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【恒例洋楽新年企画#3】DJ Boonzzyの第64回グラミー賞大予想#6~カントリー部門

さて今週はバタバタしてるうちにあっという間に週末に。その間北京オリンピックでも高木美帆選手の金とか、坂本花織選手の銅とか続々と日本選手のメダル獲得のニュースが。でももう今日でいろいろ物議を醸したオリンピックも終わり。これからは3月末のアカデミー、そしてグラミーとアウォード・シーズンに入ります。やっと折り返し付近まで来たこの大予想ブログ、ちょっと急がなきゃ。ということで今回はカントリー部門の予想です。

22.最優秀カントリー・ソロ・パフォーマンス部門

○ Forever After All - Luke Combs
× Remember Her Name - Mickey Guyton

  All I Do Is Drive - Jason Isbell
  camera roll - Kacey Musgraves
◎ You Should Probably Leave - Chris Stapleton(受賞)

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この部門では毎年触れている、グラミーのカントリー部門とACM(アカデミー・オブ・カントリーミュージック)アウォード、CMA(カントリーミュージック協会)アウォードとの関係。ACMは毎年4月の発表なので、グラミーの対象期間の半分近くが入っていないので参考程度にしかなりませんが、CMAは毎年11月発表で、対象期間も2020年7月1日〜2021年6月30日に発表された作品ということで、今回のグラミーの2020年9月1日〜2021年9月30日と3ヶ月ほどしかズレがないのと、また最終受賞者投票のメンバーもかなりダブっていることを考えると、今年は去年に比べてCMAの結果がある程度参考になるかな、と思ってます。
それ以上に今年のもう一つのこの部門の話題は、2021年に最も売れてチャート的にもBillboard 200で初登場以来10週1位を記録した『Dangerous: The Double Album』で大ブレイクしたモーガン・ウォレンが、例の去年2月の人種差別的発言ビデオによってCMAからはソロ部門ノミネート資格剥奪(アルバム部門はノミネートされましたが受賞せず)、授賞式・プレイベント等全て出席禁止という処分を受けたのと同様、このグラミーでも一切ノミネートされていません。まあ古くからの白人男性アーティスト至上主義との批判を受けているCMAはもちろんのこと、一昨年以来のゴタゴタを払拭すべく、多様化を大命題に掲げているグラミー・アカデミーのことなのでこの対応はまあ理解できるところ。

という前置きを頭に置きつつ今年のノミネーションを見てみると、まず目に付くのは去年も「Black Like Me」でこの部門ノミネートされて、史上初の女性黒人カントリーシンガーのノミニーとなったミッキー・ガイトンが今年もノミネートされていること。つい先頃開催のスーパーボウルでも開会のアメリカ国家を熱唱していたミッキー(ちなみに個人的にはその前に「America The Beautiful」をいい感じで歌っていたジェネ・アイコに盛り上がってましたがw)、ここのところのグラミー・アカデミー多様化推進のある意味ポスター・チャイルド的に使われている感もありますが、後で述べる本命◎、対抗○候補がいなければアカデミー会員の票を集める可能性充分ということで彼女には穴×を付けましょう。

もう一つ目についたのは、従来アメリカーナ部門でノミネートされてきていて、2016年第58回と2018年第60回では、最優秀アメリカーナアルバム部門と最優秀アメリカン・ルーツ・ソング部門を受賞しているジェイソン・イズベルがなぜか、ここカントリー部門でノミネートされていること。はて、と思った方多いでしょうが、この「All I Do Is Drive」はあのジョニー・キャッシュのカバーで、昨年封切りの映画『The Ice Road』(カナダの鉱山崩落事故で閉じ込められた作業員を救出するというアクション・アドベンチャー)のサントラ盤に収録されていたもののようです。最近カバー付いているジェイソン(昨年秋にはジョージア州出身のアーティスト作品のみのカバー・アルバム『Georgia Blue』なんてのも出してました)で、この曲もオリジナルの雰囲気を感じさせるいいカバーなんですが、話題としてはいいとしてもまあ受賞はないかと。

で、本命◎ですが、このメンツだと昨年11月のCMAでソング・オブ・ジ・イヤーと最優秀アルバム(共に2度目)、更には最優秀男性ボーカリスト(5度目)を受賞しているクリス・ステイプルトンしかないでしょうねえ。ここではCMA受賞アルバム『Starting Over』からヒットした、ちょっとスワンプっぽい味わいの「You Should Probably Leave」(Hot 100 28位、カントリー1位)がノミネートされてますが、CMAはタイトル曲の「Starting Over」で受賞してます。プロデューサーはここ10年くらいの重要アメリカーナ系作品には必ず名を連ねている今やジャンルを代表するデイヴ・コッブです。

そして対抗○は、一昨年のCMAで最優秀男性ボーカリストとアルバム部門のW受賞ながらグラミーには全くガン無視されてしまっていたルーク・コムズが、昨年のCMAでは最優秀エンターテイナー賞を初受賞したのを受けてか、今年は何とかこの部門では顔を見せていますので、Hot 100的にも大ヒットとなっていた「Forever After All」(2020年11月に2位初登場)のルークに進呈します。

23.最優秀カントリー・デュオ/グループ・パフォーマンス部門

× If I Didn't Love You - Jason Aldean & Carrie Underwood
○ Younger Me - Brothers Osbourne(受賞)
◎ Glad You Exist - Dan + Shay

  Chasing After You - Ryan Hurd & Maren Morris
  Drunk (And I Don't Wanna Go Home) - Elle King & Miranda Lambert

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さてこの部門、2000年代以降は結構一定のアーティストが複数回受賞する傾向があって、2000年代はディキシー・チックス(現チックス)が4回受賞、2010年代はリトル・ビッグ・タウンが3回、レイディ・アンティベラム(現レイディA)ザ・シヴィル・ウォーズが各2回受賞という感じ。しかし2019年第61回以降は3年連続ダン+シェイが受賞してる上に今年もノミネートされてて、今年受賞するとザ・ジャッズ、チックスの5回に次ぐ史上3番目の最多受賞になります。これまでの彼らの受賞曲というと、去年のジャスティン・ビーバーとの「10,000 Hours」やその前の「Speechless」のように、ドラマチックなポップ・バラードでひたすら自分の恋人を崇めまつるという、結婚式にはもってこいの曲(事実この2曲はアメリカで結婚式で多用されてるようです)だったのですが、今回の「Glad You Exist」も同じ路線とはいえ、あの2曲に比べるとやや小粒な印象。まあでも何か彼らがスルッと取っちゃいそうな気がします。なので本命◎。

それに対抗○しそうなのが、去年のCMAでそのダン+シェイを退けて通算4度目の最優秀デュオ部門を受賞しているT.J.ジョンオズボーン兄弟によるブラザーズ・オズボーン。切れ味鋭いスライド・ギターを操る弟のジョンと深みのある抑制の利いたボーカルで最近のスプリングスティーンを彷彿させる兄のT.J.のシーンでの評価はCMAの受賞歴でも判るように高いようです。スタイル的にもよりロックに近い作風は昔カントリー・ロックを聴かれていたシニアのファンにもすんなり入って来そう。そして自分が若い頃にいろいろ悩んだり、必要以上の周りに噛みついたりしていたけど、そうした一つ一つが今の自分を形づくっているんだ、と若い頃の自分への手紙的なこの「Younger Me」も、T.J.の力強い歌声もあいまって胸に迫るものが。実はT.J.は最近ゲイをカミングアウトして、もっと早い時期にカミングアウトすればよかったか、と悩んでいたことを題材にこの歌を書いたとか。そういうあたりも今のグラミーにはふさわしいかもしれないので、ひょっとしたら、ということで対抗○を付けます。

そして穴×は、ライアン・ハードマレン・モリスの濃密な夫婦デュエットも考えたのですが、最近マレンは去年の「The Bones」でのソング部門受賞逃しなど、ノミネートはされるのになかなか受賞の目が来てないので、同じようなテーマなんですがここはジェイソン・オルディーンキャリー・アンダーウッドのデュエットに。

24.最優秀カントリー・ソング部門(作者に与えられる賞)

◎ Better Than We Found It - Maren Morris (Jassie Jo Dillon, Maren Morris, Jimmy Robbins & Laura Veltz)
  camera roll - Kacey Musgraves (Ian Fitchuk, Kacey Musgraves & Daniel Tashian)
× Cold - Chris Stapleton (Dave Cobb, J.T. Cure, Derek Mixon & Chris Stapleton)(受賞)
  Country Again - Thomas Rhett (Zach Crowell, Ashley Gorley & Thomas Rhett)
  Fancy Like - Walker Hayes (Cameron Bartolini, Walker Hayes, Josh Jenkins & Shane Stevens)
○ Remember Her Name - Mickey Guyton (Mickey Guyton, Blake Hubbard, Jarrod Ingram & Parker Welling)

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さて今年のカントリー・ソング部門のノミネートは、いつもとちょっと様子が違う感じのラインアップ。何しろノミネート5曲中、オフィシャルなシングルとしてリリースされてないアルバム曲が2曲(クリス・ステイプルトンミッキー・ガイトン)もあって、マレン・モリスの曲なんてシングルどころかアルバム曲ですらない、単発のプロモーション・シングルの曲なんですよね。今年はいつにも増してこの部門、楽曲重視、ということなんでしょうか。
ミッキー・ガイトンについてはこの前でもコメントしたように、黒人女性カントリー・シンガーという今のアメリカの抱える社会的問題を常に生きているような境遇であることが、グラミーの多様化推進の方向性にも合っているのと、この彼女のデビュー・アルバム(昨年ソロ・パフォーマンス部門ノミネートの「Black Like Me」収録)のタイトル曲が、MVを観ると判るように女性のエンパワーメント賛歌にもなっているあたりが大変パワフル(彼女の歌唱もパワフルです)だなあ、と思えるので、本命◎はさすがに厳しいかもしれないけど、対抗○には充分ではないかな、と思います。

一方、この部門では過去3回ノミネートされるも、昨年の「The Bones」も含めいずれも受賞を逃しているマレン・モリスのプロモーション・シングルのみのリリースである「Better Than We Found It」も是非MV観て下さい。なかなかこの曲も強力で、トランプ以降分断が進んでいて、コロナ禍だけではなくBLMや移民法改定による移民系アメリカ人達の国外退去の不安など様々な問題を抱えているアメリカ、ひいてはこの世界に対して、今自分達が取っているアクションや決断が自分たちの子供達に対して誇れるものなのか、後に歴史の中で評価されることなのか、よく考えて行動してほしい、というプロテスト・ソングになってるんです。「I wanna leave this world better than I found it(私がこの世界を去る時には、自分が生まれ落ちた時よりもいい世界にしたいの)」というメッセージは、MV後半の自分の息子ヘイズへのメッセージでも強調されていて、彼女がこの賞を取るのであれば、この曲がふさわしい、と思えたので、本命◎は彼女に。共作者のジミー・ロビンスローラ・ヴェルツは、昨年のノミネート曲「The Bones」の共作者でもあります。

他の部門でもノミネートされながらコメントしてませんでしたが、2019年第61回では主要部門のアルバム部門を結婚直後のハッピーな状況をそのまま作品にした『Golden Hour』で、この部門も「Space Cowboy」で受賞していたケイシー・マスグレイヴス、今回もソロとソングの部門でノミネートされてますが、何故かアルバムは「カントリー・アルバムではない」というアカデミーによる意味不明の判断で対象になっていません。また今回の『Star-Crossed』というアルバムは、前作の後残念ながら離婚してしまったケイシーの失意のほどが伺える(それでも楽曲としてはクオリティの高い)曲で埋められたアルバムで、ここでのノミネート曲「camera roll」もそうした内容なので、ちょっと今回は受賞は厳しいような気がします(MVちょっと不気味ですがw)。とすると、残り穴×はソロ部門でも(そしてこの後のアルバム部門でも)強いクリス・ステイプルトンかな、と。ちょっと楽曲的にはシングルでもなく地味な曲なんで、どうしてこの曲?という疑問もありますけど。あ、ちなみにこの中で一番売れたシングルはウォーカー・ヘイズの「Fancy Like」ですが、歴代この部門でこういうギミック系の何年か後には忘れ去られてるんじゃ?って感じの楽曲は取ってないのでもちろん対象外です。ええ、何と言っても楽曲重視みたいですから

25.最優秀カントリー・アルバム部門

  Skeletons - Brothers Osborne
× Remember Her Name - Mickey Guyton
○ The Marfa Tapes - Miranda Lambert, Jon Randall & Jack Ingram

  The Ballad Of Dood & Juanita - Sturgill Simpson
◎ Starting Over - Chris Stapleton(受賞)

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さてカントリー部門最後のカテゴリー、アルバム部門。構成としてはこの部門の過去の受賞者3人(組)に、初ノミネートとなるブラザーズ・オズボーンに再三名前の出ているミッキー・ガイトンというフレッシュな2組が並んでいる、というなかなかいい感じになっています。一方、史上初全ノミニーが女性シンガー(または女性ボーカルのグループ)で占められた去年からはやや通常の男女バランス(男性3対女性2)に戻った感じになってますね。とはいえ、いずれもかなりソリッドな作品がならんだ顔ぶれです。

ただその中でもやはり去年のCMAでも最優秀アルバムを含む3部門受賞のクリス・ステイプルトンの本命◎は固いところでしょう。ここ数年の彼のカントリー・シーン、ならびにアメリカーナ・シーンでの突出ぶりはかなりなものなので、今回も2016年第58回の『Traveller』、2018年第60回の『From A Room: Volume 1』に続く3回目の受賞はおそらく間違いないと思います。

そこに対抗○で絡む可能性があるのは、カントリー界の大姐御、ミランダ・ランバートが昔から一緒に曲を書いたりしていたジョン・ランドール、そしてエミルー・ハリス・バンドのギタリストでもあるジャック・イングラムという2人のベテランと3人でシンプルで70年代初頭のフォーク系シンガーソングライター作品にも通じるような雰囲気が素晴らしい『The Marfa Tapes』じゃないかと思います。タイトルのマーファというのはこの作品をレコーディングしたテキサスの田舎町の名前で、レコーディングはその町のはずれの砂漠の中でキャンプファイアをしながらマイク2本とアコギ2本だけで行われたらしいです。なのでライブ感満点で、時々バックグラウンドに風の音とか、曲間の会話なんかも入っていて、正にその場に居合わせているような気分になれる、なかなかの好盤です。ミランダ姐御もいつものようにドスを利かせた歌唱ではなく、素直に歌っているところが好感度大。クリスがいなければ本命◎付けてもいいくらいですがここは対抗○。
そして穴×は今年のカントリー部門の話題の中心になっているミッキー・ガイトンのデビュー・アルバムに。

さて、何とか全51部門予想の折り返し点まで来ました。この次はジャズ部門の予想です。週中の祝日あたりにアップできればいいなあ、と思ってますので引き続きお楽しみに!

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