的には更に胸躍る内容。こりゃあこのドラマ観なきゃなあ。ちなみに歌は全てドラマの主演二人、デイジー・ジョーンズ役のライリー・キーオビリー・ダン役のサム・クラフィンがちゃんと吹き替え無しで歌ってるみたい、そして結構巧いし、ライリーのボーカルなんてスティーヴィー・ニックス入ってる瞬間が多いですね。ドラマ、観るのが楽しみです(さっき見始めました。いい感じ)。

ということで今週の100位までの初登場は合計5枚(プラス再登場のデ・ラ)でした。ここでいつものトップ10おさらいです(順位、先週順位、週数、タイトル、アーティスト、<総ポイント数/アルバム実売枚数、*はHits Daily Double調べ>)。

*1 (-) (1) One Thing At A Time - Morgan Wallen <501,000 pt/111,500枚>
2 (2) (13) SOS ▲ - SZA <82,000 pt/398枚*>
3 (1) (2) Mañana Será Bonito - Karol G <60,000 pt/1,486枚*>
*4 (-) (1) Red Moon In Venus - Kali Uchis <55,000 pt/28,000枚>
5 (5) (20) Midnights ▲2 - Taylor Swift <48,000 pt/10,448枚*>
6 (6) (113) Dangerous: The Double Album ▲4 <46,000 pt/3,988枚*>
7 (7) (14) Heroes & Villains - Metro Boomin <40,000 pt/270枚*>
8 (10) (44) Un Verano Sin Ti - Bad Bunny <39,000 pt/640枚*>
9 (9) (279) Starboy ▲4 - The Weeknd <35,000 pt/?>
10 (11) (18) Her Loss - Drake & 21 Savage <34,000 pt/97枚*>

何だか呆れるくらいのポイント数と実売でモーガン・ウォレンカロルGを1位から蹴落としてしまった今週の「全米アルバムチャート事情!」いかがでしたか。さて最後にいつものように来週の1位予想ですが、何といってもモーガン・ウォレンがどのくらいポイント減らすのかということと、それに対抗できる新譜のリリースがあるかが焦点ですけど、来週のチャートの集計期間は3/10~16。ここでモーガンに張れそうなのはずばりマイリー・サイラスしかないでしょう。しかしモーガンが仮に50%ポイント減らしたとしても25万ポイントあるので、マイリーがいかに「Flowers」で人気あるとしてもそのレベルのポイントが叩き出せるかは正直微妙かなあ。なので嫌な展開だけど来週もモーガンが余裕の2週目1位、マイリーは頑張ったけど2位、ということになりそうな気がします。その他トップ10に来そうなのはTWICEのEPくらいでしょうか。ではまた来週。


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