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今週の全米アルバムチャート事情 #183- 2023/5/13付

長いように思えたGWもあっという間に終わり、日常に戻った一週間をお送りのことと思います。先週末の真夏のような暑さから一転して涼しい気候にちょっと逆戻りした感のある今週、体調崩さぬようご自愛下さい。

ところでこの「全米アルバムチャート事情!」に関係するアルバムチャート上のルールの変更が、先週末ビルボードから発表されました。その内容は3年前に導入された「コンサートチケットやグッズとアルバムとのバンドル販売による売上はチャートポイントに加算されない」というルールが一部緩和されて、「ファン・パック」という基準に合致する場合は、バンドル販売によるアルバム売上もチャートポイントに加算される、というもの。バンドル販売というのは21世紀に入ってから一般的なアーティストサイドやレコード会社のマーケティング戦略として多用されはじめて、2010年代後半には、これによってアルバムチャート1位を獲得する作品が続出して業界で問題視されたのが、2020年10月の「バンドル禁止」の要因でした(当時何でボン・ジョヴィバックストリート・ボーイズのアルバムが1位になるの?と思ってた人いたと思いますが、それらはこうした戦略の結果でした)。
なお、今回のウェブストアなどで販売される「ファン・パック」に合致するためには、①バンドルのパターンは2種類まで(例えばCDとTシャツ、CDとキャップ、など)、②チケットや握手会などとのバンドルは依然禁止③バンドルできるアルバムはフィジカル(CD、カセット、レコード)のみで、デジタル・ダウンロードは不可、④バンドル商品(マーチ、と言います)は同じウェブストアでバラでも購入可能、⑤バンドル発売前にビルボード誌とルミネート社(旧ニールセン、チャートデータを提供するデータ会社)の承認が必要、という5要件をクリアする必要があるとのこと。
業界からの要望によってこの規制が緩和された背景には、最近のKポップを中心とした「複数CDジャケパターン」「CDパッケージ内封入グッズ」で、ファンの組織的購入活動によるチャート席巻がチャートを歪めているとの批判と、通常のバンドルが認められないのは不公平、という意見も多かったことによるようで。7/15付チャートから適用になるというこの変更によって、そうした歪んだチャートがどれだけ是正されるのかされないのか、結構要件が面倒くさくて運用がついてくるのかが危ぶまれるので、さほどの効果はないのでは、というのが個人的感想ですが、ま、注目していきたいと思います。

"One Thing At A Time" by Morgan Wallen

ということで今週5月13日付のBillboard 200、全米アルバムチャートの1位、ザ・ナショナルジャック・ハーロウが何とかモーガン野郎を叩き落としてくれるのでは、と期待したんですが、彼らは残念ながら及ばず。また先週に続いて重要なKポップ・リリースを見落としていて(最近よく見落とすなあ)、それがかなり迫ったんですが、わずか3,000ポイント差でこれも及ばずで、まんまとモーガン野郎の『One Thing At A Time』が対先週比わずか8%減の138,000ポイント(うち実売5,500枚、これもわずか7%減)9週目の1位をキープしちゃってます。

Hot 100の方でも相変わらず今週も「Last Night」がしつこく1位に居座っていて、そちらでは今週通算5週目の1位を記録。先々週SZAの「Kill Bill」がドジャ・キャットリミックスのリリースで一瞬1位を取ったのにまた先週からモーガン野郎が1位。しかも今週はこの曲カントリー・エアプレイ・チャート(2012/10/20まではカントリー・シングルス・チャートでした)でも1位になり、史上初めてこの2つのチャートで同時に1位になった曲なんですって

"10th Mini Album: FML (EP)" by SEVENTEEN

そのモーガン野郎をわずか3,000ポイント足らずに仕留め損ねたのがKポップ13人組ボーイズ・バンドのSEVENTEENの6曲入りEP『10th Mini Album: FML (EP)』。実売132,000枚(今週ぶっちぎりのアルバム・セールス・チャート1位ですわ)を含む135,000ポイントというからホントにあとちょっとだったのになあ。彼らにとっては昨年8月に4位に入った『SEVENTEEN 4th Album Repackage: Sector 17』に続く3作目のトップ10でしかも今回が最高位。今回惜しくも逃がしているけど、この規模で売上叩き出せれば次回は必ず1位でしょう。本国韓国では発売初日に399万枚売ったというからスゴいもんです。

でも今回自分がこのアルバムのリリースを見落としていた理由は、このEPのリリースが通常のチャート集計期間の初日である金曜日(今回は4/28)リリースではなく、先週の集計期間の途中である4/24(月)リリースだったからなんですよね。先週は4日分のポイントしかなかったのでチャートインしなかったんですが、今回はフルウィークのポイントが入ったのでこの順位に来たというわけ。だったらちゃんと金曜日リリースにしとけよ!そしたらモーガン野郎撃墜してただろうに。冒頭にお話ししたように、Kポップ常套手段の何と14種類のCDパッケージバリエーションをリリースしてて、バンドル禁止の規制にかからない形でファンの組織的購買をバックにポイントを積み上げてるだけに、だったらモーガン撃墜しろよ、と思ってしまいます。あ、内容はいつものエレクトロ系コンテンポラリー・ポップ系中心でそつのない出来ですわ。

"Desvelado" by Eslabon Armado

さて今週のトップ10は国際色豊かで、2位の韓国に次いで6位に初登場しているのが、カリフォルニア出身のリージョナル・メキシコ音楽グループ4人組のエスラボン・アルマードの6作目になる『Desvelado』。44,000ポイント(うち実売500枚以下)で昨年5月に前作『Nostalgia』(9位)で初のトップ10入りを果たして以来、2作連続のトップ10でしかも自己最高位(かつメキシカン・アーティストとしては史上最高位)を更新してます。今回の躍進の要因になってるのは、いかにもメキシコ国境音楽的レトロでスタッカートなトランペットの音色がクセになるシングル「Ella Baila Sola(彼女は一人で踊る、という意味)」が今週Hot 100でも4位に昇る大ヒットになっていることによるもの。でもそれだけじゃなくて、最近このエスラボン・アルマードだけじゃなく、この曲にフィーチャーされてるメキシコ人ラッパー兼シンガーのペソ・プルーマがソロで「Por Las Noches」(Hot 100 28位)や同じくメキシコ人のイング・ルーカスとのコラボヒット「La Bebe」(同11位)をヒットさせたりと、ここ最近にわかにメキシコ系音楽がポップ・チャートを席巻し始めてるというのが大きい要素としてありますね。メキシコ、最近来てますわ

ご存知のようにバッド・バニーJバルヴィンのブレイクで数年前からのラテン・ブームでスペイン語の曲がポップ・クロスオーバーすること自体は最近珍しくないんですが、従来のラテン・ブームがレガトンやラテン・トラップ系のいわゆるクラブ・ヒップホップ系のサウンドのプエルトリコやコロンビアのアーティスト中心だったので、そこから今度はこういう郷愁系の地元本来系のサウンドを奏でる、メキシコ系アーティストにも人気が広がっているという事実を見ると、いよいよ本格的なラテン音楽による全米マーケットの席巻が第2段階に入ってきたなあ、と実感しますね。そしてメキシコ系ではもう一組、アコーディオンをトレードマークにしているテキサス出身のグルーポ・フロンテラという6人組がバッド・バニーをフィーチャーした「Un x100to」を先週Hot 100の5位に送り込んできてて(今週はダウンして7位)、今Hot 100のトップ10にはリージョナル・メキシカンの曲が2曲も入ってるというなかなか凄い状況になってます。さあ今年はリージョナル・メキシカンが来るか?

"Jackman." by Jack Harlow

すっかり韓国とメキシコで国際色豊かな雰囲気の中、トップ10もう1枚の初登場は、先週予想でモーガンと1位を争うか?と言ってたジャック・ハーロウの3作目『Jackman.』が意外と弱めで35,500ポイント(うち実売1,500枚)で8位初登場。前作の『Come Home The Kids Miss You』が初週113,000ポイントだったんで今回かなりポイント落としてます。でもちょっと聴いた感じでは、かなり70年代R&B風のトラック(ビル・ウィザーズのサンプリング等もあり)を結構カッコよく乗りこなしているフロウがいい感じで、シーンの評判悪かった前作に比べてかなり気合い入った意欲作だと思うんですがね。頭3曲の「Common Ground」「They Don’t Love It」「Ambitious」とかかなりドウプですぜ。

何でもジャック・ハーロウは今月全米封切予定の、1992年の映画『White Men Can’t Jump』のリメイク版で、当時ウディ・ハレルソンが演じた、白人でメチャクチャバスケが巧いキャラを演じるらしく、このアルバムのジャケに移ってるバスケゴールのフープはその番宣みたいな役割を果たしてますな。でもウディ・ハレルソンならともかく、ジャック・ハーロウが演技できるのか?という疑問はありますが(笑)。映画の話はさておき、取り敢えず今回のアルバムはクラシックな感じもあっていいし、客演ゲスト一切付けずにピンでやっててこのクオリティなんでなかなかの出来だと思います。前作がだいぶイマイチだったのでちょっと見直しました。

"First Two Pages Of Frankenstein" by The National

ということでいつになくにぎやかなトップ10内初登場に続き、11位以下100位までの初登場は今週4枚。そのトップバッターは先週の予想でトップ争いに加わるかも、と言っていたザ・ナショナルの9作目『First Two Pages Of Frankenstein』。14位初登場で惜しくもトップ10を逸してます。前作『I Am Easy To Find』(2019年5位)がコロナ前のリリースでしたが、このコロナ期前と今とでは、ザ・ナショナルとその中心メンバーのデスナー兄弟にとってランドスケイプが大きく一変したのではないでしょうか

自分もこのシンシナティ出身のバンドはその独特の世界観が気に入って、2010年の6作目『High Violet』(3位)でブレイクしたくらいからフォローしてました。でもこの4年の間にアーロン・デスナーはコロナ期入って以降のテイラーの3部作『Folklore』『Evermore』『Midnights』にプロデューサーとして、楽曲の共作者として深く関わって、新世代のメインストリーム・ポップ・サウンドメイカーとしての無双の存在感を確立してしまったし、このアルバムでも変わらないハスキー・バリトンを聴かせているボーカルのマット・バーニンジャーはその間その深みのあるボーカルでのブルーアイドソウル・アルバム『Serpentine Prison』(2020)で僕らを刮目させてくれたし、デスナー兄弟ボン・イヴェールと組んだビッグ・レッド・マシーン(当然彼らの地元シンシナティ・レッズの70年代のニックネーム)で、テイラーと紡いだ音像路線をまた違った世界観で展開してみせた名盤『How Long Do You Think It’s Gonna Last?』(2021年82位)を届けてくれた。つまりこの4年で彼らはすっかりアメリカのメインストリーム・オルタナティブ・ロックの中心的存在になってしまったわけです。で、今回のこのアルバムはその路線の延長でもあり、ザ・ナショナルとしてこの4年の流れを踏まえて自己を再定義した作品になってるように思います。コロナ前のサウンドと比べてエレクトロ的サウンドはやや控えめで、よりバンドサウンドとアコースティックな音像を前面に出しているのはやはりテイラーとの化学変化がもたらしたものでしょう。そのテイラーをはじめサフィアン・スティーヴンスフィービー・ブリッジャーズも参加しているこのアルバム、自分の今年の年間アルバムランキング上位に確固たる地位を確保すると思います

"Dave’s Picks, Volume 46: Hollywood Palladium, Los Angeles, CA - 9/9/72"
by Grateful Dead

思わず長くなってしまいました。続いて28位初登場は、毎度おなじみグレイトフル・デッドのライブ音源コレクター、デイヴ・ラミューさんによる選りすぐりライブ音源集第46弾『Dave’s Picks, Volume 46: Hollywood Palladium, Los Angeles, CA - 9/9/72』。
今回はロスのハリウッド・パラディアムでの1972年、デッドが絶頂期だった頃のライブ音源で、25,000枚の限定リリース。おそらく今回も完売でこの順位だったんでしょう。ここ数回はトップ20の上位にチャートインしていただけに「次はいよいよトップ10か?」とも思われたんですけど、リリース枚数を最低35,000枚くらいにしないと今のチャート状況ではトップ10は難しいでしょうねえ。

"Nate Smith" by Nate Smith

30位に入ってきたのは、昨年シングル「Whiskey On You」(Hot 100 43位)がポップ・チャートでもクロスオーバー・ヒットになってブレイクした新人カントリー・シンガーソングライター、ネイト・スミスのデビュー・アルバム『Nate Smith』。そのポッチャリとした風貌から中西部の出身かと思いますが、カリフォルニア出身らしいです。

作風的には力強いカントリー・ロックっぽいスケールの大きい楽曲を聴かせてくれていて、モーガン野郎のようなヘナチョコ・カントリー・ポップ路線とは一線を画するようなスタイルがなかなか好感持てますね。ルーク・コムズあたりのスタイルに近いんだけど、よりロックっぽいっていうか、ドートリー(懐かしい名前だなあ)あたりも彷彿させる熱いボーカルが魅力のヤツです。ちょっと要注目かも。

"Illenium" by Illenium

そして今週最後の100位までの初登場アルバムは42位に入ってきた、アメリカ人EDMDJ、イレニアム(本名:ニコラス・ダニエル・ミラー)5作目のアルバム『Illenium』。3作目の『Ascend』(2019)で14位とブレイクしたイレニアムですが、今回は前作『Fallen Embers』(2021年49位)同様、このあたりの順位にとどまっています。

とはいえ、前作はスポティファイでも4億回を超えるストリーミングを記録するなど既に人気は確立されていて、グラミー賞の最優秀ダンス・エレクトロニック・アルバムにもノミネートされてます。今回のアルバムではキャッチーなメロディとスケールの大きい楽曲が満載で、アヴリルや新世代のポップスター、ジェイク(JVKE)、エミネムとのコラボで有名なスカイラー・グレイなど、多彩なゲストを迎えたいい意味でコマーシャルな内容になってますね。野外で聴くと気持ちよさそうです。

ということで今週のトップ10おさらいです(順位、先週順位、週数、タイトル、アーティスト、<総ポイント数/アルバム実売枚数、*はHits Daily Double調べ>)。

1 (1) (9) One Thing At A Time - Morgan Wallen <138,000 pt/5,500枚>
*2 (-) (1) 10th Mini Album: FML - SEVENTEEN <135,000 pt/132,000枚>
3 (4) (28) Midnights ▲2 - Taylor Swift <57,000 pt/14,500枚*>
4 (6) (21) SOS ▲2 - SZA <56,000 pt/153枚*>
5 (7) (121) Dangerous: The Double Album ▲5 - Morgan Wallen <47,000 pt/1,173枚*>
*6 (-) (1) Desvelado - Eslabon Armado <44,000 pt/141枚*>
7 (8) (6) Gettin’ Old - Luke Combs <37,000 pt/2,760枚*>
*8 (-) (1) Jackman. - Jack Harlow <35,500 pt/1,500枚>
9 (9) (22) Heroes & Villains - Metro Boomin <34,500 pt/1,166枚*>
10 (10) (193) Lover ▲3 - Taylor Swift <34,000 pt/6,272枚*>

KポップのSEVENTEENがもう少しで1位を取りそうで、リージョナル・メキシカンのエスラボン・アーマドがメキシカン・アーティストとしてアルバム・チャート最高位記録を樹立した今週の「全米アルバムチャート事情!」、いかがでしたか?さて最後にいつもの来週1位の予想です(集計対象期間:5/5~11)。先週、先々週とKポップ勢がもう一息足らずにモーガン野郎を撃墜できなかったんですが、いよいよ来週は我らがエド・シーランが気持ち良くモーガン野郎を撃墜してくれそうですね(笑)。折からマーヴィン・ゲイの「Let’s Get It On」の盗作訴訟に見事に勝ったばかりのエド、その勢いで来週1位を決めてもらいたいですね。ではまた来週。

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