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今週の全米No.1アルバム事情 #82- 2021/6/5付

今週すごいなあと思ったのはビルボード誌Hot 100の方で初登場1位に飛び込んできたBTSの「Butter」。「Dynamite」と同じ路線の70年代後半のディスコ風味にちょっとヒップホップっぽさを入れたある意味類型的な楽曲なんですが、斬新さは感じないながらも微妙にきっちり今風のサウンドっぽくしてるあたりがそつないというか、もはや楽曲だけのパワーじゃなくてアーティストとしてのパワーも要因でこの大ヒットになってる気がします。UKでも初登場3位のこの曲、この僅か9ヶ月で3曲のHot 100初登場1位という勢いも凄いもんですね。そして、今週もこの記事と連動のポッドキャスト、下記のリンクに配信してますので是非聴いて見て下さいね。

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さて今週末6/5付Billboard 200アルバムチャートの1位は、やはり先週の予想通り、2021年のポップ・シーンの風雲児、オリヴィア・ロドリゴのデビューアルバム『Sour』が295,000ポイント(実売72,000枚で当然今週のアルバム売上ナンバーワン)と、今週2位に退いたJ.コールの『The Off-Season』の92,000ポイントの約3倍、この間のテイラーの『Fearless (Taylor’s Version)』の291,000ポイントを上回る今年の1位の最高ポイントという堂々たる数字で文字通りぶっちぎりの1位を決めています。これは新人アーティストとしては2019年4月13日付で1位に初登場したビリー・アイリッシュの『When We All Fall Asleep, Where Do We Go?』(313,000ポイント)以来の高ポイントデビュー。何と言ってもデビュー・アルバムでHot 100ナンバーワンヒットを2曲、「Drivers License」と先週1位だった「Good 4 U」を収録して、期待を一身に背負ってリリースされたわけなんでこの勢いもむべなるかな。

そしてこのアルバムの興味深いのは、その音楽性の多様なこと。デビュー・シングルの「Drivers License」はビリー・アイリッシュフィービー・ブリッジャーズを思わせる、新世代のインディポップ・シンガーソングライター然としたバラードだったのが、第2弾シングルの「Deja Vu」(最高位8位)では後半ちょっとビートを強調した感じ、そして第3弾の「Good 4 U」では全開ギターロック!という感じでどんどんオリヴィア・ロドリゴというキャラが増幅していく感じがあったんですが、アルバム冒頭の「brutal」なんて、おいおいウィーザーか!って感じのハードなパワーポップでこれは期待してアルバム買った若い子は興奮するだろうなあ、と思っちゃいました。歌詞なんかもきっと若い子の共感するような内容で埋め尽くされてるんだろうな。いろんなレビューを集計してるサイト、メタクリティックでは100点満点の83点とメディアの評価もかなり高いですね。当然というかUKでも今週初登場1位でした。

2019年はビリー旋風が吹き荒れたけど、2021年はオリヴィアが席巻しそう。こりゃ次回のグラミーでもかなり台風の目になりそう。しかしこのアルバム、ジャケがイマイチイケてないなあ。せっかくキュートなオリヴィアなのに、もう少し何とかなったんじゃないかしら。

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そして先週ちょっと予想で名前出してたトウェンティ・ワン・パイロッツ3年ぶりの新作『Scaled And Icy』は75,000ポイント(実売51,000枚)で今週3位初登場。先行シングルの「Shy Away」はすでにオルタナティブ・エアプレイ・チャートで今週で6週連続1位と相変わらず確固たる人気を誇ってます。ここのところ前作『Trench』(2018年2位)、前々作『Blurryface』(2015年1位)と大ブレイクしたアルバムは基本ボーカルのタイラーがプロデューサーや他のソングライターとがっつり共作した楽曲が基本でしたが、今回は初期の頃のようにほとんどタイラー一人で全曲書いてて、何曲かプロデューサーで売れっ子サウンドメイカーのマイク・エリゾンドグレッグ・カースティンらと共作した曲があるくらいで、完全にタイラーの世界観で埋め尽くされた作品。

そしてその楽曲もいずれもコンテンポラリーでちょっとエッジがあるけど無茶苦茶キャッチーだという、いつものTOPの世界が展開されてる作品になってますね。ジャケのブルーのドラゴン君が象徴的に登場するPVのエレクトロでアップテンポの「Choker」や4つ打ち変則ビートと何やら懐かしいメロディと展開が素敵な「Mulberry Street」あたりが自分には耳に残りましたね。こちらはメタクリティックでは100点満点の74点とこれもかなりの高評価が付いてるようです。そしてこちらもUKチャートでUSと同じ初登場3位でした。

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今週のもう1枚のトップ10内初登場は、先週言ってたピンクではなくて、デトロイト出身のチビッコ(年齢じゃなくて身長が157cm)ラッパー、42ダッグの4作目にして初のトップ10アルバムになった『Free Dem Boyz』が32,000ポイント(実売1,000枚)で8位に初登場。

彼は去年のリル・ベイビーのトップ10ヒット「We Paid」(最高位10位)にフィーチャーされたのがきっかけでその名前がシーンで知られるように。所属レーベルもリル・ベイビーがやってる4PFですね。スタイルとしてはオーソドックスなトラップ系のラッパーですが、よく曲の中で口笛を使うのがスタイルらしいです。まだまだピンでの代表曲、っていうのが出てないですが、このアルバムのヒットが契機でヒットトラックが出るか?というところでしょうか。

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あと今週は、2/20付で4位に初登場し、その後3位まで上がった後圏外に消えていたプー・シースティの『Shiesty Season』が、ヒップホップ系お馴染みのデラックス・エディションのリリースで先週の32位から一気に6位に復活してますね。

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さて今週はトップ10よりもトップ10圏外100位までに初登場したアルバムが6枚と賑やかです。13位には先週予想で名前を出したピンクのコンサート・ツアーを追ったドキュメンタリー映画のサントラ盤ライブアルバム『All I Know So Far: Setlist』が初登場。これ、以外と評判良くて、UKチャートでは4位に初登場してます。ピンクってアメリカでも人気あるんですが、UKでもデビュー作以外は全てアルバムがトップ10というかなりの人気。彼女のライヴって、グラミーでの過去有名になった宙づりのパフォーマンスとか見てると結構盛り上がりそうだしね。

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18位にはベテラン・カントリー・シンガーで最近あのグウェン・ステファニとのデュエットシングル「Nobody But You」(2020年18位)や「Happy Anywhere」(今年32位)が評判のブレイク・シェルトンの12作目『Body Language』が初登場。残念ながらグウェンの七光りがありながら、2008年の5作目『Startin’ Fire』(34位)以来のトップ10を逃す成績になってます。

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23位にはLA出身の4人組インディ・フォーク・ロック・バンド、ロード・ヒューロンの4作目『Long Lost』が初登場。前作『Vide Noir』が初のトップ10(2018年9位)とブレイクしたところだっただけに今回の成績はやや残念。フォーク・ロックといっても上手にシンセを使ったり、リヴァーヴの効いたギターを使ったりとちょっとユニークなサウンドがちょっと年代不詳の感じもあってなかなかいい感じ。ちょっと聴き込んでみようかな。

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そしてちょっと下がって42位に初登場はヒューストン出身のポップ・ロック・トリオ、ウォーターパークスの4作目になる『Greatest Hits』、といってもベスト盤ではなくれっきとしたオリジナルアルバムなんです(笑)。彼らの音は今回初めて聞きましたが、南部のヒューストン出身という色はなく、ごくごく今風のエッジとビートの効いたエレクトロでポップなロック・チューンを展開する、パニック・アット・ザ・ディスコとかそういうタイプのバンドみたいですね。彼ら自身のコメントによるとカニエとかチャンス・ザ・ラッパーとかロック寄りのヒップホップ・アーティストの影響も受けてるってことでしたが、そこは音を聴いててあまり感じられませんでした。この間ヒットしてたAJRとかLANYとか、このタイプのバンドは最近多いのでどう差別化していくかがこの後更にブレイクするかの課題なんでしょう。

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ちょっと長くなってきたんで走ります。またぐっと下がって86位に初登場してきたのは、リリースとしては3作目になるルイジアナ州の州都シュリーヴポート出身の立派なあごひげが印象的な風貌のカントリー・ポップ・シンガー、ジョーダン・デイヴィスの2枚目のEPになる『Buy Dirt』。昨年ちょっとエレクトロでスペイシャスなバック・トラックが印象的なミディアムナンバー「Slow Dance In A Parking Lot」が初のポップ・トップ40入り(最高位37位)、「よくラジオから流れるガース・ブルックスを聴いたね」「どこかの駐車場に車を止めて、ウォルマートのサインの周りを君と踊りたい」なんて彼と同世代の2000年前後にアメリカで育った世代に思わず共感呼びそうな歌詞がいい感じのシンガーですね。今ヒット中の「Almost Maybes」(今週Hot 100で56位上昇中)は収録されていないみたいで、YouTubeで彼の収録曲のライブ・パフォーマンスの動画で出ていてこれもなかなかです。ちょっと注目かも。

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全然走ってないですね(笑)。さて今週最後の100位までの圏外初登場は、88位に入ってきた去年5作目の『My Life 4Hunnid』が4位をマークしたYGモジーの同じカリフォルニア出身の中堅とややマイナーなラッパー二人のコラボアルバム『Kommunity Service』。これ、恐らくYGが自分のレーベルから出してるので、ここらでモジーをブレイクすっぺ、って感じでやったプロジェクトなんでしょうね。トラックの感じとかややエモっぽくやってるし、タイ・ダラ・サインとかブギー・ウィット・ダ・フディーとかメジャーどころもフィーチャーしたのが当たりでここに入ってきたんでしょう。ただモジー的には去年の『Beyond Bulletproof』が最大のヒット作で43位だったんで、思惑が外れたかもしれません。

ということで今週のBillboard 200でした。いつものようにトップ10おさらいです(順位、先週順位、週数、タイトル、アーティスト)。

*1 (-) (1) Sour - Olivia Rodrigo
2 (1) (2) The Off-Season - J. Cole
*3 (-) (1) Scaled And Icy - twenty one pilots
*4 (4) (20) Dangerous: The Double Album - Morgan Wallen
5 (3) (5) A Gangsta’s Pain - Moneybagg Yo
*6 (32) (16) Shiesty Season - Pooh Shiesty
7 (5) (60) Future Nostalgia ▲ - Dua Lipa
*8 (-) (1) Free Dem Boyz - 42 Dugg
9 (7) (10) Justice ● - Justin Bieber
10 (10) (47) Shoot For The Stars, Aim For The Moon - Pop Smoke

さて最後は来週の1位予想です。今回の集計対象期間は5/28-6/3。来週もまだまだオリヴィアが強そうなんですが、もし彼女の勢いに挑む可能性があるとすると、超豪華オールスターキャストがフィーチャーされた、先日他界したばかりのDMXの遺作くらいか。今週はDMX以外にもデヴィッド・ボウイーのCD2枚組とか、ジュースWRLDの『Goodbye & Good Riddance』のリリース3周年記念盤も出るらしく、何やら故人のオンパレードの週になりそうですね(笑)。ではまた来週。

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