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今週の全米アルバムチャート事情 #200- 2023/9/9付

9月に入り、台風も相次いで襲来する中相変わらず暑い日が続く毎日、いかがお過ごしでしょうか。個人的には先週末は家族との今シーズン初のバーベキューパーティー(夜は風が通って気持ち良かった!)、全米トップ40ファンオフ会や、神楽坂K WESTさんで開催のイベント「FUJI ROCKERS BAR!」でFUJI ROCK 2023振り返りのDJ&トークライブなどをやらせて頂き、大変充実した週末を過ごしました。開けて今週、ちょっと個人的に気になることもあり、まあいろいろありますが、次は9/15のグラミー賞対象期間カットオフを踏まえて、第66回グラミー賞ノミネーション予想の企画を考えていますのでお楽しみに。

"Zach Bryan" by Zach Bryan

さてめでたく今週で200回目を迎えたこの「今週の全米アルバムチャート事情!」、ここまで続けられたのも皆さんのおかげと感謝しています。そんな中、今週9月9日付のBillboard 200、全米アルバムチャートの1位は先週の予想が見事当たって、ザック・ブライアンのメジャー2作目『Zach Bryan』が見事200,000ポイント(うち実売17,000枚)という予想を大きく上回るポイント数で堂々の1位初登場(彼にとって初の1位)を決めています!先週もコメントしたように、前作『American Heartbreak』(2022年5位)が昨年6月チャートイン以来、ロック・アルバム・チャートでは通算21週1位、アメリカーナ/フォーク・アルバム・チャートではつい先々週まで通算61週1位と、超ロングランヒット・アルバムとなっている状況から今回10万ポイントは堅いと思ってましたが、何とその倍を叩きだしてきました。しかも今のところまだデジタルとストリーミングのみのリリースでこれですから、フィジカル(CDとヴァイナル)が予定の10月13日リリースされると、その週のチャート(10/27付チャート)でまたぐんとポイントを伸ばすこと間違いなしですね。

今回もほとんどの曲がアコギ一本のシンプルでストレートな演奏による、ジョン・メレンキャンプあたりを彷彿とさせるハートランド・カントリー・ロック曲。歌われている内容もザック自身のインスタによると「ここに入ってる曲について大層な解説も隠された意味も何もない。ただ自分が特別だと思って書いた詩や歌をみんなとシェアしたいだけ。ヘビーなものもあるし、希望を感じさせるものもあるけど、何よりも俺自身の歌で、俺自身にとって大事なものばかり。みんなが聴いてくれれば嬉しいし、もし聴いてくれなくても大事なことについてオリジナルなものを作り出したことで嬉しい。特に気に入ってもらえなくても関係ない」と等身大のザックを感じられる作品になっています。ケイシー・マスグレイヴとの共演シングル「I Remember Everything」やルミニアーズとの共演曲「Spotless」をはじめ、全16曲がチャート集計対象期間初日の8/25付スポティファイ・デイリー・チャートでトップ22位内に初登場するという予想通りのドカ盛り状態で、今週のHot 100の方でもケイシーとのシングルが初登場1位で、トップ40内に14曲初登場という状況です。そして今回のポイントのほとんどはストリーミングポイント(2.3億回オンデマンドストリーミング相当)ですが、これはストリーミングがチャートポイント換算されはじめてから、ロック・アルバムとしては最大の週間ストリーミング・ポイントだそうです。今回も聴くほどに味が出そうなこのアルバム、じっくりとしばらくスルメのように聴き込もうと思ってます。

"I Told Them…" by Burna Boy

今週のトップ10の初登場はザック・ブライアンのみ。11位から100位の圏外に目を向けると今週は4枚のアルバムが初登場しています。その一番人気は31位初登場、ここ数年のアフロビート旋風の先駆者ともいうべき、ナイジェリアを代表するアーティスト、バーナ・ボーイの7作目『I Told Them…』。彼最大のHot 100ヒット「Last Last」(2022年44位)を含む最大のヒットアルバムとなった前作『Love, Damini』(2022年14位)に続く、3作目の全米トップ100チャートインとなりました。

前作はエド・シーランJバルヴィンなどのポップ・スターに加え、ケラーニブラストカリードといった今旬のR&Bシンガー達をフィーチャーしたR&Bワールドポップ・アルバムになってましたが、今回はゲストにウータンRZAGZAJ.コール21サヴェージ、更にはUKのデイヴなど、ヒップホップ人脈のゲスト勢を全面的に配してます。といってもトラップとかやってる訳ではなく、21サヴェージをフィーチャーした「Sittin’ On Top Of The World」はブランディの懐かしい「Top Of The World」をサンプルしたヒップホップR&Bチューンだし、Jコールとの「Thanks」もあくまでバーナのアフロチューンにJコールがちょっとフィーチャーされているということであくまで作品全体の主体はバーナ・ボーイ自身ということで一本筋が通ってます。他の曲も単にアフロビート、と片付けられないいろいろと工夫した楽曲も多く、お店とかで流れてたら彼のアルバムと気が付かないかも(褒めてますw)。今ヒットしてるレマの「Calm Down」が落ちてきたら、ここから次のアフロビート系ヒットが生まれるかもしれません。

"A Cat In The Rain" by The Turnpike Troubadours

続いて34位に登場しているのは、オクラホマ州出身のカントリー6人組、ターンパイク・トゥルバドールズの6年ぶりになる6作目のアルバム『A Cat In The Rain』。前作、前々作がいずれも全米トップ20アルバムという安定した人気があったバンドらしいけど、2019年に活動休止宣言してたらしい。今回はそういう意味でカムバック・アルバムになるけど、ちゃんとこの位置にチャートインしてくるということは、ここ最近のカントリー復活気運に乗ったところもあるとは思うけど、やはり根強い人気があるんですね。

内容的には、70年代カントリーロックを彷彿させるレイドバックなアメリカーナ作品ですが、何と今回プロデュースがあのシューター・ジェニングスということで、何となく全体的に無頼感が漂ってるところがミソでしょうか。シューターというと、”アウトロー・カントリー”の代表選手でカントリー・レジェンドのウェイロン・ジェニングスの息子で自らもロック・バンドやプロデューサーとして有名で、最近ではブランディ・カーライルグラミー賞ノミネート・アルバム2作『By The Way, I Forgive You』(2018年5位)と『In These Silent Days』(2021年11位)の共同プロデュースでの仕事が有名です。本来、父親のアウトロー・カントリーと同じくらいガンズレイジマリリン・マンソンに影響を受けたというシューターですから、もっとロック寄りでもおかしくないんですが、おそらくバンドの色を尊重してのプロデュースなんでしょう。70年代アコースティック期のニール・ヤング的でもあるこのアルバム、アメリカーナのファンにはお勧めですね

"Jaguar II" by Victoria Monét

ぐっと下がって60位に初登場したのは、アトランタ生まれカリフォルニア育ちのシンガーソングライター、ヴィクトリア・モネの初フル・アルバム『Jaguar II』。2020年リリースのEP『Jaguar』(最高位174位)の続編的位置付けのようで、彼女にとって初のトップ100アルバムになりました。2010年代半ば頃からEPやシングルで自分の作品をリリースしながら、あのロドニー・ジャーキンスに師事して、フィフス・ハーモニーをはじめ数々のポップ・スターの楽曲の作者としても活動。2019年にはアリアナ・グランデの「7 Rings」の共作者の一人としてレコード・オブ・ジ・イヤーにノミネートされたことが大きなブレイクになったようです(同じ年に最優秀アルバムにノミネートされたアリアナの『Thank U, Next』ではこの曲も含め6曲で共作者としてノミネートされてます)。

アルバム11曲中10曲をソウル・ソニックでおなじみのDマイルが、そして残る一曲「Alright」をあのケイトラナダがプロデュースしてる、ということでも判るように全編クラシックなR&Bスタイルをベースにしたコンテンポラリーなサウンドで、R&B好きにはかなりストライクな内容。でもチャラチャラしてたり必要以上にギミック風なところもなく、自然体のヴィクトリアが楽しめる、そんな作品です。この間出たジャネル・モネイの新譜とかと雰囲気はかなり通じるところありですね。個人的に気に入ったのは、何とEW&Fとコラボしてる、「That’s The Way Of The World」風のバラード「Hollywood」。最後の部分に今年2歳になる娘のヘイゼルちゃんの声が入ってて思わず頬がゆるみます。

"Standing Room Only" by Tim McGraw

今週最後の初登場アルバムは、大御所久々の登場、75位にあのティム・マグローの3年ぶりのアルバム『Standing Room Only』が初登場してます。ただ、セカンド・アルバム『Not A Moment Too Soon』(1994年1位)とヒット曲「Indian Outlaw」(同年15位)以来、14作連続全米トップ5入りしていたアルバムが、前作『Here On Earth』(2020)は14位でトップ10を逃し、今回は75位という、彼にとってはチャート的には最低記録を更新してしまってるのがいかにも残念。今カントリー人気復活で活躍しているルーク・コムズやモーガン・ウォレン達は間違いなくティムの曲を聴いて育って大きく影響を受けてるだけに、この数字はいかにも寂しい。そもそもティム・マグローはあのテイラー・スウィフトが憧れて、自分のヒット曲のタイトルにしたほどのアーティストだけに残念さが際立ちますよねえ。

でもそんな心配をよそに、収録されている楽曲はいずれもティムのスタイルから外れることのない、軽快で叙情的で、アップビートだけどちょっとエモーショナルなものが選ばれていて(彼は基本曲は自作しないので)いい意味でもそうでない意味でも安心して聴けるアルバムになってますね。本人曰く「今回のアルバムは、自分がレコーディングした中でもエモーショナルで、考えさせれる、そして人生について前向きな内容」だということなので、それなりに力を入れて作ったアルバムなんでしょう。カミさんのフェイス・ヒルは2017年にティムとのデュエット・アルバム『The Rest Of Our Life』(2位)以降音楽活動はあまりやってないようですし、ティムも今後どのくらい作品を作り続けるかは判りませんが、90年代〜2000年代のポップ・カントリー・シーンを牽引したアーティストの一人として、いつまでも健在で頑張って欲しいものです。

以上、100位までの初登場アルバムは計5枚、ザック・ブラウン祭のアルバムチャートでした。トップ10内でもう一つ目を引くのは、SZAの『SOS』が5週ぶりにトップ10に返り咲き、先週の11位→5位に躍進していること。これは現在シングル「Snooze」がHot 100上昇中で今週とうとうトップ10入りしてチャートイン38週目で7位を記録してることによるポイント増ですね。対先週比でポイント15%アップしてます。ではここで今週のトップ10おさらい(順位、先週順位、週数、タイトル、アーティスト、<総ポイント数/アルバム実売枚数、*はHits Daily Double調べ>)。

*1 (-) (1) Zach Bryan - Zach Bryan <200,000 pt/17,000枚>
2 (1) (5) Utopia - Travis Scott <91,000 pt/29,000枚*>
3 (2) (26) One Thing At A Time - Morgan Wallen <83,000 pt/2,750枚*>
4 (5) (45) Midnights ▲2 - Taylor Swift <49,000 pt/10,366枚*>
*5 (11) (38) SOS ▲3 - SZA <48,000 pt/2,533枚*>
6 (4) (6) Barbie: The Album - Soundtrack <48,000 pt/5,520枚*>
7 (9) (10) Génesis - Peso Pluma <43,000 pt/88枚*>
8 (8) (210) Lover ▲3 - Taylor Swift <43,000 pt/6,739枚*>
9 (7) (8) Speak Now (Taylor’s Version) - Taylor Swift <41,000 pt/12,544枚*>
10 (10) (138) Dangerous: The Double Album ▲6 - Morgan Wallen <40,000 pt/735枚*>

ということでザック・ブライアンが華々しくメジャー2作目を1位に送り込んだ今週の「全米アルバムチャート事情!」いかがでしたか。最後にいつものように来週1位の予想(チャート集計対象期間:9/1~7)ですが、ザック・ブライアンのポイントがほぼ9割ストリーミングなので、フィジカル売上の比重が高いロック作品にありがちな2週目の落ち込みはさほど大きくなく、減っても10万ポイントを割り込むことはないでしょう。一方、10万ポイント以上を叩き出す新譜はというとどうも見当たらないので、来週もザックが2週目の首位キープというのは間違いなさそうです。ではまた来週。

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