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今週の全米アルバムチャート事情 #229- 2024/3/30付

いよいよ今週からMLBシーズンが本格的にスタートするというのに、何となくスッキリしない今日この頃。それでも火曜日の大谷選手の会見での疑惑否定声明は、良くも悪くも今後の展開を前に進めることになるし、少なくとも彼の考えとポジションが明確にされたという意味では彼にとってもMLBにとってもプラスのアクションだったと思います。自分も先週からやや体調不良で、例年より寒の明けが遅めのような気がする最近の気候と併せてモヤモヤが続いてますが、早くパッと暖かくなって桜も開いて一気に春になって欲しいものですね。

"Eternal Sunshine" by Ariana Grande

さて今週の全米アルバムチャート、3月30日付のBillboard 200の首位は、アリアナの『Eternal Sunshine』がポイントを100,000ポイント(うち実売13,000枚)と先週の半分以下に減らしながらも、首位を争うのでは、と思っていたジャスティン・ティンバレイクケイシー・マスグレイヴスのポイントがあまり伸びず、2週目の首位をキープしています。

わが家にも昨日ヴァイナル(レッド・カラー・ヴァイナル!)が届いたのでさっそく改めてアルバム通して聴いてましたが、いややっぱり今回のアルバム、安定感と華やかさと楽曲のクオリティがしっかりあって、聴いてて楽しいアルバムですね。「Yes, And?」のハウス感もいいですが、2曲目のナンバーワン・シングル「We Can’t Be Friends (Wait For Your Love)」の華やかさは若き日のJローあたりを彷彿させるポップ・スーパースター感を強く感じさせて、結構しばらくパワロテになりそうです。先週も書きましたが、変にフィーチャリングで他のアーティストを持ってきたり、トラップ・ポップに色気を出したりとか、そういうもの関係なしに真っ向ストレートなメインストリーム・ダンス・ポップ路線で勝負してくれてるのが聴いてて気持ちいい、そんなアルバムです。来週はヒップホップの話題作がチャートインして来そうなので3週目の首位は厳しそうですが、結構長い間トップ10に滞在しそう。

"Deeper Well" by Kacey Musgraves

そしてジャスティンではなくて、そのアリアナにもう少しで競り勝って初のナンバーワンがありそうだったのが97,000ポイント(うち実売66,000枚で今週のアルバム・セールス・トップ)と僅か3,000ポイント差で2位に初登場してきたケイシー・マスグレイヴスの通算6作目『Deeper Well』。彼女に取っての週間ポイント最高記録を達成して、デビュー・アルバム『Same Trailer, Different Park』(2013)に並んで最高位を記録してます(意外なことに、2018年のグラミー賞最優秀アルバム受賞の『Golden Hour』は最高位4位)。今月初旬のNBCTVサタデイ・ナイト・ライヴ』にミュージカル・ゲストで出演したのも売上に貢献したようです。また今回UKでも人気が高く、今週アルバムチャート3位初登場、彼女のUKにおける最大のヒットアルバムになっています。

その『Golden Hour』以降ガッチリタッグを組んでいるダニエル・タシアン、イアン・フィチャックと今回も共同プロデュースして2曲以外全曲を共作してるこのアルバム、全体の雰囲気はあの『Golden Hour』を更にドリーミーにしたような感じで、ケイシーの美しく鈴の鳴るような歌声が聴くもののささくれ立った(笑)気持ちを鎮めてくれるかのようにじわーっと染み入って来る、今回も素晴らしいアルバムですね。現在依然ロック&オルタナティブ・ソング/チャートの首位を走っている(30週連続首位継続中)ザック・ブラインとのデュエット「I Remember Everything」は収録されていませんが、このアルバムは完全にケイシーの世界観で統一されていて、アリアナのアルバムとは別の意味でこちらもしばらくパワロテになりそうです(こちらもヴァイナル買いましたw)。

"Everything I Thought It Was" by Justin Timberlake

一方先週アリアナと首位争いするのでは?と予想していたジャスティン・ティンバーレイクの6年ぶりの新作『Everything I Thought It Was』の初動は思ったほど振るわず67,000ポイント(うち実売41,000枚)で初登場4位。デビュー・アルバムの『Justified』(2002年2位)の後は4作連続首位を確保してましたから、彼のソロキャリアでは最も振るわないチャート成績ということになってます。まあ、ジャスティンも四十路に突入したし、コロナ前以来の新作ということもあってファン層も同じように年を取った割に新しい若いファンは往年の勢いほどで増えてはいないでしょうからこんな結果なんでしょう。ちなみにUKでもケイシーの後塵を拝してアルバムチャート5位初登場、こちらでもこれまでアルバムは1位か2位だったんで同じような状況になってますね。

先行シングルの「Selfish」を聴いた時に、『The 20/20 Experience』(2013年1位)の頃の華やかさを知るファンとしては「彼のシングルとしては地味な感じだなあ」とは思ってたんですが(案の定Hot 100でも19位とイマイチの成績)、今回アルバムを通して聴いてみて(ちなみにこれもヴァイナル買いましたw)同じような印象。一緒に聴いてたカミさんが「何か、キャッチーな曲がないね」と言ってましたが正にそんな感じです。自分の出自を確認するかのようなオープニング・ナンバー「Memphis」以降、自分の成熟度も考慮に入れて全体をちょっと抑えめなグルーヴで一貫して聴かせるスタイルにしよう、というのはおそらく彼の選択だったんでしょうが、音楽メディアの受けは全般によろしくないようです(メタクリティックで51点と結構低い)。とはいえ、聴き重ねるにつれてジワッと良さが感じられることも事実で、ライアン・テダーサーキット、盟友のティンバランドや新進気鋭のソングライター、テロン・トーマスなど人種関係なしに有能なミュージシャンたちを配しながら「おとなのジャスティン」を演出しようとして一定成功してると思いますしね。ただイン・シンクのメンバーとやってる「Paradise」はここに入れる必要あったのかな。全体からちょっと浮いちゃってる気がするんですけどね。

一つファンとして嬉しかったのは、このリリースに合わせてNPRタイニー・デスク・コンサートで30分に渡るパフォーマンス動画をアップしてくれたこと。これが新曲「Selfish」以外はすべて彼の大ヒット満載のパフォーマンスで、なかなか楽しめました。このタイミングで来日してくれないかなあ。

"Mr. Beat The Road" by BossMan Dlow

話題の2枚の新譜が初登場の今週のトップ10ですが、圏外11〜100位の初登場は今週3枚です。そのうち一番人気、20位にチャートインしてきたのはまだウィキのページもないという、今年25歳のボルチモア出身のラッパー、ボスマン・ドロウ(本名:トラヴィス・ホリフィールド)のもちろんデビューアルバム『Mr. Beat The Road』。何分情報が少ないので、お決まりの幼少の頃から親が窃盗で収監されて苦労した、といったくらいの生い立ちしか判らないのですが、一応現在シングルヒット中の「Get In With Me」(今のところ3/9付の最高位49位)や他のトラックを聴いても、極々普通のトラップ野郎(ヒットしてる曲はややユーモラスな感じはあるが)で、ここまで人気を集めてる理由がイマイチよく判りません。

いろいろ調べるとどうも「ラップとダンス」のパフォーマンスがユニーク、みたいな書き込みを見るので、TikTokとかインスタとかに自分がラップしながら踊ってる画像をアップして、それがある層に受けてるということなのかもしれません。個人的には「アメリカの若いヒップホップヘッズ、まだこんなの聴いてるのかあ」という感想くらいしか持てませんでした。すいません。

"Fine Ho, Stay" by Flo Milli

その次の初登場で54位に入ってきたのは、現在カーディBSZAをフィーチャーしたリミックス・バージョンのシングル『Never Lose Me』(今週最高位15位に更新)がスマッシュヒット中のアラバマ州モーバイル出身の女性ラッパー/シンガーのフロ・ミリ(本名:タミア・モニーク・カーター)のセカンド・アルバムになる『Fine Ho, Stay』。2020年に78位を記録したミックステープ『Ho, Why Is You Here?』に続いて4年ぶり、2作目のチャートインになります。

このアルバムやミックステープのタイトルから判るように、彼女のアルバム・ミックステープのタイトルにはすべて「Ho(売春婦、またはアフリカン・アメリカン・コミュニティにおける女性への蔑称)」がフィーチャーされてるあたりがトレードマーク(笑)のようなんですが、作品の内容を聴くとスタイルとしてはドジャ・キャットあたりの線を目指してるようで、決して巧くはないけど雰囲気のある歌唱・ラップ・鼻歌的スタイルもなかなかキャラがあって、どうして単に自分をビッチやホー呼ばわりしてるだけのB級アーティストではなさそう。ヒットしてる「Never Lose Me」もそれ以外の曲もどちらかというとラッパーとしてよりは「ラップもできるパフォーマー」的なスタイルをしっかり確立してるように聞こえました。来年のグラミー賞新人賞部門にはきっちりノミネートされてきそうな感じです。

"Happiness Bastards" by The Black Crowes

そして今週100位までで最後に何とか初登場できたのが、自分も含めてファンには実にうれしい14年ぶりのアルバム(前作の2010年『Crewology』はセルフ・カバー・アルバムだったので、新作という意味では2009年の『Before The Frost…Until The Freeze』以来15年ぶり!)となったブラック・クロウズの通算9作目『Happiness Bastards』。先週の予想ではトップ10来るといいな、って言ってたんですが時の流れはやはり厳しくこの順位になってしまいました。それでも100位位内に彼らが登場するのを見るのはうれしいもんです。

ロックバンドにありがちなメンバーの兄弟間の争いが原因で2015年に解散してから、クリスクリス・ロビンソン・ブラザーフッド、リッチマグパイ・サルートとそれぞれのバンドを立ち上げてアルバムをリリースしていたので「ああもうクロウズの再結成はないのかなあ」とファンとして寂しい思いをしていたところ、いきなり再結成のニュースが飛び込んできたのが2019年の暮れ。その直後にコロナ・ロックダウンになってしまったものの、2022年11月には何と17年ぶりの来日公演を立川ステージ・ガーデン(自宅からドア2ドアで20分!w)でやるというので何を置いても馳せ参じたのは言うまでもありません。その時のツアーは『Shake Your Money Maker』(1990年4位)リリース30周年記念ツアーということであの名盤をアルバムの曲順通りに完璧再現してくれただけでなく、個人的に彼らのベストトラックである「Sometimes Salvation」を始めこちらも名盤『The Southern Harmony And Musical Companion』(1992年1位)の曲もやってくれて至福の一時を過ごしたもんです。おっとニューアルバムの話だった。久々に届いた彼らの新作、内容的にはこちらの期待に充分に応えるクロウズ節のちょっとレイドバックなブルース・ロックンロールが満喫できる内容。後年の彼らのアルバムやクリスリッチのバンドでも最近聴かれていた、ちょっとゴスペル風のタッチの曲も多く、ファンとしては充分満足できる内容でした。今旬のロックな女性カントリー・シンガー、レイニー・ウィルソンとのコラボ曲「Wilted Rose」なんかもテデスキ・トラックス・バンドを思わせるようなグルーヴ感がいい。何も新しいことはやってないけど、多分自分は今年を通じてこのアルバム、何度も聴き返すんだろうと思うな。もう一枚くらい出したらまた来日してくれないかな。今度も立川で(笑)。

ということで今週の100位までの初登場は都合5枚でした。一方Hot 100の方に目を移すと、今週も首位キープかと思われたアリアナの「We Can’t Be Friends (Wait For Your Love)」を首位からひきずり落としたのは、何とチャートイン32週目で時間をかけて見事1位を決めた苦労人テディ・スウィムスの「Lose Control」。スキンヘッドの頭にまでタトゥーを刻んだちょっと悪人っぽい風貌ながら、優しくソウルフルな心に響く歌声を聴かせてくれるやつ、テディのキャラが見事1位という結果に結びついて、陰ながら応援してた身としてはうれしい限り。これで彼が登場するフジロックの初日、SZAも出るしやっぱり行こうかなあ、という気持ちが強くなってきました。
ちなみに32週目での首位到達はHot 100歴代5位の記録。1位はご存知グラス・アニマルズHeat Waves」の59週で、2位がブレンダ・リーRockin’ Around The Christmas Tree」の54週、3位がマライアの「All I Want For Christmas Is You」の35週、4位がロス・デル・リオMacarena (Bayside Boys Mix)」(1996)の33週。なのでクリスマス・シーズンものを除く純粋ヒットでは歴代3位の大記録達成、ということになります。テディおめでとう!ではここで今週のトップ10おさらいです(順位、先週順位、週数、タイトル、アーティスト、<総ポイント数/アルバム実売枚数、*はHits Daily Double調べ>)。

1 (1) (2) Eternal Sunshine - Ariana Grande <100,000 pt/13,000枚>
*2 (-) (1) Deeper Well - Kacey Musgraves <97,000 pt/66,000枚>

*3 (2) (55) One Thing At A Time ▲5 - Morgan Wallen <70,000 pt/1,531枚*>
*4 (-) (1) Everything I Thought It Was - Justin Timberlake <67,000 pt/41,000枚>
5 (3) (69) Stick Season ▲ - Noah Kahan <46,000 pt/3,568枚*>
6 (5) (67) SOS ▲3 - SZA <43,000 pt/1,439枚*>
*7 (9) (239) Lover ▲3 - Taylor Swift <41,000 pt/9,022枚*>
8 (6) (30) Zach Bryan ▲ - Zach Bryan <40,000 pt/3,381枚*>
*9 (8) (21) 1989 (Taylor’s Version) - Taylor Swift <40,000- pt/9,945枚*>
10 (4) (6) Vultures 1 - ¥$ (Kanye West & Ty Dolla $ign) <39,000 pt/529枚*>

アリアナの首位キープや、ケイシー、ジャスティンのトップ10初登場でいつになく華やかだった今週の「全米アルバムチャート事情!」いかがだったでしょうか。では最後にいつもの来週の一位予想(チャート集計対象期間:3/22~28)ですが、来週は間違いなくフューチャーとメトロ・ブーミンのコラボアルバムがどーんと首位に初登場してくるでしょう。うちのヒップホップ・ヘッズの息子も「今回のアルバムは強力だ」と言ってました。それ以外では久しぶりのカントリーのケニー・チェズ二ーやアフロポップの新星タイラ、そして一昨年以来のラテンの流れに乗ってシャキーラの新譜もトップ10に入ってきそう。ではまた来週。

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