見出し画像

今週の全米アルバムチャート事情 #88- 2021/7/17付

日本中の野球ファンがドキドキしながら見守ったであろう、大谷翔平選手のホームラン・ダービーは、ナショナルズソト選手との1回戦を2回の延長という熱闘の末惜しくも敗れて終わりました。しかし彼が日本人としてホームランダービーに初出場して素晴らしい戦いを見せてくれたことは長く記憶に残りますね。オールスターでもバッターとしての結果は見れなかったものの、先発投手として堂々たるピッチングを披露してくれました。後半戦も楽しみですね!さて今週もお送りする「全米アルバムチャート事情!」、いつもの通り、連動ポッドキャストも週末までには配信しますので、下記のリンクからこれまでの配信をお楽しみ下さい。

さて、大きな話題のニューリリースがなかった週のチャートとなった、今週末のBillboard 200全米アルバム・チャート、先週1位のタイラー・ザ・クリエイターがポイントを減らしつつも1位をキープするかと思いきや、彼の『Call Me If You Get Lost』は何と対先週74%減と大きくポイントを失って今週は6位に転落、昨年12月のショーン・メンデスWonder』以来の、1位の翌週トップ5を外れてしまうという残念な記録を作ってしまいました。首位からの陥落記録としては、歴代の記録ではもっと激しい記録もあるのですが、こちらはポッドキャスト・オンリーのコーナー「History of Billboard 200」でご紹介することにします。

画像1

代わって1位となったのは、チャート上位のアルバムが軒並みポイントを減らす中先週の3位からわずか6%減で、ちょうど先々週同様消去法的に1位に2回目のカムバックを果たして通算3週目の1位を決めた、オリヴィア・ロドリゴの『Sour』でした。88,000ポイント(実売不明)という今年7番目に少ないポイント数で辛うじて1位を確保したオリヴィアですが、Hot 100の方では7週1位を続けるBTSの「Butter」に阻まれて同じく7週目の2位を続けていて、こちらの方では1位へのカムバックは難しそう。しかもBTSが先週末にリリースした新曲「Permission To Dance」が来週のHot 100でひょっとすると1位初登場の可能性ありなので、このまま「Good 4 U」はBTSの後塵を拝し続けることになりそうですね。しかし「Permission To Dance」が1位初登場だとすると、2018年のドレイクGod’s Plan」と「Nice For What」以来史上2組目のHot 100連続2曲初登場1位ということになって、これはこれで凄いことに。

一方UKアルバムチャートの方では、オリヴィアのこのアルバム、今週同じく2度目の首位カムバックで、こちらでは通算4週目の1位を飾っています。

画像2

そして先週の予想で上位に入ってくるかも、と名前を出したシカゴのラッパー、Gハーボの4枚目のアルバム『25』は、46,000ポイント(実売1,000枚強)去年の前作『PTSD』の7位を上回る5位に初登場、彼にとっての最大のチャートヒットアルバムとなりました

このアルバム、彼自身の25歳の誕生日の1週間前の今年1/28にGハーボの幼馴染みでラッパーのリル・グレッグが射殺されるリル・グレッグも今年25歳になる前だったようです)という悲劇にショックを受けたGハーボが、リル・グレッグの追悼の意味を込めて自分の25歳の年にちなんだタイトルを付けて制作したもの。いきおい、アルバムのトーンは沈痛なものでその殆どがトラップ・バラード的楽曲ですが、ここで彼は「自分の生い立ちについて、自分達はどこから出てきたのか、そして今どこにいるのか」を見つめ直した内容のトラックを淡々とラップしています。しかしホントにここ1〜2年というもの、ニプシーに始まってジュースWRLD、ポップ・スモークなどラッパーの悲惨な他界が続いていてこういう作品を出さざるを得ないGハーボの気持ちも判ります。R.I.P.リル・グレッグ

画像3

今週のトップ10内初登場はこのGハーボのみの1枚と地味な状況そのままに、トップ10圏外100位までの初登場も今週はわずか1枚です。その1枚が、95位に初登場してきた、Jxdnと書いて「ジェイデン」という名前(本名:ジェイデン・イザイア・ホスラー)の若干20歳の新人アーティストのデビュー盤『Tell Me About Tomorrow』。ミュージシャンとしての創作活動は2019年から始めたTikTok、というからいかにも今時の新世代シンガーソングライターなんですが、音楽性的には当然トラップ系ヒップホップが底辺にあるものの、楽曲的にはどちらかというとエモ・ロックというかポップ・パンクといった感じのかなりキャッチーなものが多く、同様に白人ヒップホップ系からパンクに最近転じたマシンガン・ケリーとコラボった「Wanna Be」や「So What!」などこのアルバム収録の楽曲、ストレートで人気を集めているのもむべなるかな、という感じです。

またこのアルバムには収録されてませんが、あのオリヴィア・ロドリゴの「Drivers License」のロック・リミックス・バージョンなんかもリリースしていて、なかなか話題を集めているJxdn。まだアルバムデビューしたてなのに、既に今年のレコード・ストア・デイの第2弾、7/17リリースのリストにも彼のレコードが含まれるなど、今年後半から来年に向けてビッグになりそうな雰囲気ありますね。

ということで今週7/17付のBillboard 200、静かな感じですがここでいつものトップ10おさらい、行っておきます(順位、先週順位、週数、タイトル、アーティスト)。

1 (3) (7) Sour ▲ - Olivia Rodrigo
2 (2) (2) Planet Her - Doja Cat
3 (4) (5) The Voice Of The Heroes - Lil Baby & Lil Durk
4 (6) (26) Dangerous: The Double Album - Morgan Wallen
*5 (-) (1) 25 - G Herbo
6 (1) (2) Call Me If You Get Lost - Tyler, The Creator
7 (5) (4) Hall Of Fame - Polo G
8 (9) (66) Future Nostalgia ▲ - Dua Lipa
9 (7) (4) Culture III - Migos
10 (11) (11) A Gangsta’s Pain ● - Moneybagg Yo

画像4

さて今週はあっさりしているので、おまけとしてちょうどこのBillboard 200集計用のデータを提供しているMRCデータ社が今週発表した、2021年上半期(1/1-7/1)のEAU(Equivalent Album Units、アルバム相当ユニット数。いつもこのコラムが自分が「ポイント」と言っているものです)ランキングをご紹介しましょう。今年の上半期のEAUは対前年比13.5%、そしてオンデマンドベースの楽曲ストリーミング数も対前年比11%の増となっていて、今年は音楽消費全般が順調に伸びていることが判ります。その中でも今年は、特にMRCデータ社がデータ集計を始めた1991以来初めて1,890万枚売ったCDや1,290万枚のデジタル・ダウンロードを押さえてヴァイナル(LP)が1,920万枚売上と、各フォーマット中、売上トップになったというからヴァイナルジャンキーとしては嬉しいところ。ではそのランキングをご紹介しましょう。

画像5

2021年前半トップ10アルバム(期間中累計EAUベース)

1.Dangerous: The Double Album - Morgan Wallen (2.108 million EAUs)
2.Sour - Olivia Rodrigo(1.367 million EAUs)
3.Justice - Justin Bieber (962,000 EAUs)
4.Shoot For The Stars Aim For The Moon - Pop Smoke (948,000 EAUs)
5.After Hours - The Weeknd (832,000 EAUs)
6.Future Nostalgia - Dua Lipa (829,000 EAUs)
7.Evermore - Taylor Swift (818,000 EAUs)
8.What You See Is What You Get - Luke Combs (740,000 EAUs)
9.The Voice - Lil Durk (735,000 EAUs)
10.Positions - Ariana Grande (707,000 EAUs)

いろいろとN発言で物議を醸しているモーガン・ウォレンのあのアルバムが何だかんだで今年前半最も”売れた”アルバムになっているのが個人的には忸怩たるところですが、その210.8万EAUのうち、実に87%にあたる182.8万EAUがストリーミングによるもので(累計25億回のオンデマンドストリーミング相当)、アルバム実売は10週も1位にいながら未だに24.1万枚と、ゴールドディスク(50万枚)の半分も行ってないあたりが、このアルバムの人気の集まり方のいびつさを物語っている気がしますね。一方、発売僅か1ヶ月ちょっとで136.7万EAUを叩き出して2位に付けているオリヴィアはさすがです。
また、このランキングのうち、2021年リリースのアルバムはそのモーガン・ウォレン、2位のオリヴィアと3位のジャスティンのみということで、2021年半年過ぎても音楽消費の大半は昨年の作品に向かっているということが判ります。これが今年後半のリリースの状況でどう変わるか、引き続きウォッチしていきます。なお、このMRCデータ社のランキング、この他にもいろいろ発表されているので、来週も他のランキングをご紹介することにしますのでお楽しみに。

ということで今週のBillboard 200全米アルバムチャート、いかがでしたか。最後にいつもの来週1位予想です。今回の集計対象期間は7/9-15ですが、その初日9日リリースラインアップも、今週同様これというものが見当たりません。あのジャム&ルイス初のオリジナル・アルバムや、ジェイコブ・ディラン率いるウォールフラワーズ9年ぶりの新作あたりが話題ではあるのですが、これらが1位、というのはどうも考えにくく。ひょっとしてあっと驚くLAのラッパー、ヴィンス・ステイプルズ(一昨年のフジロックでライブ見ました)の4作目が上の方にくるかもしれませんが、来週もあまりポイントを減らさずオリヴィアがもう1週、というのも結構ある線のような気がしてます。ではまた来週。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?