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今週の全米アルバムチャート事情 #120- 2022/2/26付

北京冬季オリンピックも終わってしまいましたが、政治的な問題とかいろいろあったものの、日本選手のメダルラッシュのニュースはやはりこのコロナ禍の中、元気が出たことは確か。次はアカデミー賞で「ドライブ・マイ・カー」がいくつ賞を取るかが楽しみですね。そしてグラミーもあと約1ヶ月後になってきました。これと並行してアップしているグラミー賞予想ブログも、先週カントリー部門予想をアップしましたので、是非覗いて見て下さい。

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さて今週の全米アルバムチャート、2/26付Billboard 200の1位ですが、今週もやはり対先週比11%減の98,000ポイント(うち実売12,500枚)で粘り腰を見せた『Encanto(ミラベルと魔法だらけの家)』のサントラがとうとう通算6週目の1位をマークしました。これで過去5年間では、アデルの『30』と並んで、モーガン・ウォレンの『Dangerous: The Double Album』(2021, 10週)、テイラーの『Folklore』(2020, 8週)に次ぐ3位の長期1位政権ということになりました。やっとポイント数が10万ポイントを下回ったというものの、2位のガンナが46,000ポイントなので、相当強力な新譜が入って来ない限りは、まだまだミラベルの天下は続きそうな勢いです

UKでも「We Don’t Talk About Bruno(秘密のブルーノ)」がもう5週目の1位、UKの昨年のヒットではオリヴィア・ロドリゴGood 4 U」やリル・ナズXMontero (Call Me By Your Name)」と並ぶ大ヒットになって、全米Hot 100の1位も4週目とここまで来ると「ミラベル現象」と言ってもいいでしょう。ミラベルのキャラがキラキラカワイコチャンでもないことによる親しみやすさと、やっぱりラテン系のテーマというのも大きいんでしょうね。ここ数年のアメリカでのラテンブームがUKにも飛び火し始めたのかもしれません。そしてこのアルバムの凄いのは、この6週間ほとんど実売枚数(1〜2万枚)も、ストリーミング(約1億3000万回オンデマンドストリーミング相当)も変わらず安定してることなんですよね。この強さ、去年のモーガン・ウォレンの『Dangerous: The Double Album』の強さに似てるので、ひょっとしてこのまま10週くらい1位行っちゃうんでしょうか。

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今週は先々週同様、トップ10内の初登場がゼロ。先週予想であれほどいろいろトップ10に入って来そうで賑やかそう、なんて言ってたのに軒並みそういったアルバムはポイントを積み上げられずにトップ10圏外初登場に留まってます。代わりに、というわけではないんですが、今週圏外から大きくジャンプしてトップ10に復帰したアルバムが2枚。一つはエミネムの『Curtain Call: The Hits』(2005年1位)が126位→8位(31,000ポイント)、Dr.ドレーの『Dr. Dre - 2001』(1999年2位)が108位→9位(30,500ポイント)と超大ジャンプアップしてます。これの理由はお判りですよね、そう、先週の第56回スーパーボウルのハーフタイムショーでのパフォーマンスが引き金になって今週のチャート対象期間、それぞれが一気にポイントを積み上げて(エミネムは対先週比2.6倍、ドレーは2.2倍のポイントになってます)トップ10に返り咲いたというわけ。

同じハーフタイムショーに出てたメアリー・J・ブライジスヌープ・ドッグとかは同じチャート対象期間に新譜ドロップしてるんで、特にメアリーJとかはトップ10来るんじゃないか、と思ったんですけどね。でもあのハーフタイムショーのパフォーマンス、見てて思ったんですがちょっと詰め込みすぎじゃなかったかなあ、って感じで。あと、演った曲も基本全部古い曲(まあ、よく言えばクラシックってことですが)ばかりで、もう少し最近の曲も交えても良かったんじゃ?と思っちゃいました。特にスヌープメアリーJは新譜出してタイミングなんだし。エミネムが「Lose Yourself」やってるの聴いて、うちのカミさん曰く「エミネムってこの後新しいの出してないの?」(笑)。いやいや一昨年も新譜出してるってね。個人的には久しぶりにケンドリック・ラマーが見れたのと、後でとっても楽しそうにドラムス叩いてるアンダーソン・パークを確認できたのがポイント高かったですが。

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一方今週の11位以下圏外100位までの初登場アルバムは、久々に多めで6枚。順番に行きます。まず14位に登場、惜しくもトップ10を逃したのは今名前が出てたメアリーJ 5年ぶりの新作『Good Morning Gorgeous』。3位だった前作『Strength Of A Woman』(2017)までデビュー以来13作連続トップ10の記録が今回残念ながら途切れてしまいました。

今回のアルバムはタイトル曲で第一弾シングルの「Good Morning Gorgeous」がH.E.R.Dマイルという去年のグラミー賞SOY受賞曲「I Can’t Breathe」と同じスタッフの作・プロデュースな他、アンダーソン・パークも3曲で絡むなど、それなりに意欲的な作りでシーンの評価も悪くなく、メタクリティックでは80点付いてます。ただ何となくざっと全体聴いた感じでは、それ以外の曲でいつもよりややストリート感を前面煮出した曲がいくつかあるのが個人的にはやや違和感ありました。アンダーソン・パークをフィーチャーして、彼と最近話題のアント・クレモンスのペンによる「Here With Me」なんかは、従来のメアリーJへのリスペクトを感じるいい出来だと思うので、もっとこの線で攻めてもよかったんでは、と思うのは自分だけでしょうか。

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続いて29位に登場してきたのはパール・ジャムのフロントマン、エディ・ヴェダーの何と11年ぶりになる3作目のソロ・アルバム『Earthling』。今週ロック・アルバム・チャートで1位になってます。こちらもメタクリティックでは79点ついて評価も高いのですが、4位だった前作『Ukulele Songs』(2011)の成績には及びませんでした。まあ、ここ10年で全米の音楽業界全体やロックシーンの状況は大きく変化して、メインストリームのロックがチャート上では少数派になってきてしまっているので、これでも健闘してる方でしょう。

今回目を惹くのは、全13曲を共作、プロデュースしているのが、ここ数年ポスティラナ・デル・レイ、マイリー・サイラス、ジャスティ・ビーバー、更にはオジー・オズボーンと、幅広いジャンルのプロデュースで活躍していて、昨年のグラミー賞ではとうとう最優秀プロデューサーを受賞したアンドリュー・ワットだということ。そしてその13曲のうち、12曲は最近までフルシャンテの後任のレッチリのギタリストで今はパール・ジャムのツアー・メンバーだというジョッシュ・キングホファーが共作、更にはそのうち7曲は同じくレッチリのドラマー、チャド・スミスも共作者として加わった作品になっているんです。ヒットメイカーとして実績充分のアンドリュー・ワットの仕事と、レッチリの2人の仕事が絶妙なバランスで働き合って、久々に聴いてカッコいいソリッドなロックアルバムになってますね。

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ロック系が続きます。31位に登場したのは、2019年に『U.F.O.F.』と『Two Hands』のアルバム2枚リリースがいずれも高い評価を受けて、自分も一時期ハマっていたビッグ・シーフの待望の新作『Dragon New Warm Mountain I Believe In You』。これ、リリースと同時にピッチフォークが9.0点というあのフィオナ・アップルの『Fetch The Bolt Cutter』の10点以来の高得点付けてたし、前作との間に出たリードボーカルのエイドリアン・レンカーのソロも評判良かったので、今回はトップ10来るか!と思ったんですがねえ。でも彼らに取って過去最高位の成績になってます。

全体プロデュースしたドラマーのジェームス・クリヴチェニアの発案で、NY州北部、カリフォルニアのトパンガ峡谷、アリゾナの砂漠地域、コロラドのロッキー山脈地域の4カ所のスタジオで録音するという、エイドリアンの作曲才能を最大限に引き出すためのアプローチで作られたこのアルバム、結果としてできた45曲を厳選して20曲にまとめたという力作です。サウンド的には、前作のインディ・ロック然としたものよりアメリカーナっぽい、よりアーシーなサウンド(フィドルやペダルスティールなどがかなり聞こえてくるのもそうした感じを醸しだしてます)がふんだんに盛り込まれた内容で、個人的には前作よりも好きかもピッチフォーク9点は伊達じゃない、って感じです。

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そしてまたロック系。38位初登場したのは、テキサス州オースチンのロック・バンド、スプーンの10作目『Lucifer On The Sofa』。実は自分、このアルバム聴くまで、スプーンの名前はよくロック・メディアで聴くし、結構評価高いレビューなんかも過去には見てたんですが、何故かちゃんと聴くチャンスがなかったんですよね。だからどんなバンドかもよく知らなくて。で、今回聴いて見たら、ありゃなかなかいいじゃないですか。冒頭の「Held」なんてちょっとルースで、90年代以降のバンドにしては70年代初頭の匂いもプンプンして、2曲目のシングル「The Hardest Cut」は今度はハードブギ風でカッコいいし。ああ、その次の「The Devil & Mister Jones」もいいねえ。

このアルバム、メタクリティック86点でかなりメディアの評価は高いようで「スプーンのアルバムでは今回がベスト」なんていうレビューもあるらしいけど、これで過去のアルバムも遡って聴いてみようかなあ、と思わせるそんな感じ。そしてこのアルバムもリーダーのブリット・ダニエルが、近年アデルの『21』やQOTSAの『…Like Clockwork』、フロレンス+ザ・マシーンの『Lungs』といった良盤を手がけてきたマーク・ランキンに是非!と頼んでプロデュースしたというから、ここでもプロデューサーとバンドのケミストリーがいい感じで働いてるんでしょうね。

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ぐっと下がって66位初登場は、NY生まれでフロリダ育ちの若手ラッパー、$NOTの3枚目になるアルバム『Ethereal』です。SNOTって英語で「鼻水、鼻クソ」転じて「鼻持ちならないヤツ」って意味なんですけど(笑)何か名前聞いただけで聴く気起きないですねえ。何でも2016年頃高校生の頃からサウンドクラウドで自分の作品をアップロードしてて2018年にEPを自主リリースしたのがキャリアの始まりだとか。彼の名前は去年コチーズっていうラッパー(こいつもよく判らんのですが)とのコラボシングル「Tell Em」(64位)がHot 100の下の方に登場してたんで知ってたんですが、これも今回初めて聴いてみてマンブルで単調なトラップナンバーだし「別に聴く必要ないな」(笑)って感じですね。

それでもアルバムが今回初めて100位内に入ってきたのは、エイサップ・ロッキーとのコラボシングル「Doja」がヒットし始めてるからのようです。ドジャ・キャットをディスってるような気もしますがよく判りません。やたら「F**k You, F**k That」をリピートしてるだけなんで。

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今週最後の初登場は93位に入って来た、スラッシュ・フィーチャリング・マイルス・ケネディ&ザ・コンスピレイターズの『4』というアルバム。そう、あの元ガンズスラッシュですよ。最近の彼の動向はよく知らなかったんですが、ガンズを1996年に抜けたり、2016年にまた戻ったりと行ったり来たりの一方、ボーカルのマイルス・ケネディを中心にしたコンスピレイターズとは2012年の『Apocalyptic Love』(BB200 4位)から自分のソロ・アルバムのバンドとして一緒にアルバム出してるみたいですね。

今回のアルバムは何と、再三ここでも名前が出てる、21世紀のアメリカーナを代表するサウンドメイカー、デイヴ・コッブのプロデュースで作ってますね。クリス・ステイプルトンジェイソン・イズベル、ブランディ・カーライル等々、カントリーやフォーク系のアーティストとの仕事の印象が強いデイヴ・コッブですが、、ライヴァル・サンズとかこのスラッシュとか結構最近はハード・ロック系のバンドの作品も手がけてるんですねえ。サウンドは安定したメインストリーム・ヘヴィ・ロックで、確かにデイヴ・コッブの雰囲気が漂ってる気がします。

ということでいつものトップ10おさらいです。エミネムドレの急上昇に押し上げられて、ポイント数は減ってるのに順位は上がってるアルバムが多いですね。あと、今週いよいよ「ミラベル」にゴールドディスク・マーク(50万枚売上)が点灯してます。<総ポイント数/アルバム実売枚数、*はHits Daily Double調べ>)。

1 (1) (12) Encanto ● - Soundtrack <98,000 pt/12,500枚>
2 (2) (6) DS4Ever - Gunna <46,000 pt/29枚*>
3 (4) (58) Dangerous: The Double Album ▲2 - Morgan Wallen <42,000 pt/1,810枚*>
4 (7) (24) Certified Lover Boy - Drake <34,000 pt/91枚*>
5 (8) (53) The Highlights - The Weeknd <33,000 pt/1,633枚*>
6 (10) (34) Planet Her - Doja Cat <31,000 pt/622枚*>
7 (9) (13) 30 ▲3 - Adele <31,000 pt/12,000枚>
*8 (126) (568) Curtain Call: The Hits ▲7 - Eminem <30,500 pt/1,350枚*>
*9 (108) (169) Dr. Dre - 2001 ▲6 - Dr. Dre <31,000 pt/3,639枚*>
10 (12) (39) Sour ▲2 - Olivia Rodrigo <30,000+ pt/4,090枚*>

さて今週の「全米アルバムチャート事情!」いかがでしたか。最後に恒例の来週の1位予想。来週のチャート集計対象期間は2/18-24ですが、この期間のリリースも、ボルチモアのオルタナ・ポップ・デュオ、ビーチ・ハウスの8作目とか、クルアンビンリオン・ブリッジズの2作目のコラボEPとか、テーム・インパラ一昨年の『The Slow Rush』のB面・リミックス集とか、個人的に面白そうだなあと思うヤツもあるんですが、「ミラベル」に挑めるような新譜は…ないですねえ。ということで来週もミラベルの天下は続いて7週目の1位になると思います。ではまた来週。

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