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今週の全米アルバムチャート事情 #225- 2024/3/2付

いよいよMLBもオープン戦が始まり、さっそく大谷翔平の活躍の様子が伝えられている今日この頃。気候の方も一雨ごとに少しずつ暖かくなってきているようで、春の訪れももうすぐそこ、という感じになってきました。うちの庭の河津桜も今まさに満開中で、一足早い春の訪れを予感させる咲きっぷりで毎朝気持ちを華やかにしてくれてます。この河津桜、実は来月庭のリノベをやるにあたって伐採しなくてはいけない予定なので、ラストランの咲きっぷりをいろんな音楽を聴きながらじっくり毎日楽しんでます。皆さんもそろそろ春に向けていろんなアクティヴィティを始動してますか?

"Vultures 1" by ¥$: Kanye West & Ty Dolla $ign

さて河津桜の花の華やかさとは裏腹に、全米アルバムチャート、3月2日付のBillboard 200の首位は残念ながら先週に続いて¥$(カニエ・ウェスト&タイ・ダラ・サイン)の『Vultures 1』が先週からポイント半減の75,000ポイント(うち実売2,000枚)ながら強力な対抗馬もない中、2週目の首位をキープしてしまってます。記録的なことを言うと。今回の1位はタイに取っては初ですが、カニエは11枚目の1位ということで、これはブルース・スプリングスティーンバーブラ・ストライザンドに並んで、歴代では5位タイ、ということになります(歴代1位は19枚のビートルズ、2位は14枚のジェイZ、3位タイはドレイクテイラーの13枚)。

前回もこのブログで書きましたが、未だにちゃんと反ユダヤ主義の一方的コメントの数々について撤回も謝罪もしていない(一度昨年末謝罪コメントをSNSに上げたが、今年早々にネオナチで有名なミュージシャンのTシャツを着てインスタに登場するなど、全く謝罪の気配がないカニエの音楽に対して金を払って聴いている人がこれだけ多くいる(今週のストリーミング・ポイントは全ポイントの96%の72,000ポイントで、オンデマンド・ストリーミング9,525万回相当)ことには改めて驚きです。モーガン野郎の時もそうですが、あれほど差別に対する抵抗意識が高いはずのアメリカで、こういう人種差別的コメントを堂々と発する有名人に対して無批判にお金を貢いでしまっている音楽リスナーが多いことに、改めてアメリカ社会の複雑さと闇を感じてしまってます。参加しているミュージシャンやプロデューサー達も何を考えて参加してるのか。前回お伝えしたようにサンプル許可を断ってとうとう昨日カニエを提訴したドナ・サマー遺族の他に、今回のアルバムのリスニング・パーティで「Iron Man」のサンプリング許可を求めたカニエに対して、オジー・オズボーンは「彼は反ユダヤ主義で、多くの人にとんでもない苦痛を与えてるから、全く関わりを持ちたくない」といって許可を断ったにも関わらず、カニエが「Iron Man」を使ったということで法的対応を検討中とのこと。当たり前ですよね。特にオジー夫人のシャロンはバリバリのユダヤ系イギリス人ですから当然の対応でしょう。自分も個人的にカニエに日本円マークを勝手にシンボルに使うな!と文句を言いたいところです。他のミュージシャン達はどうなんでしょうか。トランプも順調に共和党大統領候補指名に向けて指示を集めているようですし、まったくアメリカという国はどうなっていくんでしょうかね。

"2093" by Yeat

そのカニエタイに惜しくも及ばなかったのが70,000ポイント(うち実売12,000枚)で2位に初登場してきたカリフォルニア出身の若手ラッパー、イートのフル・アルバム4作目『2093』。これでセカンドの『2 Alive』(2022年6位)、サードの『Afterlyfe』(2023年4位)と順調に実績を積み上げてきて、今回自己最高位を更新してます。ポイント出力も33,000Pt→55,000Pt→今回の70,000Ptと着実に伸ばしてきており、従来は実売は初週で数十枚だったのに今回は12,000枚も売ってるということで、次はいよいよ9万ポイントくらいで首位を狙える感じになってきましたね。

彼の実績の好調さを下支えしてるのが、昨年10月にイートがフィーチャーされたドレイクの『For All The Dogs』収録の「IDGAF」がいきなり初登場2位を決めたことでしょう。あの曲でドスの効いたフロウを聴かせていたイートの存在感はなかなかだったので、それまでイートをあまり聴いてなかった層にも一気にリスナーベースが一気に広がった可能性があります。それに加えて今回は2/17に22曲入のオリジナル・バージョンのリリースの翌日にはドレイクをフィーチャーした「As We Speak」を含む2曲を追加したデラックス・エディション『2023 P2』をドロップ、更にその3日後には4曲追加した『2023 P3』をドロップするなど、一週間のうちに切れ目なく新曲をリリースするというマーケティングにもかなり力を入れたのがポイント積み上げにつながったようですね。ドレイクとの「IDGAF」でも聴かれたドスの効いたフロウにところどころオートチューンを聴かせて、ラップ・スタイル的にはちょっとフューチャーっぽい感じのイートの世界観で染め上げられたちょっとディストピア・コンセプト・アルバム的な作品になってます。そのフューチャーリル・ウェインをフィーチャーしたトラックもあり、ティーンエイジャーのヒップホップヘッズには確かに受けそうな内容です。

トップ10初登場では若いイート君が孤軍奮闘という感じの今週の全米アルバムチャートですが、初登場とは別に今週もトップ10に『1989 (Taylor’s Version)』、『Lover』、『Midnights』と3枚の全米ナンバーワンアルバムを配しているテイラーは、これで16枚すべての彼女のトップ10アルバムのトップ10滞在週数が384週となり(今週は3枚なので、3週カウント)、それまでの記録だったビートルズの382週を抜いてついに歴代トップになってます(1963年8月17日付で、それまでのモノとステレオに分かれていたアルバムチャートが統一されて今のBillboard 200になって以来60年半の歴史で)。彼女のアルバムが初めてトップ10にチャートインされたのは、デビュー・アルバム『Taylor Swift』が2007年11月24日付チャートで26位から8位にジャンプアップした週なので、16年と3ヶ月で記録達成した、ということになります。ビートルズの方は、最初の1964年の『Meet The Beatles!』から2022年の『Revolver』のリイシューまでほぼ対象期間いっぱいの
58年かかってますので、いかにテイラーのチャート実績の積み上げが短期間で達成されたかがわかりますねビートルズに続く記録保持者はローリング・ストーンズ(309週)、バーブラ・ストライザンド(277週)、ドレイクマライアのそれぞれ233週ということなので、今の勢いでおそらくテイラーに追いつきそうなアーティストはなさそう。まさしく21世紀はテイラーズ・センチュリーということになりますね。

"This Is Me…Now" by Jennifer Lopez

さて一方11位以下100位までの初登場は今週は2枚。38位にチャートインしてきたのは、絶対トップ10に来るんじゃないかと思ってたんですが残念ながらこの順位になってしまった、Jローことジェニファー・ロペス10年ぶりのオリジナル・アルバム『This Is Me…Now』。このタイトルを見てピンと来た90年代からの洋楽ファンも多いと思いますが、22年前にリリースしたサード・アルバム『This Is Me…Then』(2位)の続編的作品です。22年前のアルバムが当時婚約まで行きながらメディアの過剰取材に耐えかねて別れざるを得なかった、俳優で映画監督のベン・アフレックとの愛を歌った作品だったのと同様、その後マーク・アンソニーやAロッドらとの愛の遍歴を経て、3年前に電撃的に関係復活し2022年に念願の結婚を果たしたベンへの愛の作品なのです。

そういう事情なので、このアルバムに対するJロー自身や彼女のチームの思い入れは相当なものがあることが、収録楽曲(22年前のアルバム収録の「Dear Ben」の続編「Dear Ben, Pt. II」とか)やプロモーションからビンビンに伝わって来ます。アルバムの楽曲自体は、タイトル曲がジャスティン・ティンバーレイクの「Cry Me A River」をサンプルしてたりする以外は全くギミックのないメインストリーム・ポップ路線で、今回はセカンドの『J.Lo』(2001年1位)以来のラッパーも一切フィーチャーしていないという、J.ロー自身のパフォーマンスで勝負してる内容です。アーシーな70年代R&B風アレンジの1月リリースのリードシングル「Can’t Get Enough」はリリース後すぐにラッパーのラットがフィーチャーされたリミックスが出てますが、2月3日放送のNBCTV人気番組『サタデイ・ナイト・ライブ』のミュージカル・ゲストで登場したJ.ローはこの曲をラットとパフォーマンス、そこに何と懐かしやレッドマンが乱入して客演するというサプライズも。更にはアルバムリリースに合わせてアマゾン・プライムでは2/23からベンとの結婚を題材にした、J.ロー自身のナレーションによるドキュメンタリー映画『This Is Me…Now: A Love Story』(映画レビューサイトのロトゥン・トマトで73%という高評価)を放映、更にこのアルバムのクロージングの曲のタイトルでもある『The Greatest Love Story Never Told』という、こちらはJ.ロージェーン・フォンダベン自身と、今回のアルバムや上記のドキュメンタリーのメイキング映像を見せながら、いかにベンとの愛が復活していったかの経過を語るという、まあファンにはたまらない企画3連発。当年54歳とは思えないほどナチュラル・ビューティーな色香がムンムンに感じられるアルバムとレコジャケを見るにつけ、彼女を思わず応援したくなりませんか?この夏には全米ツアーも決行するというJ.ロー、2024年は彼女の復活の年になりそうです。

"Nu King" by Jason Derulo

一方そこからずーっと下がって82位に初登場しているのは、こちらも随分懐かしい名前になってしまっているジェイソン・デルーロの9年ぶりの5作目『Nu King』。何だか王冠被ってるジャケといい、アルバム・タイトルといい、更にはマイケル・ブブレマルーン5アダム・レヴィン、ダイドメーガン・トレイナーなどのポップ勢からニッキー・ミナージタイ・ダラ・サイン、フレンチ・モンタナ、クエイヴォなどラッパー勢も豪華に配した客演陣なんかを見ると間違いなく往年のポップ・シーンでの存在感を復権しようという意図は見えるんですが、いかんせんこの順位ではその狙いが当たってるとはなかなか思いがたいですね

とはいえこの9年の間には、映画版『キャッツ』(2019)に出演したり、ニュージーランド人プロデューサーのジョーシュ685との共作・共演シングル「Savage Love (Laxed - Siren Beat)」がヒット、BTSがフィーチャーされたリミックス・バージョンが出るや英米でナンバーワンになったりと、全く活動してなかったわけではないんですが、何か久しぶり感は否めないですね。もともとスタイル的にはアッシャー・フォロワー的に出てきたジェイソンですが、今回のアルバム収録曲もそういうトーンで統一されてるのが、今一つマスには受けてないということでしょうか。ソングライターとしての才能もあるし(上記のJ.ローのアルバムでも一曲共作してます)、そのアッシャーが先週頑張ってるだけに、もう少し受けてもいい感じがするんですが、シングルもヒットしてないですし今回は残念ながらキャリア最低のチャート・パフォーマンスになってます。再度の捲土重来を期待しましょう。

ということで新旧取り混ぜて100位までの初登場が3作だった今週のBillboard 200。一方Hot 100の方では先週噂されていた通り、ビヨンセの「Texas Hold ‘Em」が2週目で首位を決めてます。アメリカだけじゃなくてUKでも先週9位初登場から今週1位にジャンプアップしているこの曲、ちょっと前まで正直何でこんなに人気集めてるのかがよく理解できてませんでした。テキサス出身の彼女がおそらく自分の出自の大きい部分を占めるカントリーにリスペクトを示すというのは大いに理解できますし、ビヨンセなんで正直何出しても人気を集めるのはそらそうやな、と思うんですが、何か曲としての魅力はあんまり感じないなあ、と思ってたんですが、この曲のバックでバンジョーとビオラを弾いてるのが、他ならぬ近年のアメリカーナの重要アーティストの一人、リアノン・ギデンズ(彼女もネイティブ・アメリカンと黒人の血を引くマルチレイシャル・アーティスト)であること、黒人であるビヨンセがこの曲をカントリー・チャートのトップに送り込んだ歴史的意義がにわかにカントリー・コミュニティを中心に注目を集め始めていることなどを知り、この曲の見方がちょっと変わってきました。何でも最初にビヨンセ・ファンが地元のカントリー・ステーションにこの曲をリクエストしたところ、曲を聞かずに局側が「うちはビヨンセはかけないので」と対応して結構大騒ぎになった、ということもあったみたいです。ともあれこれで黒人女性、ひいては既に黒人カントリーシンガーとしてポジションを確保してるダリアス・ラッカーケイン・ブラウンらに続く才能ある若手の黒人アーティスト達がカントリー・ジャンルでブレイクするきっかけになるのであれば、そういう意味での意義は大きいですね。さてここで今週のトップ10おさらいです(順位、先週順位、週数、タイトル、アーティスト、<総ポイント数/アルバム実売枚数、*はHits Daily Double調べ>)。

1 (1) (2) Vultures 1 - ¥$ (Kanye West & Ty Dolla $ign) <75,000 pt/2,000枚>
*2 (-) (1) 2093 - Yeat <70,000 pt/12,000枚>
3 (4) (51) One Thing At A Time ▲5 - Morgan Wallen <64,000 pt/1,497枚*>
4 (3) (65) Stick Season ▲ - Noah Kahan <60,000 pt/4,667枚*>
5 (5) (63) SOS ▲3 - SZA <46,000 pt/2,419枚*>
6 (6) (17) 1989 (Taylor’s Version) - Taylor Swift <44,000 pt/11,781枚*>
7 (7) (235) Lover ▲3 - Taylor Swift <43,000+ pt/9,559枚*>
8 (10) (20) For All The Dogs - Drake <43,000 pt/62枚*>
9 (8) (70) Midnights ▲2 - Taylor Swift <40,000 pt/7,917枚*>
10 (11) (6) American Dream - 21 Savage <37,000 pt/50枚*>

ということで今週もカニエタイが首位をキープしてしまった「全米アルバムチャート事情!」いかがだったでしょうか。最後にいつもの来週の一位予想(チャート集計対象期間:2/23~3/1)ですが、今週リリースの新譜で来週首位を狙えそうなのはKポップのTWICEくらいでしょうか。カニエタイは多分5万ポイントくらいには減らして来ると思うので、TWICEが前回3位初登場の時の66,000ポイントくらいの出力で入ってくれば初の全米1位の目はありそうです。もちろん、モーガン野郎がおかしな動きをしなければ、ですけど(笑)。ではまた来週。

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