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今週の全米アルバムチャート事情 #174- 2023/3/11付

今週に入って一気に暖かくなって、春がぐっと近づいた感じ。もう2週間もすれば桜が咲き出すらしいので、これから活動レベルを少しアップしていこうかと思っています。一方今週末からはいよいよWBCが始まるのでそっちの観戦もあっていろいろ時間を取られそう。大谷選手は強化試合で2打席連続3ランホームランを打ったらしいので、熱い試合が期待できそうですね

"Mañana Será Bonito" by Karol G

さて週3月11日付のBillboard 200、全米アルバムチャート、今週くらいまではSZAが1位を守って11週1位を決めるだろうな、と思っていたら、何と思いもよらない伏兵が登場。コロンビアの歌姫、カロルG(本名:キャロライナ・ジラルド・ナヴァロ)のオール・スペイン語の4作目『Mañana Será Bonito』(明日は美しい日になる、の意)が94,000ポイント(うち実売10,000枚)を叩き出して、今週ポイントを全く減らさなかったSZAの87,000ポイントをぶっちぎって1位に初登場したんです!オールスペイン語のBillboard 200の1位というのは、過去にはバッド・バニーが2回、去年の『Un Verano Sin Ti』と2020年の『El Ultimo Tour del Mundo』で記録しているだけなので、女性アーティストのオールスペイン語アルバムの1位としては史上初、という快挙になります。過去にヒスパニックの女性シンガーの1位は凶弾に倒れたセリーナの『Dreaming Of You』(1995年1位、しかしアルバムの半分は英語曲でした)だけで、あのシャキーラですら達成できなかったこの記録(シャキーラの最高位は2014年の『Shakira』の2位で、しかもほとんどの楽曲は英語曲でした)、カロルGがなぜ達成できたのか?

一つにはやはりここ数年バッド・バニーJバルヴィンらが、「ヒスパニック系によるスペイン語のヒット曲」を次々に当てて、もともと白人系に次いでヒスパニック系の人口比の多い(2020年調査によると、全人口の19%)アメリカにおけるスペイン語による作品の受容度と普及度が一気に高くなってきていたことですよねシャキーラがスペイン語主体のアルバム『Dónde Están los Ladrones?』で全米マーケットにブレイクした1998年はまだそういった土壌がなくて(当時最高位131位)、彼女が全米トップ10にブレイクした次のアルバム『Laundry Service』(2001年3位)は基本英語楽曲主体にならざるを得なかったことを考えると正に隔世の感がありますね。

そしてもう一つはここに至るまでにカロルG自身が、ニッキー・ミナージとのデュエットヒット「Tusa」(2020年42位)、メキシコ系アメリカ人のベッキーGとのデュオヒット「MAMIII」(2022年15位)、初のソロヒットでこのアルバム収録の「Provenza」(同25位)や「Gatubela」(同37位)とここ数年で着実にヒットを積み重ねて来たこと、そして一番の要因はこのアルバム全体が、基本は彼女の出自のレガトン・スタイルながら、とてもキャッチーでポップなアレンジの曲が並んでることでしょうね。ポイントのほとんどがストリーミングであることを考えると、バッド・バニーのあのアルバムとかに比べて格段に聴きやすいのと、何しろカロルGの歌声が魅力的なのが一気に受けた大きな要因になってるんだと思う。アルバム冒頭のボビー・マクファーリンDon’t Worry, Be Happy」のあの口笛のイントロをループさせるというアイデアがハマっている「Mientras Me Curo del Cora」や、何とビリー・アイリッシュのお兄ちゃん、フィニアスが共作・プロデュースしているビリー風のインディ・ドリーミー・ポップ「Tus Gafitas」、そして大先輩シャキーラとのデュエット「TQG」(今週グローバルチャート1位、冒頭に日本が登場するMVではワイルドなカロルと妖艶なシャキーラの対比が面白い)など、スペイン語のカロルGの歌声が不思議な魅力で結構クセになりそうです。しばらくは1位キープしてほしいところだけど、来週はあいつの新譜がチャートインちゃうしなあ…

"Cracker Island" by Gorillaz

そのすぐ下に初登場してきたのが、64,500ポイント(うち実売48,500枚、今週アルバム・セールス・チャート1位)で3位に入って来た、ゴリラズの8作目『Cracker Island』。こちら、今週のUKアルバムチャートでは2005年のセカンド『Demon Days』以来ひさしぶりの1位を記録してますゴリラズといえば何と言ってもブラーデイモン・アルバーンのプロジェクトなわけですが、今回は共同プロデューサーにアデルの仕事で有名なグレッグ・カースティンを迎えて、毎度のように様々なジャンルのゲストを迎えて音の万華鏡のような世界を展開していますね。楽器も殆どデイモングレッグの2人でやっていて、ほとんどこの2人のプロジェクトの様相を呈しています。

冒頭のファンキーなタイトルナンバーにはサンダーキャットをフィーチャー、それ以外にもスティーヴィー・ニックスをフィーチャーしたエレクトロ・ロック的な「Oil」やエレクトロならこれ!とばかりにテーム・インパラをフィーチャーした「New Gold」、更にはバッド・バニーまで担ぎ出した「Tormenta」、そしてゴリラズの作品には常連のベックとの「Possession Island」などなど、なかなか全体楽しい作品に仕上がっていて、メディアの評価もまずまずのようです(メタクリティック80点)。

"Afterlyfe" by Yeat

そしてゴリラズのすぐ下、4位に55,000ポイント(うち実売はほとんどなく、Dily Hits Doubleによると262枚らしいw)で飛び込んできたのはオレゴン州ポートランド出身の白人ラッパー、イート(Yeat)の3枚目のトップ10作品、『Afterlyfe』。

相変わらずストリーミング人気の高いイートですが、アルバムの内容の方も相も変わらず全面暗めでストイックなトラップビート一色で、この前のトップ10EP『Lyfe』(2022年10位)の時にも言ったけど、自分自身個人的にこういうトラップ一辺倒の作品って、よっぽどトラックが面白いとか、ラッパーのフロウに切れがあるとかでない限り、今やほとんど興味が持てないんですよね。イートの場合、キレとかは全くない、ドヨーンとしたラップだし(笑)。グローバル的にもUS以外で彼の曲がチャートインしているのってカナダとリトアニアとニュージーランドだけという、どーいうところで受けてるんや?って感じなので、主にはUS局地的に受けてるだけのような気がします。

"Love Sick" by Don Toliver

同じトラップ系でも遥かに聴く気が起きる(笑)のは、今週8位に初登場のドン・トリヴァーの3作目『Love Sick』。毎回順調にアルバムにトップ10入りしているドントリ(過去2作は7位、2位)の新作は、前作でもかなり強めに出ていたR&B色が一段と色濃くアルバム全体を包み込んでいて、トラップのチキチキハットや808シンセベース音もかなり控えめで、ドントリももはや殆どラップしておらず、せいぜい鼻歌っぽくしゃべってるくらい。中には明らかにザ・ウィークンドあたりを意識してるんじゃないか、という曲もあり、結果としてR&B好きだけど最近のヒップホップはどうもね、と言う向きの方々にはかなり聴きやすく、気に入りそうな内容になってますね。

フィーチャーされているR&B系のゲスト陣も、最大のヒット作だった前作『Life Of A Don』(2021年2位)ではカリ・ウチスのみだったのが、今回はそのカリ以外に、ジャスティン・ビーバーフューチャーをフィーチャーした(ややこしいw)「Private Landing」や旬のアフロビート系、ウィズキッドとの「Slow Motion」、何と元ギャップ・バンドの大御所チャーリー・ウィルソンとの「If I Had」、迫り来るようなグルーヴがスリリングなブレント・ファイアズとの「Bus Stop」、そしてエレクトロ・ダンス系のトロ・イ・モイとの「Cinderella」など、R&B系の楽曲がてんこ盛り。いやなかなかいいですよこれ

"Glockoma 2" by Key Glock

と、久しぶりにトップ10に4曲も初登場があった今週ですが、圏外11位以下100位までも賑やかで何と6枚が初登場。なのでちょっと走り気味に行きます。まず13位初登場は先週ビッグ・スカーのところでちょっと名前の出て来たメンフィス・ラップ・シーンの今や中心人物、キー・グロックの3作目になるアルバム『Glockoma 2』。2018年にドロップしたミックステープ『Glockoma』(緑内障、という意味のglaucomaに引っかけたタイトルでしょうが、あまり趣味良くないねw)の’続編の位置づけの模様。

前回トップ10入りしたアルバム『Yellow Tape 2』(2021年7位)のリリース直後、従兄弟で一緒にコラボアルバム『Dum And Dummer』シリーズをやってたヤング・ドルフが地元メンフィスで22発の銃弾を撃ち込まれて殺されたという衝撃的な事件もあったので、しばらくは作品出しておらずこれが久しぶりのリリース。まあ内容は以前同様絶賛トラップ大会ですが、フロウはタイトだし、トラックは結構工夫してるのもある(「2 For 1」とか聴いてるとデ・ラ・ソウル風だったりする)なので辛うじて聴ける、という感じでしょうか。

"Lighting Up The Sky" by Godsmack

続いて19位に入って来たのはボストン北部のマサチューセッツ州ローレンス出身のヘヴィー・ロック・バンド4人組、ゴッドスマックの8作目にして、メンバーによると彼らの最後のスタジオ・アルバムになるという『Lighting Up The Sky』。最後、といってもバンドは解散するわけでもなく、ツアーは続けるし、バンド仲間は仲良くやってるということなのでなかなか不可解なんですがね。

内容的にはいつもの王道のハードロック路線で、2000年代前半ステインドとかこの手のバンドが群雄割拠してた頃は3作連続アルバムチャート1位を記録するなど勢いのあったバンドなのですが、今回は1998年の初チャートインアルバム『Godsmack』(最高位22位)以来初めてトップ10を外してしまいました。昨年11月にリリースして、メインストリーム・ロック・チャートで5週1位を記録した先行シングル「Surrender」収録だったんですけどね。今回の「最後のアルバム」発言がマジなのか、注目を集めるためのスタントなのか(Kissとかイーグルスみたいにw)は不明です。

"College Park" by Logic

21位には、2010年代からここ10年強い人気を維持してきている白人ラッパー、ロジックが8作目にしてそれまで所属していたデフ・ジャムを離れてインディ・アーティストとしてリリースしたアルバム『College Park』が初登場。2020年には一旦引退宣言してすぐに前言撤回、気合いの入った前作『Vinyl Days』をリリースするもキャリアで初めてオリジナルアルバムでトップ10を外してしまっていたロジック。かねてから業界、特に大手レーベルに対する不満を表明していたロジックがインディで新たにスタートを切った作品でしたが、今回も残念ながらトップ10発進とは行きませんでした。

それでも最近毎回登場しているRZAをフィーチャーした冒頭の「Cruisin’ Through The Universe」から数曲立て続けにタイトなトラックと、相変わらず切れ味のいいロジックのフロウが楽しめる盤に仕上がってます。今回はヒップホップ系以外にもUKの女性シンガーソングライター、ルーシー・ローズを語りでフィーチャーした「Wake Up」や何とノラジョンをフィーチャーした70年代R&B風の「Paradise II」など気持ちのいい変化球も織り交ぜていい感じです。

"Shameless $uicide" by $uicideboy$ & Shakewell

ぐっと下がって50位初登場はご存知自己壊滅的テーマをラップするニューオーリンズの2人組、スーサイド・ボーイズ($uicideboy$)とカリフォルニア出身のラッパー、シェイクウェルの6曲入りコラボEP『Shameless $uicide』。

シェイクウェルは2018年頃にサウンドクラウドYouTubeにトラックをアップしてバズったラッパーらしい、ということくらいしか判らんのですが(笑)、こいつが入るといつもただただ暗部に落ちていくような暗くて病的なスーサイド・ボーイズの二人が変にテンション上がってるのが結構おかしいですね。過去3作続けてトップ10入りしててもスーサイド・ボーイズ自体は積極的に聴く気になれないけど、このEPはまだ聴けました(爆)。

"Good Riddance" by Gracie Abrams

52位に入ってきたのは、映画『スター・ウォーズ』シリーズの7作目と9作目『フォースの覚醒』と『スカイウォーカーの夜明け』の監督で知られたJ.J.エイブラムスの娘さん、グレイシー・エイブラムスのデビュー・アルバム『Good Riddance』。全編テイラーの『Folklore』を思わせるようなドリーミーでエレクトロなトラックに乗せて、ささやくようなボーカルで幻想的な世界観を繰り広げる、という良くも悪くも2010年代後半以降によくいるタイプのシンガーソングライター

このアルバム収録のシングル「I Know It Won’t Work」(ロックチャート28位)など3曲でテイラーの『Folklore』の共同プロデュースもやっていた、ザ・ナショナルアーロン・デスナーがプロデュースしてたり、来週からいよいよ始まるテイラーのコロナ後初の全米ツアー「The Eras Tour」の半分くらいでフィービー・ブリッジャースハイム、ゲイルらとオープニング・アクトを務めることが決まってたりと、なかなかハイプと露出はこれから付いて来そうな感じなので、テイラーのツアーが終わる夏頃には結構ビッグになってるかもしれませんね。

"Gravel & Gold" by Dierks Bentley

そして今週最後の初登場は、73位初登場、今やすっかりベテラン・カントリー・シンガーとなった感のあるディアークス・ベントレーの10作目になる『Gravel & Gold』。惜しくも2019年開催で最後となった阿蘇の野外カントリー・イベント「カントリー・ゴールド」に彼が出演した2008年頃は彼の全米での人気も絶頂で、セカンドの『Modern Day Drifter』(2005年6位)から前作『The Mountain』(2018年3位)まで8作連続全米トップ10アルバムを出し続けてたんですが、今回はキャリア最低のチャートランキングとなってしまってます。

その「カントリー・ゴールド」にちなんだ訳でもないでしょうけど、今回のアルバムからはシングル「Gold」が先行リリースされてますが、Hot 100で90位、カントリーチャート22位とかなり地味。スタイル的には今大人気のルーク・コムズクリス・ステイプルトンの先達的な位置付けのアーティストなんで、シーンからはこうした若手の活躍でちょっと居場所が狭くなってきてる感じなのかもしれません。悪くないんですけどね。

以上、トップ10および圏外100位まで、久々の大賑わいの10枚初登場でした。さてここでお詫びと訂正です。先週お届けした「アフリカ系アメリカ人女性アーティストの最長1位」ランキングに入ってたポーラ・アブドゥルについて「アフリカ系アメリカ人じゃないんとちゃう?」というご指摘を受けまして、確認したところアフリカ系ではないことが判明、失礼しました。従って先週のSZAの記録は歴代5位タイではなく、歴代単独5位でした。謹んで訂正させて頂きます。

ではトップ10のおさらいです。一点今週不思議なのは、ビルボード誌ではザ・ウィークンドの「Die For You」のアリアナ・グランデがフィーチャーされたリミックス・バージョンが出たおかげでストリーミングが集中してHot 100今週1位にジャンプアップしたおかげで、この曲オリジナルが収録されてる2016年のアルバム『Starboy』が9位にジャンプアップしてますが、Hits Daily Doubleのデータでは、ベスト盤『The Highlights』がトップ10に入ってること。従って『Starboy』の実売枚数データがないんです。ひょっとしてビルボード誌の集計間違いか?(順位、先週順位、週数、タイトル、アーティスト、<総ポイント数/アルバム実売枚数、*はHits Daily Double調べ>)

*1 (-) (1) Mañana Será Bonito - Karol G <94,000 pt/10,000枚>
2 (1) (12) SOS ▲ - SZA <87,000 pt/419枚*>
*3 (-) (1) Cracker Island - Gorillaz <64,500 pt/48,500枚>
*4 (-) (1) AfterLyfe - Yeat <55,000 pt/262枚*>

5 (3) (19) Midnights ▲2 - Taylor Swift <48,000 pt/10,835枚*>
*6 (5) (112) Dangerous: The Double Album ▲4 <46,000 pt/1,243枚*>
7 (4) (13) Heroes & Villains - Metro Boomin <42,000 pt/251枚*>
*8 (-) (1) Love Sick - Don Toliver <40,500 pt/1,000-枚*>
*9 (14) (278) Starboy ▲4 - The Weeknd <40,000+ pt/?
10 (6) (43) Un Verano Sin Ti - Bad Bunny <38,000 pt/571枚*>

劇的な1位交代があり、トップ10も圏外も初登場が久しぶりに賑わっていた今週の「全米アルバムチャート事情!」いかがだったでしょうか。最後にいつもの来週の1位予想ですが、今回の1位予想は簡単すぎるんだけど本当につまらないというか嫌だというか。そう、対象期間の3/3~9リリースの中でまあ間違いなく1位なのはモーガン・ウォレンの新作ですわな。3/3リリースからわずか3日で28万ポイント稼いじゃってるらしいからもう間違いないけど。でもね、まだトップ10に入ってる前のアルバムは2枚組30曲入り、そして今回は1枚で36曲っていうから、もうストリーミングで稼ぎまくることを狙ってる以外の何物でもない、何てことないホゲホゲトラップ野郎たちとやってること全く一緒という、本当に食えないマーケティングするやつだよねえ。ホントこいつ嫌いですわ。ということでまた来週。

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