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今週の全米アルバムチャート事情 #192- 2023/7/15付

日曜日は某所で残念な発言があり、畑岡奈沙は惜しくも全米女子オープン優勝を逃し、MLBオールスターでは大谷の活躍は見られないという、ここ数日不完全燃焼な上に、この暑さの中わざわざ休みを取って友人と回ったゴルフではバテバテになってスコアも散々というなかなか気分の揚がらない今週ですが、皆さん暑さの中いかがお過ごしでしょうか。くれぐれも熱中症などならぬようお気を付け下さい。また、九州の豪雨被害に遭われた方には一日も早い日常への復帰をお祈り致します。

"Pink Tape" by Lil Uzi Vert

さて今週7月15日付のBillboard 200、全米アルバムチャート、何とか今週は予想どおりリル・ウジ・ヴァートの3作目フルアルバム『Pink Tape』が167,000ポイント(うち実売11,000枚)をマーク、今週も110,000ポイントとポイントを減らさないモーガン野郎を撃墜して1位を取ってくれてやれやれという感じ。先週も触れたように、集計期間初日の7/30のSpotifyデイリー・チャートではトップ10中8曲がこのアルバムからの曲で占領されてたんで間違いないとは思ってましたが、やはり蓋を開けてみないと安心はできないということで。ただ25万ポイントはいくんじゃないかという予想をかなり下回るポイント数で、前作『Eternal Atake』(2020)の288,000ポイントと比較すると、ここでもヒップホップ作品の出力ダウンが。しかしこれは本作のドロップがわずか4日前にネットでアナウンスされた、という期待期間の短さも影響しているのかも。

ちなみに今回のウジの1位は、昨年12/17付1位のメトロ・ブーミンHeroes & Villains』以来30週(約7.5ヶ月)ぶりのラップ作品の1位で、これだけラップ作品の1位の間が空いたのは、1992〜93年にアイス・キューブの『The Predator』とサイプレス・ヒルの『Black Sunday』の間が34週空いて以来というから30年ぶりの状況。今回の30週の間にはモーガン野郎の15週とSZAの10週があったとはいえ、この間に1位を狙える出力を出して来たラップ作品というと、6/10付チャートで125,000ポイントで惜しくも2位だったリル・ダークの『Almost Healed』くらいなので、こうした長期政権の下で普通なら1位を取れるラップ作品が2位で討ち死にしてきた、という状況でもないんですね。どうやらヒップホップが時代的に退潮のサイクルに入っていることは間違いなさそうです

内容的には前作よりもロック系にかなり寄り添っているような、全体オルタナ・ミュージックっぽい楽曲が目立つのは、先日のリル・ヤティのオルタナ・ロックへ転換した問題作『Let’s Start Here.』も多少影響しているかもしれません。個人的に面白かったのは、UKのメタルコア・バンド、ブリング・ミー・ザ・ホライズンとやっててまんまメタルコア・ミーツ・オルタナ・ロック的な「Werewolf」、何とベイビーメタルと共演してこちらもスラッシュ・スピード・メタルやってる「The End」。リル・ウジ・ヴァートよどこへ行く

"My World: The 3rd Mini Album (EP)" by aespa

今週のトップ10内初登場2枚目は、Kポップの4人組ガールグループ、エスパ(aespa)の3作目『My World: The 3rd Mini Album (EP)』。40,000ポイント(うち実売39,000枚で今週のアルバム・セールス・チャート首位)で9位に初登場してますが、このアルバム、もともと5月にダウンロードとストリーミング・オンリーでリリースされてたんですがチャートインせず、今回CDバージョンのリリースで一気に(Kポップの常として)売上を伸ばして今回トップ10に初登場してきたということのようです。前作『Girls: The 2nd Mini Album』(2022年3位)に続いて2枚目の全米トップ10になります。

前作同様、デスチャっぽいエッジーなR&Bポップ・ナンバーの先行シングル「Spicy」や、ドリーミーなオルタナ・シンセ・ポップっぽい「Welcome To My World」など、いろんなスタイルの楽曲を達者にこなしてるエスパ、CDセールス戦略としては16種類のバリエーションで、ファンの購買行動を煽って今回この初登場になった、まあいかにもKポップらしいチャートアクション。BTS、ブラックピンク、TWICE、NCT、TXT、ストレイキッズといった一線級の連中に動員ユニット数としては39,000枚と遙かに及ばないですが、まあトップ10入りには充分なポイント数ですね。こういう時間差でも充分トップ10入りできるというのはやはりKポップ購買層って今やかなりぶ厚いんだなあ、と改めて実感しました。

"Been One" by Rylo Rodriguez

今週トップ10内初登場もう1枚は、35,000ポイント(うち実売ほぼゼロで、Hits Daiy Doubleによると150枚だとか)で10位に入って来た、アラバマ州出身のラッパー、ライロ・ロドリゲスの2作目『Been One』。この人、自分のレーダーには全く引っかかってなかったんですが、前作のデビューアルバム『G.I.H.F.』が2020年に37位にチャートインしていて、Hot 100ではリル・ベイビーの「Cost To Be Alive」(2022年最高位57位)にフィーチャーされていたようです。

一応女性ラッパーのノーキャップをフィーチャーして、ボビー・コールドウェルの「What You Won't Do For Love」のフレーズを歌い直してる「Thang For You」がシングルでR&B/ヒップホップ・チャートではチャートインしてるようなんですが(最高位43位)、それ以外に特にシングルヒットしている様子もあまりなく、ポイントの殆どがストリーミングなのに彼のトラックがSpotifyとかでバズってる様子もなく(このチャートの集計期間のSpotifyチャートには一曲も入ってません)、なぜ彼のアルバムがこんなに高い位置に入って来たかは不明。ちょっと発声が「Auto Tune使ってる?」と思うくらいユニークな感じなのと、リル・ベイビーとのコラボ曲「Real Type」を始めリル・ヤティリル・ダーク、ESTジーといった有名どころをフィーチャーした曲があるのがストリーミングを稼いでる要因なのかもしれません。よーわからん。

"Data" by Tainy

さて今週の11位以下100位までの圏外初登場は2枚ですが、いずれもラテン系。やはり最近リージョナル・メキシカンも含めてラテン系、元気ですねえ。まずギリギリ残念ながらトップ10に入れず11位に初登場してきたのは、レガトンのクロスオーバー・ブレイクに始まる、ここ最近一気に形になってきたラテン・ブームのある意味仕掛人の一人とでもいうべき、ラテン系では超大物プロデューサーのテイニー(本名:マルコス・エフレイン・マシス・フェルナンデス)のセカンド・アルバムにしてソロでは初チャートイン・アルバムになった『Data』。テイニーはこれまで、2000年代からダディ・ヤンキーらを手がけてきたんですが、カーディBバッド・バニーJバルヴィンをフィーチャーして全米ナンバーワンにした「I Like It」の共作・プロデュースで一躍その名が有名に。ここ最近のラテン・ブレイクの決定打となった去年のバッド・バニーの『Un Verano Sin Ti』でも9曲を共同プロデュースするなど、今やラテン・シーンの大立て者なんですね。

その彼のこのアルバム、ジャケにはピンクの髪をした日本アニメ風の女性が描かれてるんですが、これを手がけているのが、Jアニメの『攻殻機動隊』の美術監督だった小倉宏昌さん。この女性はテイニーが「セナ」と名付けたアンドロイドらしく、テイニーによるとこのアルバムは「アンドロイドのセナに音楽を通じて命が吹き込まれる過程を描いた映画」として作ったとのこと。内容は基本レガトンとラテン・トラップのアルバムなんですが、ことほどさようにテイニーってアニメをはじめ日本のポップ・カルチャー大好きらしく、このアルバムの最終仕上げを日本でラップトップでやってる様子をインスタにアップしてたらしいです。今年の正月にはあのロサリアも彼氏のラウル・アレハンドロと東京の渋谷を徘徊していたらしいし、ラテン・スター達の日本ラブを象徴的に現した作品で、かつアルバムジャケと言えるかもしれませんね。

"Nata Montana" by Natanael Cano

そしてもう一人のラテン・アーティストは、こちらは最近のリージョナル・メキシカンやコリドのブレイクの当事者の一人で、先週登場したペソ・プルーマとのヒット曲「AMG」(最高位37位)や「PRC」(最高位33位)などでコラボしているナタナエル・カノー。彼の8作目にして初の全米トップ40アルバムとなった『Nata Montana』が35位に初登場してます。彼は初めてコリドとヒップホップをフュージョンさせた音楽スタイル、 「コリドス・トゥンバドス」を生みだしたとされていて、彼の初チャートインアルバム『Corridos Tumbados』(2019年166位)はその代表作、ということになってるらしいです。

アコギとスタッカートなホーン、アコーディオン等の伝統楽器によるレトロなメキシカン・ミュージックとヒップホップの融合、というのはなかなか面白いコンセプトですが、ナタナエルの楽曲を聴く限り、ヒップホップやトラップよりも伝統的なコリドーの要素がかなり色濃く出てるので、アメリカのトラップやドリルといったハードコアなスタイルに比べるとかなり殺伐さが薄くて聴いてる分にはなかなか悪くないね、という感じですね。スペイン語の言語としてのサウンドのまろやかさというか当たりの柔らかさなんかもそういうイメージに寄与しているような気がします。ただこれもずっと聴いてると同じように聞こえてきて自分などは飽きてしまいそうなんですが、彼の楽曲やペソ・プルーマの曲なんかはSpotifyのチャートでも根強く上位にランクされ続けてますから、やはり支持層のメインであるメキシコ系アメリカ人の層の厚さを感じますね

今週は初登場の枚数は100位までで5枚と決して多くはないですが、Kポップやラテン系など多様性いっぱいですし、何といってもウジの1位がうれしいところです。そのウジの楽曲、今週のHot 100の方ではドカ盛り、という感じでもなくてトップ40に4曲初登場とやや地味め。一方今週のHot 100の首位にはオリヴィア・ロドリゴの話題の新曲「Vampire」が初登場してます。この曲、6/30付のSpotifyデイリー・チャートでウジの曲がトップ10中8曲独占していたそのチャートで堂々1位初登場、と相変わらずの強さを見せてますね。ということで今週のトップ10おさらいです(順位、先週順位、週数、タイトル、アーティスト、<総ポイント数/アルバム実売枚数、*はHits Daily Double調べ>)。

*1 (-) (1) Pink Tape - Lil Uzi Vert <167,000 pt/11,000枚>
2 (1) (18) One Thing At A Time - Morgan Wallen <110,000 pt/4,160枚*>
3 (3) (2) Génesis - Peso Pluma <68,000 pt/536枚*>
4 (4) (37) Midnights ▲2 - Taylor Swift <54,000 pt/10,274枚*>
5 (7) (130) Dangerous: The Double Album ▲5 - Morgan Wallen <48,000 pt/876枚*>
6 (8) (30) SOS ▲2 - SZA <44,000 pt/5,700枚*>
7 (5) (3) A Gift & A Curse - Gunna <44,000- pt/205枚*>
8 (9) (202) Lover ▲3 - Taylor Swift <43,000 pt/7,819枚*>
*9 (-) (1) My World: The 3rd Mini Album (EP) - aespa <40,000 pt/39,000枚>
*10 (-) (1) Been One - Rylo Rodriguez <35,000 pt/150枚*>

久々に気持ちよく新しいナンバーワンアルバムが誕生した今週の「全米アルバムチャート事情!」いかがでしたか。最後にいつものように来週の1位予想です(チャート集計対象期間:7/7~13)。いいニュースとしては、来週も強力な新譜がぶっちぎりで新しいナンバーワン・アルバムになりそうです。それはテイラーの再録音プロジェクト第3弾『Speak Now』。既に7/7付のSpotifyデイリーチャートではここからの曲で1位から23位のうち22曲独占という状況ですし、既にリリース4日経過した7/11時点で既に575,000ポイントを超えてると言いますから、来週の1位はテイラーでもう決まってますね。ではまた来週。


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