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今週の全米アルバムチャート事情 #185- 2023/5/27付

ちょうどこの記事をポストしようとしていたところに飛び込んで来たティナ・ターナーの訃報。不死身のイメージしかなかったからただただ驚くしかないのだけど、近年はガンと肝臓障害で闘病中だったことを知り、また愕然。訃報を聴いた瞬間に脳内再生されたのは、ティナのホームタウンをタイトルにした彼女初の自作ヒットシングル「Nutbush City Limits」(1973年全米22位、全英4位)。個人的に彼女を初めて知った曲でした。ロックンロールのアシッド・クイーン、ティナのご冥福を祈るのみ。また今週も訃報でスタート、寂しい限りです。RIPティナ

"One Thing At A Time" by Morgan Wallen

一方で全く感動を呼ばないのが今週5月27日付のBillboard 200、全米アルバムチャートの1位。そう、予想されたことではあったんですが、モーガン野郎の『One Thing At A Time』が今週もわずか5%ダウンの134,500ポイント(うち実売8,000枚)でまんまと11週目の1位をマークしちゃってます

今週もビルボード誌はやれ「11週連続1位は1998年の『Titanic』サントラ(16週1位)以来」だの、やれ「デビューから11週連続1位は1987年のホイットニーのセカンド以来」だの、やれ「そもそもデビューから11週連続1位はこのモーガンホイットニースティーヴィー・ワンダーの1976-77年『Songs In The Key Of Life』(14週)だけ」だの、あたかもモーガン野郎のこのアルバムがこれらの歴史的アルバムと同列であるかのような(チャート記録上だけならそうだけど)記事を挙げてるのがまた気に食わないところ。ビルボード誌が作品の内容や評価を云々しない立場なのはわかってるんだけどチャートの成績だけで同列に論じるのはやっぱり違和感ありまくりですな。早くこいつを撃墜するアルバム出ないかなぁ。

"The Album" by Jonas Brothers

そして少しは迫るかなぁと思っていたジョナス・ブラザーズ4年ぶりの新譜『The Album』は2016年の解散後再結成して大きくテンション上げた前作『Happiness Begins』(2019年1位)の初週41万ポイントには遠く及ばない52,000ポイント(うち実売35,500枚でそれでも今週のアルバムセールストップですが)で3位初登場という残念さ。これじゃ勝てないよなぁ。ちなみにUKでも今週3位初登場です。

この間のエド・シーランもそうだったけど、先行シングル「Waffle House」もやや80年代っぽいレトロな感じもあるけど、なかなかタイトでポップないい楽曲だと思ったんですがなぜか80位台発進(今週だいぶ上昇してそれでも57位)という、前のアルバムの先行シングル「Sucker」(2019) が初登場1位だったことを考えると甚だ寂しいパフォーマンスだったのでどうしちゃったんだろう、と思ってたところ。それに限らず本人たちがバラエティ誌のインタビューで「今回のアルバムには1970年代ポップとアメリカーナの要素が満載で、ビージーズやアメリカ、ドゥービー・ブラザーズとかに影響されてる楽曲が多いんだ」というだけあって、特に我々シニア・ポップ・ファンの感覚をいい感じでくすぐってくれるポップでキャッチーな曲満載なんですよね。それにしては今一つチャートパフォーマンスが振るわないということはジョナスのアーティスト・パワーも残念ながら下降気味、ということなんでしょうか。とにかくストレートなポップ・ファンにはお勧めの作品になってます。

"Richest Opp" by YoungBoy Never Broke Again

そのジョナスのすぐ下、51,000ポイント(うち実売500枚)で4位に初登場してきているのは、今年既に3作目のトップ10入りという相変わらずの多作ぶりを発揮してるヤングボーイ・ネヴァー・ブローク・アゲイン(YBNBA)のミックステープ『Richest Opp』。これで彼のトップ10作品はアルバム、ミックステープ取り混ぜて通算15作目で、ドレイクフューチャーに並んでラッパーのトップ10アルバム保有数では歴代2位ということに(歴代トップはジェイZの16作)。最初のトップ10が2018年の『Until Death Call My Name』(7位)なんでわずか5年でここまで積み上げたその努力には脱帽ですが、今回もいつもと変わらないトラップ野郎の世界を展開していてまあよくファンも飽きないなあ、と思っちゃいます。

昨年末にそれまでのアトランティックからモータウンに電撃移籍したYBNBA、アルバムの方で既にモータウンでもう2枚、『I Rest My Case』(9位)と『Don’t Try This At Home』(5位)リリースしてますが、ミックステープはモータウンからはこれが初めて。レーベル変わっても作風も特に変わるわけでもなく、何かに追いまくられるように次から次に作品を発表し続けるYBNBA、自分でも「ほとんど病気みたいなもん」と言ってるから、もうこうなったらこのパターンでどこまで快進撃が続くか見届けてあげましょうかね。

"Religiously. The Album." by Bailey Zimmerman

今週のトップ10内初登場、もう1枚は昨年シングル「Fall In Love」がポップ・クロスオーバーのヒット(Hot 100 29位)になりブレイク、現在第2弾シングルの「Rock And A Hard Place」が初のトップ10(最高位10位)を決めて大ヒット中のイリノイ州ルイビル出身のカントリー・シンガーソングライター、ベイリー・ジマーマンの初フルアルバム『Religiously. The Album.』。46,500ポイント(うち実売8,000枚)で7位初登場です。ヒットした2曲は去年やはりトップ10入りしたEP『Leave The Light On』に収録されてましたが、今回のこのアルバムにも再収録、ということでこの2曲でしばらく稼ぐつもりのようです(笑)。

2020年末頃から精肉工場で働きながら作った曲をTikTokSpotifyに上げ始めて、そのうち今回のヒット2曲がSpotifyのヴァイラル・チャートトップ20に入ったりしたことからめでたくワーナー・ミュージック・ナッシュヴィルと契約して今に至る、というまあ今時の若手アーティストの典型的なブレイク・パターンですが、カントリー畑でのこういうパターンはなかなか珍しいんじゃないでしょうか。今週「Religiously」がHot 100の40位に上昇して3曲目のトップ40ヒットになってるベイリー君、最近アメリカーナというかカントリー界で旋風を巻き起こしたザック・ブライアンとかにも通じる、ちょっとハートランド感を湛えたカントリー・チューンを歌っていて、この後もヒットが続くか要注目かもしれません。

"Random Access Memories (10th Anniversary Deluxe Edition)" by Daft Punk

そしてこちらは初登場ではなく再登場ですが、2013年のリリースから10周年ということで今回35分にもおよぶ未発表トラックなどを追加したデラックス・エディションがリイシューされたダフト・パンクのナンバーワン・アルバム『Random Access Memory』が40,000ポイント(うち実売32,000枚)で8位に再登場してます。
何でも今回のリイシューの前日(5/11)にはベルリン、ブエノス・アイレス、ロンドン、メキシコ・シティ、ニューヨーク、パリ、サンタ・モニカ、サンパウロ、シドニーそして東京の世界10都市で同時にリリース・パーティが開催されたらしい。知らんかったけど(笑)。しかし「Get Lucky」大ヒット当時は世界的現象だったけど、ダフトパンク自体が2021年に解散してしまった今でもこういうグローバルなメガイベントが成立するくらい、世界中であのレコードの人気が依然高いということなんですね。

"Lauren Daigle" by Lauren Daigle

ということで今週のトップ10はダフト・パンクの再登場の他に3枚が初登場、しかしトップは変わらずという状況。一方11以下圏外100位までには3作のアルバムが初登場しています。そのトップを切っているのは、21位に入って来た、コンテンポラリー・クリスチャン・ミュージック(CCM)の女性シンガーソングライター、ローレン・デイグルの3作目、その名も『Lauren Daigle』。前作『Look Up Child』からのシングル「You Say」(Hot 100最高位29位)がCCMとしては最近では珍しくポップ・クロスオーバー・ヒットになったことを受けて、今回はプロデューサーに2000年代のマルーン5、2010年代のトウェンティ・ワン・パイロッツ、最近では自分のお気に入りのレイク・ストリート・ダイヴマディソン・カニンガムなど、メインストリーム・ポップを中心の仕事で有名なマイク・エリゾンドをプロデューサーに迎えてぐっとメインストリーム・ポップに寄せた内容になってますね。

基本CCMのアーティストはリスナーベースも特定されていて、楽曲的にはポップだったり、オーガニックなヒップホップだったり普通ならHot 100にもクロスオーバーしてもいいのに滅多にそういうことがなく、過去にもエイミー・グラントやマイケル・W・スミスくらいしかポップクロスオーバーした例はなかったので、こういうパターンはなかなか久しぶり。ちょっとハスキーで結構ソウルフルな歌い回しがいい感じのローレンのボーカルを活かしたアレンジの楽曲の殆どをマイクローレンが共作、そしてマイクががっちり全曲プロデュースしているアルバムになってます。先行シングルの「Thank God I Do」ではその他にファンネイト・ルースや2016年第58回グラミー賞最優秀プロデューサーのジェフ・バスカーが共作。「Kaleidoscope Jesus」なんかもかなりヒットポテンシャルあると思います。CCMとかとにかく気にせずいいポップ・ソングを楽しめる方にはお勧めですね。

"Never Enough" by Parker McCollum

ぐっと下がって56位初登場は、こちらもベイリー・ジマーマンと同じようにここ2〜3年でポップ・クロスオーバーヒットを放って大きくブレイクした、テキサス州オースティン出身のカントリー・シンガーソングライター、パーカー・マッカラムの4作目のアルバム『Never Enough』。初ヒット「Pretty Heart」(カントリー4位、Hot 100 36位)収録の前作『Gold Chain Cowboy』(2021年60位)でメジャーのMCAナッシュヴィルと契約して初チャートイン、ブレイクを果たしたパーカー君ですが、その後「To Be Loved By You」(同年カントリー6位、Hot 100 41位)、そして今回のアルバムの先行シングルになっている「Handle On You」(2022年カントリー10位、Hot 100 30位)と順調にクロスオーバー路線を歩んできています。そして前作同様相変わらずゴールド・チェーンをまとってやや硬派なイメージで決めてますねえ(笑)。

ジョージ・ストレイトが音楽的ヒーローだというパーカー君、発声スタイルや歌の感じが確かにネオトラディショナル・カントリー路線なんですが、曲のそこここにポップやロックなセンスも顔を覗かせてるあたりが人気の秘密なんでしょうか。家で彼の曲を流していたら、ジョン・メイヤー・ファンのカミさんが「ジョン・メイヤーがカントリーやってるっぽいね」となかなかツボを突いた論評をしてました(笑)。ただこの手のシンガーも最近増えて来てるからなあ。どう個性を出していくかがやはりキーでしょう。

"Wake Up & It's Over (EP)" by Lovejoy

今週100位内の最後の初登場は94位、イギリスはブライトン出身の4人組、ラヴジョイの6曲入りEP『Wake Up & It’s Over』が彼らにとって2作目のBB200チャートインで初のトップ100入りを果たしています(2021年のEP『Pebble Brain』は128位)。本国UKでは今週アルバムチャート初登場5位で彼らに取って初のUKトップ10を決めてますね。

彼らの切れ味鋭い、どんどん突っ走ってくるサウンドを聴くと思い出すのは初期のアークティック・モンキーズ。ポストグランジで登場した頃の彼らのあの威勢の良さとカッコ良さを感じさせるバンドですね。USでもオルタナティブ・エアプレイ・チャートで19位まで上がってたシングルの「Call Me What You Like」なんか正にそんな感じで、これ、ライブで見たらかなり盛り上がりそうです。他の曲もグリーン・デイっぽかったり、ストロークスっぽかったりと、正にポストグランジ・チルドレンって感じの彼ら、これまでEP4枚出してて、フルアルバムはまだのようなので、この後の展開が楽しみですね。

"Smithereens" by Joji

ということで今週の初登場は合計6枚でした。初登場以外で注目は42位に再登場してきたジョージの『Smithereens』(2022年5位)。「Glimpse Of Us」で坂本九さん以来初の日本人アーティストのHot 100トップ10入りを果たしたあのジョージですが、リリースから半年経ってやっとヴァイナルがリリースになった関係でこの順位に再登場しています。13,000枚売り上げたとのことで今週のヴァイナル・アルバムチャートでもダフト・パンクに次いで堂々2位に入ってるってことは、やっぱみんな待ってたんですね。私もすぐ買いました、ヴァイナルw。では今週のトップ10おさらいです(順位、先週順位、週数、タイトル、アーティスト、<総ポイント数/アルバム実売枚数、*はHits Daily Double調べ>)。

1 (1) (11) One Thing At A Time - Morgan Wallen <134,500 pt/8,000枚>
2 (3) (30) Midnights ▲2 - Taylor Swift <60,000 pt/13,000枚>
*3 (-) (1) The Album - Jonas Brothers <52,000 pt/35,500枚>
*4 (-) (1) Richest Opp - YoungBoy Never Broke Again <51,000 pt/500枚>

5 (4) (23) SOS ▲2 - SZA <51,000 pt/126枚*>
6 (5) (123) Dangerous: The Double Album ▲5 - Morgan Wallen <48,000 pt/1,297枚*>
*7 (-) (1) Religiously. The Album. - Bailey Zimmerman <46,500 pt/8,000枚>
*8 (RE) (55) Random Access Memories ▲2 - Daft Punk <40,000 pt/32,000枚>
9 (2) (2) - (Subtract) - Ed Sheeran <40,000- pt/
20,000枚>
10 (7) (195) Lover ▲3 - Taylor Swift <38,000 pt/7,064枚*>

さて今週は3枚トップ10内初登場、1枚再登場と賑やかながら、とうとうモーガン野郎が11週目の1位を記録してしまった今週の「全米アルバムチャート事情!」いかがでしたか?最後に恒例の来週の1位予想(対象集計期間:5/19-25)ですが、今回期待なのは、ちょうど5/19にSZAの『SOS』のフィジカルがいよいよ発売になったんです!これまでデジタルとストリーミングのみだったこの大ヒットアルバムのCDとヴァイナルが一気にリリースされたら10万枚くらい動かすんじゃないかな、というのが期待。そうすれば今週5位から一気に1位に返り咲いてモーガン野郎撃墜可能なんですがねー。あとトップ10に来そうなのは5年ぶりのデイヴ・マシューズ・バンドの新譜(過去の出力があれば優に1位取れそうですが、コロナを通過してどの程度の出力になっているかが不明ですね)、ルイス・キャパルディ、サマー・ウォーカーのEPくらいでしょうか。ではまた来週。

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