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今週の全米アルバムチャート事情 #191- 2023/7/8付

ついに2023年も折り返しを過ぎて7月突入、毎日暑い日や突然大雨が降る日が続いてますが、お互いに体調だけには気を付けましょう。自分はやっと何とかコロナ後遺症もほとんどなくなってきて社会復帰できるようになってきたところ。これから月末にかけて体力を回復して、月末のフジロックを満喫できるように頑張りたいと思っております。

"One Thing At A Time" by Morgan Wallen

さて今週7月8日付のBillboard 200、全米アルバムチャートですが、先週おそれていた通りヤング・サグをはじめとした初登場は残念ながらモーガン野郎を撃墜することができず。しかもあろうことか今週モーガン野郎の『One Thing At A Time』、この期に及んで先週から500ポイント増やしてきて110,500ポイント(うち実売4,500枚で先週と変わらず)という驚異のしぶとさで今週とうとう通算15週目の1位を記録してしまってます。これで2位に下がってた2週も含めてデビューから17週連続で10万ポイント超えという、去年のバッド・バニーUn Verano Sin Ti』の16週を抜いて、ビルボードがアルバムチャートを現在のポイント制にした2014年12月以来の最長記録を作ってしまいました。

モーガン野郎とは直接関係ない話題としては、この『One Thing At A Time』が1位初登場してから今週までの17週は、すべてリパブリック・レーベルのアルバムが1位を独占していますモーガン野郎が1位でなかった2週間は、リパブリックテイラーMidnights』と、リパブリック配給のJYPレーベルストレイ・キッズ5-Star: The 3rd Album』だったんです。これもどうやら記録で、この前に17週以上同一レーベルが1位を独占したのは、1992年、マーキュリー・レーベルビリー・レイ・サイラスSome Gave All』が17週1位を記録して以来(そういやこの時も早くアルバム1位代われ、と思ってたなあ)。ちなみにその前の単一レベル1位最長記録は1990年、キャピトル・レーベルMCハマーPlease Hammer Don’t Hurt ‘Em』の18週。いずれにしても1位長期政権はチャートが活性化していないことの象徴なので、いい加減そろそろ交代して欲しいですが、来週は久しぶりに首位交代、ありそうです。詳しくは最後に。

"Business Is Business" by Young Thug

先週の予想通りのポイント水準(89,000ポイント、うち実売8,500枚)で2位に初登場してきたのが、先週ガンナのところでも触れましたが、今現在まだRICO(組織犯罪防止法、まあギャング活動防止法みたいなものです)違反の門で服役中のヤング・サグの3作目のアルバム『Business Is Business』。アルバムタイトルといい、裁判所の最前列に座ってこっちを見てるヤング・サグが移ったジャケといい、そういう状況を自虐的に表現しているんでしょうか。彼の裁判は今月から始まるみたいですし。今一番調子を上げているメトロ・ブーミンが全15曲中9曲をプロデュースしている上にエグゼクティブ・プロデューサーを務めていたり、ドレイクフューチャー、トラヴィス・スコット、リル・ウジ・ヴァートなどそうそうたるメンバーがゲスト参加してヤング・サグをサポートしている模様で、ガンナとは人望がずいぶん違うようです(笑)。

内容的にはナンバーワンを取った前作『Punk』(2021)やファーストの『So Much Fun』(2019)同様、メインストリーム・トラップというか、割と聴きやすいトラップ・トラックが並んでるんで、ティーンエイジャーのトラップ・ヘッズ達には受けが良さそう。でもそれでも9万ポイントしか初週に叩き出せないというのは、やはりヒップホップ全体の退潮を感じさせるところです。でも逮捕されて拘留されてるのにアルバム出すラッパーって、いったいどうやってるんだろうって思いますねえ。特に彼の場合去年の5月にはもう逮捕されてるんでそれまでに全てのトラック録ってたとは思えないんですが。まあミックスやトラックダウンなんかはメトロ・ブーミンが頑張ったんで、こういうそこそこのクオリティの作品になってるんでしょうが。ちなみにこのアルバム、今週UKでも15位に入ってます。

"Génesis" by Peso Pluma

さて今週ちょっとビックリしたのは、73,000ポイント(うち実売1,000枚弱)で3位に初登場してきた、今旬のリージョナル・メキシカン・ブームを代表する一人、ペソ・プルーマの3作目にして初チャートインアルバム『Génesis』。例のHot 100で4位の大ヒットになった「Ella Baila Sola」(ペソ・プルーマをフィーチャーしてました)の勢いでアルバム『Desvelado』を今年4月に6位に送り込んだエスラボン・アルマドを軽々と抜き去ってリージョナル・メキシカンでは過去最高位をマークする躍進ぶりを見せてます

以前エスラボン・アルマドがチャートインした時も触れましたが、このペソ・プルーマもリージョナル・メキシカンの伝統的叙情的音楽スタイル、コリドのスタイルで、民族音楽風のアコギや管楽器を配したトラックに乗ってある曲では鼻歌風にラップしてみたり、普通に歌ったりと変幻自在。このアルバムに先立ってHot 100でヒットしていた同じメキシカンのナタナエル・カノーとのコラボシングル『PRC』(最高位33位)も収録されてますが、その後ペソは別の意味で今話題のアルゼンチン人ラテン・トラップDJ、ビザラップと組んだ「Bzrp Music Sessions, Vol. 55」(最高位31位)も現在ヒットさせるなど、タコ足のようにいろんなアーティストとコラボしたりしてとにかくシーンでの存在感を上げようとしているように見えます。いやしかし去年の今頃、このペソや、エスラボン・アルマドのレトロな感じのメキシカン音楽がヒットチャートの上位で躍動してるなんて、誰が想像したでしょうね。このメキシカンの波、まだまだ続きそうで、Kポップやラテン・トラップ、レガトンなどと入り乱れて全米チャートをしばらく蹂躙しそうです(笑)。

"Chemistry" by Kelly Clarkson

今週トップ10内初登場はもう1枚、6位に53,000ポイント(うち実売43,000枚で今週のアルバム・セールス・チャート1位)で入って来たのがケリー・クラークソンの10作目『Chemistry』。何だかんだ言って、ケリクラって2021年のクリスマスアルバム『When Christmas Comes Around…』(22位)以外はデビュー以来一貫して必ずトップ10(しかもクリスマスアルバム前の8枚は全てトップ3)に送り込んでて安定した人気と支持を感じさせますね。

今回のアルバムの14曲中12曲はケリー自身が共作してますが、そのほとんどは、彼女がマネージャーでもあった夫のブランドン・ブラックストックと2020年に離婚した頃に書かれたらしいです。というか、離婚が彼女を猛烈な創作意欲に駆り立てたというのがどうも正しいようで、ただ書いてもすぐそれを作品にまとめるには時間が要る、ということで過去2年くらいはクリスマス・アルバムで気分転換をしてた、というのがどうも一連の経緯のようです。そういうこともあってかモノトーンのジャケもさることながら、アルバム全体迫り来るようなエモーションを感じさせる曲が多いですねえ。ただその中でもカーリー・レイ・ジェプセンと共作している「Favorite Kind Of High」のようにアップビートな曲もありますし、何とレジェンド・コメディアンでバンジョー奏者としても有名なスティーヴ・マーティンをフィーチャーした「I Hate Love」やあのシーラEがドラムを叩いてるラテン風のアルバム・ラスト・ナンバー「That’s Right」といった話題性もあってポジティブなナンバーもあり、このアルバムを一つの転機にしようというケリーの心情が感じられる、そんなアルバムになってます。ポップ・アルバムとしてもよくできた作品だと思うので一聴をお勧めします。

"Feed The Beast" by Kim Petras

トップ10内初登場は以上3枚ですが、圏外11位から100位までの初登場は2枚。一つは44位に初登場してきた、キム・ペトラスのデビュー・アルバム『Feed The Beast』。サム・スミスとの共演シングル「Unholy」の英米ナンバーワンで、トランスジェンダーを公表しているアーティストとしては史上初のナンバーワン・アーティストとなった彼女は、今年2月の第65回グラミー賞ではサムとの背徳的なイメージの「Unholy」のパフォーマンスを堂々と披露、最優秀ポップ・デュオ/グループ部門を受賞して、史上2人目のトランスジェンダー・グラミー受賞者となったのは記憶に新しいところ(最初のトランスジェンダー・グラミー受賞者は、1970年第12回グラミー賞で、ムーグ・シンセサイザーでバッハの楽曲を演奏した『Switched On Bach』で最優秀クラシック・アルバム部門を受賞したウェンディ・カルロス)。

アルバムはドイツ人のキムらしく、彼女が子供の頃からヨーロッパで聴き親しんだEDMやエレクトロ・ダンス・ミュージック系の楽曲で占められていて、ボーナス・トラックとして収録されている「Unholy」はむしろややこの中ではスタイルが違う感じ。正直EDMやエレクトロ・ダンス系についてはあまり興味のない自分としては何曲か聴くと全部同じに聞こえて飽きちゃうなあ。こういうの好きな人にはいいんだろうけどね。ただそれよりも個人的に気になったのは、全15曲のうち6曲であのDr.ルークが共作・プロデュースしていることDr.ルークといえば、ケシャが性的暴行を受けたとのことで2014年に訴えられたものの、2016年にはその訴えは棄却されて、逆にDr. ルークからケシャへ名誉毀損訴訟が起こされていたのだけど、今年裁判開始直前に両者合意で示談した、という一連の良く判らない経緯が思い起こされますね。法的手続上はDr.ルークが勝ったように見えるけど、彼に対して批判的な発言をしているアーティストはレディ・ガガケリー・クラークソンをはじめ多数いて、最近Dr. ルークとの一連の仕事で大ブレイクしたドジャ・キャットも「彼との仕事はレーベルからの指示で、契約したのはケシャの訴訟が勃発する前だった。今後は彼とは仕事する気はない」と言っており、Dr. ルーク、どうもきな臭いイメージの消えない男です。その彼がまた「Unholy」でのブレイクをきっかけに大きく羽ばたこうとしているキムの作品に名前を出してるのって、また変なことが起きなければいいけどな、と彼女の音楽性への興味は別にして気になるところではあります。

"Memory Lane" by Old Dominion

今週最後の初登場は96位に入って来た、カントリー・ポップの5人組、オールド・ドミニオンの4枚目になる8曲入り『Memory Lane』。タイトルナンバーの最新シングルも今週Hot 100で38→27位に上昇して最高位を更新中です。外連味のない正統派なカントリーロック・テイストの楽曲を聴かせてくれるバンドで、2019年にクロスオーバーヒットした「One Man Band」(Hot 100最高位20位)とか個人的に結構好きでしたね。

彼らは既にフル・アルバムも4枚出しており、セカンド『Happy Ending』(2017)とサード『Old Dominion』(2019)はいずれもBB200で7位、9位とトップ10に送り込むという実績もあるだけに既にガッチリとしたファンベースを持ってるようですが、今回なぜフルアルバムではなくEPにしたのかはちょっと不明です。ちょうど所属していたアリスタ・ナッシュヴィルがこの3月でオペレーションを閉じてしまい、コロンビア・ナッシュヴィルに移籍したので、プロモーション・サポートが充分でないけど、曲がヒットしてるのでこのタイミングでレコード出しておきたかったとか、そんな理由かもしれません。いずれにしても実力派のバンドですし、収録の8曲もいずれもしっかり作り込まれた感じなので、次のリリースはしっかりフルアルバムでまたBB200の上位に帰ってきて欲しいところです。

ということで今週は100位までの初登場アルバムは合計5枚でした。ここでアルバムとは関係ありませんが、日本のアーティストがビルボードのチャートでまた躍進しているのでご報告(昨年のJojiGlimpse Of Us」の全米トップ10、未だに日本のメディアではあまり取り上げられてませんが)。オリコンビルボード・ジャパン等国内チャートではとっくにメジャーなYOASOBIの「アイドル(Idol)」の英語バージョンがここのところビルボード誌のグローバル・チャート(米国以外)で躍進していて今週通算3週目の1位、米国を含むグローバル・チャートでも7位で上昇中。楽曲的には多分Kポップのガールグループ系とかを聴く層が食いついてると思われる、そんなエレクトロでアップなナンバーですが、総合グローバル・チャートでどこまで行くのか、ちょっと気になりますよね。Hot 100にも入ってくるか?ではここで今週のトップ10おさらいです(順位、先週順位、週数、タイトル、アーティスト、<総ポイント数/アルバム実売枚数、*はHits Daily Double調べ>)。

1 (1) (17) One Thing At A Time - Morgan Wallen <110,500 pt/4,500枚>
*2 (-) (1) Business Is Business - Young Thug <89,000 pt/8,500枚>
*3 (-) (1) Génesis - Peso Pluma <73,000 pt/1,000-枚>

4 (4) (36) Midnights ▲2 - Taylor Swift <57,000 pt/11,000-枚>
5 (3) (2) A Gift & A Curse - Gunna <55,000 pt/349枚*>
*6 (-) (1) Chemsitry - Kelly Clarkson <53,000 pt/43,000枚>
*7 (6) (129) Dangerous: The Double Album ▲5 - Morgan Wallen <47,000 pt/880枚*>
8 (5) (29) SOS ▲2 - SZA <47,000 pt/5,664枚*>
*9 (10) (201) Lover ▲3 - Taylor Swift <43,000 pt/7,000枚>
10 (2) (2) The World EP.2: Outlaw - ATEEZ <34,000 pt/32,000枚>

リージョナル・メキシカンのトップ・スター、ペソ・プルーマが躍進した今週の「全米アルバムチャート事情!」いかがでしたか?最後はいつものように来週の1位予想(チャート集計対象期間:6/30~7/6)ですが、来週はいよいよぶっちぎりでモーガン野郎の上をいく新譜が登場しそうです。そう、6/30にドロップされたリル・ウジ・ヴァートの新作。すでに6/30付のスポティファイ・デイリー・チャートではトップ10中8曲をLUVの曲が初登場で占めるというドカ盛り状態なので、来週の首位交代はまず間違いないところ。まず25万ポイントは堅いでしょうね。ということでまた来週。

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