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今週の全米アルバムチャート事情 #104- 2021/11/6付

2年ぶりに長かった2021年のMLBシーズンは、アトランタ・ブレーヴスの感動的な26年ぶりの優勝で幕を閉じました。今頃グッチ・メインロディ・リッチ、21サヴェージ、プレイボーイ・カーティらアトランタのラッパー達も盛り上がってることでしょう。一方衆院選後の政治の状況は混沌としていて、いったいコロナ対策や経済復活に向けての具体的政策実行やリーダーシップが期待できるのかもよく判らない状況です。年末に向けて本来消費が高まるべき時期、感染拡大防止には依然注意が必要ですが、少しでも消費が活発化すること、いたんだ特に中小の事業者の皆さんへのきっちりとした支援を期待したいものです。

さて今週もお送りするこの「全米アルバムチャート事情!」、連動のポッドキャストも何とかこの週末には配信したいと思いますが、それまでは上記のリンクからこれまでの配信をお楽しみ下さい。

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さて、ここのところ1位予想が不調なんですが、今週も1位はラナで間違いなし!と太鼓判を押していたのに、蓋を開けてみると、そのラナは予想を大きく下回るポイント数でトップ10の下の方にやっと初登場したに留まってしまってます(先週の予想と同じような結果です…)。ということは全体ポイントが伸びてない状況ということで、そういう時には根強い人気を確保している旧作が返り咲く、というのがパターンですが、今週もまた正にそういうパターンで、ドレイクの『Certified Lover Boy』が、74,000ポイント(うち実売1,000枚弱とのこと)と、先週から10%下げながら、先週の2位から消去法的に1位に返り咲いてます。これで通算5週目の1位で、2021年のアルバムで1位週数の長さでは、ダントツ1位のモーガン・ウォレン(10週)に次ぐ、オリヴィア・ロドリゴと並ぶ2位、ということになりました。

しかし今回のアルバム、前作の『Scorpion』と同じ5週間1位(『Scorpion』はデビューから連続でしたが)というのに、前作のような圧倒的ヒット感がやたら薄いのは何でかな、と思って両方の5週間トータルのポイント数とか比べてみました。それでわかったのは、ストリーミング数やポイントではこの2枚は1位5週間で大きな差はないんですが(1,329,000ポイント対1,119,000ポイント)、実売枚数が圧倒的に違うこと。『Scorpion』は5週1位の間に245,000枚売ったのに対して、『Certified Lover Boy』はわずか58,500枚。初週売上だけ見ても、16万枚対4.6万枚と約4分の1なんで、まあそりゃあ売れてる感薄いはずだなあ、という感じ。このわずか3年の間にヒップホップの消費は完全にストリーミングに移行しちゃった、ということの証明ですね。

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で、今週のアルバムチャートの商いの薄さは他にもいろんな影響を与えていて、その最たるもんが、他のアルバムがポイント減らす中、1%増加したことによって、8位から赤丸付きで2位にいきなりアップしてる、モーガン・ウォレンの『Dangerous: The Double Album』。結局このアルバム2枚組だってこともあって、他のアルバムよりストリーミングのポイントを稼ぎやすいという特性があるのでこんな現象が起きるんですが、もともとこのアルバムには早く落ちてほしいと思ってる自分にとってはいかにも不快なチャートアクションです(何で落ちてほしいと思ってるかは過去のブログをチェックしてみてください)。
それともう一つこのアルバムで問題なのは、上記のストリーミングを稼ぎやすいということもあるんですが、あれだけレコード会社やカントリー協会からボイコットされてるのに、変に彼の人種差別発言に甘いコンサバなファンがコンスタントにストリーミングし続けているらしく、このアルバム、もう4ヶ月以上ずーっと同じくらいのポイント数を維持しちゃってるんですよ。調べたら、7/3付で50,000ポイントを割って49,000ポイントになってからずっと今週の42,000ポイントに至るまで、この水準でずっと推移してるんですよね。最近になってバイデン大統領への風当たりが強くなってるのと同期して、また右翼っぽい曲がHot 100のしかも上位に入ってくるなんて動きもあって、アメリカの闇は依然続いてるなあと暗然たる気分になりますね。早く落ちてくれよ、いい加減。

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さて初登場に戻ります。先週1位予想していたラナ・デル・レイの『Blue Banisters』、33,000ポイント(実売19,000枚)というこれも予想外の寂しい成績で初登場8位でした。今年4月に2位に堂々初登場していた『Chemtrails Over The Country Club』に続いて今年2枚めのアルバム、ってのもポイント・売上に響いたんでしょうか。UKでは堂々の2位初登場なだけにUSサイドの元気のなさが気になります(ちなみにラナはUKでは、去年出たナレーション・アルバム『Violet Bent Backwards Over The Grass』以外は全作1位か2位という人気ぶり)。

ラナの作品はここのところ、テーマ的にこの間の『Chemtrails』がシンガーソングライター風、その前の『Norman F**king Rockwell』がメインストリームロック寄り、そして2017年のニッコリジャケが音響派ヒップホップ風といろんなサウンドスケープを通過してきてるのですが、今回は久しぶりに初期のようなダークネスな感じが戻ってきてる感じで、ファーストの『Born To Die』(2012) やセカンドの『Ultraviolence』(2014) あたりのファンには嬉しい作風なんじゃないかな、と感じました。自分も決してこういうの嫌いじゃないんで、もう少し聴き込もうと思います。

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そして今週トップ10もう一枚の初登場は、ここのところ若手ミュージシャン達を積極的にサポートする活動に邁進してて、改めてシーンのリスペクトを集めているサー・エルトン・ジョンの新譜『The Lockdown Session』。タイトルが示す通り、2018年から始まったエルトンのフェアウェル・ワールド・ツアーがコロナ禍で中断されたので、その時間を使って様々なアーティスト達とコラボしたトラックを集めたアルバム。今週UKアルバムチャートでラナデュラン・デュランを押さえて見事8枚目のナンバーワンとなったこのアルバム、全米では29,000ポイント(うち実売17,000枚)で10位に初登場してます。

この間UKで1位になって、USでも現在ヒット中(今週15位上昇中)のエルトンお気に入りのデュア・リパとのデュエットヒット「Cold Heart (Pnau Remix)」を始めスティーヴィー・ワンダーパール・ジャムエディ・ヴェダー、スティーヴィー・ニックスら大物とのコラボもさることながら、先週アルバム1位だったヤング・サグとか、UKの新人SSWのSGルイスとか、そして何とあのリルナズXともコラボしてる辺りが、彼の間口の広さと新しいアーティスト達をプッシュしたいという意欲を感じていいなぁと思ったな。

中でも去年リリースされて話題になったリナ・サワヤマの「Chosen Family」のエルトン・コラボバージョンなんかはそうしたエルトンの思いが滲み出たバージョンだと思う。ただちょっと気になるのはラストのグレン・キャンベルとの「I’m Not Gonna Miss You」、これはどういう趣旨で入れられたんだろう?聴く限りにおいてはグレンのドキュメンタリー映画『Glen Campbell: I’ll Be Me』(これ、素晴らしい映画なのでもし観るチャンスがあったら是非)のサントラ盤収録のグレンのソロバージョンにエルトンのボーカルを被せてるだけみたいなんだけど…

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以上今週のトップ10初登場はラナエルトンの2枚でした。続いていつものようにトップ10圏外100位までの初登場もご紹介、今週は先週と同じ7枚が初登場してます。トップ10がちょっと長くなったので駆け足気味に行きます。まず13位に初登場してきたのは、いやいや今週もまたきたよKポップ!いやホントに毎週誰か登場するな最近しかし。で、今週登場したのは13人組のボーイズバンド、SEVENTEENのEP『9th Mini Album: Attacca』。彼らのこの前のEP『Your Choice: 8th Mini Album』も今年7月にBB200に15位初登場、初のBB200チャートインを果たしたんですが、その時も今回もアルバムセールスチャートの1位に輝いてます(前回は21,200枚、今回は25,000枚実売)。これって結構凄いことですよね。

今回もタイトルどっかで聞いたことあるシングルの「Rock With You」を始め、王道メインストリームポップ路線で固めてるようです。しかしここ最近、ほとんど毎週Kポップの作品がそれもトップ20に入ってきてるこの状態、一体何なんでしょう。Kポップ業界総出で集中プロモーションでもやってるのかなあ。

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続いて22位初登場は、先週トップ10予想してたワシントンDC出身、現在はマイアミのリック・ロスメイバック・レーベルと契約してるラッパー、ワーレイの通算7作目『Folarin II』。フォラリン、ってのは彼の別名で、IIっていうくらいなのでオリジナルがありまして、2012年に『Folarin』っていうミックステープを出してるやつの今回は一応パート2ということのよう。

彼も最初出てきた頃はDC出身ってことでゴーゴーをサンプリングしたりして面白い音作りをしてた時期もあったんですが、今回のアルバムもところどころにそういう雰囲気はあるけど基本ごくごく普通のトラップやってるだけで、J.コールをフィーチャーした「Poke It Out」がHot 100に入ってるくらい(今週79位初登場)という感じだとこれくらいのチャートアクションになるんでしょうかね。

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28位に初登場してきたのは、本国UKではエルトン、ラナの後塵は拝したものの堂々3位に初登場していた、デュラン・デュラン6年ぶりの新作『Future Past』。「まだやってたの」という声が聞こえてきそうですが、彼らは作品発表の感覚は2000年以降だんだん長めになってますが、コンスタントに作品発表してて、ここ3作、2010年の『All You Need Is Now』(全米29位、全英11位)、前作2015年の『Paper Gods』(全米10位、全英5位)そして今回もマーク・ロンソンをメインプロデューサーに、いろんなアーティストとコラボしてきてました。

その前2作はどちらかというとR&B系のアプローチが多くてコラボするのもシャネル・モネイとかそういうアーティストが多かったんですが、今回はスウェーデンのラナ・デル・レイ的SSWのトーヴ・ローや、何と名古屋のガール・バンド、チャイなんかともコラボしながら、久しぶりにあの80年代一番輝いてた頃のデュランデュランのオーラをまとったロックな楽曲が多くて、なかなか頑張ってるじゃん、と思いました。

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どんどん行きます。49位初登場はマイモ二ことマイ・モーニング・ジャケットの9作目にして初の同名タイトルアルバム。マイモ二というバンドは、正直これまで自分のレーダースクリーンからは落っこちてたバンドで、アメリカーナ的ロックなんだけどサイケデリックな感じも持ってるバンドってのは知ってたんだけど(テーム・インパラがエレクトロなのをカントリー・フォーク的なアプローチからやってるって感じ)、今回のアルバムは聴いてみるとむしろ70年代のグレイトフル・デッドがやってたことを今風な感じでやってるって感じもしてて、結構気に入ってます。

彼らも2000年代後半から2010年代にかけてはBB200でトップ10をマークするアルバムを出してたんだけど、今回トップ20を外してしまったというのは、やはりこの間から言ってる、ツアーで人気を積み上げるタイプのバンドだから、っていうのはあるんでしょうね。

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Kポップ同様、ここのところ毎週登場しているヘビメタ/メタルコア系バンドの作品。今週52位に初登場したのは、今やHM/HRシーンでは大御所感たっぷりで、日本でもファンの多いドリーム・シアターのこれが通算15作目のオリジナル・アルバムになる『A View From The Top Of The World』。バンドの始まりが80年代ということもあり、2000年代以降のメタルコアやスラッシュ・メタル系のバンドよりはややオールド・スクール的なギターソロなんかもふんだんに入ったそれでいてラッシュ的なプログレ・センスも感じる叙情的ハードロック・スタイルが、日本のファンにも受けてるのは納得できますよね。これでメンバー達はボストンのバークレー音楽院の同級生だったという異色のバックグラウンドなのがアメリカにはいろんな奴がいるなあ、と思わせるところ。

9作目の『Systematic Chaos』(19位)から13作目の『The Astonishing』(11位)まで5作連続トップ20、うち『Black Clouds & Silver Linings』(2009年6位)、『A Dramatic Turn Of Events』(2011年8位)そして『Dream Theater』(2013年7位)と3作連続トップ10入りしてた時期もあったほど、アメリカでも安定的な人気を誇ってるバンドなだけに、今回の52位という順位はもうここで何度も言ってるコロナの影響を強く受けてしまってるタイプのバンドだけに仕方ないところか。

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そして今週圏外初登場最後は、モダン・ジャズの巨人、ジョン・コルトレーンが晩年、当時まだABCパラマウントで新進気鋭のレコードプロデューサーだったクリード・テイラーが立ち上げた、ジャズ専門のサブレーベル、インパルス!に残した代表作『A Love Supreme(至上の愛)』(1965)の、これまで知られてなかったシアトルのジャズクラブ、ザ・ペントハウスでの1965年10月のフル再現ライブを収めたテープが2008年に見つかり、これをレコード化してリリースされた、『A Love Supreme: Live In Seattle』が、ジャズ・レコードとしては最近では珍しい100位内の初登場となりました。

まだまだジャズについては門外漢に近い自分ですが、さすがにこのアルバムの歴史的意義や、ジャズ・ファンの間のみならず音楽ファンやメディア全般からの高い評価は存じてます(ローリングストーン誌もかつてジャンル横断の「オールタイムベストアルバム500」で47位にランクしたことあり。最新の2020年ランキングでは66位)。しかしその蔵出しライブ音源がチャートの上位に登場するくらいの売上(多分ストリーミングも結構貢献してるだろうとは思いますが)を上げるというのは、今年のヴァイナル売上の復活(今年の全米の売上は10億ドルを久々に突破する勢いらしいですから)もあいまって、音楽消費が幅広いジャンルで底上げされてるんだろうな、と思った次第。このライブのラインアップはベースにジミー・ギャリソン、ドラムスがエルヴィン・ジョーンズ、ピアノにマッコイ・タイナーというオリジナルと同じメンバーなので、自分もせいぜいこれをこの秋はしっかり聴いて、モダンジャズの真髄に触れてみたいなと思う次第です。

というところで今週もトップ10よりも圏外が賑やかだったBillboard 200、ここでいつものようにトップ10のおさらいです(順位、先週順位、週数、タイトル、アーティスト)。

1 (2) (8) Certified Lover Boy - Drake
*2 (8) (42) Dangerous: The Double Album ▲ - Morgan Wallen
3 (7) (18) Planet Her - Doja Cat
4 (6) (5) Sincerely, Kentrell - YoungBoy Never Broke Again
5 (9) (23) Sour ▲ - Olivia Rodrigo
*6 (34) (27) A Gangsta’s Pain ● - Moneybagg Yo
7 (1) (2) Punk - Young Thug
*8 (-) (1) Blue Banisters - Lana Del Rey
9 (10) (6) Montero - Lil Nas X
*10 (-) (1) The Lockdown Sessions - Elton John

今週も先週に続いて掲載が少し遅れてしまい、チャートの日付よりも後のポストになってしまって申し訳なかったのですが、今週の11/6付の「全米アルバムチャート事情!」いかがだったでしょうか。さて最後は恒例の来週の1位予想。1位のポイント数がここ3週間連続で10万を割り、期待された大型新譜もなかなかそこに迫る成績を叩き出せてない現状、やはりサンクスギヴィングまで待たないと伸びていかないのかもしれません。今週の1位が74,000ポイントなので、対象期間の10/29-11/4リリースの中で、8万ポイントくらいを叩き出せそうなアルバムというと…あったあった、エド・シーランの新譜!既にUKでは堂々1位ですが、今チャート上昇中の「Shivers」も収録の今回のアルバム、自分もさっそく聴きましたが安定の内容ですし、これが久々に10万ポイント超を叩き出して1位をガッツリ取ってくれるでしょう。その他トップ10に来そうなのは、ミーガン・ザ・スタリオンの未発表曲集、メーガン・トレイナーペンタトニックスのクリスマス・アルバムあたりか。個人的にはザ・ウォー・オン・ドラッグスの新譜や、何とトーリー・エイモスの久々の新譜あたりも頑張って欲しいなあと思ってます。ではまた来週。

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