今週の全米アルバムチャート事情 #162- 2022/12/17付
わがニューヨーク・メッツがアストロズのヴァーランダーに続いて、日本からMLBに渡った千賀投手も獲得というニュースに、来年のMLBの展開に向けて早くも期待が膨らむ今日この頃。一方仕事の方は年末に向けて出張やらトラブル対応やらでホントに忙しい毎日で、なかなか年間ベストアルバムのブログに手が付きません。何とか来週以降少しでもそちらの方に手が回りますように。皆さんも忙しい年末、コロナなどかからないよう、元気にお過ごし下さい。
さて今週12月17日付Billboard 200、全米アルバムチャートの1位は、先週の予想ではテイラーの6週目1位は余裕でしょう、なんて予想してたら失礼しました。何と人気ヒップホップ・プロデューサーのメトロ・ブーミンことリーランド・タイラー・ウェイン君のセカンド・ソロ・アルバム『Heroes & Villains』が185,000ポイント(うち実売5,000枚)というかなり力強いパフォーマンスで、デビュー・アルバムの『Not All Heroes Wear Capes』(2018)、21サヴェージとのコラボアルバム『Savage Mode II』(2020)に続く3枚目の1位を決めてます。一応、ファースト同様「ヒーロー」つながりで、実は「ヒーロー」3部作を予定しているらしく、これが2作目ということになります。ジャケがシニア洋楽ファンにはピンク・フロイドの『炎〜あなたがここにいてほしい(Wish You Were Here)』(1975年1位)に酷似していて、これ、絶対狙ってますよね。
アルバムの内容の方は、前作同様いろんなヒップホップ・アーティストのプロデューサーを手がけているメトロらしい豪華な客演陣満載で、オープニングの「On Time」で登場するジョン・レジェンドや「Superhero (Heroes & Villains)」のフューチャーとクリス・ブラウン、ザ・ウィークンドが懐かしやマリオ・ワイナンズの「I Don’t Wanna Know」(2004年最高位2位)をダウンテンポで歌い直ししている「Creepin’」やエイサップ・ロッキーやつい先頃亡くなったテイクオフをフィーチャーした「Feel The Fiyaaah」などいろいろなタイプの楽曲で楽しめます。基本DJキャレドとかと同じDJコンピアルバムですが、DJキャレドには腹立つけどこのメトロ・ブーミンだとそんな気持ちにならないのはなぜなんでしょうね(笑)。
今週のトップ10内初登場はこの1位のメトロ・ブーミンだけと年末年始に向けて新譜リリースが少なくなってますが、先週に続いて今週もクリスマス・アルバムが躍進。特に今週Hot 100で4回目の1位返り咲き、通算9週目の1位を飾った「All I Want For Christmas Is You」を含む、今や定番クリスマス・アルバム、マライアの『Merry Christmas』が先週の11位から今週10位に上がって、一年ぶりのトップ10を飾ってます(40,000ポイント)。
このアルバムが最初に登場したのが1994年で、それ以来毎年クリスマス・シーズンにはトップ10に登場してますからこれで9年連続トップ10登場というわけで、もはや新たな定番クリスマス・アルバムであることは間違いないですね。これだけでマライアも一生食うには困らないでしょう(笑)。
さて一方11位以下100位までに目を向けると、今週の初登場は5枚。そのトップを切って15位に初登場、惜しくもトップ10を逃しているのが、先頃メンバーの徴兵対応のために活動停止をアナウンスしたBTSのリーダーでラップ担当のRM(ラップ・モンスターの略ってのは今回初めて知りました)の初ソロアルバム『Indigo』。初週で10,500枚売ってセールス・チャートの10位にも初登場してます。USでのBTSメンバーのソロアルバムとしてはj-ホープの『Jack In The Box』(17位)に続くリリース、シングル「The Astronaut」(51位)でソロデビューしたジンもカウントすると今年3人目のソロ・プロジェクトになります。
エリカ・バドゥをフィーチャーしたドリーミーな「Yun」で始まるアルバムは2曲目のアンダーソン・パークをフィーチャーしたポップでバウンシーな「Still Life」で一気にテンションアップし、更にビートを強調したコリアン・カナディアンのヒップホップ・アーティスト、タブロとコラボした「All Day」では最近のBTSの作風に共通した多幸感溢れるヴァイブを聴かせるなど、全体的にチャンス・ザ・ラッパーとかに通じるグルーヴを感じさせる作品になっててなかなかいいですわ、これ。
続く初登場は25位に登場したこちらもKポップ勢、5人組のガール・グループ、イッチ(iTZY)の6枚目EP、4曲入りの『Cheshire (EP)』。前作のEP『Checkmate』(今年8位)、デビュー・アルバム『Crazy In Love』(2021年11位)に次ぐ彼女たちにとって3枚目のトップ20アルバムになりました。アルバムタイトルはご存知『不思議の国のアリス』に登場する、笑いだけを残して消えていくチェシャ猫のことですよね。
収録曲は先行シングルで英語で歌われている「Boys Like You」をはじめ、今風のバウンシーなポップ・トラック中心で、まあ可もなく不可もなくでしょうか。しかし4曲しか入ってないからストリーミングポイントは殆ど稼げてないのにこの順位はスゴいな、と思ったらKポップ常套手段で、13種類のCDパッケージをリリースしていてその売上ポイントがかなり貢献している模様。アルバム・セールスチャートでも4位に入っています。
2022年のバッド・バニーやロサリアの大ブレイクの波に乗って、またまたラテン系のアーティストが登場、ドミニカ系アメリカ人のラッパー兼レガトン・シンガー、アルカンヘル(本名:オースティン・アガスティン・サントス)の5作目『Sr. Santos』。登場、といっても2004年くらいから活動していて今年36歳のベテラン、USチャートインも2013年の『Sentimiento, Elegancia & Maldad』以来9年ぶり2枚目になります。
バッド・バニーのウーマナイザーなエロい雰囲気満点のヴァイブと違って、どっちかというとエモ・トラップ・ポップ系のトラックが多い感じ。でもそのバッド・バニーともちゃっかりコラボの「La Jumpa」とかもやってます。ここのところ数年はアルバム出してもラテンチャートでもイマイチだったようですが、多分今年のラテン系台頭の潮目に乗って息を吹き返してきたんでしょうね。正直この人ならでは、という存在感にはちょっと欠けるのかも。
ちょっと下がって54位初登場は、デトロイト出身のラッパー、ベイビーフェイス・レイ。今年の2月にデビューアルバム『Face』が31位に登場してブレイクしたんですが、今回のセカンド・アルバム『Mob』はちょっと順位を下げています。
既に31歳ですが、最初のチャート・デビューが去年のEP『Unfuckwitable』(128位)ですからやや遅咲きなヤツですね。前回同様、ごくごく普通のピアノとかが入ったちょっとエモっぽい感じの曲もいくつか入ったトラップ・アルバムですので、かなりハイプロファイルなアーティストでないと最近トラップはなかなか売れていかない状況でいくとこの辺りが限界なのかもしれません。
今週最後の100位までの初登場は、メンフィス出身のラッパー、フィネス2タイムス(本名:リッキー・ハンプトン)のセカンド・アルバムで初チャートイン・アルバム『90 Days』。もともと地元の顔役、マニーバッグ・ヨー率いるラップ集団、メンフィス・グレイテスト・アンダーレイテッド(MGU)のメンバーだったそうですが、彼もアルバム2枚目なのに30歳とちょっと年が行ってて、何か今週はこういうヤツ多いな(笑)。
こちらはさっきのベイビーフェイス・レイとはちょっと違って、メンフィスなんだけどトラップというよりはドリルっぽい、ハイハットのビートに特徴のあるトラックとか、808(ヤオヤ)ベースがドーンと利いたトラックとか、サウンドはいろいろ工夫してるみたいですが、まあトラップ系には違いないわけで、個人的にはあまり食指が動く感じではないですね。
ということで、圏外もKポップ・パワーが一部炸裂していた他は何となく地味な今週のアルバム・チャートでした。ではいつものトップ10おさらいです(順位、先週順位、週数、タイトル、アーティスト、<総ポイント数/アルバム実売枚数、*はHits Daily Double調べ>)。
*1 (-) (1) Heroes & Villains - Metro Boomin <185,000 pt/5,000枚>
2 (1) (7) Midnights - Taylor Swift <143,000 pt/67,000枚>
3 (2) (5) Her Loss - Drake & 21 Savage <78,000 pt/375枚*>
4 (3) (31) Un Verano Sin Ti - Bad Bunny <55,000 pt/1,752枚*>
*5 (4) (105) Christmas ▲6 - Michael Buble <54,000 pt/10,466枚*>
*6 (9) (29) Harry’s House ▲ - Harry Styles <49,000 pt/28,000枚>
*7 (6) (100) Dangerous: The Double Album ▲4 - Morgan Wallen <47,000 pt/3,164枚*>
8 (7) (95) The Highlights - The Weeknd <42,000 pt/1,437枚*>
*9 (8) (70) The Christmas Song ▲6 - Nat King Cole <40,000 pt/3,390枚*>
*10 (11) (113) Merry Christmas ▲8 - Mariah Carey <40,000 pt/5,392枚*>
メトロ・ブーミンがテイラーを制し、圏外ではKポップが躍進した今週の「全米アルバムチャート事情!」いかがでしたか?今年のチャートもいよいよあと2週となった来週の1位予想ですが、多分メトロ・ブーミンは来週4割くらいはポイント減らしてくるんですが、それでも11万ポイントくらいはキープ。一方テイラーは基本ポイントを減らしてないので来週も13万ポイントくらいは来そう。あとはこれを上回る12/9-15リリースの新譜はあるか?ということですが、可能性があるのはア・ブギー・ウィット・ダ・フディーとSZA。うーん難しいけど、来週こそは消去法的にテイラーが通算6週目の1位を取る気がします。ではまた来週。
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