見出し画像

今週の全米アルバムチャート事情 #85- 2021/6/26付

残念ながら優勝争いには絡めなかった松山英樹選手ですが、同じく全米オープンゴルフに参戦した星野陸也選手共々最終日は素晴らしいラウンドで今後につながるプレイを見せてくれました。自分も観戦の後、下手なゴルフをもっと練習しなくては、と改めて思った次第。コロナで活動が限られる中、ゴルフについては屋外で距離が保てることもあって、最近静かなブームを呼んでるようなので、今が旬なのかもしれないですね。さて今週も「全米アルバムチャート事情」お届けします。連動ポッドキャストの方も週末までには何とか配信の予定ですので、それまでは下記のリンクで過去の配信をお楽しみ下さい。

画像1

さて今週末6/26付のBillboard 200全米アルバムチャート、1位には先週のリル・ダークに続いて、シカゴ・ドリル・シーンで最近存在感をぐんと増しているポロGの3作目『Hall Of Fame』が143,000ポイント(実売18,000枚)で初登場してきました。彼はここ3作のBillboard 200の順位がデビュー作『Die A Legend』が2019年6位、2作目『The Goat』が去年2位、そして今回の1位と着実にギアを上げてきていますが、今回は先行シングルの「Rapstar」が4/24付Hot 100でいきなり初登場1位を決めた、という勢いもあってまあある意味当然といえば当然のチャートアクションか。

その「Rapstar」のPVに登場するポロG、途中で頭にバンダナとか巻いてちょっと2パック気取りなのだが、この曲のリリックの中でも自分が2パックの生まれ変わりと呼ばれてる、なんていうくだりもあるし、彼が2パックをリスペクトしてるのは結構有名な話のようなので、ああ、そういう線を狙ってるのね、と思ったもの。確かにドリルと言うにはややフロウもメロディックだし、基本トラップっぽいトラックなんだけどいわゆる売れ線トラップみたいにうるさくなく、メインはあくまでポロGのフロウ、というミックスなので意外と聴きやすい。ラップしてる内容もリアルっぽいのでティーンエイジャーのヒップホップ・ヘッズには受けるんだろうね。

画像2

そしてそのポロGと1位を争うのでは、と言っていたミーゴスの3年ぶりのアルバム、「Culture」シリーズの第3弾『Culture III』が130,500ポイント(実売22,500枚)という1位のポロGと僅差で2位に初登場。これまでの「Culture」シリーズのアルバムが2枚連続でBillboard 200で初登場1位を決めてたし、今回集計期間の6/11〜17の枠を目一杯使って、6/11にまずオリジナルの19曲入りアルバムをドロップ、そして17日は5曲のボートラを追加したデラックス・バージョンをドロップという、最近のヒップホップ作品のマーケティングとしては最もアグレッシヴな戦略を展開したのだけど、Hot 100で1位を獲得したポロGの「Rapstar」のような「立った」トラックに欠けたあたりが僅差で負けた理由かもしれません。

ミーゴスというと最近は3人揃ってよりも、メンバーのソロ活動が結構目立ってるねえ。垂れ目が愛嬌のあるクエイヴォはいろんな作品に客演して中でも最近ではジャスティン・ビーバーの「Intentions」(昨年最高位5位、年間17位)にフィーチャーされてジャスティンと一緒にフィールグッドなパフォーマンスを聴かせてたし、従兄弟のオフセットカーディBとの離婚騒ぎも一段落する一方、2019年にはソロアルバム『Father Of 4』が見事Billboard 200の4位に初登場してたし、クエイヴォの甥っ子のテイクオフは他の二人ほど派手ではないけど、2018年に出したソロアルバム『The Last Rocket』はちゃんと4位の大ヒットになってるし。「Bad And Boujee」(2016年最高位3週1位、年間6位)で大ブレイクしてからこっち、アトランタのメインプレイヤーなので、今回のリリースを待ってたファンも多いはず。冒頭の「Avalanche」でトラップのハイハットをバックに聞こえてくるテンプスの「Papa Was A Rolling Stone」のループからしてソリッドな感じで、作品としてもなかなか評価高いようです。

画像3

この2枚はまあ予想通りなんだけど、今週のトップ10にはいくつかサプライズがあって、その一つが46,000ポイント(実売43,000枚、今週のアルバム売上トップです)で6位に初登場してきたTWICEの6曲入りEP『Taste Of Love』!先週の予想で名前は出したものの、US本格進出盤だった2020年の前作『Eyes Wide Open』が72位だったから、最近Kポップ盛り上がってるといってもトップ20くらいの初登場だろう、と思っていたら何と見事トップ10に入ってきました

先行シングルの「Alcohol-Free」はちょっとだけボサノヴァ入ったポップなミディアム・ナンバーで、BTSTXTあたりのビートの激しいサウンドとは一線を画してますが、YouTubueには彼女達が、あのエレン・ディジェネレスの『The Ellen DeGeneres Show』で紹介されるなど、相変わらずKポップ系のプロモーション、攻めてますねえ。Kポップ系のガールグループだと、BLACKPINKが昨年10月に『The Album』が2位初登場してるので、いよいよKポップ包囲網が着々とUS市場を押さえ始めた感じですね。ちなみにTWICEの9人のメンバーのうち3人は日本人の女の子なので、日本人アーティストとしてトップ10を達成したということになります。これって何以来なのか、次回までに調べておきますね。

画像4

そしてもう一つ驚いたのは、初登場ではないのだけど、37,000ポイント(実売3,000枚)で先週の116位から一気に7位にジャンプアップしてトップ10に飛び込んできたボー・バーナムという今年30歳のコメディアン兼ミュージシャンがネットフリックスで5/30に放送したTVスペシャル『Bo Burnham: Inside』のサントラ盤扱いのアルバム『Inside (The Songs)』。このスペシャルは、コロナ時代を反映して、ボーが自宅でロックダウンしながら、ある時は歌い(曲も自分で書いてて自分で打ち込みベースでやってるんですが、これがなかなかいい感じのエレクトロ・ポップ)ある時はコメディのパフォーマンス、ある時は自宅のインテリアやその辺にあるものと照明を使いながら独特のイメージを見せる、というパフォーマンスを観客や録画クルーなしで一人でやってる様子を収録したドキュメンタリー作品なんですね。ジャンプアップの理由は、このアルバムのリリースが先週のチャートの集計期間の最終日で、先週は一日分のデータしか集計されなかったため。

このアルバムはそのスペシャルで使われた曲を収録してるんですが、いかにもな感じを面白おかしく歌う「White Woman’s Instagram(白人のおねーちゃんがアップしてるインスタ)」とか、自分が30歳になる瞬間をコメディ風に歌う「30」、あの名コメディアン俳優、ウィル・フェレルを彷彿させるエレピ弾き語りでかなり笑わせる「Welcome To The Internet」など結構最高そうな内容で、こりゃネットフリックス見なきゃ!と思わせる感じ。そして全曲自作の楽曲もどれもコメディアンの余芸のレベルを超えてるのも凄いとこ。いやまだまだ知らない凄いやつがいます

ところでコメディアンのトップ10アルバムって、ウィアド・アル・ヤンコヴィック2014年のNo.1アルバム『Mandatory Fun』以来じゃないかと思うんですが、これも次回までに調べておきます。ビルボード誌は2015年のリル・ディッキーの『Professional Rapper』(7位)以来って書いてるけど、あれって普通のラップ作品だと思うんですけどねえ

画像5

と、ここまでヒップホップの話題作あり、人気コメディアンのアルバムありと盛り上がってるところで、思ったよりかなり地味に37,000ポイント(実売15,000枚、ポロGに負けてる!)で何と8位初登場だったのがマルーン5の『Jordi』。去年の大ヒット「Memories」(最高位2位、年間8位)収録だし、2007年の2作目『It Won’t Be Soon Before Long』から2017年の前作『Red Pill Blues』までここ5作は必ずBillboard 200の1位か2位に入れて来てたマルーンのアーティストパワーだったら1位は堅い、と思ったのですが

Memories」がヒットしてたのが去年とは言ってもほぼコロナ前だったし、ちょっと間が開きすぎたというのはあったのかも。先週ユニバーサルの方とこのアルバムの話をした時は「今度はちょっと暗いし1位は無理かも」と心配されてたのが現実になった訳ですが、今回もミーガンやらスティーヴィー・ニックスやらH.E.R.やら客演陣は豪華で、ジュースWRLDニプシーの故人二人まで担ぎ出してますが、そんなに暗い感じはしませんでしたが。彼らが圧倒的だった時代が次第に変化して来ているのかもしれません。

画像6

さてトップ10も結構にぎやかでしたが、今週はトップ10圏外100位までも9枚が初登場するという大賑わい。というのもこの集計期間にちょっとしたイベントがあったからですが、それは後ほどまとめて解説するとして、圏外初登場一番人気で12位に入ってきたのが、マンモスWVHの同名タイトルのデビュー盤。え?マンモスWVHって誰かって?グループ名のWVHがウルフギャング・ヴァン・ヘイレンの略だとお話しすれば「あっそうか!」と思う人も多いはず。そう、マンモスWVHとは昨年10月に65歳の若さで惜しくも高いしたエディ・ヴァン・ヘイレンの息子のウルフギャングモーツァルトのフルネーム、ウルフギャング・アマデウス・モーツァルトにちなんだ名前です)君の初ソロ・プロジェクト・アルバムなんです。

ヴァン・ヘイレンの後半にはバンドのベーシストとしても活躍していたウルフ(通称)はもともと父親の薫陶もあってギターも巧いんですが、このアルバムでは基本楽器全て自分でやってるようで、それを逆手に取った「Don’t Back Down」のPVがなかなか楽しいですね。それにしてもウルフ、ごっついなあ(笑)ヴァンヘイレン直系のストレートで重量級のハードロックから、影響を受けたというトゥールや、ロイヤル・ブラッドに通じるようなヘヴィーなナンバー、そして父エディを追悼する心に染みる「The Distance」まで、全曲を書いてるウルフの作曲の才能もなかなか素晴らしいものがありますね。先頃リリースされたウィーザーの『Van Weezer』と並んで、ヴァンヘイレンファンはこのアルバム、聞き逃せませんよ!

ところでさっき触れた「ちょっとしたイベント」ですが、ヴァイナルフリーク(アナログ盤マニア)ならよくご存知の世界中で一斉に開催されるレコード・ストア・デイ2021(RSD 2021)の1回目が今回の集計期間中の6/12で、例年これに併せて限定数でリリースされる様々の既発表・未発表音源の初ヴァイナル化だったり、特別仕様のヴァイナルリリースされたりと、まさしくこの日は世界中のアナログ盤マニアがこぞってこうした特別リリースを買いに走るのですが、そのうち、今週のチャートに初登場してきたのが、下記の4枚です。

画像7

#33 - No Gods No Masters - Garbage
#64 - The Truth - Prince
#70 - The Battle Of Mexico City - Rage Against The Machine
#74 - Angel Dream: Songs And Music From The Motion Picture “She’s The One” - Tom Petty & The Heartbreakers

このうち純粋に新譜なのは33位初登場のガーベッジの5年ぶりの新作『No Gods No Masters』。RSD 2021では、このアルバムの正規版リリースに併せて、特別ジャケットとピンクのカラーヴァイナルバージョンがリリースされました。ボーカルのシャーリー・マンソン曰く「ロキシーミュージックを思いながら作った、これまでで一番ポップなアルバム」とのこと。
64位のプリンスThe Truth』は1998年リリースの3枚組アルバム『Crystal Ball』の4枚目のボーナスCDとしてリリースされたのが単独で今回13,000枚限定で初ヴァイナルリリースされたもの。
70位のレイジの『The Battle Of Mexico City』は、1999年リリースのNo.1アルバム『The Battle Of Los Angeles』ツアーの時のメキシコ・シティのパラチオ・ロス・デポルテス・アリーナでの公演を収めたライブ盤で、これまではビデオのみのリリースだったものが今回12,350枚限定でヴァイナル・リリース。

そして74位のトム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズの長いタイトルのアルバムは、1996年の映画『She’s The One』のサントラとしてリリースされたアルバムから9曲をリミックス・リマスターして、そのちょっと前にリリースされて昨年大幅なリマスター+拡張ボックスとして再発された『Wallflowers』(1994)期の未発表曲を加えた特別記念盤。これは自分も買いました!しかしこうしてRSDのリリースがいくつもチャートに登場するということは、RIAA(全米レコード業協会)の2020年のレポートでも、前年比29.2%と全ての音楽消費の中で最も売上が伸びた(ストリーミングや有償サブスク以上に)と報告されたヴァイナル人気が形になってるってことですね。いやあ素晴らしい(笑)

画像8

さて圏外初登場のご紹介、ちょっと長くなってますので、残り4枚は駆け足で行きます。
まず35位初登場はカンザス州出身、ノースキャロライナ州育ちのラッパー兼プロデューサーのピエール・ボーン(本名ジョーダン・ティモシー・ジェンクス)の2作目で初のトップ100アルバムとなった『The Life Of Pi’erre 5』。彼はプレイボイ・カーティの「Magnolia」(2017年最高位29位)やシックスナイン(6ix9ine)の「Gummo」(同年最高位12位)、最近ではドレイクプレイボイ・カーティの「Pain 1993」(2020年最高位7位)のプロデュースで知名度を上げた人ですね。ジャケに何と日本の村上隆さんのデザインキャラクターが満載!村上さんカニエの『Graduation』のジャケのイラストもやってますからヒップホップとは縁が深いですね。

45位初登場は、先週の予想でちょっと触れた、ヒットミュージカルの映画化『In The Heights』のサントラ盤。ドミニカからの移民が歴史的に多く済んでいて、80-90年代は治安も良くなかったマンハッタン北西部のワシントン・ハイツ(自分はNY駐在の頃、ここを車通勤でよく通過してたなあ)界隈で逞しく生きる人々を描いたオリジナルのミュージカルは2008年のトニー賞で13部門ノミネート、最優秀ミュージカルを含む4部門を受賞した大ヒット。これの制作と曲をほとんど書いているのが、あのヒットミュージカル『Hamilton』も手がけて、近年のハリウッドやブロードウェイで大きな存在感を誇るマルチアーティストのリン・マニュエル・ミランダですね。既にトニー賞、エミー賞、グラミー賞を獲得してますからこの映画でアカデミー賞を獲得すると、現在16人しかいないEGOT(この4賞全ての受賞者)の仲間入りを果たすという、そんな凄い人です。
59位には、コンテンポラリー・クリスチャン・ロックのクラウダーことデヴィッド・ウォレス・クラウダーの4作目『Milk & Honey』が初登場。
そして94位には2010年代にマリーナ&ダイアモンズ名義でUKを中心に活躍したマリーナ・ディアマンディスが、前作より名義をマリーナに変更、今回リリースした『Ancient Dreams In A Modern Land』が初登場してます。

ということで盛り沢山の今週の圏外初登場は以上。いつものように今週のトップ10、改めておさらいです。今週早くもオリヴィアにゴールド・ディスク・マークが点灯しました(順位、先週順位、週数、タイトル、アーティスト)。

*1 (-) (1) Hall Of Fame - Polo G
*2 (-) (1) Culture III - Migos

3 (2) (4) Sour ● - Olivia Rodrigo
4 (1) (2) The Voice Of The Heroes - Lil Baby & Lil Durk
5 (3) (23) Dangerous: The Double Album - Morgan Wallen
*6 (-) (1) Taste Of Love: The 10th Mini Album (EP) - TWICE
*7 (116) (2) Inside (The Songs) - Bo Burnham
*8 (-) (1) Jordi - Maroon 5
9 (6) (8) A Gangsta’s Pain - Moneybagg Yo
10 (4) (5) The Off-Season - J. Cole

さて最後にいつもの来週1位予想です。今度の集計対象期間は、6/18-24。今回のリリース・スケジュールを見るとめぼしいのは、アレッシア・カーラ、グッチ・メイン、H.E.R.くらいか。ここ数年のアーティスト・パワーの盛り上がりからいくと、H.E.R.が来てもおかしくはないのですが、彼女のこれまでのリリースがいずれもEPやコンピレーションなので、順位が低いんですよね。でも今回初のフルアルバムなので、期待もこめてH.E.R.を本命に。でも彼女のアルバムも10万ポイントくらい稼がないと、今週3位で15%しか減らしてないオリヴィアが122,000からあまり落とさないと、オリヴィア1位返り咲きというシナリオも充分ありますね。ということでまた来週。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?