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今週の全米アルバムチャート事情 #212- 2023/12/2付

ここ数日の間に自分の健康状態の問題点が確定して、今週からは新たに大きな専門医にかかるべく活動を開始するという、ある意味自分にとって大きなフェーズチェンジのタイミングになってます。そういうこともあっていろいろと思うことも多いのだけど、この状態を乗り越えるべく引き続き前向きに活動するために、このウィークリーの「全米アルバムチャート事情!」も引き続きアップしていきますので、いつも見てくれてる方も、今回たまたま目にしたという方も、楽しみにして下さい。今週の金曜日は自分の○○回目の誕生日なので、そのタイミングでこれとは別に例年どおり、第66回グラミー賞各部門の予想ブログシリーズもスタートする予定です。こちらもちょっと覗いてあげて下さい。

"For All The Dogs Scary Hours Edition" by Drake

さて先週の予想が久しぶりにぴったり当たって、今週12月2日付のBillboard 200、全米アルバムチャートの1位は、11/17に6曲のボートラを追加したドレイクのこの間のアルバムのデラックス・バージョン、『For All The Dogs Scary Hours Edition』が、予想通りストリーミングをガッツリ集めて145,000ポイント(うち実売2,000枚、ストリーミングポイントは141,500ポイント=1.9億回オンデマンドストリーミング相当)で通算2週目の1位に返り咲いています

といっても、11/17付のスポティファイ・デイリー・チャートを見てもその6曲が上位を占めている、という感じでもなくトップ10に「You Broke My Heart」(2位)、J.コールをフィーチャーした「Evil Ways」(5位)、「Red Button」(6位)の3曲が初登場しているくらいでそんなに圧倒的なアクションじゃないんですよね。それでもアルバム1位奪還しちゃう、というのはこのアルバムチャートの集計上ストリーミングの比重がいかに大きいか、ということの表れなんでしょう。やはりビルボード誌には集計方法についてはもうちょっとフィジカル比率を上げてもいいんじゃないかな、と改めて思いました。一方、メディアの受けはイマイチながら、チルR&B系トラックや、バッドバニーとのレガトントラックの他、ペット・ショップ・ボーイズWest End Girls」をサンプルした「All The Parties」とか、フロレンス+ザ・マシーンDog Days Are Over」をサンプルした「Rich Baby Daddy」など、『For All The Dogs』ではちょっと楽曲パターンの多様性を狙ってる感じがあったんですが、追加の6曲はリル・ヤティやベテランのジ・アルケミスト、売れっ子ボイ・1ダといったサウンドメイカーを使って、70年代R&Bトラックでとってもオールドスクールにラップする「Stories About My Brother」とか、90年代ヒップホップを彷彿させるJ.コールとの「Evil Ways」など、なかなかドウプなトラック揃いで、これはちょっとオールドスクールなファンも喜んで聴いてるだろうなあ、という感じ。まあドレイク、商売巧いですねえ(笑)。

"Rockstar" by Dolly Parton

一方、ビルボード誌のオンライン記事では「すわ初の1位か?」とちょっと盛り上がっていた、ドリー・パートン姐御初のロック・アルバムと銘打たれ、計40人のロック・アーティストをフィーチャーした計30曲収録の通算49作目のアルバム『Rockstar』が128,000ポイント(うち実売118,500枚)で堂々3位初登場。通常の週であれば充分1位を狙える出力だっただけに「ドレイク、ちょっとは忖度せえや」と言いたくもなりますね(笑)。それでもこの3位というのは、ドリー御大にとって1987年のリンダ・ロンシュタット、エミルー・ハリスとの『Trio』、2014年の『Blue Smoke』(いずれも6位)に続く3作目のトップ10アルバムで、彼女の60年を超えるキャリアで過去最高チャート作品なので、何はともあれめでたいことです。

スティングをフィーチャーしたポリスの「Every Breath You Take」、ハートアン・ウィルソンをフィーチャーした「Magic Man」、ジョーン・ジェットをフィーチャーした「I Hate Myself For Loving You」、レーナード・スキナードをフィーチャーした「Free Bird」、サー・ポールリンゴを配した「Let It Be」などなど計21曲のロック・カバーをぶちかましている今年喜寿のドリー姐さんのスターパワーには改めて敬服するしかないですね。ただそれ以外に、今回ロックやることの意気込みを自ら冒頭叫ぶ「Rockstar」や、重量感たっぷりなスローからカタルシス的に盛り上がる「Wolrd On Fire」、キッド・ロックを子分的に従えてコール&レスポンスで盛り上げる「Either Or」などなど、自作の曲でもしっかり存在感を発揮しているのはやはりさすが。個人的には、きっと将来ドリー姐さんみたいなおばあちゃんになるんじゃないか、と思うマイリーの「Wrecking Ball」を二人で一緒に歌うバージョンなんかでは思わずマイリーの50年後を想像してニンマリしてしまいましたが。リリースにあわせて先週末のサンクスギヴィングには、ワシントン・コマンダーズダラス・カウボーイズNFLゲームのハーフタイムショーでもクイーンのカバーを披露したらしく、これを見た音楽ファンが、ドリー姐さんがあの曲をどういう風にカバーしてるんだろう?という興味でもかなりストリーミングが伸びたんじゃないでしょうか。そういう楽しみも満載の、正にホリデーシーズン向けの一枚ですねえ。

"Orange Blood" by Enhypen

そして今週もう1枚のトップ10内初登場。今週も炸裂Kポップ・パワー!ということで先週の予想どおり、エンハイプン(ENHYPEN)が6曲入りEP『Orange Blood』を4位に送り込んできていて、『Manifesto: Day 1』(2022年6位)、『Dark Blood』(今年4位)に続く、彼ら通算3枚目になるトップ10入り(いずれもEP)を果たしてます(90,000ポイント、うち実売87,000枚)。

今回も前作の「吸血鬼テーマ」の続編という位置付けみたいですが、楽曲は前作EP同様、エレクトロ系のメインストリーム・ポップにだいぶ寄せているもので固められてますね。どの曲もなかなかキャッチーです。あと、メンバーに日本人のニキこと西村力がいる関係で、日本オンリーアルバムなどもリリースしている彼らですが、今回のオープニング曲の「Mortal」では、メインの韓国語のナレーションと共にアメリカはシアトル出身のジェイが英語、そしてニキが日本語でナレーションを担当してます。彼らもだんだんリリースごとに出力を上げてきていますので、次のアルバムくらいではトップ3を狙えるんじゃないでしょうか。

"Welcome 2 Collegrove" by 2 Chainz & Lil Wayne

トップ10初登場は2枚の今週、11位以下100位までの圏外も初登場3枚とやや少なめ。ただ結構話題盤が登場しています。まず20位にエントリーしてきたのは、今年『Tha Carter』シリーズの6作目と、『I Am Not A Human Being』のシリーズ3作目をドロップするとずっと言われながら、これがなかなか出ない中、リル・ウェイン2チェインズとコラボした『Welcome 2 Collegrove』。一応タイトル的には2チェインズの3作目『ColleGrove』(2016年4位)の続編ということになってますが、実は当時もリル・ウェインとのデュオ・アルバムにする予定が、レーベルの関係で2チェインズのソロになったという経緯があるらしく、そういう意味では今回2チェインズにとっては満を持してのリリースということなんでしょう。タイトルの「ColleGrove」も2チェインズの出身地ジョージア州カレッジ・パークと、リル・ウェインの出身地ニューオーリンズのホリーグローヴを組み合わせたもののようです。

といいながらジャケはリル・ウェインのピンのフルアップというのは2チェインズに取っては良かったんでしょうか?それはともあれ、最近もっぱらフィーチャリングのヒットが多く、メイン・クレジットのトップ40ヒットは2013年の映画『Fast & Furious』からの「We Own It (Fast & Furious)」(16位、ウィズ・カリファとのデュオヒット)以降ない2チェインズですが実力者ではあるので、リルウェインとのコラボといいながらアルバムを通じて基本彼がリードを取ってます。楽曲も今売れてるプロデューサーを集合させてなかなか手堅く作ってるものが多いですね。アッシャーをフィーチャーした「Transparency」や元フロートリーマーシャ・アンブローシアスをフィーチャーした「Moonlight」など、クオリティの高いR&Bトラックも取り揃えてるし、もう少し高い順位に入ってきても良かったんじゃないかな、とは思いました。

"New Blue Sun" by Andre 3000

続いてある意味今週最大の話題盤、アウトキャストの片割れ、アンドレ3000の初ソロアルバム『New Blue Sun』が34位に初登場してます。リリース前から話題になってましたが、今回のこのソロアルバム、ラップ・アルバムではなくインストゥルメンタル・アルバムで、しかもアンドレが様々なフルートを演奏して展開するアンビエント・ジャズというか、ニュー・エイジというかそんな感じの作品なんですね。なかなかこれまでアウトキャストで彼が作り出して来た作品からは大きくかけ離れたスタイルなんですが、なかなか聴いてるとこれが心地よくて思いの外結構ハマりそうな気がしてます

アンドレはちょっと前からフルート演奏に興味を持ってた節があり、今年のアカデミー賞で7部門受賞して旋風を起こした映画『Everything Everywhere All At Once』のスコアにもフルートで参加してたりしてました。彼曰く「今はラップじゃなくてこういう音楽の方向性がしっくり来るんだ」とのこと。その思いはアルバム1曲目のタイトル「I Swear, I Really Wanted To Make A ‘Rap’ Album But This Is Literally The Way The Wind Blew Me This Time」(マジで、ホントにラップ・レコード作りたかったんだけど、今回は正にこういう感じの音楽の方向にならざるを得なかったんだよな)」にも表れてます。ちなみにこの曲、今週のHot 100の90位に初登場していて、そのタイトルの長さ(22ワード。最長記録は1981年のスターズ・オン45Medley:…」の41ワード)もさることながら、12分20秒という曲の長さでHot 100チャートイン曲の史上最長記録を樹立しちゃってます。これまでの記録はインダストリアル・メタル・バンドのトゥールの「Fear Inoculum」(2019年93位)の10分21秒で、ちなみに史上3位はテイラーの「All Too Well (Taylor’s Version)」(2021年1位)の10分13秒とのこと。いやはやいろんな話題を提供してくれるなあ、アンドレ。

"The Hunger Games: The Ballad Of Songbirds & Snakes" Soundtrack

今週100位までの最後の初登場は先々週全米で封切りされた、「ハンガー・ゲームス」シリーズの5作目の映画『The Hunger Games: The Ballad Of Songbirds & Snakes(ハンガー・ゲーム0)』のサントラ盤、76位にエントリーしています。今回は過去4作のシリーズのプリクエル(前日譚)で、同シリーズでドナルド・サザーランドが演じたコリオラヌス・スノー大統領(と言っても自分はこの映画見てないのでよく判りませんがw)の若き日を描くスピンオフ的作品のようです。

このサントラ盤からは、既にオリヴィア・ロドリゴが歌う「Can’t Catch Me Now」(現在最高位56位)がヒットしてますが、アルバム全体のプロデュースを、アメリカーナ系今や巨匠となったデイヴ・コブが担当してることもあってか、オリヴィア以外では昨年グラミー賞新人賞部門ノミネートの若きブルーグラスの才媛モリー・タトルや、やはりブルーグラス系の今やベテラン、ビリー・ストリングスらのアメリカーナ系のアーティストが参加してます。また、アパラチアン・タイプのフォーク・カントリー系の音楽が大きな意味をもつこの映画で、主役のルーシー・グレイ・ベアドを演じるレイチェル・ゼグラーは映画全編では吹き替え無しでいろいろな曲をパフォームしているとのことで、彼女がなかなかしっかりした歌唱で聴かせるそうした楽曲も8曲収録されてます。

ということで今週の100位までの初登場は計5枚でした。一方Hot 100の方では、先週2位に初登場していたジャック・ハーロウの「Lovin On Me」が今週1位。トップ10には季節柄マライアの「All I Want For Christmas Is You」(4位)とブレンダ・リーの「Rockin’ Around The Christmas Tree」(8位)と定番クリスマス・ソングが登場してきています。マライアが今年も1位になれば通算12週目の1位、一方ここ4シーズン連続2位止まりのブレンダ・リーが1位になれば、初チャートイン(1960年12月)から63年を経て1位になるというおそらく1位到達最長記録を達成することになります。ではここでいつものトップ10おさらい(順位、先週順位、週数、タイトル、アーティスト、<総ポイント数/アルバム実売枚数、*はHits Daily Double調べ>)。

*1 (4) (7) For All The Dogs - Drake <145,000 pt/2,000枚>
2 (2) (4) 1989 (Taylor’s Version) - Taylor Swift <138,000 pt/63,484枚*>
*3 (-) (1) Rockstar - Dolly Parton <128,000 pt/118,500枚>
*4 (-) (1) Orange Blood (EP) - Enhypen <90,000 pt/87,000枚>

5 (5) (38) One Thing At A Time - Morgan Wallen <68,000 pt/3,439枚*>
*6 (7) (57) Midnights ▲2 - Taylor Swift <56,000 pt/21,004枚*>
7 (1) (2) ROCK-STAR - Stray Kids <51,000 pt/45,000枚*>
*8 (14) (222) Lover ▲3 - Taylor Swift <51,000- pt/18,016枚*>
*9 (18) (174) Folklore - Taylor Swift <45,000 pt/19,902枚*>
10 (12) (50) SOS ▲3 - SZA <44,000 pt/4,284枚*>

アルバムはドレイクが首位返り咲き、シングルチャートはいよいよクリスマスものが登場してきた今週の「全米アルバムチャート事情!」いかがでしたか。では最後にいつものように来週の1位予想です(チャート集計対象期間:11/24-30)。今週はめぼしい新譜リリースがなく、1/24付のスポティファイ・デイリー・チャートもトップ10は7曲がクリスマス・ソングという状態ですから、おそらく来週の1位はドレイクテイラーのどちらか、ストリーミングをあまり減らさなかった方が消去法的に1位かな、と思いますね。ドレイクの曲はいずれも大きくスポティファイ・チャートで落ちているので、来週はテイラーが通算3週目の1位返り咲きというのが見立てです。ではまた来週。

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