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今週の全米アルバムチャート事情 #204- 2023/10/7付

大谷翔平選手、祝アメリカン・リーグHR王獲得!いやあめでたいな。9月は3試合しかプレイできなかったので、その間レンジャーズガルシアヤンキーズジャッジが急ピッチで追い込んできたのでハラハラしましたが、無事大谷選手日本人、いやアジア人史上初のMLBHR王格という偉業を達成して感無量です。MLBは明日からこちらも熱いポストシーズンが始まりますが、こちらも今年は楽しめそう。個人的な予想としては、ワールドシリーズはやっぱりブレーブス対アストロズかなあ。そして4勝3敗でブレーブスが昨年の雪辱を晴らしてWSチャンピオン、というのが可能性高いと思います。気候もすっかり良くなってきた10月、読書に音楽にスポーツに楽しみましょう。

"Nostalgia" by Rod Wave

さて今週10月7日付のBillboard 200、全米アルバムチャートの1位、てっきりフィフティ・フィフティドジャの一騎打ちだと思ったんですが、蓋を開けてみるとドジャは予想を下回るポイント数で、フィフティ・フィフティに至っては何と200位までにも影も形もないという有様(何で?)。そんな中で漁夫の利的にロッド・ウェイヴの『Nostalgia』が2週目の1位を決めたんです。対先週比36%減という、ヒップホップ系のアーティストの2週目にしては比較的少ないポイント減衰で今週は88,000ポイント(うち実売わずか500枚)、2位のオリヴィア・ロドリゴGuts』をわずか500ポイント差でかわすというしぶとさを見せてます。

改めて聴いてみるとロッドのエモなラップ・スタイルもさることながら、やはりトラック作りに凡百のトラップ野郎たちとは一線を画しているのを再認識。先週「エレクトロとヒップホップのマリアージュ」という風にコメントしたオープニングのアルバム・タイトル・ナンバー、改めて聴いてみるとこれ、ヒップホップというよりほとんどもうオルタナ・エレクトロ・ロックですね。フィーチャーされてるウェット、というバンドはNYブルックリンをベースに活動する女性ボーカルのケリー嬢を擁するインディ・ポップ・バンドらしいです。そして全体の半分を占める9曲が生音のピアノで始まってたかと思うと、イントロからいきなりアコギで迫る「Pass You By」とか本当にトラック作りが練られてるなあ、という感じ。いかにもヒップホップ、というのは21サヴェージをフィーチャーした「Turks & Caicos」と「Great Gatsby」くらい。おそらくカジュアルなヒップホップ・ファンも多く取り込んでいるのがこの持続的人気の要因なんでしょう。

"Scarlet" by Doja Cat

そして先週1位取るんじゃないか、と言ってたドジャ・キャットの『Scarlet』は、今週見事にドレイク&SZAを蹴落として3週ぶりにHot 100ナンバーワンに復帰した「Paint The Town Red」収録のわりには72,000ポイント(うち実売6,000枚分)とやや弱めのポイントで4位初登場でした。クモのジャケットのそれも地味なデザインだし(最初は赤いクモのジャケだったのが、某メタルコアバンドのジャケに酷似してるということで差し替えられたらしい)、シングルの「Paint The Town Red」や「Demons」のように、これまでの作品に比べて「ドジャ・ザ・ラッパー」を比較的前面に押し出した構成なあたりがポップでR&Bなドジャに惹かれる層からやや距離を置かれたのかもしれません。

それでもこのアルバムに対する音楽メディアの評価はまずまずですし、ポップ・ファンにも「Paint The Town Red」でのディオンヌ・ワーウィックWalk On By」のサンプリングや、「Shutcho」での10ccI’m Not In Love」のサンプリングなど楽しい仕掛けもあちこちに散りばめてあり、ヒップホップR&Bシンガー・ドジャが満喫できる「Agora Hills」なんかはさすがと思わせる出来。もともと地元LAではラッパーとしてのキャリアからスタートしてたドジャが「Say So」の大ヒットで、ラッパーにしちゃポップ過ぎるんじゃね、という批判に対抗するという意図もあってこういうアルバム構成になったんでしょうが、結果「多様なドジャ」が楽しめる、そんなアルバムになってるんじゃないかな。今週UKアルバムチャートでも5位に初登場してます。

"Boys Of Faith (EP)" by Zach Bryan

今週びっくりしたのはトップ10内もう1枚の初登場で、43,500ポイント(うち実売4,000枚)で8位に飛び込んできた、ザック・ブライアンの5曲入りEP『Boys Of Faith』。ナンバーワン・アルバムのセカンド『Zach Bryan』が出てまだ1ヶ月も経ってないのに矢継ぎ早にリリースされたこのEP、5曲しかないのにストリーミング・ポイントで39,000ポイント(オンデマンドストリーム5,035万回相当)稼いでこの順位に入ってきたのはなかなか驚きです。

このEPで注目なのは、あのボン・イヴェールとの共作で彼をフィーチャーしている「Boys Of Faith」と、今売出し中のアメリカーナ・カントリー・シンガーソングライターのノア・カーンとの共作で彼をフィーチャーしたアップテンポの「Sarah’s Place」が収録されてること。特にボン・イヴェールとの曲は、正しく二人の世界観が渾然一体となって二人のボーカルが融合したような音像が不思議な雰囲気を醸し出してます。何でもボン・イヴェールことジャスティン・ヴァーノンは「自分が音楽始めたのはボン・イヴェールを聴いたから」とザックが言うくらい敬愛する相手だったらしいです。『Zach Bryan』のヴァイナルも今月後半リリース予定ですが、その間も別の新作でチャートを賑わすザック、ますますシーンでの存在感を増してきましたね。ちなみに収録の5曲は今週のHot 100に全て初登場してます(最上位は14位初登場の「Sarah’s Place」)。

"TEC" by Lil Tecca

ということで今週のトップ10内初登場は2枚。一方11位以下圏外100位までには今週6枚が初登場です。その中で惜しくもトップ10を逃して11位初登場だったのは、先週トップ10入り予想していたNYクイーンズのラッパー、リル・テッカのサード・アルバム『TEC』。前作、前々作はいずれも10位、その間にリリースしたミックステープ『We Love You Tecca』(2019)も4位と、コンスタントにトップ10を決めてたんですが今回は惜しくも次点。デビューの頃は18歳の高校生だったリル・テッカも今年21歳になりました。

オートチューンを駆使しながら、メロディアスでポップな曲調のトラップ・トラックに乗せてラップするという、メインストリーム・トラップ・ポップ的なアプローチとスタイルには今回も大きな変更もなく、このスタイルが気に入ってるファンには安心して聴ける内容になってますね。

"Tension" by Kylie Minogue

続いて21位に登場してきたのは、本国UKでは今週堂々のアルバムチャート1位初登場、通算9枚目の1位(スタジオアルバムでは7枚目)を決めている、今やUKの国民的シンガー、カイリー・ミノーグの『Tension』。先行シングルの「Padam Padam」はUKでは8位、全米でもダンス/エレクトロニック・ソングチャートで7位、ダンス/ミックスショー・エアプレイ・チャートでは堂々2週間1位を記録と英米でしっかり支持を集めていますね。

ディスコ・ジャンルの祝福感満載だった前作『Disco』(2020年全英1位、全米26位)の路線を更に掘り下げて、今回は全編エレクトロ・ダンス・ポップ・チューン満載の内容。それも以前の大ヒット「Can’t Get It Out Of My Head」のようにオルタナな感じではなく、もうひたすらメインストリーム感で満ちあふれたアルバムです。ラップもこなしている「Hands」や「10 Out Of 10」とかを聴くと「これってドジャ・キャット意識してるんじゃ?」と思うようなそんなキャッチーな内容。音楽メディアの評価も軒並み高く、カイリーのベストの呼び声も高いこのアルバムを引っさげて、カイリーは11月からラス・ヴェガスのレジデンシー・ショー『More Than Just A Residency(ただのレジデンシーじゃないわよ)』をスタートするとのこと。ここに来て絶好調の気配のカイリー、注目です。

"The Brave 2" by Tom MacDonald & Adam Calhoun

さて大分下の方に行って62位に入って来たのはあまり取り上げたくない、元プロレスラーで極右なメッセージソングを吐き散らしているラッパー、トム・マクドナルドトランプ支持者でこちらも極右なカントリー・ラッパー、アダム・カルフーンの2作目のコラボ・アルバム『The Brave 2』。このジャケからしてやな感じ(笑)

正直言ってアルバム収録曲のタイトル見るだけでいやーな感じがして、とても曲を聴く気がしなかったのですが、「Gangster Rap Raised Us」って曲だけタイトルが気になってちょっと聴いてみました。ラップというよりガナリ立てるトム・マクドナルドが「ガキの頃ギャングスタ・ラップ聴いて育った/ハッパ決めて”ウェッサイ〜”って叫んでヘネシー呑んで/Dr.ドレやスヌープ聴いて/そんなお気に入りのラッパーは牢屋入りか殺されて/女の服着てるニセ者になったヤツもいる/でも俺らは大丈夫、ギャングスタ・ラップで育ったからな」って、何かギャングスタ・ラッパーをステレオタイプしてるような気もするけど、そんな変なことは言ってないですね。あと、ダックスっていうナイジェリア系カナダ人のラッパーをフィーチャーして3人で高速ラップしてる「Black & White」なんかでは思いっきり自分達白人をステレオタイプした後で、ダックスが「白対黒の話じゃないんだ/問題は正しいか間違ってるかだけだ」というヴァースで締めるという、およそギャングスタ・ラップで育った連中とは思えない締め方にちょっとウケてしまいました。まあでも好んで聴くタイプのアルバムじゃないことは確かですな(笑)。

"Confessions Of The Fallen" by Staind

そして64位に初登場してきたのは2000年代に絶大な人気を誇ったポスト・グランジ・メタル・バンドのステインド実に12年ぶりの新作『Confessions Of The Fallen』ステインドというとリーダーでボーカルのアーロン・ルイスが、前述のトム・マクドナルドと同じような右翼系のカントリー・ソングで、ブルース・スプリングスティーンをディスった「Am I The Only One」を2021年にヒットさせて(Hot 100最高位14位)「うーん、こいつもかー」と思わせましたが、こちらの内容はそういうメッセージはあまりなさそうで、ただ10年前と同じようなドラマチックな展開のヘヴィーでメロディアスなメタルアルバム、ということで何か新境地があるわけではないようです。

その前作『Staind』(2011年5位)までは5枚連続アルバムチャートのトップ5に入れてたわけで、2012年に活動休止を宣言してからは時々ライブフェスに出たり、上記のようにアーロン・ルイスがソロ出したりしてたので、音楽活動をまったくやってなかったわけではないですが、これだけスタイルがまったく変わらないと「この10年間は何だったのか?」という疑問がファンが持ってもおかしくないよなあ、だからこんな順位になったんかなあ、と思いながら聴いてました。

"Dual" by The Rose

次に83位初登場は、韓国の4人組インディ・ポップ・ロック・バンド、ザ・ローズのセカンド・アルバムにして全米初チャートインの『Dual』。いわゆるボーイズ・グループとかじゃなくて、自分達で楽器演奏するバンドスタイルのKポップ・アーティストとしては初の全米ブレイクなんではないでしょうか。

スタイルとしては、ドリーミー・ポップで、時にビートの効いたインディ・ロック、といった感じで、LANYとかによく感じの似た、キャッチーでポップなナンバーをやるバンド、という印象。2019年日本開催のKCONで来日して幕張メッセでライブやったらしいし、2020年にはホールジーの韓国ツアーのオープニングも務めたということで、今のアメリカのメインストリーム・パワー・ポップのファンであれば気に入るだろうな、という感じです。しかしKポップもボーイグループ→ガールグループ→それらのグループのソロヒットとフェーズが進んできて、今度はバンドの登場かあ、新しい展開になるかもな、と思いました。フィフティ・フィフティは大きく今週コケてしまいましたが(しかしどうしたんだろう、バービーのサントラにも参加したりして話題性はあったはずなんだけど)。

"Angel Face" by Stephen Sanchez

今週最後の100位までの初登場は、90位に入って来た今年若干20歳の若き正統派ポップ・シンガーソングライター、スティーヴン・サンチェスのデビュー・アルバム『Angel Face』。スティーヴンと言えば、去年の後半レトロでラウンジでキッチュな感じの正統派ポップ・バラード「Until I Found You」(最高位23位)で一躍ブレイクした新人シンガーで、今年のグラストンベリー・フェスティバルではこの曲を気に入ったらしいエルトン・ジョンがカバーしたステージにも飛び入り参加したりしていろいろと話題を集めてるようです。

スティーヴンのベルベット・ボイスが素敵なその「Until I Found You」やオープニングの「Something About Her」、そして先々週ご照会したアイスランド・チャイニーズの新世代女性ジャズ・ポップ・シンガー、レイヴェイとのデュエット曲「No One Knows」など、1950年代のロックンロール勃興前後のドリーミーでレトロなポップ・バラード曲もあれば、エルヴィスか!という1950年代スタイルのロックンロール「Shake」もあったりして、今の時代にこんな作風とスタイルをリアリティ満点で聴かせてくれるスティーヴン、どういうやつなんだろう、と興味が湧いてしまいました。いやいやポップ作品としても秀逸ですね。

というわけで今週の100位までの初登場は計8枚でした。その他の話題としては、先週41週目の1位で、それまでの最長記録、ザ・ウィークンドの『After Hours』(2021)の40週を抜いてR&Bアルバムチャートの1位最長記録を樹立したSZAの『SOS』は今週も同チャート1位で、記録を42週に伸ばしてます。その他の長期1位記録では、デヴィッド・ゲッタ&ビービー・レクサの「I’m Good (Blue)」がダンス・エレクトロニック・ソング・チャートでまる1年を超える54週目の1位継続中。いったいこの曲、いつまで1位なんだろう(笑)。ということで今週のトップ10、おさらいです(順位、先週順位、週数、タイトル、アーティスト、<総ポイント数/アルバム実売枚数、*はHits Daily Double調べ>)。

*1 (1) (2) Nostalgia - Rod Wave <88,000 pt/500枚>
2 (2) (3) Guts - Olivia Rodrigo <87,500 pt/22,808枚*>
3 (4) (30) One Thing At A Time - Morgan Wallen <73,000 pt/1,728枚*>
*4 (-) (1) Scarlet - Doja Cat <72,000- pt/6,000枚>
5 (3) (5) Zach Bryan - Zach Bryan <66,000 pt/1,079枚*>
6 (5) (42) SOS ▲3 - SZA <49,000 pt/2,091枚*>
7 (6) (9) Utopia - Travis Scott <44,000+ pt/1,205枚*>
*8 (-) (1) Boys Of Faith (EP) - Zach Bryan <43,500 pt/4,000枚>
9 (7) (14) Génesis - Peso Pluma <43,000 pt/99枚*>
10 (8) (49) Midnights ▲2 - Taylor Swift <42,000 pt/6,328枚*>

ロッド・ウェイヴドジャ・キャットを抑えて粘り腰の2週目1位を決めた今週の「全米アルバムチャート事情!」いかがだったでしょうか。最後に恒例の来週1位予想(チャート集計対象期間:9/29~10/5)ですが、ロッド・ウェイヴも来週は5~6万ポイントに減らすでしょうから、9月に突然アナウンスされたエド・シーランの今年2枚目の新作が10万ポイント叩き出して1位になるか、それともオリヴィアが8万ポイントを死守して消去法1位に返り咲くか。うーん微妙ですが、エド・シーランに一票入れとこうかな。それ以外ではアニマル・コレクティブジョージャ・スミス、LANYの新譜など面白いリリースがあるのですが、トップ10に入って来そうなのは、カントリーのトーマス・レットのベスト盤、タイガYGのコラボアルバムくらいかな。ではまた来週。

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