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今週の全米アルバムチャート事情 #131- 2022/5/14付

GWの終わりと同時に待望の大谷翔平選手のホームランが今週久しぶりに飛び出し(しかも一試合に2本も!)、エンジェルスも快調にアメリカン西地区首位を独走中の今週、皆さんいかがお過ごしでしょうか。梅雨入り前のこの5月は気候も最高でいろんなアクティビティに力が入る時期で、幸い今のところ連休前に比較して感染状況が爆発している兆候は見えていませんが、引き続きコロナ感染拡大防止には注意しましょうね。

"I Never Liked You" by Future

さて今週の全米アルバムチャート、5月14日付のBillboard 200の1位は大方の予想通り、フューチャーの新作『I Never Liked You』が堂々たるぶっちぎりの1位初登場。先週の予想では「久しぶりの10万ポイント超えで1位に来る」と言ってたんですが何の何の。222,000ポイント(うち実売6,500枚)という今年1番の週間ポイント数(昨年12月11日付チャートのアデル30』の1位2週目のポイント、288,000以来の週間ポイント記録でした)で文字通りぶっちぎりのポイントで、通算8枚目のナンバーワン達成となってます。ここで過去のフューチャーのナンバーワン・アルバムを振り返ってみましょう(1位初登場週、タイトル、ポイント、1位滞在週数)。

"DS2" by Future

2015/8/8 DS2 ▲2 (147,000ポイント、1週)
2015/10/10 What A Time To Be Alive ▲(375,000ポイント、1週)- Drakeとのコラボアルバム
2016/2/27 EVOL ▲ (134,000ポイント、1週)
2017/3/11 FUTURE ▲(140,000ポイント、1週)
2017/3/18 HNDRXX ●(121,000ポイント、1週)
2019/2/2 Future Hndrxx Presents: The WIZRD ●(126,000ポイント、1週)
2020/5/30 High Off Life ▲(153,000ポイント、1週)
2022/5/14 I Never Liked You(222,000ポイント、1週<継続中>)

こうしてみると、2015年のドレイクとのコラボアルバムはこの時点で既に4作のナンバーワンを記録していたドレイクとのコラボなのでポイント数が突き抜けてますが、それ以外のフューチャー単独作では今回のアルバムのポイント数が過去最高ポイントを記録しているのが判ります。今回もカニエドレイク、ガンナ、ヤング・サグ(先ほどアトランタ地元反社会勢力との関与で逮捕されたというニュースが入ってきましたが)、コダック・ブラックなど豪華なゲストを配していて当然ヒップホップファンは飛びついてることは容易に想像ができますが、これにはもう一つ要因があって、今回リリースの3日後にオリジナルの16曲にリル・ベイビーリル・ダークらをフィーチャーしたボートラ6曲を追加したデラックス・バージョンがリリースされたこともポイント数をブーストしていると思われます。

いきなり今週Hot 100の1位に初登場した、ドレイクテムズ(先日ウィズキッドの大ヒット曲「Essence」にフィーチャーされていたナイジェリア出身女性シンガー)をフィーチャーした「Wait For U」なんか聴くと、うまいぐあいにトラップ風味を薄めにして、よりR&Bっぽい仕上がりにしてるあたり、フューチャーも商売人になってきたなあ、という感じがします。マンブル・ラップのスタイルは変わりなく、相変わらず何言ってるかよく判らんやつですが(笑)、他の楽曲もいずれもそつなく作り込んであるものが多く、まあ売れて(というかストリーミングされて)しかるべきの作品で、フューチャーのヒット路線に死角なし、という感じです(今回ストリーミング数でも2.84億回オンデマンドストリーミングを達成していて、去年11月27日付チャートのテイラー・スウィフトRed (Taylor’s Version)』の3.03億回以来の記録を叩き出してます)。

"Dawn FM (Deluxe Version)" by The Weeknd

そしてこちらは初登場ではないですが、対象期間中にヴァイナルとカセットとデラックス・ボックスセットがリリースされた、ザ・ウィークンドの『Dawn FM』が先週35位から一気に2位にズームイン。57,000ポイント(うち実売44,000枚で今週のアルバム・セールス・トップ)というポイント数で、先週の1位のプッシャTのポイント数を上回ってるので、フューチャーとかち合わなければ今週見事1位取れてたのに可哀想なヤツです(笑)。このアルバム、デジタルとストリーミングのみリリースの初登場の週(今年の1月22日付)はガンナの『DS4Ever』に阻まれて2位、その後CDリリースの週(2月12日付)は『ミラベル』のサントラに阻まれてやはり2位と、2回2位止まりになってましたが、今回も3度目の正直ならず3度目の2位止まりという、なかなか珍しい記録を達成してしまってます

"Palomino" by Miranda Lambert

一方4位に初登場してきたのは、先週予想でトップ10入り予想していたカントリーの大姐御、ミランダ・ランバートの通算10作目『Palomino』。36,000ポイント(実売24,000枚)という力強いポイント数で、7作目のトップ10アルバムを達成してます。既に先行シングルの「If I Was A Cowboy」も現在じわじわ上昇中(現在Hot 100最高位53位)で、それにつられて今のところシングルのみリリースの、エレ・キングとのデュエットシングル「Drunk (And I Don’t Wanna Go Home)」もヒット中(同最高位37位)のミランダ姐御、昨年は荒野の中で、旧知のジャック・イングラム、ジョン・ランドールとのアコギ一本での演奏を簡素な機材で録音した『The Marfa Tapes』が高い評価を集めてましたが、今回のアルバムはそれに収録されていた曲3曲が新録で収録されています。

今回はそれ以外にも何とB-52ズとのコラボ曲「Music City Queen」や、ミック・ジャガーの1993年のソロ・アルバムのタイトル曲「Wandering Spirit」のカバーなど、いつになくロック色を感じさせる作品になっていることもあってか、メタクリティックでも83点と高い評価を取ってます。

"Mr. Crawford" by NoCap

今週トップ10にはもう1枚、8位にアラバマ州モーバイル出身のラッパー、ノーキャップ(本名:コービ・ヴァイダル・クロフォード)が初のフル・アルバム『Mr. Crawford』(29,000ポイント、うち実売はHits Daily Doubleによると261枚w)を初登場させて、彼にとって初のトップ10を達成してます(これまでに3作のミックステープのチャートインがあり、最高は2020年の『Steel Human』の31位)。

いわゆるトラップ一辺倒のラッパーではなく、使ってるトラックもR&Bっぽい結構クラシックなスタイルだったり、ちょっとロックっぽい感じだったりしてるのが、レーベルメイトのヤングボーイ・ネヴァー・ブローク・アゲイン(YBNBA)とも共通してるところですね。このあたり、最近の新しいラッパーはトラップ一辺倒が飽きられ始めてる傾向を敏感にキャッチして、トラックプロダクションに反映してるような気がします。

"Dave's Picks, Volume 42: Winterland, San Francisco, CA - 2/23/74"

というところで今週のトップ10初登場は以上。一方圏外11位から100位までの初登場は今週は5作ですが、そのうち3枚はいずれもトップ10逃しの惜しい順位に入ってきています。まずは12位初登場は、毎度お馴染み、グレイトフル・デッドのライブ音源コレクター、デイヴ・ラミューさんによる選りすぐりライブ音源集第42弾『Dave’s Picks, Volume 42: Winterland, San Francisco, CA - 2/23/74』です。このシリーズ本当に人気が根強く、必ずトップ20には入って来ますね。
今回のライブ音源は、1974年、サンフランシスコのウィンターランド・アリーナでのライブをCD3枚組に収めたもので、限定25,000枚のみのリリースだったようです。多分この順位で入ってきてるということは25,000枚完売してるんでしょうねえ。ちなみにこの日の前日、1974年2月22日の同じ会場での音源は既にこのシリーズの第13弾(2015年最高位32位)でリリース済だそうです。いったいどれくらい蔵出し音源あるんでしょうか(笑)

"Blue Water Road" by Kehlani

それに続く13位初登場は、先週予想ではトップ10来るんじゃないか?と言ってたR&B女性シンガーソングライター、ケラーニの3作目のフルアルバム『Blue Water Road』。自分がケラーニに出会ったのは、ちょうど2本目のミックステープ『You Should Be Here』で初チャートイン(BB200最高位36位)、グラミー賞の最優秀アーバン・コンテンポラリー・アルバムにノミネートされるなど一気にブレイクした頃。その頃はアーバンでドリーミーでファンタジックな独得な世界観を持った楽曲を聴かせてくれていたのだけど、次に大ヒットになった最初のフルアルバム『SweetSexySavage』(2017年3位)以降、ぐっとストリートっぽいサウンドとやや重ための世界観にシフトしていったので、聴き続けてはいたものの、この方向にどんどん行ったらちょっとキツいなあ、と思っていたところだった。

ところが今回の『Blue Water Road』はジャケには海岸で物思うケラーニの姿があったり、いきなり冒頭の「Little Story」はアコギで始まったり、ジャスティン・ビーバーとの軽快なデュオ「Up At Night」があったりと、ぐっと内省的だけどスピリチュアルながら軽快な感じで、『You Should Be Here』の頃にぐるっと回帰してきたような感じ。一昨年大ブレイクしてグラミー賞の最優秀アルバム部門にもノミネートされた、ジェネ・アイコの『Chilombo』あたりを思わせる作風は、本来ケラーニ自身のものだったはずだったので、今回はトップ10外してるけど自分的には『Chilombo』同様ヘビロテ作品になりそうです。

"Zeit" by Rammstein

こちらも先週トップ10では?と言ってたジャーマン・インダストリアル・メタルの大ベテラン・バンド、ラムシュタインの通算8作目のオリジナルアルバム『Zeit(ドイツ語で「時」)』は15位初登場でした。前作『Untitled』(2019年9位)が10年ぶりの新作だったことを考えるとリリースインターバルがとても短いのですが、これは2020〜21年に予定されてたツアーが、ご多分に漏れずコロナで延期されたため、空いた時間を使って録音されたという、コロナ時代あるあるの事情によるもののようです。

彼らについては最近あるお仕事の関係でかなり過去の作品や作風を掘り下げる機会があったんですが、ドイツ語ながら結構エログロホラーっぽいテーマで際どい内容を歌う一方、政治的にも体制批判や反ファシスト的なテーマを歌うというなかなか今のアメリカにはいないタイプのバンドなんですよね。そういうこともあってなのか、全米でも以外と根強い人気があるんですよ、これが。今回もおどろおどろしい芸風で、「OK(コンドーム無しで)」とか「Dicke Titten(デカパイ)」とか、おうやってるやってる(笑)って感じです。ちなみにジャケの石塔の写真は、あのカナダのブライアン・アダムスのデザインらしいです。うーんどういうつながりなんだろう。

"All-Time Greatest Hits" by The Judds

残り初登場2枚は下の方で、90位には80年代に全米で絶大なる人気を誇った母娘のカントリー・デュオ、ザ・ジャッズのベスト盤『All-Time Greatest Hits』がチャートイン。これ、背景がありまして、実は彼女達は5月1日にナッシュヴィルで開催された2022年度の「カントリーの殿堂(Country Music Hall Of Fame)」授賞式でレイ・チャールズらと共に殿堂入りすることが決まっていたのですが、母親のナオミがその前日、4月30日にメンタルのために自殺してしまったんですね。

当日の授賞式には娘のワイノナとスター女優でもうひとりの娘、アシュリーが出席して、涙ながらに受賞の喜びと母を失った哀しみをスピーチしたそうです。このカバレージを見て、昔よく聴いたジャッズの曲をストリーミングしたカントリー・ファン、間違いなく多かったんでしょうね。R.I.P. ナオミ・ジャッズ

"A Beautiful Time" by Willie Nelson

そして今週最後、ちょうど100位に初登場したのは、こちらもカントリーの大御所、ウィリー・ネルソン翁(御年89歳!)の通算72作目のアルバム『A Beautiful Time』でした。ウィリー・ネルソンについても最近お仕事の関係で文章書くことがあったんですが、昨年息子のルーカスニール・ヤングのバックバンド、プロミス・オブ・ザ・リアルを率いたり、レディ・ガガの映画『アリー/スター誕生』の音楽監督したりと活躍中)やマイカも含め、ファミリーによるアルバム『家族(The Willie Nelson Family)』をリリースするなど、来年90歳を前に以前現役感満載。

今回のアルバムも自作曲を中心に、レナード・コーエンビートルズ(「With A Little Help From My Friends」っていうのがニヤリとさせられます)のカバーなどで力強い歌声を聴かせてくれてます。しかしシングルカットされた、クリス・ステイプルトンロドニー・クロウェルの曲「I’ll Love You Till The Day I Die」なんかはやっぱりしんみりしますよね。 

ということで今週のトップ10から圏外100位の初登場アルバムは以上です。ここでいつものようにトップ10のおさらい(順位、先週順位、週数、タイトル、アーティスト、<総ポイント数/アルバム実売枚数、*はHits Daily Double調べ>)。

*1 (-) (1) I Never Liked You - Future <222,000 pt/6,500枚>
*2 (35) (17) Dawn FM - The Weeknd <57,000 pt/44,000枚>
3 (2) (69) Dangerous: The Double Album ▲2 - Morgan Wallen <50,000 pt/1,387枚*>
*4 (-) (1) Palomino - Miranda Lambert <36,000 pt/24,000枚>
5 (4) (50) Sour ▲3 - Olivia Rodrigo <34,000 pt/7,000枚>
6 (3) (8) 7220 - Lil Durk <33,000 pt/83枚*>
7 (5) (23) Encanto ▲ - Soundtrack <32,000 pt/3,199枚*>
*8 (-) (1) Mr. Crawford - NoCap <29,000 pt/261枚*>
9 (7) (35) Certified Lover Boy - Drake <29,000 pt/50枚*>
10 (6) (45) Planet Her - Doja Cat <29,000- pt/413枚*>

さあ今週の「全米アルバムチャート事情!」いかがでしたか。最後にいつもの来週の1位予想。集計対象期間は5/6-12になりますが、今回は今週以上に話題盤のリリースが満載で、中でも1位を争いそうなのが、ここ3作連続ナンバーワンを決めているカナダのオルタナ・ロックの雄、アーケイド・ファイアと、前作が全曲スペイン語のアルバムとしては初のナンバーワンとなったバッド・バニー、そしてアルバム1位の実績はないものの、最新シングル「First Class」が最近Hot 100に1位初登場した最近上昇中のジャック・ハーロウ来週はこの3作が10万ポイント前後で三つ巴の1位争いをするのではないかというのが見立て。それ以外では、エラ・メイのセカンド・アルバムがトップ10入りしそうな来週のチャートです。ではまた来週。

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