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今週の全米アルバムチャート事情 #251- 2024/8/31付

ここのところ毎週のように日本人アスリートの素晴らしいニュースが入ってきていますが、今週は極めつけ、出るか出るかと期待が膨らんでいた大谷翔平選手の40盗塁・40HRが見事達成、それも9回裏2アウト同点で満塁の状況で打席が回ってきた大谷が見事満塁サヨナラホームランで決めるという、漫画でもここまでベタな展開はないよな!という凄さで決めてしまいました。あの試合はライブで見てましたが、彼が打席に入った瞬間、理由もなく「ひょっとしてここでHRで決めるかも」という奇妙な予感めいたものがありました。いやあ鳥肌立った。これだからスポーツ観戦はやめられません。今週末は先週残念ながら腰痛で棄権した松山英樹選手が、PGAツアーチャンピオンシップで優勝!という勇姿を是非見たいですね。

"F-1 Trillion" by Post Malone

今週の全米アルバムチャート、8月31日付のBillboard 200は大方の予想どおりポスト・マローンがカントリーの大スター達とのコラボ曲を中心にまとめたカントリー・ポップ・アルバム『F-1 Trillion』が250,000ポイント(うち実売80,000枚)という力強い出力で余裕の初登場首位を決めています。今週UKでも初登場1位で英米共に今回で3枚目のナンバーワンアルバムになりました。既にモーガン野郎との無茶苦茶キャッチーなカントリー・ポップ「I Had Some Help」が1位、ブレイク・シェルトンとのこちらもオーセンティックなカントリー・ポップながらやはりキャッチーな「Pour Me A Drink」が12位と前シングルも好調だったんでまあこの1位は間違いないところ。

しかしこのアルバムもう何回か通して聴いてますが、「ポップ・スターがちょっとカントリーの人に来てもらってやってみました」的なお遊びな感じでは全然なくて、ポスティとカントリーの大御所(ティム・マッグロー、ドリー・パートン、ハンク・ウィリアムスJr.)や中堅の実力者(ルーク・コムス、ブレイク・シェルトン、ブラッド・ペイズリー、クリス・ステイプルトン)に新進気鋭組(レイニー・ウィルソン、ジェリー・ロール、ハーディ)、更にはブルーグラスの若きギターの名手、ビリー・ストリングスといった、幅広い顔ぶれと完璧にオーガニックに一体になった楽曲を展開しているのはさすがだな、と感服してます。いろいろ制作の経緯を読むと、曲ごとにカントリーの人が持ってきた曲に手を加えて一緒にやる、というありがちなアプローチではなくて、ポスティがデビューからの右腕のルイ・ベル、カントリー・ポップではモーガン野郎その他で実績充分のチャーリー・ハンサム(ここがジョーイ・モイじゃないところが個人的にはポイント高し)らの中心メンバーに、ルーク・コムズハーディ、アシュリー・ゴーリーといったナッシュヴィルの連中を加えたメンバーで、ガチで曲を書いていった、というアプローチなのが、こうした一体感ある出来上がりに無茶苦茶貢献してるんでしょうね。ルーク・コムズは自分が入ってる「Guy For That」「Missin’ You Like This」だけじゃなくて、ティム・マグローハンク・ウィリアムスJr.、レイニー・ウィルソンとの曲なんかも共作していて、このアルバムの制作プロセスにかなり関与してたのが伺えますね。今年はこれでカントリー以外のアーティストがカントリー・アルバムを作ってヒットさせるということでいうと、ビヨンセの『Cowboy Carter』に続く2作目になりますが、この2枚、リリースの意図とかアプローチが全く違うのがなかなか興味深いところ。このあたり、来週も1位だったらもう少し掘り下げたいと思います。いやしかしポスティって器用なヤツだなあと思いますが、この後彼はどこに行くんでしょうか。次は久しぶりにガチでオールドスクールなヒップホップ・アルバムとかやって欲しいと個人的には思うんですが。

"Popular Monster" by Falling In Reverse

さて今週トップ10の初登場はポスティのみで、圏外11〜100位の初登場も2枚と今週は地味目の全米アルバムチャートになってます。そのうち一番人気は12位初登場と惜しくもトップ10を逸している、ラスヴェガス出身のエモ・メタルコア・バンド5人組のフォーリング・イン・リヴァースの5作目になる『Popular Monster』。今回12位というのは彼らにとってキャリアハイの順位になりました(従来はデビューアルバム、2011年の『The Drug In Me Is You』の19位)。

ラスヴェガスというとイマジン・ドラゴンズと同じ出身になりますが、何となく楽曲のドラマチックな構成とか、うまーくキャッチーなメロディをハードなサウンドに忍ばせているあたりは確かに共通点あるなあ、という感じはします。ただこちらのフォーリング・イン・リヴァースはかなりメタルコア寄りのサウンドではありますが。ただこの手のバンドによくあるように、ジャンルには基本拘ってない風で、カントリーのジェリー・ロールとコラボした「All My Life」とか思いっきりキャッチーでポップな1990年代風ハードロックだし、ラッパーのテック9インをフィーチャーした「Ronald」とかは「おお今時リンプか??」と思うような思いっきりテンション振り切ったラップメタルだしと、まあいろいろやってくれてます。2000年代によく聴いたようなこういう音が今また支持を得てるというのは、今カントリーが四半世紀ぶりの回帰ブームに入りつつあるというのとどこか通じるところがあるのかもしれません。

"Before I Disappear Again" by NoCap

そして今週最後の初登場はこちらもトップ20内、18位にチャートインしてきたアラバマ州モーバイル出身のラッパー、ノーキャップ(本名:コービ・ヴァイダル・クロフォードJr.)のセカンド・アルバム『Before I Disappear Again』。ヤングボーイ・ネヴァー・ブローク・アゲインのレーベルと契約して、2022年のデビュー・アルバム『Mr. Crawford』がいきなり全米8位とブレイクしていたのですが、その後どうやらYBNBAとケンカ別れしてレーベルを出たらしく、今回はメジャーのアトランティックからリリースしてます。ここ2年くらいの間はメジャーなシーンではあまり名前を聞いていなかったにもかかわらずちゃんとこうしてメジャーと契約できたり、新作がこういう高い順位で入ってくる、というのはラッパー、ノーキャップに対するファンやシーンの評価が高いということなんでしょうね。

ファーストでもそうでしたが、トラップ一辺倒ではなく、アコギをフィーチャーしたエモなトラックとフロウが秀逸な「Drown In My Syrophoam」とか、トラップでもオートチューンをかけて、早口フロウでラップ自体でビートを造り出してる、クエイヴォとの「Celean」とか、トラックも工夫したものが多く、本人のラップ・スキルもかなり実力を感じさせるものなんで、世界的にはもうUSくらいでしか聴かれてなくて、そのUSでも今急速に支持を失いつつあるトラップ系でもこれだけ聴けるし、しっかり支持も勝ち得ているということでしょう。こういう作品がもっと増えてくるとトラップも悪くないね、ということにもなると思うんですがどうでしょうか。

以上今週の100位までの初登場は3枚。一方Hot 100の方ではいやあ今週もシャブージー、首位をキープしちゃいましたよ奥さん!これで通算7週1位の「A Bar Song (Tipsy)」、年間チャートでもいいところまで行くんじゃないですかね。あと、この曲のグラミーの扱いがどうなるかが個人的には興味あるところです。シャブージーは新人賞部門ノミネートは当確として、曲はROYにノミネートされるか?あと今週のもう一つの話題は、この2人が組んだらもう売れるしかないやん、というレディ・ガガ&ブルーノ・マーズの「Die With A Smile」。もうこれは初登場1位しかないでしょう、と思ってたら意外や意外3位初登場に留まってます。ちょっとレトロでノスタルジックな雰囲気満点の、さすがのキャッチーなメロディ展開のこの曲、来週くらいには1位にジャンプアップ、というのもあるかもしれません。あ、あとグラミーのソング・オブ・ジ・イヤーのノミネートもかなり堅い線でしょうねえ。では今週のトップ10おさらいです(順位、先週順位、週数、タイトル、アーティスト、<総ポイント数/アルバム実売枚数、*はHits Daily Double調べ>)。

*1 (-) (1) F-1 Trillion - Post Malone <250,000 pt/80,000枚>
2 (2) (22) The Rise And Fall Of A Midwest Princess - Chappell Roan <72,000 pt/13,500枚*>
3 (1) (18) The Tortured Poets Department - Taylor Swift <62,000 pt/6,389枚*>
4 (3) (77) One Thing At A Time ▲5 - Morgan Wallen <60,000 pt/1,531枚*>
5 (4) (14) Hit Me Hard And Soft - Billie Eilish<53,000 pt/7,237枚*>
6 (5) (8) The Great American Bar Scene - Zach Bryan <44,000 pt/489枚*>
7 (6) (11) Brat - Charli XCX <41,000 pt/3,584枚*>
8 (7) (91) Stick Season ▲2 - Noah Kahan <38,000 pt/2,548枚*>
9 (8) (189) Dangerous: The Double Album ▲6 - Morgan Wallen <36,000 pt/439枚*>
10 (10) (52) Zach Bryan ▲ - Zach Bryan <33,000 pt/2,895枚*>

久々に首位が大きく入れ替わった今週の「全米アルバムチャート事情!」いかがでしたか?最後はいつものように来週の1位予想(チャート集計対象期間:8/23~29)ですが、来週いよいよリリースされるサブリナ・カーペンターのアルバムが、ポスティを引きずり下ろして首位になるか?というのが最大の注目ポイントになりますね。既にHot 100のトップ10に2曲チャートインしてるというはストリーミング・ポイント上かなり強いと思うので、来週はサブリナの1位の線が強そうです。あとトップ10に来そうなのがカントリーのレイニー・ウィルソン、そして10年前のインディリリースのミックステープをストリーミングとフィジカルで再発したトラヴィス・スコットあたりでしょうか。ではまた来週。


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